スカラビア
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ジャミルに呼び出されたななしは、彼の自室で向かい合って座っていた。
最初は課題を見てもらっていたはずなのに、机へ広げられた教科書はいつの間にか開いたままになっている。
静かな部屋に流れる空気は、どこか落ち着かない。
ジャミルはペンを机へ置き、ゆっくりと口を開いた。
「……なあ、ななし」
「なんですか?」
「最近エースたちとよく一緒にいるだろ」
「同じクラスですし、話すことも多いですから」
「そういう問題じゃない」
低い声だった。
「お前が楽しそうに笑ってるのを見るたびに思う」
「何をですか?」
「もう少し警戒心を持て」
「警戒心、ですか?」
「あいつらを信用するなって言ってるわけじゃない」
ジャミルが小さく息を吐く。
「ただ、お前は無防備すぎる」
「でも、みんな友達ですよ」
「……その友達って言葉で片付けられるほど、男は単純じゃない」
◇
しばらく沈黙が続いた。
ジャミルは椅子から立ち上がり、机の横へ移動した。
逃げ道を塞ぐような距離ではない。
それでも、近くに立たれるだけでななしは少しだけ姿勢を正した。
「そんなに心配なんですか?」
「心配だ」
「クラスメイトでも?」
「見てるだけで落ち着かなくなる」
「ジャミル先輩……」
「お前は誰にでも笑うだろう?」
「笑ったらダメなんですか?」
「いや、それが悪いとは思ってない。でも」
ジャミルは言葉を探すように一度止まる。
「その笑顔を見てると、どうしても考える」
「何をですか?」
「俺にも、あんなふうに笑ってくれてるのかって」
ななしは少し驚いたあと、小さく笑った。
「笑ってませんか?」
「そう言うことじゃないんだ」
「?」
「あいつらに向ける笑顔と、俺に向ける笑顔は違ってほしい」
「……ずいぶんわがままですね」
「自覚はある」
「あるんだ」
「だから余計に困ってる」
ななしは少しだけ席を立ち、ジャミルの隣まで歩いていく。
「ジャミル先輩」
「なんだ」
「わたしも一つ言っていいですか」
「……ああ」
「エースやデュースは友達です」
「……そうだな」
「でも、ジャミル先輩はちゃんと特別です」
「とく……べつ?」
「はい」
「どう違う」
「真剣に心配してくれるところも、ちゃんと見てくれてるところも」
「……」
「こうしてヤキモチ焼いてくれるところも」
「……」
「だから相談したくなるのは、ジャミル先輩です」
「……参ったな」
「何がですか?」
「そんなこと言われたら、怒れなくなる」
ジャミルは肩の力を抜き、小さくため息をついた。
「今日は説教するつもりだったんだが」
「失敗ですね」
「完全にな」
二人とも思わず笑ってしまう。
ジャミルは机に手をついて、静かに口を開いた。
「約束してくれ」
「何ですか?」
「危ないと思ったらちゃんと距離を取ること」
「はい」
「それと」
ジャミルは少しだけ言いにくそうに視線を逸らす。
「俺がまた変に考え込んでたら、ちゃんと否定してくれ」
「もちろんです」
「……助かる」
照れ隠しのように笑うジャミルへ、ななしも笑顔を返した。
「先輩って、意外と素直ですよね」
「誰のせいだと思ってる」
「わたしですか?」
「お前以外にいないだろ」
少し呆れたように言いながらも、その表情はどこか穏やかだった。
散らかった教科書を二人で机へ戻し、ジャミルは部屋の扉へ向かう。
「今日はここまでにするか」
「勉強、途中でしたね」
「次はちゃんと最後まで付き合う」
「約束ですよ」
「ああ」
ジャミルは小さく笑いながら扉を開ける。
部屋を出る二人の間には先ほどまでの張り詰めた空気は、もう残っていなかった。
最初は課題を見てもらっていたはずなのに、机へ広げられた教科書はいつの間にか開いたままになっている。
静かな部屋に流れる空気は、どこか落ち着かない。
ジャミルはペンを机へ置き、ゆっくりと口を開いた。
「……なあ、ななし」
「なんですか?」
「最近エースたちとよく一緒にいるだろ」
「同じクラスですし、話すことも多いですから」
「そういう問題じゃない」
低い声だった。
「お前が楽しそうに笑ってるのを見るたびに思う」
「何をですか?」
「もう少し警戒心を持て」
「警戒心、ですか?」
「あいつらを信用するなって言ってるわけじゃない」
ジャミルが小さく息を吐く。
「ただ、お前は無防備すぎる」
「でも、みんな友達ですよ」
「……その友達って言葉で片付けられるほど、男は単純じゃない」
◇
しばらく沈黙が続いた。
ジャミルは椅子から立ち上がり、机の横へ移動した。
逃げ道を塞ぐような距離ではない。
それでも、近くに立たれるだけでななしは少しだけ姿勢を正した。
「そんなに心配なんですか?」
「心配だ」
「クラスメイトでも?」
「見てるだけで落ち着かなくなる」
「ジャミル先輩……」
「お前は誰にでも笑うだろう?」
「笑ったらダメなんですか?」
「いや、それが悪いとは思ってない。でも」
ジャミルは言葉を探すように一度止まる。
「その笑顔を見てると、どうしても考える」
「何をですか?」
「俺にも、あんなふうに笑ってくれてるのかって」
ななしは少し驚いたあと、小さく笑った。
「笑ってませんか?」
「そう言うことじゃないんだ」
「?」
「あいつらに向ける笑顔と、俺に向ける笑顔は違ってほしい」
「……ずいぶんわがままですね」
「自覚はある」
「あるんだ」
「だから余計に困ってる」
ななしは少しだけ席を立ち、ジャミルの隣まで歩いていく。
「ジャミル先輩」
「なんだ」
「わたしも一つ言っていいですか」
「……ああ」
「エースやデュースは友達です」
「……そうだな」
「でも、ジャミル先輩はちゃんと特別です」
「とく……べつ?」
「はい」
「どう違う」
「真剣に心配してくれるところも、ちゃんと見てくれてるところも」
「……」
「こうしてヤキモチ焼いてくれるところも」
「……」
「だから相談したくなるのは、ジャミル先輩です」
「……参ったな」
「何がですか?」
「そんなこと言われたら、怒れなくなる」
ジャミルは肩の力を抜き、小さくため息をついた。
「今日は説教するつもりだったんだが」
「失敗ですね」
「完全にな」
二人とも思わず笑ってしまう。
ジャミルは机に手をついて、静かに口を開いた。
「約束してくれ」
「何ですか?」
「危ないと思ったらちゃんと距離を取ること」
「はい」
「それと」
ジャミルは少しだけ言いにくそうに視線を逸らす。
「俺がまた変に考え込んでたら、ちゃんと否定してくれ」
「もちろんです」
「……助かる」
照れ隠しのように笑うジャミルへ、ななしも笑顔を返した。
「先輩って、意外と素直ですよね」
「誰のせいだと思ってる」
「わたしですか?」
「お前以外にいないだろ」
少し呆れたように言いながらも、その表情はどこか穏やかだった。
散らかった教科書を二人で机へ戻し、ジャミルは部屋の扉へ向かう。
「今日はここまでにするか」
「勉強、途中でしたね」
「次はちゃんと最後まで付き合う」
「約束ですよ」
「ああ」
ジャミルは小さく笑いながら扉を開ける。
部屋を出る二人の間には先ほどまでの張り詰めた空気は、もう残っていなかった。
