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「ななしくん」
昼休みが終わる少し前、名前を呼ばれて振り返るとラギーが壁にもたれながら手を振っていた。
「ラギー先輩? 珍しいですね」
「シシッ、そう? オレだって後輩に用事くらいあるんスけど」
「その言い方だと絶対ろくでもない用事ですよね」
「ひど」
笑いながら近づいてくる。
その顔を見るだけで、少しだけ胸が落ち着かなくなる。
理由なんてとっくに分かっていた。
分かっているからこそ、なるべく平気な顔をしていた。
「それで、用事って?」
「んー、腹減ったッス」
「知りません」
「冷たいなあ」
「昼休み終わりますよ」
「だからその前に何かくれないかなって」
「なんでわたしが」
「優しい後輩だから?」
「買収される予定はありません」
「ケチですね〜」
「先輩ですから自力でどうにかしてください」
「オレ、金ないんスよ」
「知ってます」
「じゃあ」
「わたしもグリムの食事の出費、大変なんです」
ぴしゃりと言うとラギーが肩を落とした。
けれどその顔は全然困っていない。
どうせ演技だ。
「……ま、今日は諦めるか」
「今日は?」
「明日またお願いしにくるッス」
「お断りします」
「即答」
ラギーが笑うので、つられて笑ってしまう。
その瞬間、ラギーがふっと目を細めた。
「ななしくんってさ」
「はい?」
「よく笑うよね」
「……そうですか?」
「そうそう」
さらっと言われた言葉に心臓が跳ねる。
「別に普通です」
「へえ」
「なんですかその顔」
「いや?」
楽しそうに笑う、その笑顔が妙にずるい。
◇
「……で、なんでいるんですか」
「オレがいたら困る?」
「そういうわけじゃないですけど」
放課後。
偶然を装うには無理がある頻度でラギーは現れる。
「たまたま通りかかっただけ」
「三日連続で?」
「奇跡ってあるんスねえ」
「ないと思います」
「夢がないなあ」
隣に並ぶ距離が近い。
意識すると余計に気になってしまう。
「ななしくん」
「はい」
「好きなやつとかいる?」
「……急ですね」
「気になったから」
「ラギー先輩は?」
「質問返し?」
「……わたしは、いるかも」
「へえ」
「先輩は?」
「いる」
今度はあっさりだった。
「え」
「いるよ」
「……そう、なんですね」
胸の奥が少し痛む。
「どんな人なんですか」
「んー」
ラギーは少し考えて指折り答える。
「優しくて」
「はい」
「オレに甘くて」
「はい」
「でもたまに冷たい」
「それは大変ですね」
「あとすっごい鈍い」
「……」
「めちゃくちゃ鈍い」
「それ先輩の伝え方が悪いんじゃないですか」
「かもねえ」
ラギーが笑う。
「でもオレ、頑張ってるんスけどね」
その声だけが妙に真剣だった。
◇
「先輩?」
「ん?」
「寝てます?」
「起きてる」
「絶対寝てましたよね」
「起きてるって」
近くに座るラギーが欠伸を噛み殺す。
「寝不足ですか?」
「まあね」
「また夜更かしですか」
「色々忙しくて」
「体調崩しますよ」
「心配してくれる?」
「します」
即答するとラギーが少しだけ目を見開いた。
「……へえ」
「なんですか」
「いや、別に」
「?」
「オレさ」
「はい」
「ななしくんに心配されるの好きかも」
「……そういうこと軽々しく言わないでください」
「軽くないけど?」
「え」
「なんでもない」
にやりと笑う。
誤魔化された、絶対に。
◇
「ラギー先輩」
「ん?」
「これ」
「お!」
差し出した包みを受け取る。
「くれるんスか!?」
「昨日のお礼です」
「オレ何かしたっけ」
「荷物持ってくれました」
「あー」
「助かったので」
ラギーが包みを見下ろす。
「……オレにくれるんだ」
「?」
「いや、嬉しいなって」
「大げさですよ」
「大げさじゃないって」
少しだけ黙ったあと、ゆっくりと続ける。
「好きな子からもらうのって、嬉しいんスよ」
息が止まる。
「……え」
「ん?」
「今の」
「聞こえなかった?」
「聞こえましたけど」
「じゃあいいじゃん」
「よくないです」
ラギーが吹き出した。
「冗談ッスよ」
「……」
「そんな顔しないでよ」
「先輩が悪いです」
「ごめんごめん」
謝っているのに楽しそうだった。
でも、胸の奥に残った熱だけは消えなかった。
「送るッスよ」
「大丈夫です」
「送る」
「大丈夫ですって」
「危ないし」
「そんな時間じゃないですよ」
「オレが送りたいって言ったら?」
言い切られてしまう。
「……じゃあお願いします」
「素直でよろしい」
並んで歩く。
沈黙も気まずいわけじゃない。
むしろ逆だった。
何か話したい。
でも何を話せばいいか分からない。
「ななしくん」
「はい」
「さっきの冗談だけど」
心臓が跳ねた。
「……はい」
「半分は本当」
「え」
「好きな子からもらったら嬉しいって話」
「……」
「それだけ」
ラギーは前を向いたままだった。
「ラギー先輩」
「ん?」
「その人、幸せですね」
「なんで?」
「ラギー先輩にそこまで思われてるなら」
「……オレはそう思わないな」
「え?」
「気づいてもらえないし」
苦笑するその顔を初めて見た気がした。
そしてそれは突然だった。
「……っ」
近い。近すぎる。
理解が追いつくより先に唇に柔らかな感触が触れて離れた。
数秒、世界が止まる。
「……え」
「……あ」
ラギーも固まっていた。
珍しく動揺した声を出す。
「ごめ、」
途中で言葉が止まる。
「違くて……」
また止まる。
「……いや、違わないか」
「ラギー先輩」
「ごめん、勢いだった」
視線が合わない、あのラギーが。
「忘れて」
「……」
「忘れてくれていいから」
笑おうとして失敗していた。
胸が痛む。
そんな顔をさせたいわけじゃない。
「……無理です」
「え?」
「忘れるの、無理です」
ラギーがこちらを見る。
「だって……好きな人とのキスなんて、忘れられません」
沈黙が続く。
一回、二回とラギーが瞬きをした。
「……今なんて?」
「……言いません」
「いやいや待って」
「待ちません」
「もう一回」
「嫌です」
「お願い」
「無理です」
「オレの聞き間違いだったらどうするの」
「それはないです」
「じゃあ、」
「……好きなんです」
言ってしまった。
終わった。顔が熱い。逃げたい。
「……マジ?」
ラギーの声が震えていた。
「……マジです」
「オレのこと?」
「そうです」
「いつから?」
「知りません」
「知りませんって」
「気づいたらでした」
「……え、やば」
額を押さえた。
「ラギー先輩?」
「ちょ、ちょっと待って」
「?」
「嬉しすぎて無理」
「え」
「無理なんスけど」
こんなラギーを見たことがない。
「……ひとつ聞いていい?」
「はい」
「さっきのキス、どういう意味か分かってくれた?」
視線が真っ直ぐだった。
逃がさないというより。
確かめたいような目。
「……分かってます」
「ほんとに?」
「はい」
「友達同士でするもんじゃないって分かってる?」
「分かってます」
「オレがどういうつもりでやったかも?」
「……たぶん、好きだから」
ラギーが目を閉じる。
「うわ」
「先輩?」
「いや、無理」
「何がですか」
ラギーが笑う。
でもすぐに真面目な顔に戻った。
「オレさ、」
「はい」
「冗談とかからかうの好きだけど」
「知ってます」
「これだけは冗談じゃない」
一歩近づく。
「好き、ずっと好きだった」
「……わたしもです」
「オレの方がたぶん長い」
「そんなことないです」
「あるって」
「ないです」
「張り合うんスか?」
「張り合います」
ラギーが吹き出した。
「何それ」
「負けたくないので」
「シシッ」
嬉しそうに笑う。
「じゃあさ」
「はい」
「ひとつ確認」
「?」
「今のオレ達って付き合ってる認識でいい?」
「確認するんですね」
「大事でしょ」
「……はい」
「はい?」
「いいです」
「うわ」
「なんですか」
「……めっちゃ幸せ」
恥ずかしげもなく言う。
「先輩ってこういう時、素直ですよね」
「好きな相手にはね」
「普段からそうしてください」
「無理ッス」
「即答ですね」
「でも君相手なら頑張るかも」
「期待してませんよ」
「ひど」
また笑ってしまう。
「ななしくん」
「はい」
「もう一回していい?」
「……聞くんですね」
「一応ね」
「なんでですか」
「大事だから」
さっきとは違う。
ちゃんと答えを待っている。
「……嫌なら?」
「しない」
「即答ですね」
「当たり前」
ラギーが少しだけ眉を下げた。
「オレ、好きな子に嫌がられたくないし」
「……」
「だからちゃんと聞く」
「……嫌じゃないです」
「うん」
「むしろ嬉しいです」
ラギーが目を見開く。
「……ほんとに?」
「はい」
「じゃあ遠慮しない」
今度のキスは先ほどよりも長かった。
離れたあと、お互いに何も言えなくなる。
「……」
「……」
先に笑ったのはラギーだった。
「顔赤いッスよ」
「ラギー先輩もです」
「バレた?」
「バレてます」
「参ったなあ」
困ったように笑う。
でも嬉しそうだった。
「そういえば」
「ん?」
「先輩、前に言ってましたよね」
「何を?」
「好きな人は鈍いって」
「あー」
「誰のことだったんですかね」
「誰だろうねえ」
「ひどいです」
「でも、ちゃんと伝わったし」
ラギーが笑う。
「オレ結構頑張ったんだけどな」
「具体的には?」
「会いに行ったり」
「はい」
「話しかけたり」
「はい」
「口実作ったり」
「……」
「あと帰り道、送ったり」
「全部ですか」
「全部」
呆れるが嬉しかった。
「わたし、気づいてなかったんですね」
「気づいてほしかった」
「すみません」
「いいよ」
ラギーが肩をすくめる。
「結果オーライ」
「そう……ですね」
「むしろ最高」
「調子に乗ってません?」
「シシッ、乗るでしょこれは」
「否定できません」
「でしょ?」
さっきまでの距離が嘘みたいに笑い合った。
◇
「ななしくん」
「はい」
「オレさ、たぶん結構重いよ」
「意外です」
「好きになったら執着するタイプ」
「自己申告ありがとうございます」
「逃げるなら今のうち」
「逃げません」
「即答」
「先輩の真似です」
「シシッ、そっか」
少しだけ静かな声。
「じゃあオレも逃がさないよう頑張る」
「宣言ですか」
「宣言」
「楽しみです」
「任せて」
「……でも」
「ん?」
「たぶん逃げる必要ないです」
「え?」
「わたしもラギー先輩が好きなので」
ラギーが固まった。
「……それ反則」
「なんでですか」
「嬉しいから」
「先輩、今日ずっと素直ですね」
「好きな子の前だから」
「またそれ」
「事実だし」
照れくさそうに笑う。
「……これからよろしくね」
「こちらこそ」
「あと」
「はい?」
「好き」
「……」
「返事は?」
「聞くんですか」
「聞く」
「……大好きです」
ラギーが満足そうに笑った。
「うん」
その笑顔を見て、この人が好きなんだと改めて思う。
きっとこれから先も、何度もそう思うのだろう。
昼休みが終わる少し前、名前を呼ばれて振り返るとラギーが壁にもたれながら手を振っていた。
「ラギー先輩? 珍しいですね」
「シシッ、そう? オレだって後輩に用事くらいあるんスけど」
「その言い方だと絶対ろくでもない用事ですよね」
「ひど」
笑いながら近づいてくる。
その顔を見るだけで、少しだけ胸が落ち着かなくなる。
理由なんてとっくに分かっていた。
分かっているからこそ、なるべく平気な顔をしていた。
「それで、用事って?」
「んー、腹減ったッス」
「知りません」
「冷たいなあ」
「昼休み終わりますよ」
「だからその前に何かくれないかなって」
「なんでわたしが」
「優しい後輩だから?」
「買収される予定はありません」
「ケチですね〜」
「先輩ですから自力でどうにかしてください」
「オレ、金ないんスよ」
「知ってます」
「じゃあ」
「わたしもグリムの食事の出費、大変なんです」
ぴしゃりと言うとラギーが肩を落とした。
けれどその顔は全然困っていない。
どうせ演技だ。
「……ま、今日は諦めるか」
「今日は?」
「明日またお願いしにくるッス」
「お断りします」
「即答」
ラギーが笑うので、つられて笑ってしまう。
その瞬間、ラギーがふっと目を細めた。
「ななしくんってさ」
「はい?」
「よく笑うよね」
「……そうですか?」
「そうそう」
さらっと言われた言葉に心臓が跳ねる。
「別に普通です」
「へえ」
「なんですかその顔」
「いや?」
楽しそうに笑う、その笑顔が妙にずるい。
◇
「……で、なんでいるんですか」
「オレがいたら困る?」
「そういうわけじゃないですけど」
放課後。
偶然を装うには無理がある頻度でラギーは現れる。
「たまたま通りかかっただけ」
「三日連続で?」
「奇跡ってあるんスねえ」
「ないと思います」
「夢がないなあ」
隣に並ぶ距離が近い。
意識すると余計に気になってしまう。
「ななしくん」
「はい」
「好きなやつとかいる?」
「……急ですね」
「気になったから」
「ラギー先輩は?」
「質問返し?」
「……わたしは、いるかも」
「へえ」
「先輩は?」
「いる」
今度はあっさりだった。
「え」
「いるよ」
「……そう、なんですね」
胸の奥が少し痛む。
「どんな人なんですか」
「んー」
ラギーは少し考えて指折り答える。
「優しくて」
「はい」
「オレに甘くて」
「はい」
「でもたまに冷たい」
「それは大変ですね」
「あとすっごい鈍い」
「……」
「めちゃくちゃ鈍い」
「それ先輩の伝え方が悪いんじゃないですか」
「かもねえ」
ラギーが笑う。
「でもオレ、頑張ってるんスけどね」
その声だけが妙に真剣だった。
◇
「先輩?」
「ん?」
「寝てます?」
「起きてる」
「絶対寝てましたよね」
「起きてるって」
近くに座るラギーが欠伸を噛み殺す。
「寝不足ですか?」
「まあね」
「また夜更かしですか」
「色々忙しくて」
「体調崩しますよ」
「心配してくれる?」
「します」
即答するとラギーが少しだけ目を見開いた。
「……へえ」
「なんですか」
「いや、別に」
「?」
「オレさ」
「はい」
「ななしくんに心配されるの好きかも」
「……そういうこと軽々しく言わないでください」
「軽くないけど?」
「え」
「なんでもない」
にやりと笑う。
誤魔化された、絶対に。
◇
「ラギー先輩」
「ん?」
「これ」
「お!」
差し出した包みを受け取る。
「くれるんスか!?」
「昨日のお礼です」
「オレ何かしたっけ」
「荷物持ってくれました」
「あー」
「助かったので」
ラギーが包みを見下ろす。
「……オレにくれるんだ」
「?」
「いや、嬉しいなって」
「大げさですよ」
「大げさじゃないって」
少しだけ黙ったあと、ゆっくりと続ける。
「好きな子からもらうのって、嬉しいんスよ」
息が止まる。
「……え」
「ん?」
「今の」
「聞こえなかった?」
「聞こえましたけど」
「じゃあいいじゃん」
「よくないです」
ラギーが吹き出した。
「冗談ッスよ」
「……」
「そんな顔しないでよ」
「先輩が悪いです」
「ごめんごめん」
謝っているのに楽しそうだった。
でも、胸の奥に残った熱だけは消えなかった。
「送るッスよ」
「大丈夫です」
「送る」
「大丈夫ですって」
「危ないし」
「そんな時間じゃないですよ」
「オレが送りたいって言ったら?」
言い切られてしまう。
「……じゃあお願いします」
「素直でよろしい」
並んで歩く。
沈黙も気まずいわけじゃない。
むしろ逆だった。
何か話したい。
でも何を話せばいいか分からない。
「ななしくん」
「はい」
「さっきの冗談だけど」
心臓が跳ねた。
「……はい」
「半分は本当」
「え」
「好きな子からもらったら嬉しいって話」
「……」
「それだけ」
ラギーは前を向いたままだった。
「ラギー先輩」
「ん?」
「その人、幸せですね」
「なんで?」
「ラギー先輩にそこまで思われてるなら」
「……オレはそう思わないな」
「え?」
「気づいてもらえないし」
苦笑するその顔を初めて見た気がした。
そしてそれは突然だった。
「……っ」
近い。近すぎる。
理解が追いつくより先に唇に柔らかな感触が触れて離れた。
数秒、世界が止まる。
「……え」
「……あ」
ラギーも固まっていた。
珍しく動揺した声を出す。
「ごめ、」
途中で言葉が止まる。
「違くて……」
また止まる。
「……いや、違わないか」
「ラギー先輩」
「ごめん、勢いだった」
視線が合わない、あのラギーが。
「忘れて」
「……」
「忘れてくれていいから」
笑おうとして失敗していた。
胸が痛む。
そんな顔をさせたいわけじゃない。
「……無理です」
「え?」
「忘れるの、無理です」
ラギーがこちらを見る。
「だって……好きな人とのキスなんて、忘れられません」
沈黙が続く。
一回、二回とラギーが瞬きをした。
「……今なんて?」
「……言いません」
「いやいや待って」
「待ちません」
「もう一回」
「嫌です」
「お願い」
「無理です」
「オレの聞き間違いだったらどうするの」
「それはないです」
「じゃあ、」
「……好きなんです」
言ってしまった。
終わった。顔が熱い。逃げたい。
「……マジ?」
ラギーの声が震えていた。
「……マジです」
「オレのこと?」
「そうです」
「いつから?」
「知りません」
「知りませんって」
「気づいたらでした」
「……え、やば」
額を押さえた。
「ラギー先輩?」
「ちょ、ちょっと待って」
「?」
「嬉しすぎて無理」
「え」
「無理なんスけど」
こんなラギーを見たことがない。
「……ひとつ聞いていい?」
「はい」
「さっきのキス、どういう意味か分かってくれた?」
視線が真っ直ぐだった。
逃がさないというより。
確かめたいような目。
「……分かってます」
「ほんとに?」
「はい」
「友達同士でするもんじゃないって分かってる?」
「分かってます」
「オレがどういうつもりでやったかも?」
「……たぶん、好きだから」
ラギーが目を閉じる。
「うわ」
「先輩?」
「いや、無理」
「何がですか」
ラギーが笑う。
でもすぐに真面目な顔に戻った。
「オレさ、」
「はい」
「冗談とかからかうの好きだけど」
「知ってます」
「これだけは冗談じゃない」
一歩近づく。
「好き、ずっと好きだった」
「……わたしもです」
「オレの方がたぶん長い」
「そんなことないです」
「あるって」
「ないです」
「張り合うんスか?」
「張り合います」
ラギーが吹き出した。
「何それ」
「負けたくないので」
「シシッ」
嬉しそうに笑う。
「じゃあさ」
「はい」
「ひとつ確認」
「?」
「今のオレ達って付き合ってる認識でいい?」
「確認するんですね」
「大事でしょ」
「……はい」
「はい?」
「いいです」
「うわ」
「なんですか」
「……めっちゃ幸せ」
恥ずかしげもなく言う。
「先輩ってこういう時、素直ですよね」
「好きな相手にはね」
「普段からそうしてください」
「無理ッス」
「即答ですね」
「でも君相手なら頑張るかも」
「期待してませんよ」
「ひど」
また笑ってしまう。
「ななしくん」
「はい」
「もう一回していい?」
「……聞くんですね」
「一応ね」
「なんでですか」
「大事だから」
さっきとは違う。
ちゃんと答えを待っている。
「……嫌なら?」
「しない」
「即答ですね」
「当たり前」
ラギーが少しだけ眉を下げた。
「オレ、好きな子に嫌がられたくないし」
「……」
「だからちゃんと聞く」
「……嫌じゃないです」
「うん」
「むしろ嬉しいです」
ラギーが目を見開く。
「……ほんとに?」
「はい」
「じゃあ遠慮しない」
今度のキスは先ほどよりも長かった。
離れたあと、お互いに何も言えなくなる。
「……」
「……」
先に笑ったのはラギーだった。
「顔赤いッスよ」
「ラギー先輩もです」
「バレた?」
「バレてます」
「参ったなあ」
困ったように笑う。
でも嬉しそうだった。
「そういえば」
「ん?」
「先輩、前に言ってましたよね」
「何を?」
「好きな人は鈍いって」
「あー」
「誰のことだったんですかね」
「誰だろうねえ」
「ひどいです」
「でも、ちゃんと伝わったし」
ラギーが笑う。
「オレ結構頑張ったんだけどな」
「具体的には?」
「会いに行ったり」
「はい」
「話しかけたり」
「はい」
「口実作ったり」
「……」
「あと帰り道、送ったり」
「全部ですか」
「全部」
呆れるが嬉しかった。
「わたし、気づいてなかったんですね」
「気づいてほしかった」
「すみません」
「いいよ」
ラギーが肩をすくめる。
「結果オーライ」
「そう……ですね」
「むしろ最高」
「調子に乗ってません?」
「シシッ、乗るでしょこれは」
「否定できません」
「でしょ?」
さっきまでの距離が嘘みたいに笑い合った。
◇
「ななしくん」
「はい」
「オレさ、たぶん結構重いよ」
「意外です」
「好きになったら執着するタイプ」
「自己申告ありがとうございます」
「逃げるなら今のうち」
「逃げません」
「即答」
「先輩の真似です」
「シシッ、そっか」
少しだけ静かな声。
「じゃあオレも逃がさないよう頑張る」
「宣言ですか」
「宣言」
「楽しみです」
「任せて」
「……でも」
「ん?」
「たぶん逃げる必要ないです」
「え?」
「わたしもラギー先輩が好きなので」
ラギーが固まった。
「……それ反則」
「なんでですか」
「嬉しいから」
「先輩、今日ずっと素直ですね」
「好きな子の前だから」
「またそれ」
「事実だし」
照れくさそうに笑う。
「……これからよろしくね」
「こちらこそ」
「あと」
「はい?」
「好き」
「……」
「返事は?」
「聞くんですか」
「聞く」
「……大好きです」
ラギーが満足そうに笑った。
「うん」
その笑顔を見て、この人が好きなんだと改めて思う。
きっとこれから先も、何度もそう思うのだろう。
