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「ななしさん」
昼休みが終わる少し前、ななしは名前を呼ばれて振り返る。
「ジェイド先輩」
「これ、落としましたよ」
差し出されたノートを受け取ると、ジェイドが穏やかに笑った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。探している様子でしたので」
「そんな顔してました?」
「ええ、とても」
からかわれている気がして視線を逸らす。
そのとき、間延びした声が飛んできた。
「小エビちゃーん」
「フロイド先輩」
「なにしてんの?」
「ノート落としてて」
「あー、ジェイドが拾ってたやつ?」
「見てたんですか?」
「んー、たまたま」
フロイドはジェイドを見る。
「ジェイドってさぁ、小エビちゃんのこと見つけるの早いよねぇ」
「そうですか?」
「そうだよ、オレが見つける前にだいたいジェイドがいるし」
「偶然ですよ」
「ふーん」
偶然と言いながらジェイドは少しも表情を変えない。
フロイドはそんな双子の片割れをじっと見てから笑った。
「ま、いっか」
◇
「ななしさん、また会いましたね」
「今日三回目です」
「四回目です」
「えっ」
「朝、廊下でもすれ違いました」
言われて思い出す。
「あ……おはようございますって」
「覚えていてくださったんですね」
「挨拶しましたし」
「それでも嬉しいですよ」
ジェイドはそう言って本を閉じる。
「ところで、この前おすすめしたお茶はいかがでした?」
「飲みました。すごく美味しかったです」
「本当ですか?」
「はい」
「それはよかった」
珍しく少しだけ嬉しそうな顔をする。
その瞬間、また一人現れる。
「なにしてんのぉ?」
「フロイド先輩」
「げ、ジェイドいるじゃん」
「残念でしたね」
「別にぃ」
フロイドは机に頬杖をつく。
「小エビちゃん、今ヒマ?」
「少しなら」
「じゃあオレと遊ぼ」
「遊ぶって何をですか?」
「んー」
考えるふりをする。
「今から決める」
「フロイド、ななしさんを困らせるのは感心しませんね」
「えー、小エビちゃん困ってる?」
「えっと……」
「ほら、困ってらっしゃる」
「いや、ジェイドが急に聞くからじゃん」
ジェイドが笑うとフロイドが眉を寄せる。
「なんかムカつく」
「気のせいですよ」
「今絶対楽しんでる」
「さて、どうでしょう」
二人のやり取りに思わず笑ってしまう。
「あ、小エビちゃん笑った」
「え?」
「今、笑ったじゃん」
「笑いましたけど……?」
「オレとの話で笑った」
「僕もいましたけどね」
「ジェイドは黙ってて」
「嫌です」
また始まった。
けれど不思議と嫌な空気にはならない。
◇
「小エビちゃん」
「はい?」
「今日、ちょっと付き合って」
「どこにですか?」
「内緒」
「それ絶対よくないやつです」
「大丈夫だってぇ」
結局断りきれずについていく。
「フロイド先輩、どこまで行くんですか?」
「んー、もうちょい」
足を止めたのは人の少ない場所だった。
「着いた」
「ここですか?」
「うん」
フロイドは壁にもたれた。
「ねぇ、小エビちゃん」
「なんですか?」
「最近ジェイドと仲良いよねぇ」
「普通だと思いますけど」
「ふーん」
「フロイド先輩とも仲良いですよ?」
「オレとも?」
「はい」
「それはちょっと嬉しいかも」
視線が合う。
「小エビちゃんってさぁ」
「はい」
「距離近いよね」
「そうですか?」
「うん、厄介」
「?」
「なんでもない」
そのとき、聞き慣れた声が降ってくる。
「探しましたよ」
「ジェイド先輩」
「フロイド、あまりななしさんを連れ回さないでください」
「別に連れ回してねーし」
「結果的には似たようなものです」
「違うってぇ」
ジェイドはため息をつく。
「ななしさん、困っていませんか?」
「大丈夫ですよ」
「ほら」
フロイドが笑う。
「小エビちゃん、オレの味方」
「別にそういうわけじゃ」
「じゃあ半分味方」
「基準がわかりません」
「オレ基準」
ジェイドが肩をすくめる。
「相変わらずですね」
◇
「ジェイド先輩」
「なんでしょう」
「質問していいですか?」
「どうぞ」
「ジェイド先輩って、好きな人いるんですか?」
「……どうしてそう思ったんです?」
「クラスメイトと、そういう話になったので」
「……なるほど」
ジェイドは少し考える。
「……いますよ」
「えっ」
「そんなに驚きます?」
「いえ、なんというか」
「意外でした?」
「少し」
「失礼ですね」
笑いながら言う。
「どんな人なんですか?」
「そうですね」
ジェイドは逃がさないとでも言うようにまっすぐ視線を向ける。
「よく笑う人です」
「へえ」
「それから、人との距離が近い」
どこか聞き覚えがある。
「案外無防備で、放っておけない人ですね」
「きっと優しい人なんですね」
「ええ、とても」
その言葉が妙に印象に残った。
◇
「小エビちゃん」
「わっ」
「びっくりした?」
「しました」
「成功〜」
フロイドが笑う。
「先輩に質問いいですか?」
「いいよぉ」
「好きな人いますか?」
「いる」
即答だった。
「早いですね」
「だっているもん」
「どんな人ですか?」
「んー」
フロイドが少し考える。
「オレの話ちゃんと聞く」
「はい」
「あと、一緒にいると飽きない」
「それだけですか?」
「それが大事なんだよ」
ふと、上から覗き込むような鋭い視線が合う。
「あと、」
「はい」
「他のやつと話してるとなんかヤダ」
「独占欲強いんですね」
「かもねぇ」
冗談っぽく笑う。
けれど、その目だけは冗談に見えなかった。
「小エビちゃん、今日ジェイドといた?」
「いましたけど」
「どれくらい?」
「少し話したくらいです」
「ふーん」
「……?」
「最近ジェイドと話す時間多くない?」
「そうですか?」
「多い」
「フロイド先輩とも話してますよ」
「それはオレが話しかけてるから」
「……たしかに?」
「否定しないんだ」
◇
その日の夕方。
「ななしさん」
「ジェイド先輩」
「今日はフロイドと一緒だったそうですね」
「少しだけですけど」
「そうですか」
「?」
「いえ、別に」
穏やかな声なのに、なぜか少しだけ圧を感じる。
◇
「ジェイド」
「なんですか」
「小エビちゃんと話した?」
「話しましたよ」
「ふーん」
「フロイドこそ」
「話したよぉ」
沈黙の中、先に口を開いたのはフロイドだった。
「ねぇ」
「なんでしょう」
「ジェイドも好きなんでしょ」
ジェイドが目を細める。
「何の話です?」
「とぼけるんだ」
「さて」
「オレ、小エビちゃん好き」
真っ直ぐな言葉にジェイドは少し笑った。
「奇遇ですね」
「は?」
「僕もですよ」
フロイドが黙る。
「そっかぁ」
「ええ」
「めんどくさいことになったねぇ」
「本当に」
二人とも笑っている。
けれど譲る気がないことだけはよくわかった。
◇
「ななしさん」
「ジェイド先輩」
「少しお時間いいですか?」
「はい」
「最近、フロイドと仲が良いですね」
「先輩とも仲良いと思ってますけど」
「それは嬉しいですね」
少し間が空く。
「もし」
「はい?」
「もしですよ」
ジェイドが言う。
「僕とフロイド、どちらか一人としか話せないと言われたら困りますか?」
「困ります」
即答にジェイドが目を瞬く。
「即答ですね」
「どちらとも話したいです」
「……そう、ですか」
ジェイドは少しだけ笑う。
「欲張りですね」
「だめですか?」
「いいえ」
ジェイドは首を振った。
「むしろ安心しました」
◇
「小エビちゃん」
「フロイド先輩」
「もしさぁ」
「はい」
「オレとジェイドがケンカしたらどっちの味方する?」
「内容によります」
「真面目〜」
「大事なことです」
「じゃあ五分五分?」
「たぶん」
「そっかぁ」
フロイドは笑った。
「それも悪くないかも」
「?」
「小エビちゃんってさ、ちゃんと見てくれるじゃん」
「当たり前では?」
「当たり前じゃないんだよ」
その言葉だけ妙に静かだった。
◇
「ななしさん」
「はい」
「こちらへ」
「えっ」
「小エビちゃん、こっち」
左右から呼ばれる。
「……」
「さあ」
「ほらぁ」
「どうしてこうなるんですか」
ジェイドが笑う。
フロイドも笑う。
「選んでください」
「選ばなくていいよぉ」
「どっちなんですか」
「困ってる顔かわいー」
「フロイド」
「冗談だってぇ」
結局、三人並んで歩くことになった。
「平和ですね」
「そうですか?」
「うん」
フロイドが言う。
「オレたちさぁ、普通ならもっとバチバチすると思う」
「してません?」
「してるけどさ」
ジェイドが頷く。
「ですが、不思議と嫌ではないんですよ」
「ジェイドがそういうならそうかも」
「適当ですね」
「だってジェイドだし」
二人が笑う。
その様子を見て、ななしも笑ってしまう。
「また笑った」
「小エビちゃん、今日何回笑った?」
「数えてません」
「今度数えよっかなぁ」
「やめてください」
「じゃあオレ専用にして」
「無理です」
「即答だ」
「当然です」
ジェイドが肩を揺らす。
「振られましたね、フロイド」
「ジェイドも同じでしょぉ?」
「それは否定しません」
「認めるんだ」
「ええ」
ジェイドがこちらを見る。
「ですが、僕は諦めが悪いので」
「オレも」
二人の声が重なる。
「困りましたね」
「困ったねぇ」
そう言いながら二人とも少し楽しそうだった。
誰か一人を選ぶ日が来るのか、それとも来ないのか。
今はまだわからない。
ただ名前を呼ばれるたび振り返った先には、たいてい二人がいる。
「ななしさん」
「小エビちゃん」
同時に呼ばれる。
「はい?」
「「なんでもありません」」
顔を見合わせる双子。
数秒後、どちらからともなく笑い出した。
そんな時間がもうしばらく続けばいい。
誰も口にはしないまま、同じことを思っていた。
昼休みが終わる少し前、ななしは名前を呼ばれて振り返る。
「ジェイド先輩」
「これ、落としましたよ」
差し出されたノートを受け取ると、ジェイドが穏やかに笑った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。探している様子でしたので」
「そんな顔してました?」
「ええ、とても」
からかわれている気がして視線を逸らす。
そのとき、間延びした声が飛んできた。
「小エビちゃーん」
「フロイド先輩」
「なにしてんの?」
「ノート落としてて」
「あー、ジェイドが拾ってたやつ?」
「見てたんですか?」
「んー、たまたま」
フロイドはジェイドを見る。
「ジェイドってさぁ、小エビちゃんのこと見つけるの早いよねぇ」
「そうですか?」
「そうだよ、オレが見つける前にだいたいジェイドがいるし」
「偶然ですよ」
「ふーん」
偶然と言いながらジェイドは少しも表情を変えない。
フロイドはそんな双子の片割れをじっと見てから笑った。
「ま、いっか」
◇
「ななしさん、また会いましたね」
「今日三回目です」
「四回目です」
「えっ」
「朝、廊下でもすれ違いました」
言われて思い出す。
「あ……おはようございますって」
「覚えていてくださったんですね」
「挨拶しましたし」
「それでも嬉しいですよ」
ジェイドはそう言って本を閉じる。
「ところで、この前おすすめしたお茶はいかがでした?」
「飲みました。すごく美味しかったです」
「本当ですか?」
「はい」
「それはよかった」
珍しく少しだけ嬉しそうな顔をする。
その瞬間、また一人現れる。
「なにしてんのぉ?」
「フロイド先輩」
「げ、ジェイドいるじゃん」
「残念でしたね」
「別にぃ」
フロイドは机に頬杖をつく。
「小エビちゃん、今ヒマ?」
「少しなら」
「じゃあオレと遊ぼ」
「遊ぶって何をですか?」
「んー」
考えるふりをする。
「今から決める」
「フロイド、ななしさんを困らせるのは感心しませんね」
「えー、小エビちゃん困ってる?」
「えっと……」
「ほら、困ってらっしゃる」
「いや、ジェイドが急に聞くからじゃん」
ジェイドが笑うとフロイドが眉を寄せる。
「なんかムカつく」
「気のせいですよ」
「今絶対楽しんでる」
「さて、どうでしょう」
二人のやり取りに思わず笑ってしまう。
「あ、小エビちゃん笑った」
「え?」
「今、笑ったじゃん」
「笑いましたけど……?」
「オレとの話で笑った」
「僕もいましたけどね」
「ジェイドは黙ってて」
「嫌です」
また始まった。
けれど不思議と嫌な空気にはならない。
◇
「小エビちゃん」
「はい?」
「今日、ちょっと付き合って」
「どこにですか?」
「内緒」
「それ絶対よくないやつです」
「大丈夫だってぇ」
結局断りきれずについていく。
「フロイド先輩、どこまで行くんですか?」
「んー、もうちょい」
足を止めたのは人の少ない場所だった。
「着いた」
「ここですか?」
「うん」
フロイドは壁にもたれた。
「ねぇ、小エビちゃん」
「なんですか?」
「最近ジェイドと仲良いよねぇ」
「普通だと思いますけど」
「ふーん」
「フロイド先輩とも仲良いですよ?」
「オレとも?」
「はい」
「それはちょっと嬉しいかも」
視線が合う。
「小エビちゃんってさぁ」
「はい」
「距離近いよね」
「そうですか?」
「うん、厄介」
「?」
「なんでもない」
そのとき、聞き慣れた声が降ってくる。
「探しましたよ」
「ジェイド先輩」
「フロイド、あまりななしさんを連れ回さないでください」
「別に連れ回してねーし」
「結果的には似たようなものです」
「違うってぇ」
ジェイドはため息をつく。
「ななしさん、困っていませんか?」
「大丈夫ですよ」
「ほら」
フロイドが笑う。
「小エビちゃん、オレの味方」
「別にそういうわけじゃ」
「じゃあ半分味方」
「基準がわかりません」
「オレ基準」
ジェイドが肩をすくめる。
「相変わらずですね」
◇
「ジェイド先輩」
「なんでしょう」
「質問していいですか?」
「どうぞ」
「ジェイド先輩って、好きな人いるんですか?」
「……どうしてそう思ったんです?」
「クラスメイトと、そういう話になったので」
「……なるほど」
ジェイドは少し考える。
「……いますよ」
「えっ」
「そんなに驚きます?」
「いえ、なんというか」
「意外でした?」
「少し」
「失礼ですね」
笑いながら言う。
「どんな人なんですか?」
「そうですね」
ジェイドは逃がさないとでも言うようにまっすぐ視線を向ける。
「よく笑う人です」
「へえ」
「それから、人との距離が近い」
どこか聞き覚えがある。
「案外無防備で、放っておけない人ですね」
「きっと優しい人なんですね」
「ええ、とても」
その言葉が妙に印象に残った。
◇
「小エビちゃん」
「わっ」
「びっくりした?」
「しました」
「成功〜」
フロイドが笑う。
「先輩に質問いいですか?」
「いいよぉ」
「好きな人いますか?」
「いる」
即答だった。
「早いですね」
「だっているもん」
「どんな人ですか?」
「んー」
フロイドが少し考える。
「オレの話ちゃんと聞く」
「はい」
「あと、一緒にいると飽きない」
「それだけですか?」
「それが大事なんだよ」
ふと、上から覗き込むような鋭い視線が合う。
「あと、」
「はい」
「他のやつと話してるとなんかヤダ」
「独占欲強いんですね」
「かもねぇ」
冗談っぽく笑う。
けれど、その目だけは冗談に見えなかった。
「小エビちゃん、今日ジェイドといた?」
「いましたけど」
「どれくらい?」
「少し話したくらいです」
「ふーん」
「……?」
「最近ジェイドと話す時間多くない?」
「そうですか?」
「多い」
「フロイド先輩とも話してますよ」
「それはオレが話しかけてるから」
「……たしかに?」
「否定しないんだ」
◇
その日の夕方。
「ななしさん」
「ジェイド先輩」
「今日はフロイドと一緒だったそうですね」
「少しだけですけど」
「そうですか」
「?」
「いえ、別に」
穏やかな声なのに、なぜか少しだけ圧を感じる。
◇
「ジェイド」
「なんですか」
「小エビちゃんと話した?」
「話しましたよ」
「ふーん」
「フロイドこそ」
「話したよぉ」
沈黙の中、先に口を開いたのはフロイドだった。
「ねぇ」
「なんでしょう」
「ジェイドも好きなんでしょ」
ジェイドが目を細める。
「何の話です?」
「とぼけるんだ」
「さて」
「オレ、小エビちゃん好き」
真っ直ぐな言葉にジェイドは少し笑った。
「奇遇ですね」
「は?」
「僕もですよ」
フロイドが黙る。
「そっかぁ」
「ええ」
「めんどくさいことになったねぇ」
「本当に」
二人とも笑っている。
けれど譲る気がないことだけはよくわかった。
◇
「ななしさん」
「ジェイド先輩」
「少しお時間いいですか?」
「はい」
「最近、フロイドと仲が良いですね」
「先輩とも仲良いと思ってますけど」
「それは嬉しいですね」
少し間が空く。
「もし」
「はい?」
「もしですよ」
ジェイドが言う。
「僕とフロイド、どちらか一人としか話せないと言われたら困りますか?」
「困ります」
即答にジェイドが目を瞬く。
「即答ですね」
「どちらとも話したいです」
「……そう、ですか」
ジェイドは少しだけ笑う。
「欲張りですね」
「だめですか?」
「いいえ」
ジェイドは首を振った。
「むしろ安心しました」
◇
「小エビちゃん」
「フロイド先輩」
「もしさぁ」
「はい」
「オレとジェイドがケンカしたらどっちの味方する?」
「内容によります」
「真面目〜」
「大事なことです」
「じゃあ五分五分?」
「たぶん」
「そっかぁ」
フロイドは笑った。
「それも悪くないかも」
「?」
「小エビちゃんってさ、ちゃんと見てくれるじゃん」
「当たり前では?」
「当たり前じゃないんだよ」
その言葉だけ妙に静かだった。
◇
「ななしさん」
「はい」
「こちらへ」
「えっ」
「小エビちゃん、こっち」
左右から呼ばれる。
「……」
「さあ」
「ほらぁ」
「どうしてこうなるんですか」
ジェイドが笑う。
フロイドも笑う。
「選んでください」
「選ばなくていいよぉ」
「どっちなんですか」
「困ってる顔かわいー」
「フロイド」
「冗談だってぇ」
結局、三人並んで歩くことになった。
「平和ですね」
「そうですか?」
「うん」
フロイドが言う。
「オレたちさぁ、普通ならもっとバチバチすると思う」
「してません?」
「してるけどさ」
ジェイドが頷く。
「ですが、不思議と嫌ではないんですよ」
「ジェイドがそういうならそうかも」
「適当ですね」
「だってジェイドだし」
二人が笑う。
その様子を見て、ななしも笑ってしまう。
「また笑った」
「小エビちゃん、今日何回笑った?」
「数えてません」
「今度数えよっかなぁ」
「やめてください」
「じゃあオレ専用にして」
「無理です」
「即答だ」
「当然です」
ジェイドが肩を揺らす。
「振られましたね、フロイド」
「ジェイドも同じでしょぉ?」
「それは否定しません」
「認めるんだ」
「ええ」
ジェイドがこちらを見る。
「ですが、僕は諦めが悪いので」
「オレも」
二人の声が重なる。
「困りましたね」
「困ったねぇ」
そう言いながら二人とも少し楽しそうだった。
誰か一人を選ぶ日が来るのか、それとも来ないのか。
今はまだわからない。
ただ名前を呼ばれるたび振り返った先には、たいてい二人がいる。
「ななしさん」
「小エビちゃん」
同時に呼ばれる。
「はい?」
「「なんでもありません」」
顔を見合わせる双子。
数秒後、どちらからともなく笑い出した。
そんな時間がもうしばらく続けばいい。
誰も口にはしないまま、同じことを思っていた。
