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「……ジェイド先輩?」
「おや、どうしました?」
「さっきからずっとこっち見てません?」
「見ていますね」
即答だった。
ななしが思わず足を止めるとジェイドは口元だけを緩める。
「そんなに堂々と言います?」
「隠す理由がありませんので」
「ありますよ普通は」
「そうですか? 僕は興味のあるものは観察したくなる性分なんです」
「わたし、人扱いされてます?」
「もちろん」
間髪入れないその返答が、余計に信用できない。
「ちなみに、今日は何を観察してるんですか」
「そうですね……」
ジェイドは少し考えるように目を細めた。
「僕が声をかけると、ななしさんは三回に一回ほど視線を逸らします」
「数えてたんですか」
「ええ」
「怖いです」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「褒めてません」
「それは残念です」
残念そうな声色なのに表情は少しも残念そうではない。
むしろ楽しそうだった。
◇
「ジェイド先輩って暇なんですか?」
「心外ですね」
「じゃあなんでこんなところに」
「偶然ですよ」
「三日連続で?」
「ええ、偶然です」
「絶対違う」
ジェイドは肩をすくめる。
「では質問を変えましょうか」
「なんですか」
「もし僕が意図的にななしさんの行動を把握していたとして」
「嫌ですね」
「最後まで聞いてください」
「……どうぞ」
「それを知ったら困りますか?」
問いかけは軽やかだが妙に真っ直ぐだった。
「……困るというか」
「というか?」
「なんでそこまでされるのか分からないので」
「簡単ですよ」
「??」
「好きだからです」
数秒遅れて意味が入ってくる。
「……はい?」
「おや、聞こえませんでしたか」
「いや、聞こえましたけど」
「なら問題ありませんね」
「あります」
「どこがです?」
「全部です」
ジェイドは小さく笑った。
「そうですか?」
「そうです」
「僕としては、ようやく言えたので満足なのですが」
「満足そうに見えません」
「ええ、全然足りませんから」
さらりと言われて言葉に詰まる。
「ジェイド先輩って、こういう冗談言う人でしたっけ」
「冗談ならよかったんですけどね」
その声音だけが不思議なくらい静かだった。
◇
「逃げないんですね」
「何がですか」
「告白された相手から」
「……追い払った方がよかったですか?」
「いいえ」
ジェイドは笑う。
「安心しました」
「ジェイド先輩は余裕ありますよね」
「そう見えますか?」
「見えます」
「それは誤解ですよ」
迷いのない即答だった。
まるで最初からそう答えることだけを決めていたかのような。
「僕はわりと必死です」
「そうは見えません」
「そうでしょうね」
ジェイドは困ったように息をついた。
「例えばですが」
「はい」
「誰かと楽しそうに話している姿を見ると面白くないですし」
「え」
「僕以外に向ける笑顔が増えると、少し機嫌が悪くなります」
「いやいやいや」
「昨日もそうでした」
「昨日?」
「昼休みに話していたでしょう」
思い返してみる。
「あれですか? ノート借りただけですけど」
「知っていますよ」
「なら何で」
「知っていても面白くないものは面白くありません」
理不尽だ。
けれどジェイドは至って真面目だった。
「僕は独占欲が強い方なんでしょうね」
「自己分析済みなんですね……」
「ええ、不本意ながら」
「不本意なんですか」
「もっと器用な性格だと思っていましたので」
少し笑ってからジェイドは視線を落とした。
「ですが、実際は違いました」
「……」
「好きな相手が関わると、驚くほど余裕がなくなるものなんですね」
沈黙が落ちる。
ジェイドは真っ直ぐにななしを見つめていた。
先に口を開いたのは彼だった。
「怖がらせてしまいましたか?」
「……ちょっとだけ」
「正直ですね」
「ジェイド先輩も正直じゃないですか」
「最近はそうすることにしました」
「どうして」
「隠しても意味がないと気づいたからです」
ジェイドは微笑む。
「僕がどれだけ取り繕っても、ななしさんを目で追いますし」
「……」
「話しかけられれば嬉しいですし」
「……」
「他の誰かに取られる想像をすると機嫌も悪くなります」
「ちょっとだけ重いです」
「自覚しています」
全く反省している顔ではなかった。
「でも安心してください」
「何をですか」
「僕は理性的ですから」
「その台詞、言う人だいたい危ないですよ」
「おや、鋭いですね」
「否定してくださいよ」
「難しいですね」
「してください」
「では努力します」
努力。否定ではない。
「ジェイド先輩」
「はい」
「それ、わざとですか?」
「何がでしょう」
「困らせるの」
「半分くらいは」
「半分なんだ……」
「残り半分は本音です」
◇
「……ひとつ聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「もし、わたしが誰かを好きになったらどうします?」
ジェイドは一瞬だけ黙った。
ほんの短い時間だった。
「笑って応援しますよ」
「本当に?」
「ええ」
穏やかな声だった。
けれど。
「そのあと一人で落ち込みます」
「……」
「もしかしたら少し意地悪になるかもしれません」
「少しですか?」
「保証はできませんね」
ジェイドは視線を向ける。
「ですから」
「?」
「できれば僕を選んでください」
冗談めかした言い方だった。
けれど目だけは笑っていない。
「僕は思っているより諦めが悪いんです」
「そんな気がします」
「おや」
「三日連続の偶然を主張する人なので」
ジェイドが吹き出した。
珍しく声を出して笑っている。
「それは失礼しました」
「認めるんですね」
「ええ、もう隠す必要もありませんから」
「……」
「……僕の理性がどれほど脆いか、確かめてみますか?」
「怖い言い方しないでください」
「安心してください」
「さっきも聞きました」
「今度は本当です」
「信用ないですね」
「悲しいです」
そう言いながらジェイドは少しだけ目を細める。
「ですが、僕は待つのは得意ですよ」
「そうなんですか?」
「ええ」
浮かべた笑みは、いつもの穏やかで丁寧なもの。
その瞳の奥には底知れない執着が渦巻いている。
「僕を選んでもらうための研鑽は、惜しみません」
「宣言するんですか」
「もちろんです」
「止めても?」
「善処します」
「絶対止めないやつだ」
「よくお分かりで」
ジェイドは楽しそうに笑った。
「ですから覚悟してくださいね、ななしさん」
「なんの覚悟ですか」
「さて、なんでしょう」
答えは返ってこない。
ただ観察するような視線だけが、いつまでも離れなかった。
「おや、どうしました?」
「さっきからずっとこっち見てません?」
「見ていますね」
即答だった。
ななしが思わず足を止めるとジェイドは口元だけを緩める。
「そんなに堂々と言います?」
「隠す理由がありませんので」
「ありますよ普通は」
「そうですか? 僕は興味のあるものは観察したくなる性分なんです」
「わたし、人扱いされてます?」
「もちろん」
間髪入れないその返答が、余計に信用できない。
「ちなみに、今日は何を観察してるんですか」
「そうですね……」
ジェイドは少し考えるように目を細めた。
「僕が声をかけると、ななしさんは三回に一回ほど視線を逸らします」
「数えてたんですか」
「ええ」
「怖いです」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「褒めてません」
「それは残念です」
残念そうな声色なのに表情は少しも残念そうではない。
むしろ楽しそうだった。
◇
「ジェイド先輩って暇なんですか?」
「心外ですね」
「じゃあなんでこんなところに」
「偶然ですよ」
「三日連続で?」
「ええ、偶然です」
「絶対違う」
ジェイドは肩をすくめる。
「では質問を変えましょうか」
「なんですか」
「もし僕が意図的にななしさんの行動を把握していたとして」
「嫌ですね」
「最後まで聞いてください」
「……どうぞ」
「それを知ったら困りますか?」
問いかけは軽やかだが妙に真っ直ぐだった。
「……困るというか」
「というか?」
「なんでそこまでされるのか分からないので」
「簡単ですよ」
「??」
「好きだからです」
数秒遅れて意味が入ってくる。
「……はい?」
「おや、聞こえませんでしたか」
「いや、聞こえましたけど」
「なら問題ありませんね」
「あります」
「どこがです?」
「全部です」
ジェイドは小さく笑った。
「そうですか?」
「そうです」
「僕としては、ようやく言えたので満足なのですが」
「満足そうに見えません」
「ええ、全然足りませんから」
さらりと言われて言葉に詰まる。
「ジェイド先輩って、こういう冗談言う人でしたっけ」
「冗談ならよかったんですけどね」
その声音だけが不思議なくらい静かだった。
◇
「逃げないんですね」
「何がですか」
「告白された相手から」
「……追い払った方がよかったですか?」
「いいえ」
ジェイドは笑う。
「安心しました」
「ジェイド先輩は余裕ありますよね」
「そう見えますか?」
「見えます」
「それは誤解ですよ」
迷いのない即答だった。
まるで最初からそう答えることだけを決めていたかのような。
「僕はわりと必死です」
「そうは見えません」
「そうでしょうね」
ジェイドは困ったように息をついた。
「例えばですが」
「はい」
「誰かと楽しそうに話している姿を見ると面白くないですし」
「え」
「僕以外に向ける笑顔が増えると、少し機嫌が悪くなります」
「いやいやいや」
「昨日もそうでした」
「昨日?」
「昼休みに話していたでしょう」
思い返してみる。
「あれですか? ノート借りただけですけど」
「知っていますよ」
「なら何で」
「知っていても面白くないものは面白くありません」
理不尽だ。
けれどジェイドは至って真面目だった。
「僕は独占欲が強い方なんでしょうね」
「自己分析済みなんですね……」
「ええ、不本意ながら」
「不本意なんですか」
「もっと器用な性格だと思っていましたので」
少し笑ってからジェイドは視線を落とした。
「ですが、実際は違いました」
「……」
「好きな相手が関わると、驚くほど余裕がなくなるものなんですね」
沈黙が落ちる。
ジェイドは真っ直ぐにななしを見つめていた。
先に口を開いたのは彼だった。
「怖がらせてしまいましたか?」
「……ちょっとだけ」
「正直ですね」
「ジェイド先輩も正直じゃないですか」
「最近はそうすることにしました」
「どうして」
「隠しても意味がないと気づいたからです」
ジェイドは微笑む。
「僕がどれだけ取り繕っても、ななしさんを目で追いますし」
「……」
「話しかけられれば嬉しいですし」
「……」
「他の誰かに取られる想像をすると機嫌も悪くなります」
「ちょっとだけ重いです」
「自覚しています」
全く反省している顔ではなかった。
「でも安心してください」
「何をですか」
「僕は理性的ですから」
「その台詞、言う人だいたい危ないですよ」
「おや、鋭いですね」
「否定してくださいよ」
「難しいですね」
「してください」
「では努力します」
努力。否定ではない。
「ジェイド先輩」
「はい」
「それ、わざとですか?」
「何がでしょう」
「困らせるの」
「半分くらいは」
「半分なんだ……」
「残り半分は本音です」
◇
「……ひとつ聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「もし、わたしが誰かを好きになったらどうします?」
ジェイドは一瞬だけ黙った。
ほんの短い時間だった。
「笑って応援しますよ」
「本当に?」
「ええ」
穏やかな声だった。
けれど。
「そのあと一人で落ち込みます」
「……」
「もしかしたら少し意地悪になるかもしれません」
「少しですか?」
「保証はできませんね」
ジェイドは視線を向ける。
「ですから」
「?」
「できれば僕を選んでください」
冗談めかした言い方だった。
けれど目だけは笑っていない。
「僕は思っているより諦めが悪いんです」
「そんな気がします」
「おや」
「三日連続の偶然を主張する人なので」
ジェイドが吹き出した。
珍しく声を出して笑っている。
「それは失礼しました」
「認めるんですね」
「ええ、もう隠す必要もありませんから」
「……」
「……僕の理性がどれほど脆いか、確かめてみますか?」
「怖い言い方しないでください」
「安心してください」
「さっきも聞きました」
「今度は本当です」
「信用ないですね」
「悲しいです」
そう言いながらジェイドは少しだけ目を細める。
「ですが、僕は待つのは得意ですよ」
「そうなんですか?」
「ええ」
浮かべた笑みは、いつもの穏やかで丁寧なもの。
その瞳の奥には底知れない執着が渦巻いている。
「僕を選んでもらうための研鑽は、惜しみません」
「宣言するんですか」
「もちろんです」
「止めても?」
「善処します」
「絶対止めないやつだ」
「よくお分かりで」
ジェイドは楽しそうに笑った。
「ですから覚悟してくださいね、ななしさん」
「なんの覚悟ですか」
「さて、なんでしょう」
答えは返ってこない。
ただ観察するような視線だけが、いつまでも離れなかった。
