サバナクロー
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「……は?」
レオナは眉をひそめた。
「いやだから、運ぶの手伝ってくれてありがとうございました」
「別に礼を言われるほどのことじゃねぇだろ」
「でも助かりました」
「そうかよ」
「じゃあ、わたし行きますね」
ひらりと手を振って去っていく背中を見送りながら、レオナは不機嫌さを隠しきれず小さく舌打ちをこぼした。
「……なんなんだアイツは」
隣にいたラギーが肩を震わせる。
「レオナさんがそれ言うんスか?」
「うるせぇ」
「いやぁ、だって今の完全に話続けたそうだったじゃないッスか」
「見当違いだな」
「レオナさんが他人の手伝いするなんて意外ッス」
「……たまたまだろ」
「じゃあなんで見送ってるんスか?」
「別に見てねぇ」
「レオナさんでも苦労することってあるんスね」
「……おいラギー、今すぐ消されたいか?」
「遠慮しとくッス」
ラギーは笑いながら去っていった。
残されたレオナは盛大に顔をしかめる。
取るに足らない、ありふれた言葉のやり取りだった。
それなのに妙に引っかかる。
もっと何か言えばよかったのか。
いや、そもそも何を言うんだ。
考えたところで答えなんて出ない。
「チッ……面倒くせぇ」
◇
「レオナさん」
「……あ?」
「これ落としましたよ」
差し出されたのはペンだった。
「あぁ」
ペンを受け取る。
たったそれだけの動作だ。
それだというのに胸の奥が妙にざわつく。
「わたしが気づいてよかったですね」
「……そうだな」
「たまたまですけどね」
「……そうかよ」
また会話はすぐに終わる。
そしてまた去っていってしまう。
レオナは思わず呼び止めた。
「おい」
「はい?」
「……」
呼び止めたくせに続きがない。
ななしは不思議そうに首を傾げた。
「レオナさん?」
「……いや、なんでもねぇ」
「そうですか?」
「行けよ」
「じゃあ失礼します」
ぱたぱたと離れていく。
レオナは頭を抱えた。
「なんでだ」
交渉事なら得意だ。
駆け引きもできる。
相手の考えていることを読むのも難しくない。
それなのに、あの相手だけは勝手が違う。
「何やってんだ俺は……」
◇
1年生との合同授業が終わった演習場。
帰り支度をする生徒たちのざわめきで溢れている。
生徒の輪から抜け出してきたエースがひょいと歩み寄ってきた。
「レオナ先輩、今日機嫌悪いですね」
「いつも通りだ」
「絶対違いますって」
エースがニヤリと笑う。
「なんかイライラしてます?」
「してねぇ」
「へぇ」
「なんだその顔は」
「いやぁ、図星なんだなって」
「テメェは殴られてぇのか」
「原因ってもしかしてアイツだったりします?」
数メートル先でクラスメイトに囲まれているななしの姿が目に入る。
「……誰の話だ」
「名前出してないのに反応するんですね」
「おいエース」
「はいはい、これ以上は言いませんよ」
そう言いながら全然隠す気のない顔で笑っている。
「でも意外ですねぇ」
「何がだ」
「レオナ先輩でもそういうので悩むんだなって」
「悩んでねぇ」
「そういうことにしときます」
レオナは深く息を吐いた。
ガキにまで見抜かれている。
気分が悪い。
非常に悪い。
◇
「レオナさん」
「……なんだ」
「寝てました?」
「見りゃ分かるだろ」
「起こしちゃいました?」
「別に」
ななしは少し迷ってから口を開いた。
「これ、差し入れです」
「なんだこれは」
「新作のお菓子らしいです」
「俺に?」
「嫌でした?」
「そんなこと言ってねぇ」
受け取る箱の重みが妙に気になった。
「……お前は食ったのか」
「まだですけど」
「なら食ってから持ってこい」
「毒見係ですか?」
「違ぇよ」
思わず即答していた。
「美味いかどうか分かんねぇもん寄越すなって話だ」
「それはたしかに」
「お前が美味いと思ったもんを持ってこい」
言ってから気づく。
今のはだいぶ変だ。
案の定、ななしが目を丸くしていた。
「レオナさんって案外優しいんですね」
「……は?」
「もっと適当な人かと思ってました」
「お前な」
「違いました?」
「違わねぇけど違う」
「どっちですか」
「知らねぇ」
笑われた。
その笑い方が気に入らない。
いや気に入らないわけじゃない。
むしろ逆だ。
だから余計に腹が立つ。
◇
「最近機嫌いいですね、レオナさん」
「どこがだ」
「さっき笑ってましたよ」
「笑ってねぇ」
「笑ってました」
「見間違いだ」
「ふふ」
否定も追及もしない。
ただ小さく笑われる。
レオナは眉間を押さえた。
「……お前、俺をからかってんのか?」
「そんなことしてませんよ」
「してる顔だろ」
「してませんって」
「嘘つけ」
「じゃあ少しだけしてます」
「ほら見ろ」
「だってレオナさん分かりやすいので」
「どこがだ」
「わりと顔に出てますよ?」
「出てねぇ」
「出てます」
即答された。
レオナは苛立った。
自分にではない。
見抜かれていることにでもない。
その相手が平然としていることにだ。
こっちはこんなに振り回されている。
なのに相手はいつも通り。
変わらない。
それが妙に癪だった。
「おい」
「はい?」
「お前、他のヤツにもああいう態度なのか」
「どういう態度です?」
「……その」
レオナの言葉が詰まる。
「普通の態度ですけど」
「普通か」
「普通ですよ」
「そうかよ」
面白くない。
全然面白くない。
「レオナさん?」
「なんでもねぇ」
「最近『なんでもない』が多いですね」
「うるせぇな」
「困ってるんですか?」
「困ってねぇ」
「ならよかったです」
よくない。
まったくよくない。
むしろ最悪だ。
◇
「レオナ先輩」
「なんだ、1年坊主」
「アイツに告白しないんですか?」
「……は?」
「いや、流石に分かりやすすぎるんで」
「誰が誰にだ」
「まだ誤魔化すんですか〜、バレバレなのに」
エースは呆れた顔をした。
「好きなんでしょ?」
レオナは黙った。
否定しようとしたが、できなかった。
「……だったらなんだ」
「うわ、認めた」
「……テメェ、殴られたいのか?」
「でも意外だなぁ」
「お前そればっかりだな」
「だってレオナ先輩ってもっとソツなくこなすタイプかと」
「……」
「好きな相手の前だと違うんですね」
「……できねぇんだよ」
「へ?」
「……アイツ相手だと調子が狂う」
初めて口にした。
口にしてしまった。
少しの沈黙のあと、エースが吹き出した。
「恋してる人のセリフですね」
「うるせぇ、黙れ」
「アイツ、結構モテますよ」
「……あ?」
「結構あちこちから声かけられてるみたいですよ」
「……」
「余裕ぶっこいてると他の誰かにさらわれますよ?」
「……テメェ、喧嘩売ってんのか?」
「いやいや、優しい後輩からの助言じゃないですか」
「……くそ」
「オレは応援してるんで」
ニヤニヤと笑いながらエースが去っていく。
残されたレオナは深いため息を吐いた。
◇
「レオナさん」
「……なんだ」
「元気ないです?」
「ないように見えるか?」
「ない顔、してますけど」
「気のせいだろ」
「そうですか」
また会話が終わる……はずだった。
「おい」
「はい?」
「お前……」
「なんですか?」
「……」
言葉が出ない。
まただ、また失敗する。
レオナは自分自身に苛立った。
「レオナさん?」
「……悪い、なんでもない」
「ありそうな顔してますけど」
「なんでもねぇよ、引き留めて悪かった」
「話、あるんじゃないんですか?」
ある。あるに決まっている。
ずっと前から。
「……俺は」
喉が詰まる。
情けない。
こんなことも言えないのか。
「レオナさん」
「なんだ」
「焦らなくて大丈夫ですよ」
その言葉に目を見開いた。
「別にわたし、急いでませんし」
「……」
「いくらでも待てますから」
静かな声だった。
責めるでもなく。
急かすでもなく。
ただ待っている。
レオナは大きく息を吐いた。
「……お前はズルいな」
「え?」
「俺だけ勝手に振り回されてるみたいだ」
「そんなことないですよ」
「お前相手だと調子狂うんだよ」
「……」
「イライラするし、腹が立つ……なのに放っとけねぇ」
言った。
とうとう言った。
「最悪だ」
ななしは少しだけ目を丸くしたあと小さく笑った。
「それ、告白ですか?」
「……たぶんな」
「たぶんなんですね」
「初めてだから知らねぇよ」
「そういうところ好きですよ」
今度はレオナが固まる番だった。
「……は?」
「レオナさんのそういうところ」
「お前、今なんて言った」
「わたしに言わせる気ですか?」
言わせる気だった。
たぶん何度でも聞きたかった。
「……チッ」
「照れてます?」
「違ぇ」
「顔赤いですよ」
「見間違いだ」
「えー、かわいいのに」
笑われる。
また笑われる。
けれど今度は悪くなかった。
「レオナさん」
「なんだ」
「これからも調子狂わせるかもしれません」
「……知ってる」
「それでも大丈夫です?」
「大丈夫じゃねぇな」
「じゃあどうします?」
レオナは肩をすくめた。
「諦めるしかねぇだろ」
「何をです?」
「お前を……好きなことをだ」
沈黙のあと。
小さな笑い声が落ちた。
「それならわたしも諦めません」
「……そうかよ」
「はい」
レオナは目を閉じる。
勝ち方なんて分からない。
余裕もない、格好悪い。
それでも悪くないと思った。
「なぁ、ななし」
「なんですか?」
「これから先も俺を振り回せ」
「命令ですか?」
「お願いだ」
「ふふっ」
「なんだよ」
「嬉しいです」
「……返事はねぇのかよ」
「はい、たくさん振り回しますね」
その返事にレオナはようやく笑った。
レオナは眉をひそめた。
「いやだから、運ぶの手伝ってくれてありがとうございました」
「別に礼を言われるほどのことじゃねぇだろ」
「でも助かりました」
「そうかよ」
「じゃあ、わたし行きますね」
ひらりと手を振って去っていく背中を見送りながら、レオナは不機嫌さを隠しきれず小さく舌打ちをこぼした。
「……なんなんだアイツは」
隣にいたラギーが肩を震わせる。
「レオナさんがそれ言うんスか?」
「うるせぇ」
「いやぁ、だって今の完全に話続けたそうだったじゃないッスか」
「見当違いだな」
「レオナさんが他人の手伝いするなんて意外ッス」
「……たまたまだろ」
「じゃあなんで見送ってるんスか?」
「別に見てねぇ」
「レオナさんでも苦労することってあるんスね」
「……おいラギー、今すぐ消されたいか?」
「遠慮しとくッス」
ラギーは笑いながら去っていった。
残されたレオナは盛大に顔をしかめる。
取るに足らない、ありふれた言葉のやり取りだった。
それなのに妙に引っかかる。
もっと何か言えばよかったのか。
いや、そもそも何を言うんだ。
考えたところで答えなんて出ない。
「チッ……面倒くせぇ」
◇
「レオナさん」
「……あ?」
「これ落としましたよ」
差し出されたのはペンだった。
「あぁ」
ペンを受け取る。
たったそれだけの動作だ。
それだというのに胸の奥が妙にざわつく。
「わたしが気づいてよかったですね」
「……そうだな」
「たまたまですけどね」
「……そうかよ」
また会話はすぐに終わる。
そしてまた去っていってしまう。
レオナは思わず呼び止めた。
「おい」
「はい?」
「……」
呼び止めたくせに続きがない。
ななしは不思議そうに首を傾げた。
「レオナさん?」
「……いや、なんでもねぇ」
「そうですか?」
「行けよ」
「じゃあ失礼します」
ぱたぱたと離れていく。
レオナは頭を抱えた。
「なんでだ」
交渉事なら得意だ。
駆け引きもできる。
相手の考えていることを読むのも難しくない。
それなのに、あの相手だけは勝手が違う。
「何やってんだ俺は……」
◇
1年生との合同授業が終わった演習場。
帰り支度をする生徒たちのざわめきで溢れている。
生徒の輪から抜け出してきたエースがひょいと歩み寄ってきた。
「レオナ先輩、今日機嫌悪いですね」
「いつも通りだ」
「絶対違いますって」
エースがニヤリと笑う。
「なんかイライラしてます?」
「してねぇ」
「へぇ」
「なんだその顔は」
「いやぁ、図星なんだなって」
「テメェは殴られてぇのか」
「原因ってもしかしてアイツだったりします?」
数メートル先でクラスメイトに囲まれているななしの姿が目に入る。
「……誰の話だ」
「名前出してないのに反応するんですね」
「おいエース」
「はいはい、これ以上は言いませんよ」
そう言いながら全然隠す気のない顔で笑っている。
「でも意外ですねぇ」
「何がだ」
「レオナ先輩でもそういうので悩むんだなって」
「悩んでねぇ」
「そういうことにしときます」
レオナは深く息を吐いた。
ガキにまで見抜かれている。
気分が悪い。
非常に悪い。
◇
「レオナさん」
「……なんだ」
「寝てました?」
「見りゃ分かるだろ」
「起こしちゃいました?」
「別に」
ななしは少し迷ってから口を開いた。
「これ、差し入れです」
「なんだこれは」
「新作のお菓子らしいです」
「俺に?」
「嫌でした?」
「そんなこと言ってねぇ」
受け取る箱の重みが妙に気になった。
「……お前は食ったのか」
「まだですけど」
「なら食ってから持ってこい」
「毒見係ですか?」
「違ぇよ」
思わず即答していた。
「美味いかどうか分かんねぇもん寄越すなって話だ」
「それはたしかに」
「お前が美味いと思ったもんを持ってこい」
言ってから気づく。
今のはだいぶ変だ。
案の定、ななしが目を丸くしていた。
「レオナさんって案外優しいんですね」
「……は?」
「もっと適当な人かと思ってました」
「お前な」
「違いました?」
「違わねぇけど違う」
「どっちですか」
「知らねぇ」
笑われた。
その笑い方が気に入らない。
いや気に入らないわけじゃない。
むしろ逆だ。
だから余計に腹が立つ。
◇
「最近機嫌いいですね、レオナさん」
「どこがだ」
「さっき笑ってましたよ」
「笑ってねぇ」
「笑ってました」
「見間違いだ」
「ふふ」
否定も追及もしない。
ただ小さく笑われる。
レオナは眉間を押さえた。
「……お前、俺をからかってんのか?」
「そんなことしてませんよ」
「してる顔だろ」
「してませんって」
「嘘つけ」
「じゃあ少しだけしてます」
「ほら見ろ」
「だってレオナさん分かりやすいので」
「どこがだ」
「わりと顔に出てますよ?」
「出てねぇ」
「出てます」
即答された。
レオナは苛立った。
自分にではない。
見抜かれていることにでもない。
その相手が平然としていることにだ。
こっちはこんなに振り回されている。
なのに相手はいつも通り。
変わらない。
それが妙に癪だった。
「おい」
「はい?」
「お前、他のヤツにもああいう態度なのか」
「どういう態度です?」
「……その」
レオナの言葉が詰まる。
「普通の態度ですけど」
「普通か」
「普通ですよ」
「そうかよ」
面白くない。
全然面白くない。
「レオナさん?」
「なんでもねぇ」
「最近『なんでもない』が多いですね」
「うるせぇな」
「困ってるんですか?」
「困ってねぇ」
「ならよかったです」
よくない。
まったくよくない。
むしろ最悪だ。
◇
「レオナ先輩」
「なんだ、1年坊主」
「アイツに告白しないんですか?」
「……は?」
「いや、流石に分かりやすすぎるんで」
「誰が誰にだ」
「まだ誤魔化すんですか〜、バレバレなのに」
エースは呆れた顔をした。
「好きなんでしょ?」
レオナは黙った。
否定しようとしたが、できなかった。
「……だったらなんだ」
「うわ、認めた」
「……テメェ、殴られたいのか?」
「でも意外だなぁ」
「お前そればっかりだな」
「だってレオナ先輩ってもっとソツなくこなすタイプかと」
「……」
「好きな相手の前だと違うんですね」
「……できねぇんだよ」
「へ?」
「……アイツ相手だと調子が狂う」
初めて口にした。
口にしてしまった。
少しの沈黙のあと、エースが吹き出した。
「恋してる人のセリフですね」
「うるせぇ、黙れ」
「アイツ、結構モテますよ」
「……あ?」
「結構あちこちから声かけられてるみたいですよ」
「……」
「余裕ぶっこいてると他の誰かにさらわれますよ?」
「……テメェ、喧嘩売ってんのか?」
「いやいや、優しい後輩からの助言じゃないですか」
「……くそ」
「オレは応援してるんで」
ニヤニヤと笑いながらエースが去っていく。
残されたレオナは深いため息を吐いた。
◇
「レオナさん」
「……なんだ」
「元気ないです?」
「ないように見えるか?」
「ない顔、してますけど」
「気のせいだろ」
「そうですか」
また会話が終わる……はずだった。
「おい」
「はい?」
「お前……」
「なんですか?」
「……」
言葉が出ない。
まただ、また失敗する。
レオナは自分自身に苛立った。
「レオナさん?」
「……悪い、なんでもない」
「ありそうな顔してますけど」
「なんでもねぇよ、引き留めて悪かった」
「話、あるんじゃないんですか?」
ある。あるに決まっている。
ずっと前から。
「……俺は」
喉が詰まる。
情けない。
こんなことも言えないのか。
「レオナさん」
「なんだ」
「焦らなくて大丈夫ですよ」
その言葉に目を見開いた。
「別にわたし、急いでませんし」
「……」
「いくらでも待てますから」
静かな声だった。
責めるでもなく。
急かすでもなく。
ただ待っている。
レオナは大きく息を吐いた。
「……お前はズルいな」
「え?」
「俺だけ勝手に振り回されてるみたいだ」
「そんなことないですよ」
「お前相手だと調子狂うんだよ」
「……」
「イライラするし、腹が立つ……なのに放っとけねぇ」
言った。
とうとう言った。
「最悪だ」
ななしは少しだけ目を丸くしたあと小さく笑った。
「それ、告白ですか?」
「……たぶんな」
「たぶんなんですね」
「初めてだから知らねぇよ」
「そういうところ好きですよ」
今度はレオナが固まる番だった。
「……は?」
「レオナさんのそういうところ」
「お前、今なんて言った」
「わたしに言わせる気ですか?」
言わせる気だった。
たぶん何度でも聞きたかった。
「……チッ」
「照れてます?」
「違ぇ」
「顔赤いですよ」
「見間違いだ」
「えー、かわいいのに」
笑われる。
また笑われる。
けれど今度は悪くなかった。
「レオナさん」
「なんだ」
「これからも調子狂わせるかもしれません」
「……知ってる」
「それでも大丈夫です?」
「大丈夫じゃねぇな」
「じゃあどうします?」
レオナは肩をすくめた。
「諦めるしかねぇだろ」
「何をです?」
「お前を……好きなことをだ」
沈黙のあと。
小さな笑い声が落ちた。
「それならわたしも諦めません」
「……そうかよ」
「はい」
レオナは目を閉じる。
勝ち方なんて分からない。
余裕もない、格好悪い。
それでも悪くないと思った。
「なぁ、ななし」
「なんですか?」
「これから先も俺を振り回せ」
「命令ですか?」
「お願いだ」
「ふふっ」
「なんだよ」
「嬉しいです」
「……返事はねぇのかよ」
「はい、たくさん振り回しますね」
その返事にレオナはようやく笑った。
