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夕暮れ時の植物園は昼間の賑やかさが嘘のように静まり返っていた。ガラス張りの天井から差し込む斜光が生い茂る熱帯植物の葉に複雑な影を落としている。
放課後の見回りを兼ねて立ち寄ったその場所で、ななしは目当ての人物の背中を見つけた。
「ジェイド先輩!」
振り返ったジェイドはいつものように穏やかな微笑みを浮かべた。
「ななしさん、奇遇ですね。こんな時間に植物園へ足を運ばれるとは何か御用ですか?」
「次の合同授業で使う資料のことで少し聞きたいことがあって。ここにいるかなと思って探していたんです」
「おや、僕を探してくださったのですか」
ジェイドは手に持っていた霧吹きを近くの棚に置き、ななしの方へ歩み寄った。
「僕に分かることであれば、いくらでもお力になりますよ」
「ありがとうございます。この間の実技演習のレポートなんですけど……」
ななしがノートを開き疑問に思っていた箇所を指し示すと、ジェイドは小さく頷きながら覗き込んできた。二人の距離が少しだけ縮まる。
「なるほど、ここの術式の展開手順ですね。確かにここは、教科書の記述だけでは少し分かりにくいかもしれません」
ジェイドの声はいつも通り落ち着いていて心地よい。専門的な用語を並べるのではなく、ななしが理解しやすいように身近な例えを交えながら噛み砕いて説明していく。
「……ですから、最初に魔力を均一に循環させるのがコツです。そうすれば、次の段階で制御を失うこともありません」
「そういうことだったんですね。ずっと引っかかっていたので、すっきりしました」
「お役に立てたのなら何よりです。それにしてもななしさんの熱心な姿勢にはいつも感心させられます」
「魔法が使えないわたしにとっては、ついていくのがやっとで……それに、ジェイド先輩が教えてくれるのが上手なだけですから」
謙遜するななしを見てジェイドは少しだけ目を細めて笑った。
「おや、褒め言葉として受け取っておきます。ですが実際に理解して形にするのはあなた自身の力ですよ」
そんな会話を交わしながらななしはノートにアドバイスを書き留めていく。やり取りはテンポよく進み気がつけばレポートの疑問点はすべて解消されていた。
「本当にありがとうございました。これで次の提出には間に合いそうです」
「また分からないことがあれば、いつでも声をかけてください」
ジェイドはそう言って再び棚の霧吹きに手を伸ばした。用事は済んだはずだったがななしはその場から動こうとはしなかった。静かな空間に時折響く水滴の音。植物の青い香りが満ちる中で二人の間にどこか名残惜しげな空気が流れる。
「……あの、ジェイド先輩」
「はい、何でしょう?」
「もう少しだけ、ここにいてもいいですか?」
少し緊張した面持ちで尋ねるななしに対しジェイドは驚いた風でもなく、ただ優しく微笑んで応えた。
「ええ、構いませんよ。僕もちょうど、ここの手入れを終えたところですから。少し休憩にしましょうか」
ジェイドは近くのベンチを指し座るよう促した。二人が並んで腰を下ろすと、ほんの少しだけ互いの肩が触れそうな距離になる。
「今日の植物園は一段と静かですね」
「そうですね。この時間帯は学生の行き来も少ないですから。まるで、この世界に僕たち二人しか残されていないかのような錯覚を覚えます」
「ふふ、大げさですよ」
「そうでしょうか。ですが、僕はこういう静寂が嫌いではありません。特に……こうしてななしさんと過ごす時間なら、なおさらです」
ジェイドの言葉にななしの鼓動がわずかに速くなる。からかわれているのだろうか、それとも……その真意を窺おうとななしが視線を向けると、ジェイドもまたまっすぐにななしを見つめ返していた。至近距離で見つめ合ってしまう形になりななしは言葉に詰まる。
「あ、あの、そういえばフロイド先輩は一緒じゃないんですか?」
照れ隠しに別の話題を振るとジェイドは小さく息を吐き出した。
「フロイドなら部活に向かいましたよ。珍しくやる気を出していました。ですから、今は邪魔者は誰もいません」
「邪魔者だなんて……」
「おや、本音ですよ?」
ジェイドは椅子の背もたれに腕を預け、少しだけ体をななしの方へと傾けた。
「ななしさんと二人きりで話せる機会は、僕にとっても貴重なものですから。誰にも邪魔されたくはないと思うのは不自然なことでしょうか」
耳に届く声が先ほどよりも少しだけ低く、響きを帯びているように感じられた。夕闇が植物園の隅からじわじわと広がってきており、周囲の影が濃くなっていく。そのせいでジェイドの存在感がいつも以上に大きく迫ってくるように思えた。
「ジェイド先輩、あんまりからかわないでください」
「からかってなどいません。僕はいつだって大真面目です」
そう言って笑う彼の表情は、確かにいつもの冗談めかした雰囲気とは少し違って見えた。ななしがどう返答すべきか迷っていると、ジェイドはふっと視線を窓の外へと向けた。
「日が沈むのも早くなりましたね。そろそろ、ここも閉園の時間でしょうか」
「そうですね。名残惜しいですけど戻らないと」
ななしが立ち上がろうとした、その時だった。
「……っ?」
気がついた時にはななしの視界が一瞬で暗くなっていた。
背後から伸びてきた長い腕がななしの体を包み込むようにして引き寄せた。
「あ…の……」
背中に触れる確かな体温と厚い胸板。ジェイドの長い腕がななしの肩と細い体を後ろからすっぽりと抱きしめていた。完全に身動きが取れなくなるほどの強くて優しい拘束だった。
驚きで声が出ないななしの耳元に熱を帯びた吐息が吹きかかる。
「……まだ、動かないでください」
耳元でジェイドの声が甘く低く囁かれた。その声音は先ほどまでのものとは明らかに一線を画していた。
「ジェ、イド先輩……?」
困惑と緊張の混じった声を出すななしに対し、ジェイドは腕の力を緩める気配を一切見せなかった。むしろ驚いて強張るその背中を自らの胸へとさらに深く引き寄せる。
「……すみません。ななしさんを見ていたら、どうにも我慢ができなくなってしまいました」
「えっと、その……っ」
「近すぎますか? ですが、僕はもっと近づきたいとずっと思っていました。誰もいないのをいいことに、少し理性が大雑把になってしまったようです」
ジェイドの長い腕がななしの肩口から回り込み、まるで大切なものを閉じ込める檻のように機能していた。逃げ出そうと思えば逃げ出せる隙間などどこにも残されていない。
密着した状態が続くなか植物園の静寂はさらに深まっていく。遠くで時折、葉の擦れ合う音が聞こえるだけで周囲には息が詰まるほどの濃密な静けさが広がっていた。そのせいで互いの存在が嫌というほど強調される。
「ジェイド先輩、心臓の音が聞こえそうです」
「僕のですか? それとも、あなたのですか?」
「……どっちも、です」
「そうですか。お互いの鼓動が重なるほど近くにいられるのですから。こうしてあなたを離さないようにしていると、このまま時間が止まってしまえばいいとさえ思ってしまいますね」
ジェイドの囁きは、どこか甘い毒を孕んでいるかのように体中へ染み渡っていく。彼の指先がななしの肩を優しく撫でていく。
「実を言うと、先ほどフロイドの話を出された時、かなり嫉妬してしまいまして……」
唐突に告げられた本音にななしは目を見開いた。
「えっ……? フロイド先輩に、ですか?」
「ええ。僕と二人でいる時間ですら、ななしさんは別の誰かの名前を口にする。それがたとえ兄弟であっても、あまり愉快な気分にはなれません。あなたには目の前の僕だけを見てほしいのです」
いつもの穏やかな優等生の仮面が夕闇の濃さと比例するように剥がれ落ちていく。ジェイドの言葉に含まれる独占欲は隠されることなく真っ直ぐにぶつけられていた。
「ななしさん。こうして僕がどれほどあなたを特別に思っているか、少しは伝わっているのでしょうか」
耳たぶに掠れるか掠れないかの絶妙な距離で彼の唇が動く。あまりの気恥ずかしさと胸の鼓動の速さに、ななしはぎゅっと目を閉じた。首筋に触れる彼の髪が心地よい刺激を与える。
しばらくの間、二人はそのままの体勢で動かなかった。ジェイドが腕を解く様子はなく、ただその温もりを惜しむようにななしの存在を全身で確かめていた。彼にとっても、この空間でななしを独り占めできる時間は何物にも代えがたいもののようだった。
「……ジェイド先輩、暗くなってきちゃいました」
ようやくななしがそう切り出すと、ジェイドは満足したように小さく息を吐いた。
「そうですね。これ以上あなたをここに留めておいては、本当に僕の理性が迷子になってしまいそうです」
ゆっくりと名残惜しそうにジェイドの腕が解かれていく。拘束から解放されたななしが振り返ると、そこには少しだけ瞳を潤ませた妖艶とも言える微笑みを湛えたジェイドが立っていた。
「少し、強引でしたね。怖がらせてしまいましたか?」
少しだけ眉を下げて尋ねる彼にななしは首を横に振った。
「怖くは、なかったです。ただ……びっくりしました」
「ふふ、なら良かったです。あなたのその赤くなったお顔も、僕にとっては至上の癒やしですから」
ジェイドはそう言うと、ななしの手元にあるノートをそっと指差した。
「さあ、すっかり暗くなってしまいました。寮までお送りしましょう」
「ありがとうございます、ジェイド先輩」
二人は並んで植物園の出口へと歩き出す。ガラスの向こうには、すっかり夜の帳が下りた学園の景色が広がっていた。先ほどまでの密着した熱は消え去ったはずなのに、お互いの手の距離は植物園に入る前よりも確実に縮まっていた。
放課後の見回りを兼ねて立ち寄ったその場所で、ななしは目当ての人物の背中を見つけた。
「ジェイド先輩!」
振り返ったジェイドはいつものように穏やかな微笑みを浮かべた。
「ななしさん、奇遇ですね。こんな時間に植物園へ足を運ばれるとは何か御用ですか?」
「次の合同授業で使う資料のことで少し聞きたいことがあって。ここにいるかなと思って探していたんです」
「おや、僕を探してくださったのですか」
ジェイドは手に持っていた霧吹きを近くの棚に置き、ななしの方へ歩み寄った。
「僕に分かることであれば、いくらでもお力になりますよ」
「ありがとうございます。この間の実技演習のレポートなんですけど……」
ななしがノートを開き疑問に思っていた箇所を指し示すと、ジェイドは小さく頷きながら覗き込んできた。二人の距離が少しだけ縮まる。
「なるほど、ここの術式の展開手順ですね。確かにここは、教科書の記述だけでは少し分かりにくいかもしれません」
ジェイドの声はいつも通り落ち着いていて心地よい。専門的な用語を並べるのではなく、ななしが理解しやすいように身近な例えを交えながら噛み砕いて説明していく。
「……ですから、最初に魔力を均一に循環させるのがコツです。そうすれば、次の段階で制御を失うこともありません」
「そういうことだったんですね。ずっと引っかかっていたので、すっきりしました」
「お役に立てたのなら何よりです。それにしてもななしさんの熱心な姿勢にはいつも感心させられます」
「魔法が使えないわたしにとっては、ついていくのがやっとで……それに、ジェイド先輩が教えてくれるのが上手なだけですから」
謙遜するななしを見てジェイドは少しだけ目を細めて笑った。
「おや、褒め言葉として受け取っておきます。ですが実際に理解して形にするのはあなた自身の力ですよ」
そんな会話を交わしながらななしはノートにアドバイスを書き留めていく。やり取りはテンポよく進み気がつけばレポートの疑問点はすべて解消されていた。
「本当にありがとうございました。これで次の提出には間に合いそうです」
「また分からないことがあれば、いつでも声をかけてください」
ジェイドはそう言って再び棚の霧吹きに手を伸ばした。用事は済んだはずだったがななしはその場から動こうとはしなかった。静かな空間に時折響く水滴の音。植物の青い香りが満ちる中で二人の間にどこか名残惜しげな空気が流れる。
「……あの、ジェイド先輩」
「はい、何でしょう?」
「もう少しだけ、ここにいてもいいですか?」
少し緊張した面持ちで尋ねるななしに対しジェイドは驚いた風でもなく、ただ優しく微笑んで応えた。
「ええ、構いませんよ。僕もちょうど、ここの手入れを終えたところですから。少し休憩にしましょうか」
ジェイドは近くのベンチを指し座るよう促した。二人が並んで腰を下ろすと、ほんの少しだけ互いの肩が触れそうな距離になる。
「今日の植物園は一段と静かですね」
「そうですね。この時間帯は学生の行き来も少ないですから。まるで、この世界に僕たち二人しか残されていないかのような錯覚を覚えます」
「ふふ、大げさですよ」
「そうでしょうか。ですが、僕はこういう静寂が嫌いではありません。特に……こうしてななしさんと過ごす時間なら、なおさらです」
ジェイドの言葉にななしの鼓動がわずかに速くなる。からかわれているのだろうか、それとも……その真意を窺おうとななしが視線を向けると、ジェイドもまたまっすぐにななしを見つめ返していた。至近距離で見つめ合ってしまう形になりななしは言葉に詰まる。
「あ、あの、そういえばフロイド先輩は一緒じゃないんですか?」
照れ隠しに別の話題を振るとジェイドは小さく息を吐き出した。
「フロイドなら部活に向かいましたよ。珍しくやる気を出していました。ですから、今は邪魔者は誰もいません」
「邪魔者だなんて……」
「おや、本音ですよ?」
ジェイドは椅子の背もたれに腕を預け、少しだけ体をななしの方へと傾けた。
「ななしさんと二人きりで話せる機会は、僕にとっても貴重なものですから。誰にも邪魔されたくはないと思うのは不自然なことでしょうか」
耳に届く声が先ほどよりも少しだけ低く、響きを帯びているように感じられた。夕闇が植物園の隅からじわじわと広がってきており、周囲の影が濃くなっていく。そのせいでジェイドの存在感がいつも以上に大きく迫ってくるように思えた。
「ジェイド先輩、あんまりからかわないでください」
「からかってなどいません。僕はいつだって大真面目です」
そう言って笑う彼の表情は、確かにいつもの冗談めかした雰囲気とは少し違って見えた。ななしがどう返答すべきか迷っていると、ジェイドはふっと視線を窓の外へと向けた。
「日が沈むのも早くなりましたね。そろそろ、ここも閉園の時間でしょうか」
「そうですね。名残惜しいですけど戻らないと」
ななしが立ち上がろうとした、その時だった。
「……っ?」
気がついた時にはななしの視界が一瞬で暗くなっていた。
背後から伸びてきた長い腕がななしの体を包み込むようにして引き寄せた。
「あ…の……」
背中に触れる確かな体温と厚い胸板。ジェイドの長い腕がななしの肩と細い体を後ろからすっぽりと抱きしめていた。完全に身動きが取れなくなるほどの強くて優しい拘束だった。
驚きで声が出ないななしの耳元に熱を帯びた吐息が吹きかかる。
「……まだ、動かないでください」
耳元でジェイドの声が甘く低く囁かれた。その声音は先ほどまでのものとは明らかに一線を画していた。
「ジェ、イド先輩……?」
困惑と緊張の混じった声を出すななしに対し、ジェイドは腕の力を緩める気配を一切見せなかった。むしろ驚いて強張るその背中を自らの胸へとさらに深く引き寄せる。
「……すみません。ななしさんを見ていたら、どうにも我慢ができなくなってしまいました」
「えっと、その……っ」
「近すぎますか? ですが、僕はもっと近づきたいとずっと思っていました。誰もいないのをいいことに、少し理性が大雑把になってしまったようです」
ジェイドの長い腕がななしの肩口から回り込み、まるで大切なものを閉じ込める檻のように機能していた。逃げ出そうと思えば逃げ出せる隙間などどこにも残されていない。
密着した状態が続くなか植物園の静寂はさらに深まっていく。遠くで時折、葉の擦れ合う音が聞こえるだけで周囲には息が詰まるほどの濃密な静けさが広がっていた。そのせいで互いの存在が嫌というほど強調される。
「ジェイド先輩、心臓の音が聞こえそうです」
「僕のですか? それとも、あなたのですか?」
「……どっちも、です」
「そうですか。お互いの鼓動が重なるほど近くにいられるのですから。こうしてあなたを離さないようにしていると、このまま時間が止まってしまえばいいとさえ思ってしまいますね」
ジェイドの囁きは、どこか甘い毒を孕んでいるかのように体中へ染み渡っていく。彼の指先がななしの肩を優しく撫でていく。
「実を言うと、先ほどフロイドの話を出された時、かなり嫉妬してしまいまして……」
唐突に告げられた本音にななしは目を見開いた。
「えっ……? フロイド先輩に、ですか?」
「ええ。僕と二人でいる時間ですら、ななしさんは別の誰かの名前を口にする。それがたとえ兄弟であっても、あまり愉快な気分にはなれません。あなたには目の前の僕だけを見てほしいのです」
いつもの穏やかな優等生の仮面が夕闇の濃さと比例するように剥がれ落ちていく。ジェイドの言葉に含まれる独占欲は隠されることなく真っ直ぐにぶつけられていた。
「ななしさん。こうして僕がどれほどあなたを特別に思っているか、少しは伝わっているのでしょうか」
耳たぶに掠れるか掠れないかの絶妙な距離で彼の唇が動く。あまりの気恥ずかしさと胸の鼓動の速さに、ななしはぎゅっと目を閉じた。首筋に触れる彼の髪が心地よい刺激を与える。
しばらくの間、二人はそのままの体勢で動かなかった。ジェイドが腕を解く様子はなく、ただその温もりを惜しむようにななしの存在を全身で確かめていた。彼にとっても、この空間でななしを独り占めできる時間は何物にも代えがたいもののようだった。
「……ジェイド先輩、暗くなってきちゃいました」
ようやくななしがそう切り出すと、ジェイドは満足したように小さく息を吐いた。
「そうですね。これ以上あなたをここに留めておいては、本当に僕の理性が迷子になってしまいそうです」
ゆっくりと名残惜しそうにジェイドの腕が解かれていく。拘束から解放されたななしが振り返ると、そこには少しだけ瞳を潤ませた妖艶とも言える微笑みを湛えたジェイドが立っていた。
「少し、強引でしたね。怖がらせてしまいましたか?」
少しだけ眉を下げて尋ねる彼にななしは首を横に振った。
「怖くは、なかったです。ただ……びっくりしました」
「ふふ、なら良かったです。あなたのその赤くなったお顔も、僕にとっては至上の癒やしですから」
ジェイドはそう言うと、ななしの手元にあるノートをそっと指差した。
「さあ、すっかり暗くなってしまいました。寮までお送りしましょう」
「ありがとうございます、ジェイド先輩」
二人は並んで植物園の出口へと歩き出す。ガラスの向こうには、すっかり夜の帳が下りた学園の景色が広がっていた。先ほどまでの密着した熱は消え去ったはずなのに、お互いの手の距離は植物園に入る前よりも確実に縮まっていた。
