その他
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
橙色に染まり始めた街並みは、見慣れない景色ばかりだった。
石畳の道は細く入り組み、同じような建物が並んでいるせいで、どこを歩いているのかすら分からなくなる。
「……どうしよう」
小さく息を吐き、通りの端で足を止める。
どうしてこんな場所で一人になっているのか。
それには少し前の出来事が関係していた。
◇
今日はエース、デュース、グリムと一緒にオンボロ寮の買い出しへ来ていた。
必要なものを買い終え、あとは寮へ戻るだけだったはずなのだ。
しかし、人の多い通りへ出た瞬間。
「見ろ! あれ絶対うまいやつなんだゾ!」
「ちょ、待てって!」
「グリム! 勝手に行くな!」
グリムが店先から漂う匂いに反応し、勢いよく走り出した。
面白がったエースが後を追い、慌てたデュースも二人を追いかける。
いつもの騒がしさが始まった。
ななしも急いで後を追ったが、周囲の人混みに遮られ、三人の姿はあっという間に見えなくなってしまった。
少し探せば見つかると思っていた。
けれど、角を曲がるたびに知らない景色が広がり、気づけば見覚えのない路地へ入り込んでいた。
スマホの充電も残り少なく、連絡を取ろうにもいつまで使えるか分からない。
「……戻れるかな」
不安を抱えながら周囲を見渡した、その時だった。
「そこのお嬢さん」
突然、背後から声がした。
「さっきから同じ場所を行ったり来たりしてないか?」
驚いて振り返る。
そこに立っていたのは、背の高い青年だった。
白を基調とした制服には上品な装飾が施されている。
ナイトレイブンカレッジとは異なる意匠。
ロイヤルソードアカデミーの制服だとすぐに分かった。
青年は少し首を傾げながら、ななしを見る。
「やっぱり迷子だな?」
「え……」
「その制服、ナイトレイブンカレッジだろ?」
「はい」
「あそこって男子校だったよな?」
「えっと、その……」
言葉に詰まるななしを見て、青年は小さく笑った。
「まあ、色々事情があるってことか」
「すみません……」
「謝らなくていいって」
青年は軽く肩をすくめた。
「俺はミナジール。ロイヤルソードアカデミーの生徒だ」
「ななしです」
「ななしか」
名前を確認するように呟いたあと、ミナジールは路地の先へ視線を向ける。
「それで、帰り道が分からない?」
「はい……一緒に来ていた友達とはぐれてしまって」
「なるほどな」
ミナジールは少し考えるようにしてから、道の先を指差した。
「どこに行きたい?」
「できれば広場に出たいです。そこなら友達も探しやすいと思うので」
「じゃあ案内する」
「えっ、でも……」
「気にするなって」
ミナジールは歩き出しながら振り返る。
「俺もちょうど用事が終わったところだったから」
その時、彼はななしの制服へ視線を落とした。
「……あれ」
「?」
「襟、少し曲がってる」
そう言うと、指先でそっと襟元を整える。
「せっかく綺麗な制服なのに、これじゃもったいないだろ」
「あ……ありがとうございます」
「ほら、行くぞ」
「はい」
ななしは慌てて彼の後を追った。
石畳を踏む足音が夕暮れの街に響く。
ミナジールは先を歩きながらも、時々振り返って距離を確認していた。
「それにしても」
「はい?」
「あのナイトレイブンカレッジに女子がいるなんてな」
「……やっぱり珍しいですよね」
「そりゃな」
ミナジールは楽しそうに笑う。
「でも、無理に聞くつもりはない」
「……ありがとうございます」
「ただ、興味はある」
「興味?」
「君があそこでどう過ごしてるのか」
「普通ですよ」
ななしは苦笑する。
「毎日みんなに振り回されてばかりです」
「普通、ね」
ミナジールはその言葉を繰り返した。
「あの学校で普通に過ごせるって結構すごいことだと思うけどな」
「そうでしょうか」
「周り、個性的な奴ばっかりだろ?」
「それは……否定できません」
思わず頷くと、ミナジールは楽しそうに笑った。
「やっぱり面白いな」
「何がですか?」
「君」
「え?」
「気になるってこと」
さらりと言われた言葉に、ななしは少しだけ目を瞬かせた。
「……そんなに珍しいですか?」
「珍しいっていうより……」
ミナジールは少し考えるように視線を上げる。
「面白いんだよ。自分のことを特別扱いしてないところとか」
「そうですか?」
「そう」
短く返したあと、彼は前を向いた。
「まあ、急にこんなこと言われても困るよな」
「いえ……」
突然の言葉に戸惑いはしたものの、不思議と警戒する気持ちにはならなかった。
敵対している学校の生徒とは思えないほど、ミナジールの態度は自然だった。
「今日はミナジールさんも買い物だったんですか?」
「ん? ああ」
ミナジールは頷く。
「頼まれたものを買いに来てた。ついでに少し街を見て回ってたところ」
「そうだったんですね」
「でも、まさか迷子を拾うとは思わなかった」
「拾うって……」
思わず笑うと、ミナジールも小さく笑った。
「悪い意味じゃないって」
「分かってます」
そんな会話を続けながら歩いていると、少しずつ道が開けてくる。
建物の隙間から、見覚えのある噴水が見えた。
「あ……!」
ななしが足を止める。
「広場です!」
「だな」
ミナジールも足を止め、そちらへ視線を向けた。
「思ったより早く着いた」
広場には見慣れた姿があった。
噴水の周りを歩き回りながら、誰かを探しているエースとデュース。
その足元を走り回るグリム。
「エース! デュース!」
声を上げると、三人がこちらを振り返る。
「ななし!」
「オメー、どこ行ってたんだゾ!」
グリムが勢いよく駆け寄ってくる。
「急にいなくなるから心配したぞ」
「マジで焦ったんだからな」
エースとデュースはそう言いながら、ふと隣にいるミナジールを見る。
「……っていうか」
「ん?」
「その人、誰?」
視線を向けられ、ななしは慌てて説明する。
「迷子になってたところを助けてもらったの」
「助けてもらった?」
エースが少し眉を上げる。
「ロイヤルソードアカデミーの人じゃん」
「そうだけど」
「へえ」
何か言いたそうな顔をするエースに、デュースがたしなめる。
「エース、失礼だぞ」
「いや、だってさ」
エースはミナジールを見る。
「親切なのは分かるけど、珍しいなって」
「そう?」
ミナジールは穏やかに笑った。
「困ってる人を助けるのは普通だろ」
「……まあ、そうだけど」
エースは納得しきれないような顔をする。
そんな様子を見て、ななしは話題を変えた。
「それより、買い出しの荷物は?」
「あ」
エースが固まる。
「忘れてた」
「オレ様のせいじゃないんだゾ!」
「グリムが走り出したからだろ」
「エースが煽ったからだろ」
「デュースまで言う?」
いつもの言い合いが始まる。
その様子に、ななしは小さく息を吐いた。
無事に戻れた安心感が、ようやく込み上げてくる。
そんな中、ミナジールが声をかけた。
「じゃあ、俺はここで」
「本当にありがとうございました」
「気にするなって」
ミナジールは軽く手を振る。
「さっきの話、覚えてる?」
「話?」
「君のこと、気になるってやつ」
「あ……」
「連絡先、教えてよ」
突然の言葉に、ななしは少し驚いた。
「えっと……」
慌ててスマホを取り出そうとして、充電が少ないことを思い出す。
その様子を見て、ミナジールが気づいた。
「充電、危ない?」
「はい、少しだけ」
「じゃあ俺のスマホに入れて」
差し出された端末を受け取る。
指先で番号を入力し、返す。
「ありがとう」
ミナジールは画面を確認すると、満足そうに頷いた。
「今度連絡する」
「はい」
「じゃあな、ななし」
「はい、本当にありがとうございました」
小さく手を振り、ミナジールは街の方へ戻っていった。
◇
その日の夜。
オンボロ寮の部屋に戻ったななしは、充電器につないだスマホを何気なく確認した。
すると、通知が一件届いている。
『無事に戻れた?』
昼間の出来事が一気に蘇る。
少し迷ったあと、返信を打ち込んだ。
『はい。無事に戻れました。今日は本当にありがとうございました』
送信してすぐ、既読がつく。
『よかった』
短い文章のあと、続けてメッセージが届いた。
『今度はちゃんと時間作って話そう』
『君のこと、もっと知りたいから』
画面を見つめながら、ななしは小さく息を吐いた。
今日初めて会ったはずなのに、なぜか何度も言葉を思い返してしまう。
夕暮れの街角で交わした短いやり取りが、妙に心に残っていた。
石畳の道は細く入り組み、同じような建物が並んでいるせいで、どこを歩いているのかすら分からなくなる。
「……どうしよう」
小さく息を吐き、通りの端で足を止める。
どうしてこんな場所で一人になっているのか。
それには少し前の出来事が関係していた。
◇
今日はエース、デュース、グリムと一緒にオンボロ寮の買い出しへ来ていた。
必要なものを買い終え、あとは寮へ戻るだけだったはずなのだ。
しかし、人の多い通りへ出た瞬間。
「見ろ! あれ絶対うまいやつなんだゾ!」
「ちょ、待てって!」
「グリム! 勝手に行くな!」
グリムが店先から漂う匂いに反応し、勢いよく走り出した。
面白がったエースが後を追い、慌てたデュースも二人を追いかける。
いつもの騒がしさが始まった。
ななしも急いで後を追ったが、周囲の人混みに遮られ、三人の姿はあっという間に見えなくなってしまった。
少し探せば見つかると思っていた。
けれど、角を曲がるたびに知らない景色が広がり、気づけば見覚えのない路地へ入り込んでいた。
スマホの充電も残り少なく、連絡を取ろうにもいつまで使えるか分からない。
「……戻れるかな」
不安を抱えながら周囲を見渡した、その時だった。
「そこのお嬢さん」
突然、背後から声がした。
「さっきから同じ場所を行ったり来たりしてないか?」
驚いて振り返る。
そこに立っていたのは、背の高い青年だった。
白を基調とした制服には上品な装飾が施されている。
ナイトレイブンカレッジとは異なる意匠。
ロイヤルソードアカデミーの制服だとすぐに分かった。
青年は少し首を傾げながら、ななしを見る。
「やっぱり迷子だな?」
「え……」
「その制服、ナイトレイブンカレッジだろ?」
「はい」
「あそこって男子校だったよな?」
「えっと、その……」
言葉に詰まるななしを見て、青年は小さく笑った。
「まあ、色々事情があるってことか」
「すみません……」
「謝らなくていいって」
青年は軽く肩をすくめた。
「俺はミナジール。ロイヤルソードアカデミーの生徒だ」
「ななしです」
「ななしか」
名前を確認するように呟いたあと、ミナジールは路地の先へ視線を向ける。
「それで、帰り道が分からない?」
「はい……一緒に来ていた友達とはぐれてしまって」
「なるほどな」
ミナジールは少し考えるようにしてから、道の先を指差した。
「どこに行きたい?」
「できれば広場に出たいです。そこなら友達も探しやすいと思うので」
「じゃあ案内する」
「えっ、でも……」
「気にするなって」
ミナジールは歩き出しながら振り返る。
「俺もちょうど用事が終わったところだったから」
その時、彼はななしの制服へ視線を落とした。
「……あれ」
「?」
「襟、少し曲がってる」
そう言うと、指先でそっと襟元を整える。
「せっかく綺麗な制服なのに、これじゃもったいないだろ」
「あ……ありがとうございます」
「ほら、行くぞ」
「はい」
ななしは慌てて彼の後を追った。
石畳を踏む足音が夕暮れの街に響く。
ミナジールは先を歩きながらも、時々振り返って距離を確認していた。
「それにしても」
「はい?」
「あのナイトレイブンカレッジに女子がいるなんてな」
「……やっぱり珍しいですよね」
「そりゃな」
ミナジールは楽しそうに笑う。
「でも、無理に聞くつもりはない」
「……ありがとうございます」
「ただ、興味はある」
「興味?」
「君があそこでどう過ごしてるのか」
「普通ですよ」
ななしは苦笑する。
「毎日みんなに振り回されてばかりです」
「普通、ね」
ミナジールはその言葉を繰り返した。
「あの学校で普通に過ごせるって結構すごいことだと思うけどな」
「そうでしょうか」
「周り、個性的な奴ばっかりだろ?」
「それは……否定できません」
思わず頷くと、ミナジールは楽しそうに笑った。
「やっぱり面白いな」
「何がですか?」
「君」
「え?」
「気になるってこと」
さらりと言われた言葉に、ななしは少しだけ目を瞬かせた。
「……そんなに珍しいですか?」
「珍しいっていうより……」
ミナジールは少し考えるように視線を上げる。
「面白いんだよ。自分のことを特別扱いしてないところとか」
「そうですか?」
「そう」
短く返したあと、彼は前を向いた。
「まあ、急にこんなこと言われても困るよな」
「いえ……」
突然の言葉に戸惑いはしたものの、不思議と警戒する気持ちにはならなかった。
敵対している学校の生徒とは思えないほど、ミナジールの態度は自然だった。
「今日はミナジールさんも買い物だったんですか?」
「ん? ああ」
ミナジールは頷く。
「頼まれたものを買いに来てた。ついでに少し街を見て回ってたところ」
「そうだったんですね」
「でも、まさか迷子を拾うとは思わなかった」
「拾うって……」
思わず笑うと、ミナジールも小さく笑った。
「悪い意味じゃないって」
「分かってます」
そんな会話を続けながら歩いていると、少しずつ道が開けてくる。
建物の隙間から、見覚えのある噴水が見えた。
「あ……!」
ななしが足を止める。
「広場です!」
「だな」
ミナジールも足を止め、そちらへ視線を向けた。
「思ったより早く着いた」
広場には見慣れた姿があった。
噴水の周りを歩き回りながら、誰かを探しているエースとデュース。
その足元を走り回るグリム。
「エース! デュース!」
声を上げると、三人がこちらを振り返る。
「ななし!」
「オメー、どこ行ってたんだゾ!」
グリムが勢いよく駆け寄ってくる。
「急にいなくなるから心配したぞ」
「マジで焦ったんだからな」
エースとデュースはそう言いながら、ふと隣にいるミナジールを見る。
「……っていうか」
「ん?」
「その人、誰?」
視線を向けられ、ななしは慌てて説明する。
「迷子になってたところを助けてもらったの」
「助けてもらった?」
エースが少し眉を上げる。
「ロイヤルソードアカデミーの人じゃん」
「そうだけど」
「へえ」
何か言いたそうな顔をするエースに、デュースがたしなめる。
「エース、失礼だぞ」
「いや、だってさ」
エースはミナジールを見る。
「親切なのは分かるけど、珍しいなって」
「そう?」
ミナジールは穏やかに笑った。
「困ってる人を助けるのは普通だろ」
「……まあ、そうだけど」
エースは納得しきれないような顔をする。
そんな様子を見て、ななしは話題を変えた。
「それより、買い出しの荷物は?」
「あ」
エースが固まる。
「忘れてた」
「オレ様のせいじゃないんだゾ!」
「グリムが走り出したからだろ」
「エースが煽ったからだろ」
「デュースまで言う?」
いつもの言い合いが始まる。
その様子に、ななしは小さく息を吐いた。
無事に戻れた安心感が、ようやく込み上げてくる。
そんな中、ミナジールが声をかけた。
「じゃあ、俺はここで」
「本当にありがとうございました」
「気にするなって」
ミナジールは軽く手を振る。
「さっきの話、覚えてる?」
「話?」
「君のこと、気になるってやつ」
「あ……」
「連絡先、教えてよ」
突然の言葉に、ななしは少し驚いた。
「えっと……」
慌ててスマホを取り出そうとして、充電が少ないことを思い出す。
その様子を見て、ミナジールが気づいた。
「充電、危ない?」
「はい、少しだけ」
「じゃあ俺のスマホに入れて」
差し出された端末を受け取る。
指先で番号を入力し、返す。
「ありがとう」
ミナジールは画面を確認すると、満足そうに頷いた。
「今度連絡する」
「はい」
「じゃあな、ななし」
「はい、本当にありがとうございました」
小さく手を振り、ミナジールは街の方へ戻っていった。
◇
その日の夜。
オンボロ寮の部屋に戻ったななしは、充電器につないだスマホを何気なく確認した。
すると、通知が一件届いている。
『無事に戻れた?』
昼間の出来事が一気に蘇る。
少し迷ったあと、返信を打ち込んだ。
『はい。無事に戻れました。今日は本当にありがとうございました』
送信してすぐ、既読がつく。
『よかった』
短い文章のあと、続けてメッセージが届いた。
『今度はちゃんと時間作って話そう』
『君のこと、もっと知りたいから』
画面を見つめながら、ななしは小さく息を吐いた。
今日初めて会ったはずなのに、なぜか何度も言葉を思い返してしまう。
夕暮れの街角で交わした短いやり取りが、妙に心に残っていた。
