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「ねぇ、小エビちゃん」
上から降ってきた声に足を止めると、すぐ間近に歪な笑みを浮かべたフロイドが立っていた。
いつも通りの気まぐれな足取り。
けれど、その視線はまっすぐにこちらの顔へと注がれている。
「小エビちゃん、なんか食ってる?」
唐突な問いかけに思わず瞬きを返した。
口の中には何も入っていない。
「食べてないですよ?」
「うそ。だってさっきから口の中でなんか動いてる。キャンディ?」
フロイドは面白そうに目を細め、ぐっと顔を近づけてくる。
視界のほとんどが彼の大きな体で遮られ、廊下の喧騒が急に遠のいた。
「それ何?」
覗き込むような視線が唇の隙間に突き刺さる。
ただの自己満足で開けたものだ。
けれどフロイドの好奇心に火がついてしまった以上、下手な誤魔化しは効かない。
「……これ、です」
観念して少しだけ唇を開いた。
ほんの数ミリ舌の先を覗かせる。
その中央で冷たい光を放つ小さな銀色のキャッチが、西日を反射してきらりと光る。
フロイドの動きが、ぴたりと止まる。
退屈そうに揺れていた彼の空気が一瞬で別のものへと変質するのがわかった。
「それ、ピアス? 舌につけてんの?」
「はい。ただの、自己満足なんですけど」
「ふーん。小エビちゃん、そんなの隠してたんだ」
彼の手が伸びてきて、長い指先が顎のラインをなぞる。
ひんやりとした指の感触が、肌に触れた瞬間に熱を帯びるような錯覚を覚えた。
フロイドは力を入れるわけでもなく、ただ逃がさないようにこちらの顔を固定する。
「もっとよく見せてよ。それ、どうなってんの」
「どうって……ただ刺さってるだけです。ちょ、フロイド先輩近いです」
「いーじゃん、別に。誰も見てないし。ねぇ、口開けて」
フロイドの指先が今度は下唇の端に触れる。
親指の腹が柔らかな粘膜に触れそうなほど近く、そこから伝わる体温が、こちらの心臓の鼓動を無駄に早くさせた。
「痛くねぇの、それ」
「開けた後とかは痛かったですけど、今はもう安定してるので何ともないです」
「ふぅん……」
面白がるような、けれどどこか試すような視線が交差する。
身体の芯が内側から熱くなっていくのがわかった。
フロイドの指が、ゆっくりと唇を押し下げる。
拒む理由を見失ったまま促されるように口を少しだけ開く。
暗い口内の中で銀色の球体が再び姿を現した。
フロイドはそれを、まるで初めて見る生き物でも観察するかのように、じっと見つめている。
呼吸がすぐ近くで重なる。
身体が強張るのと内側から湧き上がる熱に浮かされるのが同時だった。
「これさぁ、オレが引っ張ったらどうなる?」
「痛いので、やめてください」
「あはは、冗談。でもさ、すげぇおもしろいね」
フロイドの指先が今度は舌の先に直接触れるか触れないかの距離まで迫る。
緊張感と彼から放たれる圧倒的な存在感に、息をすることすら忘れてしまいそうだった。
「小エビちゃん、これつけて何すんの?」
「何もしないですよ、自己満って言ったじゃないですか」
少しだけ声を尖らせてそう言うと、フロイドの指先が唇の端を軽く弾いた。
「ふーん」
フロイドはその相槌を繰り返しながら、言葉の響きを喉の奥で味わうように笑う。
向けられる視線の熱量は引くどころかさらに密度を増していた。
彼の大きな体躯が放課後の夕闇を吸い込んで、より濃い影を落とす。
「じゃあさ、オレがこうやって触んのも、別に減るもんじゃないからいーよね?」
「そういう問題じゃなくて……っ」
抗議しようと動かした舌の先が、唇を割り込んできた彼の親指の腹に触れた。
湿った粘膜と金属の感覚、そしてフロイドの指先の体温が狭い空間の中でいっぺんに混ざり合う。
口を閉じようにもフロイドの指が巧みにそれを阻んでいた。
「あ、動いた。小エビちゃんのベロ、やわらかいねぇ」
フロイドの声が鼓膜に染み込んでいく。
指先で優しく舌を押し下げられ、その中央に鎮座するピアスキャッチが、彼の指の腹と擦れ合った。
自分のために開けたはずの小さな金属が、今はフロイドの感覚と自分を繋ぐ、ひどく生々しい媒介になっている。
逃げ場のない口内という空間を、彼の指に隅々まで支配されていくような奇妙な熱が胸の奥からせり上がってきた。
「ん、……ふ、ろいど、先輩」
「なに? うまく喋れないの?」
意地悪く目を細めて彼はさらに指を深く滑らせてくる。
金属のシャフトがフロイドの爪の先に軽く触れて小さな音が鳴った。
身体の奥が跳ねるような感覚に襲われる。
見られている。
触れられている。
普段は誰にも触れさせない、自分だけの秘密の場所を、彼は一切の遠慮なく楽しんでいる。
「ん、っ……、離し、て」
「やだ。もっとよく見せてよ。オレ、これすげぇ気に入った」
フロイドの顔が、いよいよ吐息が交わるほどの距離まで迫る。
彼の双眸に宿る熱が、こちらの思考を白く塗り潰していくようだった。
嫌だと言いつつも身体が彼の体温に逆らえない。
じわじわと背中から指先までが痺れるような、濃密な甘さが体内に充満していく。
「小エビちゃんが自己満で開けたんだもんねぇ。じゃあ、オレがどうしたって文句言えないじゃん」
圧倒的理不尽。
けれど、その響きには抗いがたい甘美な響きが混ざっていた。
フロイドはゆっくりと指を抜くと、今度は代わりにするようにその吐息をこちらの唇のすぐ傍に寄せた。
「次はさ、指じゃなくてオレの舌で触っていい?」
返事なんて最初から待っていない。
そう確信させるように、フロイドの唇がこちらの沈黙を塞いだ。
息が詰まる。
触れただけのキスとは明らかに違う、深い熱が口内に滑り込んできた。
先ほどまで彼の指に支配されていた場所に、今度はもっと質量を持った生々しい体温が割り込んでくる。
「……んっ、」
反射的に逃げようとした身体は、彼の大きな手のひらによって、あっけなく縫い留められた。
逃げ場を失った口内で、フロイドの舌がこちらの舌を、そして中央の金属を容赦なく愛撫していく。
カチ、と歯に当たる音が今度は鼓膜ではなく脳の芯に直接響いた。
彼自身の鋭い歯や滑らかな舌の動きが、ピアスを弄ぶたびに切ないほどの振動となって突き抜ける。
「ふ、……んぅ」
強引なのに、どこかこちらの反応を細かく楽しむような、 執拗なまでの舌の動き。
彼の舌がピアスのシャフトをなぞり、キャッチの輪郭を確かめるように転がすたび、背筋がゾクゾクと痺れて立っていられなくなる。
どれだけ深い場所まで暴かれているのだろう。
自分の呼吸なのかフロイドの呼吸なのかも分からなくなり、視界の隅で夕暮れの赤い光がぐにゃりと歪んだ。
ようやく唇が離れたときには顎の力が抜け、まともな呼吸の仕方も忘れてしまっていた。
銀色のキャッチが引き結ぶこともできない唇の隙間で、じっとりと濡れた光を放っている。
フロイドはそれを至近距離から満足そうに見下ろしていた。
彼の唇が不敵な弧を描き、舌先が自身の唇をゆっくりとなぞる。
「……あは、すげぇ、ちょー気持ちいーんだけど」
「フロイド、せんぱ……っ、」
「小エビちゃん、これオレのために開けたわけじゃないのにさぁ。オレの舌の形、いっぱいついちゃったね?」
いたずらが成功した子供のようでありながら、その瞳の奥にある熱は少しも冷めていなかった。
彼は濡れた指先で今度は優しくこちらの頬を包み込む。
「ねぇ、明日もまたオレに触らせてよ。小エビちゃんの秘密の場所、オレがもっと、めちゃくちゃにしてあげる」
そう囁くフロイドの顔は、たまらなく綺麗で凶悪に歪んでいた。
上から降ってきた声に足を止めると、すぐ間近に歪な笑みを浮かべたフロイドが立っていた。
いつも通りの気まぐれな足取り。
けれど、その視線はまっすぐにこちらの顔へと注がれている。
「小エビちゃん、なんか食ってる?」
唐突な問いかけに思わず瞬きを返した。
口の中には何も入っていない。
「食べてないですよ?」
「うそ。だってさっきから口の中でなんか動いてる。キャンディ?」
フロイドは面白そうに目を細め、ぐっと顔を近づけてくる。
視界のほとんどが彼の大きな体で遮られ、廊下の喧騒が急に遠のいた。
「それ何?」
覗き込むような視線が唇の隙間に突き刺さる。
ただの自己満足で開けたものだ。
けれどフロイドの好奇心に火がついてしまった以上、下手な誤魔化しは効かない。
「……これ、です」
観念して少しだけ唇を開いた。
ほんの数ミリ舌の先を覗かせる。
その中央で冷たい光を放つ小さな銀色のキャッチが、西日を反射してきらりと光る。
フロイドの動きが、ぴたりと止まる。
退屈そうに揺れていた彼の空気が一瞬で別のものへと変質するのがわかった。
「それ、ピアス? 舌につけてんの?」
「はい。ただの、自己満足なんですけど」
「ふーん。小エビちゃん、そんなの隠してたんだ」
彼の手が伸びてきて、長い指先が顎のラインをなぞる。
ひんやりとした指の感触が、肌に触れた瞬間に熱を帯びるような錯覚を覚えた。
フロイドは力を入れるわけでもなく、ただ逃がさないようにこちらの顔を固定する。
「もっとよく見せてよ。それ、どうなってんの」
「どうって……ただ刺さってるだけです。ちょ、フロイド先輩近いです」
「いーじゃん、別に。誰も見てないし。ねぇ、口開けて」
フロイドの指先が今度は下唇の端に触れる。
親指の腹が柔らかな粘膜に触れそうなほど近く、そこから伝わる体温が、こちらの心臓の鼓動を無駄に早くさせた。
「痛くねぇの、それ」
「開けた後とかは痛かったですけど、今はもう安定してるので何ともないです」
「ふぅん……」
面白がるような、けれどどこか試すような視線が交差する。
身体の芯が内側から熱くなっていくのがわかった。
フロイドの指が、ゆっくりと唇を押し下げる。
拒む理由を見失ったまま促されるように口を少しだけ開く。
暗い口内の中で銀色の球体が再び姿を現した。
フロイドはそれを、まるで初めて見る生き物でも観察するかのように、じっと見つめている。
呼吸がすぐ近くで重なる。
身体が強張るのと内側から湧き上がる熱に浮かされるのが同時だった。
「これさぁ、オレが引っ張ったらどうなる?」
「痛いので、やめてください」
「あはは、冗談。でもさ、すげぇおもしろいね」
フロイドの指先が今度は舌の先に直接触れるか触れないかの距離まで迫る。
緊張感と彼から放たれる圧倒的な存在感に、息をすることすら忘れてしまいそうだった。
「小エビちゃん、これつけて何すんの?」
「何もしないですよ、自己満って言ったじゃないですか」
少しだけ声を尖らせてそう言うと、フロイドの指先が唇の端を軽く弾いた。
「ふーん」
フロイドはその相槌を繰り返しながら、言葉の響きを喉の奥で味わうように笑う。
向けられる視線の熱量は引くどころかさらに密度を増していた。
彼の大きな体躯が放課後の夕闇を吸い込んで、より濃い影を落とす。
「じゃあさ、オレがこうやって触んのも、別に減るもんじゃないからいーよね?」
「そういう問題じゃなくて……っ」
抗議しようと動かした舌の先が、唇を割り込んできた彼の親指の腹に触れた。
湿った粘膜と金属の感覚、そしてフロイドの指先の体温が狭い空間の中でいっぺんに混ざり合う。
口を閉じようにもフロイドの指が巧みにそれを阻んでいた。
「あ、動いた。小エビちゃんのベロ、やわらかいねぇ」
フロイドの声が鼓膜に染み込んでいく。
指先で優しく舌を押し下げられ、その中央に鎮座するピアスキャッチが、彼の指の腹と擦れ合った。
自分のために開けたはずの小さな金属が、今はフロイドの感覚と自分を繋ぐ、ひどく生々しい媒介になっている。
逃げ場のない口内という空間を、彼の指に隅々まで支配されていくような奇妙な熱が胸の奥からせり上がってきた。
「ん、……ふ、ろいど、先輩」
「なに? うまく喋れないの?」
意地悪く目を細めて彼はさらに指を深く滑らせてくる。
金属のシャフトがフロイドの爪の先に軽く触れて小さな音が鳴った。
身体の奥が跳ねるような感覚に襲われる。
見られている。
触れられている。
普段は誰にも触れさせない、自分だけの秘密の場所を、彼は一切の遠慮なく楽しんでいる。
「ん、っ……、離し、て」
「やだ。もっとよく見せてよ。オレ、これすげぇ気に入った」
フロイドの顔が、いよいよ吐息が交わるほどの距離まで迫る。
彼の双眸に宿る熱が、こちらの思考を白く塗り潰していくようだった。
嫌だと言いつつも身体が彼の体温に逆らえない。
じわじわと背中から指先までが痺れるような、濃密な甘さが体内に充満していく。
「小エビちゃんが自己満で開けたんだもんねぇ。じゃあ、オレがどうしたって文句言えないじゃん」
圧倒的理不尽。
けれど、その響きには抗いがたい甘美な響きが混ざっていた。
フロイドはゆっくりと指を抜くと、今度は代わりにするようにその吐息をこちらの唇のすぐ傍に寄せた。
「次はさ、指じゃなくてオレの舌で触っていい?」
返事なんて最初から待っていない。
そう確信させるように、フロイドの唇がこちらの沈黙を塞いだ。
息が詰まる。
触れただけのキスとは明らかに違う、深い熱が口内に滑り込んできた。
先ほどまで彼の指に支配されていた場所に、今度はもっと質量を持った生々しい体温が割り込んでくる。
「……んっ、」
反射的に逃げようとした身体は、彼の大きな手のひらによって、あっけなく縫い留められた。
逃げ場を失った口内で、フロイドの舌がこちらの舌を、そして中央の金属を容赦なく愛撫していく。
カチ、と歯に当たる音が今度は鼓膜ではなく脳の芯に直接響いた。
彼自身の鋭い歯や滑らかな舌の動きが、ピアスを弄ぶたびに切ないほどの振動となって突き抜ける。
「ふ、……んぅ」
強引なのに、どこかこちらの反応を細かく楽しむような、 執拗なまでの舌の動き。
彼の舌がピアスのシャフトをなぞり、キャッチの輪郭を確かめるように転がすたび、背筋がゾクゾクと痺れて立っていられなくなる。
どれだけ深い場所まで暴かれているのだろう。
自分の呼吸なのかフロイドの呼吸なのかも分からなくなり、視界の隅で夕暮れの赤い光がぐにゃりと歪んだ。
ようやく唇が離れたときには顎の力が抜け、まともな呼吸の仕方も忘れてしまっていた。
銀色のキャッチが引き結ぶこともできない唇の隙間で、じっとりと濡れた光を放っている。
フロイドはそれを至近距離から満足そうに見下ろしていた。
彼の唇が不敵な弧を描き、舌先が自身の唇をゆっくりとなぞる。
「……あは、すげぇ、ちょー気持ちいーんだけど」
「フロイド、せんぱ……っ、」
「小エビちゃん、これオレのために開けたわけじゃないのにさぁ。オレの舌の形、いっぱいついちゃったね?」
いたずらが成功した子供のようでありながら、その瞳の奥にある熱は少しも冷めていなかった。
彼は濡れた指先で今度は優しくこちらの頬を包み込む。
「ねぇ、明日もまたオレに触らせてよ。小エビちゃんの秘密の場所、オレがもっと、めちゃくちゃにしてあげる」
そう囁くフロイドの顔は、たまらなく綺麗で凶悪に歪んでいた。
