ハーツラビュル
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「ねえ、聞いてる?」
背後から伸びてきた腕が、容赦なく体を組み伏せるようにして引き寄せた。
「ちょっと、エース重い」
「重くない。オレの体重、全部乗せてるわけじゃないし」
エースは悪びれもせず、くすくすと笑いながら首筋に額を押しつけてくる。ふわりと流れる髪の毛先が肌を擽り、思わず身を縮めた。
「今日のエース、なんだか距離が近くない?」
「なんだか、じゃなくて、わざと近づいてんだけど。気づくの遅すぎ」
回り込んできた手が容赦なく腰のラインをなぞる。衣服の布越しだというのに、手のひらの熱が驚くほど鮮明に伝わってきて背筋が跳ねた。
「……ちょっと、エース」
「なに。拒否は受け付けないから」
耳元で囁かれる声は、いつもよりずっと低くて甘い。からかうような響きを残しつつも、有無を言わせない強引さが混ざっている。
「拒否っていうか、その、急にどうしたのかなって」
「どうもしない。ただ、お前が足りなかっただけ」
エースはそう言うと、今度は肩口に唇を寄せた。
制服の襟を少しだけ押し下げるようにして、露出した鎖骨の窪みに小さな音を立てて唇を落とす。
「っ……!」
声にならない悲鳴が喉の奥で跳ねる。思わずエースの胸元を押し返そうとしたが、その手はすぐさま大きな手のひらによって捕えられ、ソファのクッションへと縫い付けられた。
「大人しく捕まってて」
「…だって」
「オレ、今すげー機嫌悪いから。お前のせいで」
自由を奪われた手をさらに強く握り締めながら、エースが顔を覗き込んできた。いつになく熱を帯びた眼差しが、まっすぐにこちらの視線を射抜く。
「わたしのせいって、何もしてない」
「何もしてないのが駄目。オレ以外と楽しそうに話してるとこ、今日何回見たと思ってんの」
「子どもみたいなこと言わないでよ」
子どもじみた拗ね方のはずなのに、向けられる表情にも手首を掴む指の力にも、余裕のない大人の男の質感が混ざり始めている。エースはそのまま自由になったもう片方の手で顎を乱暴に、けれどどこか愛おしそうに上向かせた。
「ななし」
「ん……」
「目、逸らすなよ」
命令するような口調とは裏腹に、エースの唇が今度は目蓋の端に優しく触れる。そこから鼻筋をなぞり、頬を滑り、焦らすようにして唇のすぐ脇へと移動した。
「エース、ちょっと待って」
「待てるわけないじゃん。これだけ焦らされたんだから」
エースの指先が開いた唇の隙間に滑り込んでくる。前歯の裏側をそっとなぞるようにして濡れた指先が追う。
「ん……」
息が詰まるような感覚に、自然と視界が潤んでいく。エースはその様子を満足そうに、けれど酷く乾いた笑みを浮かべて見つめていた。指を引き抜くと同時に今度は自身の唇を容赦なく重ねてくる。
「んむ……、っ」
何度も角度を変えて貪るような、深いキスだった。お互いの吐息が混ざり合い、部屋の空気が一気に跳ね上がる。エースの舌が容赦なく口内の熱をかき混ぜ吸い上げていく。
「は、……ん、ぅ」
呼吸が苦しくなって胸を叩いても、エースはそれをさらに強く抱きすくめることで封じ込めた。密着した互いの身体を通して、ドクドクと速いテンポで打つ心臓の音が重なる。どちらのものか分からない拍動が、頭の芯を痺れさせていく。
「……ん、…は、っ」
ようやく唇が離れたとき、お互いの間に細い銀の糸が引いた。エースはそれを親指の腹で乱暴に拭うと、そのままその指を自分の唇で舐めとる。その一連の仕草があまりにも扇情的で、顔が爆発しそうに熱くなった。
「ななし、すげーいい顔してる」
「…うるさい……」
「もう止める気ねーから」
エースの大きな身体が完全に覆い被さってくる。その瞬間だった。
「ただいまなんだゾ〜! 購買の限定パン、無事に買えたんだゾ!」
「おいグリム、廊下を走るな。荷物が崩れるだろう」
玄関の扉が勢いよく開く音と、聞き慣れた二つの賑やかな声が容赦なく部屋の空気を現実へと引き戻した。
「――っ、あー! クソ、もう!」
エースは弾かれたように身体を引き離すと、頭を抱えてソファの隅へと転がった。
「……帰って、きちゃったね」
「笑えねーし! せっかくいいムードだったのに!」
顔を真っ赤に染めながら本気で悔しそうに髪を掻きむしるエースの姿がそこにはあった。
「……お前ら何やってんだ?」
荷物を抱えたデュースが、ソファの上の二人を見て怪訝そうに眉をひそめる。
グリムはすでに手に入れた限定パンの袋に夢中で、早く食べたくてうずうずしている様子だ。
「あー……。いや、なんでもねーよ。おかえり」
エースは一瞬だけ舌打ちをしたものの、すぐにいつもの飄々とした笑みを浮かべてソファから立ち上がった。
「オレ様のパンは絶対に分けてやらないんだゾ!」
「いらねーよ。デュース、買い出しお疲れ」
賑やかに話し始める三人を前に、ななしは少しだけ乱れた衣服を慌てて整えながら、冷や汗をかく思いでソファの端に座り直す。心臓はまだ先ほどまでの熱を帯びたまま、ドクドクと速い拍動を刻んでいた。
「ななし……って、顔赤くないか? 部屋、暑いか?」
デュースが不思議そうに顔を覗き込もうとする。
「いや! そんなことないよ、ちょっと課題に苦戦してただけで」
「そ、そうか? ならいいんだが」
生真面目なデュースが納得しかけたその時、背後から近づいてきたエースが、デュースたちの死角になる位置でななしの太ももを衣服の上からぐっと強く掴んだ。
「っ……!」
思わず小さな悲鳴が出そうになり口元を押さえる。
掌から伝わる驚くほど鮮明な熱がストレートに背筋へと駆け抜けた。
「なー、デュース。あっちのテーブルでパン食おうぜ。オレ、お茶淹れてやるからさ」
「エースが淹れてくれるのか? 珍しいな」
「たまにはいいじゃん。ほら、行こ行こ」
エースはデュースの背中を押し、グリムを誘導しながらテーブルへと向かう。その去り際、エースはななしだけに聞こえるような、低く掠れた声で耳元に囁いた。
「……あとでさっきの続き、たっぷり返してもらうからな」
向けられた視線はいつになく熱く、有無を言わせない色を秘めている。
じわじわと身体の芯が熱くなっていくのを覚えながら、ななしはただ小さく頷くことしかできなかった。
背後から伸びてきた腕が、容赦なく体を組み伏せるようにして引き寄せた。
「ちょっと、エース重い」
「重くない。オレの体重、全部乗せてるわけじゃないし」
エースは悪びれもせず、くすくすと笑いながら首筋に額を押しつけてくる。ふわりと流れる髪の毛先が肌を擽り、思わず身を縮めた。
「今日のエース、なんだか距離が近くない?」
「なんだか、じゃなくて、わざと近づいてんだけど。気づくの遅すぎ」
回り込んできた手が容赦なく腰のラインをなぞる。衣服の布越しだというのに、手のひらの熱が驚くほど鮮明に伝わってきて背筋が跳ねた。
「……ちょっと、エース」
「なに。拒否は受け付けないから」
耳元で囁かれる声は、いつもよりずっと低くて甘い。からかうような響きを残しつつも、有無を言わせない強引さが混ざっている。
「拒否っていうか、その、急にどうしたのかなって」
「どうもしない。ただ、お前が足りなかっただけ」
エースはそう言うと、今度は肩口に唇を寄せた。
制服の襟を少しだけ押し下げるようにして、露出した鎖骨の窪みに小さな音を立てて唇を落とす。
「っ……!」
声にならない悲鳴が喉の奥で跳ねる。思わずエースの胸元を押し返そうとしたが、その手はすぐさま大きな手のひらによって捕えられ、ソファのクッションへと縫い付けられた。
「大人しく捕まってて」
「…だって」
「オレ、今すげー機嫌悪いから。お前のせいで」
自由を奪われた手をさらに強く握り締めながら、エースが顔を覗き込んできた。いつになく熱を帯びた眼差しが、まっすぐにこちらの視線を射抜く。
「わたしのせいって、何もしてない」
「何もしてないのが駄目。オレ以外と楽しそうに話してるとこ、今日何回見たと思ってんの」
「子どもみたいなこと言わないでよ」
子どもじみた拗ね方のはずなのに、向けられる表情にも手首を掴む指の力にも、余裕のない大人の男の質感が混ざり始めている。エースはそのまま自由になったもう片方の手で顎を乱暴に、けれどどこか愛おしそうに上向かせた。
「ななし」
「ん……」
「目、逸らすなよ」
命令するような口調とは裏腹に、エースの唇が今度は目蓋の端に優しく触れる。そこから鼻筋をなぞり、頬を滑り、焦らすようにして唇のすぐ脇へと移動した。
「エース、ちょっと待って」
「待てるわけないじゃん。これだけ焦らされたんだから」
エースの指先が開いた唇の隙間に滑り込んでくる。前歯の裏側をそっとなぞるようにして濡れた指先が追う。
「ん……」
息が詰まるような感覚に、自然と視界が潤んでいく。エースはその様子を満足そうに、けれど酷く乾いた笑みを浮かべて見つめていた。指を引き抜くと同時に今度は自身の唇を容赦なく重ねてくる。
「んむ……、っ」
何度も角度を変えて貪るような、深いキスだった。お互いの吐息が混ざり合い、部屋の空気が一気に跳ね上がる。エースの舌が容赦なく口内の熱をかき混ぜ吸い上げていく。
「は、……ん、ぅ」
呼吸が苦しくなって胸を叩いても、エースはそれをさらに強く抱きすくめることで封じ込めた。密着した互いの身体を通して、ドクドクと速いテンポで打つ心臓の音が重なる。どちらのものか分からない拍動が、頭の芯を痺れさせていく。
「……ん、…は、っ」
ようやく唇が離れたとき、お互いの間に細い銀の糸が引いた。エースはそれを親指の腹で乱暴に拭うと、そのままその指を自分の唇で舐めとる。その一連の仕草があまりにも扇情的で、顔が爆発しそうに熱くなった。
「ななし、すげーいい顔してる」
「…うるさい……」
「もう止める気ねーから」
エースの大きな身体が完全に覆い被さってくる。その瞬間だった。
「ただいまなんだゾ〜! 購買の限定パン、無事に買えたんだゾ!」
「おいグリム、廊下を走るな。荷物が崩れるだろう」
玄関の扉が勢いよく開く音と、聞き慣れた二つの賑やかな声が容赦なく部屋の空気を現実へと引き戻した。
「――っ、あー! クソ、もう!」
エースは弾かれたように身体を引き離すと、頭を抱えてソファの隅へと転がった。
「……帰って、きちゃったね」
「笑えねーし! せっかくいいムードだったのに!」
顔を真っ赤に染めながら本気で悔しそうに髪を掻きむしるエースの姿がそこにはあった。
「……お前ら何やってんだ?」
荷物を抱えたデュースが、ソファの上の二人を見て怪訝そうに眉をひそめる。
グリムはすでに手に入れた限定パンの袋に夢中で、早く食べたくてうずうずしている様子だ。
「あー……。いや、なんでもねーよ。おかえり」
エースは一瞬だけ舌打ちをしたものの、すぐにいつもの飄々とした笑みを浮かべてソファから立ち上がった。
「オレ様のパンは絶対に分けてやらないんだゾ!」
「いらねーよ。デュース、買い出しお疲れ」
賑やかに話し始める三人を前に、ななしは少しだけ乱れた衣服を慌てて整えながら、冷や汗をかく思いでソファの端に座り直す。心臓はまだ先ほどまでの熱を帯びたまま、ドクドクと速い拍動を刻んでいた。
「ななし……って、顔赤くないか? 部屋、暑いか?」
デュースが不思議そうに顔を覗き込もうとする。
「いや! そんなことないよ、ちょっと課題に苦戦してただけで」
「そ、そうか? ならいいんだが」
生真面目なデュースが納得しかけたその時、背後から近づいてきたエースが、デュースたちの死角になる位置でななしの太ももを衣服の上からぐっと強く掴んだ。
「っ……!」
思わず小さな悲鳴が出そうになり口元を押さえる。
掌から伝わる驚くほど鮮明な熱がストレートに背筋へと駆け抜けた。
「なー、デュース。あっちのテーブルでパン食おうぜ。オレ、お茶淹れてやるからさ」
「エースが淹れてくれるのか? 珍しいな」
「たまにはいいじゃん。ほら、行こ行こ」
エースはデュースの背中を押し、グリムを誘導しながらテーブルへと向かう。その去り際、エースはななしだけに聞こえるような、低く掠れた声で耳元に囁いた。
「……あとでさっきの続き、たっぷり返してもらうからな」
向けられた視線はいつになく熱く、有無を言わせない色を秘めている。
じわじわと身体の芯が熱くなっていくのを覚えながら、ななしはただ小さく頷くことしかできなかった。
