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夕暮れ時のキッチンからパチパチと小気味いい油の音が響く。
皿に盛り付けられたのは、揚げたてのきつね色をした唐揚げと、くし切りのレモン。
「どうぞ、アズール先輩。冷めないうちに食べてください」
「おや、僕のためにわざわざ揚げ物を? ありがとうございます、ななしさん」
アズールは嬉しそうに椅子を引く。
しかし箸を手にしたまま、皿の上の唐揚げをじっと見つめて動きを止めた。
「……アズール先輩? どうかしましたか」
「いえ。非常に美味しそうなのですが……この衣の厚み、そしてジューシーな肉汁。およそ一個あたりのカロリーを計算すると、今日の摂取カロリーを超えてしまうな、と」
「あ、やっぱりカロリー気になりますか」
「当然です。過去の……いえ、とにかく油断は禁物ですから」
アズールは眼鏡の位置を少し神経質そうに直す。
その様子を見て、皿の横にそっとレモンを差し出した。
「じゃあ、レモンをたくさん絞りましょう。さっぱりしますし、少しは気持ちも軽くなりませんか」
「レモンのクエン酸は代謝を助けますし、何より唐揚げにレモンは最高の組み合わせです。ですが、それで脂質が消えてなくなるわけでは…」
「今日くらいは、計算を忘れて食べちゃいましょう。アズール先輩、いつも頑張りすぎです」
「僕に怠惰を勧めるのですか? 僕は努力を怠る人間が一番嫌いなのですが」
「違います。ただ、ここでこうして普通のご飯を食べている時くらいは、肩の力を抜いてほしいなって思っただけです」
アズールは箸を持ったまま、一瞬だけ目を見開く。
それから観念したように小さくため息をついた。
「……ななしさんは、たまに突拍子もないことを言いますね」
「そうですか?」
「ええ。僕の計算や予測を、いつも簡単に外してくださる。完璧な管理こそが正義だと思っていましたが……あなたを前にすると、その自信が揺らぎます」
アズールはレモンをきゅっと絞り、唐揚げを一つ口に運んだ。
サクッとした小気味いい音が響く。
「……サクサクとした衣の中に、しっかりと旨味が閉じ込められています。レモンの酸味も完璧だ」
「よかったです。美味しいものを食べてる時くらい、難しいことは抜きにしましょう」
「これほどのクオリティのものを出されては、モストロ・ラウンジの経営者としても、うかうかしていられませんね。……仕方ありません、明日の摂取カロリーで調整するとしましょう」
「あはは、そこはきっちりしてるんですね」
「ええ、妥協はしませんよ。ですが、あなたと過ごすこの時間は、僕の過密なスケジュールやルールの枠外です。たまには、こういう例外があっても悪くありませんね」
アズールは少しだけ困ったような、でもどこか安心したような笑みを浮かべる。
いつもより少しだけくだけたその口調が、部屋の温かい静けさに溶けていった。
皿に盛り付けられたのは、揚げたてのきつね色をした唐揚げと、くし切りのレモン。
「どうぞ、アズール先輩。冷めないうちに食べてください」
「おや、僕のためにわざわざ揚げ物を? ありがとうございます、ななしさん」
アズールは嬉しそうに椅子を引く。
しかし箸を手にしたまま、皿の上の唐揚げをじっと見つめて動きを止めた。
「……アズール先輩? どうかしましたか」
「いえ。非常に美味しそうなのですが……この衣の厚み、そしてジューシーな肉汁。およそ一個あたりのカロリーを計算すると、今日の摂取カロリーを超えてしまうな、と」
「あ、やっぱりカロリー気になりますか」
「当然です。過去の……いえ、とにかく油断は禁物ですから」
アズールは眼鏡の位置を少し神経質そうに直す。
その様子を見て、皿の横にそっとレモンを差し出した。
「じゃあ、レモンをたくさん絞りましょう。さっぱりしますし、少しは気持ちも軽くなりませんか」
「レモンのクエン酸は代謝を助けますし、何より唐揚げにレモンは最高の組み合わせです。ですが、それで脂質が消えてなくなるわけでは…」
「今日くらいは、計算を忘れて食べちゃいましょう。アズール先輩、いつも頑張りすぎです」
「僕に怠惰を勧めるのですか? 僕は努力を怠る人間が一番嫌いなのですが」
「違います。ただ、ここでこうして普通のご飯を食べている時くらいは、肩の力を抜いてほしいなって思っただけです」
アズールは箸を持ったまま、一瞬だけ目を見開く。
それから観念したように小さくため息をついた。
「……ななしさんは、たまに突拍子もないことを言いますね」
「そうですか?」
「ええ。僕の計算や予測を、いつも簡単に外してくださる。完璧な管理こそが正義だと思っていましたが……あなたを前にすると、その自信が揺らぎます」
アズールはレモンをきゅっと絞り、唐揚げを一つ口に運んだ。
サクッとした小気味いい音が響く。
「……サクサクとした衣の中に、しっかりと旨味が閉じ込められています。レモンの酸味も完璧だ」
「よかったです。美味しいものを食べてる時くらい、難しいことは抜きにしましょう」
「これほどのクオリティのものを出されては、モストロ・ラウンジの経営者としても、うかうかしていられませんね。……仕方ありません、明日の摂取カロリーで調整するとしましょう」
「あはは、そこはきっちりしてるんですね」
「ええ、妥協はしませんよ。ですが、あなたと過ごすこの時間は、僕の過密なスケジュールやルールの枠外です。たまには、こういう例外があっても悪くありませんね」
アズールは少しだけ困ったような、でもどこか安心したような笑みを浮かべる。
いつもより少しだけくだけたその口調が、部屋の温かい静けさに溶けていった。
