オクタビネル
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ、また。やめてって言ってるのに」
「えー? なんでぇ。小エビちゃん頭ちっちゃくて触り心地いいから好きなんだよねぇ」
すれ違いざま、当然のように長い腕が降ってくる。大きな掌が頭頂部に乗せられ、遠慮なく左右に揺さぶられた。せっかく綺麗に整えていた髪が、一瞬で台無しになる。
「せっかくセットしたのに。直すの大変なんです」
「いーじゃん、少しくらい。オレがもっと可愛くしてあげよっか?」
「フロイド先輩がやると余計にぐしゃぐしゃになります。ほら、もう離してください」
不満を込めて見上げると、はるか高い位置にある顔が楽しげに歪んだ。捉えどころのない笑みを浮かべたまま、フロイドはさらに力を込めて髪をかき回す。
「やだ。小エビちゃんが困った顔すんの、すっごい面白いもん」
「面白がらないでください。本当に困ってるんですから」
「あはは、怒った。ねぇ、もっと怒ってよ」
大きな身体がわずかに傾き影が二人を覆う。
独特のゆったりとしたテンポの口調とは裏腹に、頭に置かれた手のひらからは確かな質量と熱が伝わってきた。そのまま強引にひと撫でされ、ようやく自由になる。結局、乱れた髪を指先で直しながら、次の教室へと向かう羽目になった。
しかし彼の気まぐれは一度では終わらない。
その日の昼休み、食堂へ移動しようと人混みを歩いていると背後から不意に声をかけられた。
「小エビちゃん、みーっけ。ねぇねぇ、何してんの?」
「フロイド先輩。次の授業の移動です。だから、今は本当に時間がなくて」
「ふーん。じゃあ、急がなきゃねぇ」
そう言いながら、フロイドは逃げる隙を与えるよりも早く長い指先を髪の隙間に滑り込ませてきた。頭皮に直接触れるか触れないかの絶妙な力加減で髪の毛が弄ばれる。
「っ、だから、やめてください。髪型が崩れるのが嫌だって、いつも言ってるじゃないですか」
「知ってる。でもオレ、やりたいと思ったことは我慢しないタチなんだよねぇ」
「知ってます。でも、少しは私の話も聞いてください」
「聞いてるよ〜? 小エビちゃんの声、よく響くから好き」
ずるい返し方に言葉が詰まる。
フロイドの指先が耳の裏をかすめ、髪をすくい上げるようにして優しく握り込まれた。ただの悪戯のはずなのに、その指の動きはどこか丁寧で拒絶するタイミングを失ってしまう。
「……本当に、自由なんですから」
「小エビちゃんも、もっと自由にすればいーのに。オレにされるがまま、とかさぁ」
低い笑い声が頭上から降ってくる。
フロイドの言葉はいつも気まぐれで、本心がどこにあるのか掴めない。それでも髪を撫でる手のひらの温かさだけは、不思議と嘘のようには思えなかった。
「されるがままになったら、私の髪が毎日大変なことになります」
「そしたらオレが毎日直してあげる。ね、それならいーでしょ?」
「絶対に余計に酷いことになります。保証します」
「あはは! 小エビちゃん、オレのこと信じてないねぇ。おもしろ」
満足したように手を離したフロイドは、最後にぽんと軽く頭を叩いた。乱れた髪の隙間を冷たい廊下の風が通り抜けていく。ほんの一瞬だけ残った彼特有の微かな気配が鼻腔をかすめては消えた。
そんな落ち着かない一日の終わり、放課後のことだった。
用事を済ませて静まり返った校舎裏を通りかかると、生い茂る木々の隙間、中庭のベンチに長い影が横たわっている。目が合うと、彼はゆっくりと上体を起こした。
「ねぇ、小エビちゃん。今日なんかいつもと違う」
「え? 何がですか」
彼はじっとこちらの頭元を見つめ、それからわざとらしく目を細める。
「なんか、髪の毛ぴしっとしてる。気合入ってんねぇ」
「別に気合を入れたわけじゃないです。ちょっと、いつもと違うピンを使ってみただけで」
「ふーん。それ、オレが触ったら崩れちゃう?」
「崩れます。だから今日は絶対に触らないでくださいね。約束です」
念を押すようにして一歩下がると、フロイドはつまらなそうに唇を尖らせた。だが、その目は全く諦めていない。長い脚が音もなく距離を詰めてくる。
「約束なんてしたっけ。オレ、忘れてちゃった」
「忘れないでください。今言ったばかりです」
「小エビちゃんがオレの嫌がること言うから、右の耳から左の耳に抜けちゃったぁ」
「そんな都合のいい耳、ありますか」
呆れてため息をついた瞬間、二人の視線が交差する。フロイドが身体を屈め顔を信じられないほど近くに寄せてきたのだ。
「……え」
「捕まえた。小エビちゃん、油断しすぎ」
すぐ目の前にある双眸が悪戯っぽく、けれどどこか底知れない光を湛えて見つめてくる。至近距離で交わされる視線に心臓が跳ねた。彼の大きな手がゆっくりと、しかし確実に頭部へと伸びてくる。
「フロイド先輩、待っ……」
「待たない。だって、これ外したらどうなるか見たいもん」
長い指が新しくつけていたヘアピンの留め具に触れる。
カチリと小さな音が鳴り、固定されていた髪がハラリと肩に落ちた。その瞬間を待っていたかのように、フロイドの手のひらが、いつもよりずっと優しく包み込むようにして頭頂部に置かれた。
「あーあ、やっぱりこっちの方がいい。ふわふわしてて、小エビちゃんっぽい」
「……もう、本当に最低です」
「最低って言われても気にしなーい。オレ、今すっごい気分いいし」
髪をゆっくりと梳きおろしていく指先が耳朶に触れる。その冷たいはずの指先が、なぜか酷く熱く感じられた。髪型が崩れることへの怒りよりも、頭上から向けられる視線の温度に呼吸が少しだけ浅くなる。
「小エビちゃん、顔赤。そんなに怒んなくてもいーじゃん」
「怒ってます。怒ってるに決まってます」
「嘘だ。怒ってる時の小エビちゃん、もっとトゲトゲしてるもん。今はなんか、ふにゃふにゃ」
図星を突かれ言葉を返すことができない。
フロイドの手は頭を撫でるのをやめず、むしろ愛おしそうに何度も何度も髪の毛を指先で巻き取っている。その仕草一つ一つに今まで感じたことのない、妙な甘さが混ざり始め体温が上がる。
「……いつまで、そうしているんですか」
「えー、別にいーじゃん。小エビちゃん、やわらかくて気持ちいいし」
夕日が長く影を落とすベンチの傍らで、フロイドの手は未だにななしの頭から離れようとしない。それどころか、指先が髪を梳きおろす速度はどんどん遅くなり、じっとりとした重みを伴って頭皮から首筋へと滑り落ちていく。
「あの、もう髪型も十分に崩れましたし、満足したんじゃないですか?」
「満足なんてしてないよ〜。小エビちゃん、今日はなんか……いつもと違う匂いする」
「匂い……? そんなはずは。シャンプーを変えたわけでもないですし」
「ちがう、そういうのじゃなくて。なんつーか、もっと甘い感じ。オレ、これすっごい好きかも」
大きな身体がさらに距離を詰めてくる。
フロイドの胸元がすぐ目の前に迫り、彼の衣服が擦れる微かな音が耳元で大きく響いた。彼の体温が衣服越しに伝わってくるようで、じわじわと背中が熱くなっていく。
「先輩、近い…」
「近くなきゃ分かんないじゃん、こういうの。ねぇ、心臓すっごい速く動いてるねぇ」
「それは、驚いたからです」
「ふーん。驚いただけで、そんなに赤くなるんだぁ。へぇ」
からかうような言葉とは裏腹に、その双眸は全く笑っていなかった。ただ、じっとこちらの反応を観察するように、奥底に冷徹な光を孕んで見つめてくる。その視線に射すくめられると、まるで水中に深く沈んでいくような奇妙な浮遊感に襲われた。
「……からかわないでください。もう帰ります」
「だーめ。まだ帰さない。オレ、まだ小エビちゃんと遊びたい」
逃げようと一歩踏み出した肩を大きな手が確実にとらえた。掴むというよりは上から優しく抑え込むような動き。けれど、そこから逃れることは絶対にできないと思わせるだけの圧倒的な質量があった。
「フロイド先輩」
「なぁに」
「……っ」
首筋に触れていた彼の指先が不意に耳の裏へと滑り込む。薄い皮膚を指の腹でなぞられると、背筋にゾクりとした感覚が走り思わず肩が跳ねた。その反応を見たフロイドの唇が満足そうに弧を描く。
「アハハ!やっぱりここ弱いんだ。おもしろ」
「触ら、ないで……」
「やだ。オレ、今小エビちゃんに触りたい気分なんだもん」
彼の言葉はいつも通り我が儘なのに、耳元で囁かれるその声の低さに頭の芯が痺れるように熱くなる。頭を撫でられるいつもの悪戯のはずなのに、今はもう全く別の何かをされているような、息苦しさが胸の奥からせり上がってくる。
「小エビちゃん、息しないと苦しくなっちゃうよ〜?」
「……っ、ふ、……」
促されるようにして小さく息を吐き出すと、自分の吐息がフロイドの胸元に当たって跳ね返り息が詰まる。視界の端で、フロイドの喉仏が大きく上下に動く。
「ねぇ、小エビちゃん。オレのこと、もっと困らせてよ」
「意味が、わかりません……。困っているのは、私の方です」
「わかんなくていーよ。オレもよくわかんない。ただ、なんか……胸のあたりが、ずーっとモヤモヤすんの。これ、何なんだろねぇ」
フロイドの長い指が今度はななしの頬に触れた。
彼の指先は海の底の冷たさを思い出させるようにひんやりとしているのに、触れられた場所からは焼けるような熱が広がっていく。その相反する感覚の混濁に思考が急速に白く染まっていく。
「……フロイド先輩、あの」
「オレね、小エビちゃんがオレのせいでどうにかなりそうな顔すんの、たぶん世界で一番好き」
彼の大きな影が完全にななしの視界を奪った。
夕日の赤い光さえ届かないその影の中で、フロイドの瞳が獲物を狙うそれへと形を変えていくのをななしはただ見つめることしかできなかった。
「えー? なんでぇ。小エビちゃん頭ちっちゃくて触り心地いいから好きなんだよねぇ」
すれ違いざま、当然のように長い腕が降ってくる。大きな掌が頭頂部に乗せられ、遠慮なく左右に揺さぶられた。せっかく綺麗に整えていた髪が、一瞬で台無しになる。
「せっかくセットしたのに。直すの大変なんです」
「いーじゃん、少しくらい。オレがもっと可愛くしてあげよっか?」
「フロイド先輩がやると余計にぐしゃぐしゃになります。ほら、もう離してください」
不満を込めて見上げると、はるか高い位置にある顔が楽しげに歪んだ。捉えどころのない笑みを浮かべたまま、フロイドはさらに力を込めて髪をかき回す。
「やだ。小エビちゃんが困った顔すんの、すっごい面白いもん」
「面白がらないでください。本当に困ってるんですから」
「あはは、怒った。ねぇ、もっと怒ってよ」
大きな身体がわずかに傾き影が二人を覆う。
独特のゆったりとしたテンポの口調とは裏腹に、頭に置かれた手のひらからは確かな質量と熱が伝わってきた。そのまま強引にひと撫でされ、ようやく自由になる。結局、乱れた髪を指先で直しながら、次の教室へと向かう羽目になった。
しかし彼の気まぐれは一度では終わらない。
その日の昼休み、食堂へ移動しようと人混みを歩いていると背後から不意に声をかけられた。
「小エビちゃん、みーっけ。ねぇねぇ、何してんの?」
「フロイド先輩。次の授業の移動です。だから、今は本当に時間がなくて」
「ふーん。じゃあ、急がなきゃねぇ」
そう言いながら、フロイドは逃げる隙を与えるよりも早く長い指先を髪の隙間に滑り込ませてきた。頭皮に直接触れるか触れないかの絶妙な力加減で髪の毛が弄ばれる。
「っ、だから、やめてください。髪型が崩れるのが嫌だって、いつも言ってるじゃないですか」
「知ってる。でもオレ、やりたいと思ったことは我慢しないタチなんだよねぇ」
「知ってます。でも、少しは私の話も聞いてください」
「聞いてるよ〜? 小エビちゃんの声、よく響くから好き」
ずるい返し方に言葉が詰まる。
フロイドの指先が耳の裏をかすめ、髪をすくい上げるようにして優しく握り込まれた。ただの悪戯のはずなのに、その指の動きはどこか丁寧で拒絶するタイミングを失ってしまう。
「……本当に、自由なんですから」
「小エビちゃんも、もっと自由にすればいーのに。オレにされるがまま、とかさぁ」
低い笑い声が頭上から降ってくる。
フロイドの言葉はいつも気まぐれで、本心がどこにあるのか掴めない。それでも髪を撫でる手のひらの温かさだけは、不思議と嘘のようには思えなかった。
「されるがままになったら、私の髪が毎日大変なことになります」
「そしたらオレが毎日直してあげる。ね、それならいーでしょ?」
「絶対に余計に酷いことになります。保証します」
「あはは! 小エビちゃん、オレのこと信じてないねぇ。おもしろ」
満足したように手を離したフロイドは、最後にぽんと軽く頭を叩いた。乱れた髪の隙間を冷たい廊下の風が通り抜けていく。ほんの一瞬だけ残った彼特有の微かな気配が鼻腔をかすめては消えた。
そんな落ち着かない一日の終わり、放課後のことだった。
用事を済ませて静まり返った校舎裏を通りかかると、生い茂る木々の隙間、中庭のベンチに長い影が横たわっている。目が合うと、彼はゆっくりと上体を起こした。
「ねぇ、小エビちゃん。今日なんかいつもと違う」
「え? 何がですか」
彼はじっとこちらの頭元を見つめ、それからわざとらしく目を細める。
「なんか、髪の毛ぴしっとしてる。気合入ってんねぇ」
「別に気合を入れたわけじゃないです。ちょっと、いつもと違うピンを使ってみただけで」
「ふーん。それ、オレが触ったら崩れちゃう?」
「崩れます。だから今日は絶対に触らないでくださいね。約束です」
念を押すようにして一歩下がると、フロイドはつまらなそうに唇を尖らせた。だが、その目は全く諦めていない。長い脚が音もなく距離を詰めてくる。
「約束なんてしたっけ。オレ、忘れてちゃった」
「忘れないでください。今言ったばかりです」
「小エビちゃんがオレの嫌がること言うから、右の耳から左の耳に抜けちゃったぁ」
「そんな都合のいい耳、ありますか」
呆れてため息をついた瞬間、二人の視線が交差する。フロイドが身体を屈め顔を信じられないほど近くに寄せてきたのだ。
「……え」
「捕まえた。小エビちゃん、油断しすぎ」
すぐ目の前にある双眸が悪戯っぽく、けれどどこか底知れない光を湛えて見つめてくる。至近距離で交わされる視線に心臓が跳ねた。彼の大きな手がゆっくりと、しかし確実に頭部へと伸びてくる。
「フロイド先輩、待っ……」
「待たない。だって、これ外したらどうなるか見たいもん」
長い指が新しくつけていたヘアピンの留め具に触れる。
カチリと小さな音が鳴り、固定されていた髪がハラリと肩に落ちた。その瞬間を待っていたかのように、フロイドの手のひらが、いつもよりずっと優しく包み込むようにして頭頂部に置かれた。
「あーあ、やっぱりこっちの方がいい。ふわふわしてて、小エビちゃんっぽい」
「……もう、本当に最低です」
「最低って言われても気にしなーい。オレ、今すっごい気分いいし」
髪をゆっくりと梳きおろしていく指先が耳朶に触れる。その冷たいはずの指先が、なぜか酷く熱く感じられた。髪型が崩れることへの怒りよりも、頭上から向けられる視線の温度に呼吸が少しだけ浅くなる。
「小エビちゃん、顔赤。そんなに怒んなくてもいーじゃん」
「怒ってます。怒ってるに決まってます」
「嘘だ。怒ってる時の小エビちゃん、もっとトゲトゲしてるもん。今はなんか、ふにゃふにゃ」
図星を突かれ言葉を返すことができない。
フロイドの手は頭を撫でるのをやめず、むしろ愛おしそうに何度も何度も髪の毛を指先で巻き取っている。その仕草一つ一つに今まで感じたことのない、妙な甘さが混ざり始め体温が上がる。
「……いつまで、そうしているんですか」
「えー、別にいーじゃん。小エビちゃん、やわらかくて気持ちいいし」
夕日が長く影を落とすベンチの傍らで、フロイドの手は未だにななしの頭から離れようとしない。それどころか、指先が髪を梳きおろす速度はどんどん遅くなり、じっとりとした重みを伴って頭皮から首筋へと滑り落ちていく。
「あの、もう髪型も十分に崩れましたし、満足したんじゃないですか?」
「満足なんてしてないよ〜。小エビちゃん、今日はなんか……いつもと違う匂いする」
「匂い……? そんなはずは。シャンプーを変えたわけでもないですし」
「ちがう、そういうのじゃなくて。なんつーか、もっと甘い感じ。オレ、これすっごい好きかも」
大きな身体がさらに距離を詰めてくる。
フロイドの胸元がすぐ目の前に迫り、彼の衣服が擦れる微かな音が耳元で大きく響いた。彼の体温が衣服越しに伝わってくるようで、じわじわと背中が熱くなっていく。
「先輩、近い…」
「近くなきゃ分かんないじゃん、こういうの。ねぇ、心臓すっごい速く動いてるねぇ」
「それは、驚いたからです」
「ふーん。驚いただけで、そんなに赤くなるんだぁ。へぇ」
からかうような言葉とは裏腹に、その双眸は全く笑っていなかった。ただ、じっとこちらの反応を観察するように、奥底に冷徹な光を孕んで見つめてくる。その視線に射すくめられると、まるで水中に深く沈んでいくような奇妙な浮遊感に襲われた。
「……からかわないでください。もう帰ります」
「だーめ。まだ帰さない。オレ、まだ小エビちゃんと遊びたい」
逃げようと一歩踏み出した肩を大きな手が確実にとらえた。掴むというよりは上から優しく抑え込むような動き。けれど、そこから逃れることは絶対にできないと思わせるだけの圧倒的な質量があった。
「フロイド先輩」
「なぁに」
「……っ」
首筋に触れていた彼の指先が不意に耳の裏へと滑り込む。薄い皮膚を指の腹でなぞられると、背筋にゾクりとした感覚が走り思わず肩が跳ねた。その反応を見たフロイドの唇が満足そうに弧を描く。
「アハハ!やっぱりここ弱いんだ。おもしろ」
「触ら、ないで……」
「やだ。オレ、今小エビちゃんに触りたい気分なんだもん」
彼の言葉はいつも通り我が儘なのに、耳元で囁かれるその声の低さに頭の芯が痺れるように熱くなる。頭を撫でられるいつもの悪戯のはずなのに、今はもう全く別の何かをされているような、息苦しさが胸の奥からせり上がってくる。
「小エビちゃん、息しないと苦しくなっちゃうよ〜?」
「……っ、ふ、……」
促されるようにして小さく息を吐き出すと、自分の吐息がフロイドの胸元に当たって跳ね返り息が詰まる。視界の端で、フロイドの喉仏が大きく上下に動く。
「ねぇ、小エビちゃん。オレのこと、もっと困らせてよ」
「意味が、わかりません……。困っているのは、私の方です」
「わかんなくていーよ。オレもよくわかんない。ただ、なんか……胸のあたりが、ずーっとモヤモヤすんの。これ、何なんだろねぇ」
フロイドの長い指が今度はななしの頬に触れた。
彼の指先は海の底の冷たさを思い出させるようにひんやりとしているのに、触れられた場所からは焼けるような熱が広がっていく。その相反する感覚の混濁に思考が急速に白く染まっていく。
「……フロイド先輩、あの」
「オレね、小エビちゃんがオレのせいでどうにかなりそうな顔すんの、たぶん世界で一番好き」
彼の大きな影が完全にななしの視界を奪った。
夕日の赤い光さえ届かないその影の中で、フロイドの瞳が獲物を狙うそれへと形を変えていくのをななしはただ見つめることしかできなかった。
