イグニハイド
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「あ、ななしさん。こっちこっち」
青い髪を揺らしてオルトが手を振る。その少し後ろ、影に隠れるようにして長い背中を丸めているのがイデアだった。
「ひっ!? あ、いや、どうも……。わざわざこんな辺境の地にまで呼び出してしまって、大変申し訳なさみがあるというか何というか……」
イデアは消え入るような声で早口に呟く。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ、兄さん。ななしさんは僕たちの友達なんだから」
「友達とかそういう高レベルなステータス、拙者にはまだ早すぎる件について」
「イデア先輩、そんなに怯えなくても何も取って食ったりしませんよ」
ななしが苦笑しながら一歩近づくと、イデアはさらに一歩、ずるずると後ろに下がった。
「ななし氏から陽キャの波動を感じる……。いや、ななし氏はそっち側じゃないって信じてるけど、でも物理的距離が近くなると拙者のHPがマッハで削れる仕様だから!」
「兄さん、ななしさんが困ってるよ。ほら、今日はこれを渡しに来たんだよね?」
オルトがイデアの服の裾を引っぱる。イデアは視線を泳がせながら、手元にあった小さな箱を、まるで危険物でも扱うかのように両手で差し出してきた。
「これ。……頼まれてた、デバイスの予備バッテリー。魔力変換効率を限界までチューニングしておいたから。これでもう、急な魔力切れで通信が途絶えるなんていう、前時代的な悲劇は起きないはず」
「ありがとうございます。すごく助かります」
ななしが受け取ろうと手を伸ばした瞬間、イデアの指先がかすかに跳ねた。触れてもいないのに、彼は大袈裟に息を呑んで手を引っ込める。
「あっ、拙者のような陰の者が触れたら、なんかこう、呪い的なデバフがかかる可能性が微粒子レベルで存在している」
「大袈裟ですよ。先輩の調整してくれたものなら、むしろバフがかかりそうです」
「――ッ」
イデアの顔が一瞬で赤くなる。
彼はフードをさらに深く被り、完全に顔を隠してしまった。
「ほらね、兄さん。ななしさんはちゃんと喜んでくれてる。僕が言った通りでしょ?」
オルトが嬉しそうに胸を張る。
「というかななし氏、そういうセリフをナチュラルに吐くのは、全方位型の人たらしスキル持ちと言わざるを得ない。拙者の心臓に悪いので、今後は自重を要求したい」
「ただ本音を言っただけなんですけど」
「それが一番タチ悪いって、まだ気づいてないの……?」
イデアは恨めしそうな声を出す。しかしフードの隙間から見えるその視線は、決して嫌がっているようには見えなかった。
「あ、そうだ。ななしさん、これから兄さんの部屋で新しく買ったゲームをやる予定なんだけど、一緒にどう?」
オルトが目を輝かせて提案する。
「え、私が混ざっても大丈夫なんですか?」
「もちろん。兄さんだって、いつもオンラインの野良マルチばかりだから、たまには身内でワイワイやるのも新鮮で楽しいはずだよ」
「ちょっ、オルト!? 何をご新規のライトユーザー様をいきなり引き込もうとしてるわけ!? 拙者のクソザココミュ力が持たないでしょ!」
イデアが慌てて割って入る。
しかし、その声には明確な拒絶の色はなかった。
「そのゲーム、気になっていたんです。お邪魔じゃなければ、ぜひ」
ななしがそう言うと、イデアは完全に硬直した。
長い指が自身の服の袖をぎゅっと掴む。
「……ま、まぁ、どうしてもって言うなら、マルチの頭数合わせとして参加させてあげなくもない、というか……」
視線を泳がせながらも、イデアの口元がわずかに緩む。
「やったね。じゃあ、決まり。案内するよ、ななしさん」
オルトが楽しそうに歩き出す。イデアの部屋に移動し、液晶画面の前に並んで座ると、自然と三人だけの狭い空間が出来上がった。
「はい、これななしさんのコントローラー。兄さん、始めていい?」
「う、うぃす……」
ゲームが始まるとテンポの良いBGMとともに画面が目まぐるしく動き出す。操作に慣れないななしのキャラクターは、開始早々に敵の群れに囲まれてしまった。
「あ、危ない! ななしさん、右から避けて!」
「ひっ!? ちょっと、ななし氏そっちはトラップの判定エリア! 待って、今拙者が助けてあげるから!」
イデアの指先が驚異的な速度でコントローラーのボタンを叩く。画面の中の彼のキャラクターが鮮やかなモーションでななしの危機を救った。
「すごい、助かりました。ありがとうございます、先輩」
「ふ、ふん、これくらい拙者にかかれば準備運動みたいなものだし……?」
「あ、また敵が来たよ。今度は僕がカバーするね」
オルトが冷静にサポートに入り、三人の連携は思いのほか噛み合い始めた。熱中するにつれてゲームの音に混ざって、お互いの呼吸の音が近くで聞こえるようになる。
「ななし氏、次、そこ左! ボスが広範囲スキルチャージしてるから、拙者の後ろに隠れて!」
「わかりました! ……あ」
焦ったななしの手が滑り、コントローラーを握る位置がずれる。それを直そうとした瞬間、すぐ隣にいたイデアの指先にななしの手が思いきり触れた。
「――っ!?」
イデアの身体が目に見えて跳ねる。
イデアの手がカタカタと震え、画面の中のキャラクターが不自然な動きを見せた。
「あ、ごめんなさい、当たっちゃいました」
「いや、あの、その、拙者の不可侵領域に、突如として不可抗力による物理干渉が……! あ、熱っ、いや、熱くはない、けど……」
イデアは完全にパニックになり、顔を真っ赤にしてコントローラーを握りしめている。その指先からは普段の彼からは想像もつかないような、生きている人間の生々しい体温が伝わってくるようだった。
「兄さん、手が止まってるよ! このままだと全滅しちゃう!」
「わ、わかってる!」
イデアは叫びながらも決してななしから離れようとはしなかった。
すぐ隣から漂う、どこか落ち着く、でも確実に輪郭を持った独特の気配。電子音の鳴り響く部屋の中で、互いの心臓の鼓動だけがじわじわと同期していくように高く脈打っていた。
「……あ。全滅、しちゃったね」
画面に大きく表示された『GAME OVER』の文字を、オルトが少し残念そうに見つめる。
「……拙者が完全にプレイミスしたでござる。拙者がまさか、こんな序盤のザコ戦でリトライを余儀なくされるとは、まさに一生の不覚……」
イデアはコントローラーを床に置くと、両手で顔を覆って深くため息をついた。その指の隙間から覗く肌は、まだ赤みが引いていない。
「私の操作が遅かったせいです。足を引っ張っちゃってすみません」
「いや、ななしさんのせいじゃないよ。兄さんが急に挙動不審になったのが原因だしね」
「オルト!? 身内の手厳しい発言、拙者のガラスのハートに致命傷が入るからやめて!?」
イデアが声を荒らげるが、その視線は泳いだまま決してななしと合わせようとはしない。
部屋の明かりを落とし液晶の光だけが三人を取り囲む空間。電子音が静まり返ったことで、かえって室内の密度の高さが際立つ。すぐ隣に座るイデアの衣服が擦れる微かな音や、少し速い呼吸がダイレクトに鼓動に響いてくる。
「……あの、ななしさん」
オルトが、すっとななしの顔を覗き込んできた。
「大丈夫? なんだかさっきから、ななしさんの体温と心拍数が少し上昇してるみたい。部屋の空調もっと下げた方がいいかな」
「えっ? あ、いや……そのままで大丈夫です」
急に核心を突かれななしの胸がどきりと跳ねる。
「ちょっと、オルト! バイタルデータをナチュラルに開示するのは、健全な男子高校生の精神に多大な負荷をかけるからNGですぞ!」
イデアが慌てて割って入る。しかし、そう言うイデア自身の髪も、先ほどからずっと毛先がほのかに赤く染まっている。
「僕はただ、ななしさんの事を心配しただけだよ。兄さんだって、さっきからずっと心音が速いじゃない。……ほら、また上がってる」
「それはっ……二次元以外の人間とこんな至近距離でエンカウントしたら、誰だってバグる仕様なんだよ!」
イデアは必死に弁明しながらも、ほんの数センチだけななしの方へ引き寄せられるように体勢を傾けた。
お互いの肩が触れ合いそうな距離。言葉とは裏腹に彼から放たれる圧倒的な存在感と肌を焦がしそうなほどの内側からの熱が、逃げ場のない室内でななしを包み込んでいく。
「……ななし氏」
フードの奥からイデアの声が低く掠れたように響いた。
「なん、ですか……?」
「……いや。その、僕みたいな陰の者が近くにいて、その、不快、じゃない、なら……」
言いかけた言葉をイデアは自ら飲み込むようにして唇を噛む。
彼の長い指先が床の上で迷うように動いた後、ななしの手のひらのすぐ隣にピタリと止まった。あと一ミリでも動かせば、指先同士が重なってしまう位置。
イデアの身体から伝わる、熱く甘やかに揺れる独特の気配。それがななしの五感を完全に支配し、視界の端の液晶画面すら今はもう酷く遠い世界の出来事のように思えた。
「もう一回、やる?」
オルトが二人の間に流れる濃密な空気を察してか、それともあえて無視してか、いたずらっぽく笑いながらコントローラーを差し出す。
「……次こそは本気モードで、ななし氏を完全キャリーしてあげる所存……」
消え入りそうな声で呟きながらも、イデアは隣のななしから視線を外さない。
その瞳の奥に灯る確かな熱量に、ななしの心臓はさらに深く強く脈打ち続けていた。
青い髪を揺らしてオルトが手を振る。その少し後ろ、影に隠れるようにして長い背中を丸めているのがイデアだった。
「ひっ!? あ、いや、どうも……。わざわざこんな辺境の地にまで呼び出してしまって、大変申し訳なさみがあるというか何というか……」
イデアは消え入るような声で早口に呟く。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ、兄さん。ななしさんは僕たちの友達なんだから」
「友達とかそういう高レベルなステータス、拙者にはまだ早すぎる件について」
「イデア先輩、そんなに怯えなくても何も取って食ったりしませんよ」
ななしが苦笑しながら一歩近づくと、イデアはさらに一歩、ずるずると後ろに下がった。
「ななし氏から陽キャの波動を感じる……。いや、ななし氏はそっち側じゃないって信じてるけど、でも物理的距離が近くなると拙者のHPがマッハで削れる仕様だから!」
「兄さん、ななしさんが困ってるよ。ほら、今日はこれを渡しに来たんだよね?」
オルトがイデアの服の裾を引っぱる。イデアは視線を泳がせながら、手元にあった小さな箱を、まるで危険物でも扱うかのように両手で差し出してきた。
「これ。……頼まれてた、デバイスの予備バッテリー。魔力変換効率を限界までチューニングしておいたから。これでもう、急な魔力切れで通信が途絶えるなんていう、前時代的な悲劇は起きないはず」
「ありがとうございます。すごく助かります」
ななしが受け取ろうと手を伸ばした瞬間、イデアの指先がかすかに跳ねた。触れてもいないのに、彼は大袈裟に息を呑んで手を引っ込める。
「あっ、拙者のような陰の者が触れたら、なんかこう、呪い的なデバフがかかる可能性が微粒子レベルで存在している」
「大袈裟ですよ。先輩の調整してくれたものなら、むしろバフがかかりそうです」
「――ッ」
イデアの顔が一瞬で赤くなる。
彼はフードをさらに深く被り、完全に顔を隠してしまった。
「ほらね、兄さん。ななしさんはちゃんと喜んでくれてる。僕が言った通りでしょ?」
オルトが嬉しそうに胸を張る。
「というかななし氏、そういうセリフをナチュラルに吐くのは、全方位型の人たらしスキル持ちと言わざるを得ない。拙者の心臓に悪いので、今後は自重を要求したい」
「ただ本音を言っただけなんですけど」
「それが一番タチ悪いって、まだ気づいてないの……?」
イデアは恨めしそうな声を出す。しかしフードの隙間から見えるその視線は、決して嫌がっているようには見えなかった。
「あ、そうだ。ななしさん、これから兄さんの部屋で新しく買ったゲームをやる予定なんだけど、一緒にどう?」
オルトが目を輝かせて提案する。
「え、私が混ざっても大丈夫なんですか?」
「もちろん。兄さんだって、いつもオンラインの野良マルチばかりだから、たまには身内でワイワイやるのも新鮮で楽しいはずだよ」
「ちょっ、オルト!? 何をご新規のライトユーザー様をいきなり引き込もうとしてるわけ!? 拙者のクソザココミュ力が持たないでしょ!」
イデアが慌てて割って入る。
しかし、その声には明確な拒絶の色はなかった。
「そのゲーム、気になっていたんです。お邪魔じゃなければ、ぜひ」
ななしがそう言うと、イデアは完全に硬直した。
長い指が自身の服の袖をぎゅっと掴む。
「……ま、まぁ、どうしてもって言うなら、マルチの頭数合わせとして参加させてあげなくもない、というか……」
視線を泳がせながらも、イデアの口元がわずかに緩む。
「やったね。じゃあ、決まり。案内するよ、ななしさん」
オルトが楽しそうに歩き出す。イデアの部屋に移動し、液晶画面の前に並んで座ると、自然と三人だけの狭い空間が出来上がった。
「はい、これななしさんのコントローラー。兄さん、始めていい?」
「う、うぃす……」
ゲームが始まるとテンポの良いBGMとともに画面が目まぐるしく動き出す。操作に慣れないななしのキャラクターは、開始早々に敵の群れに囲まれてしまった。
「あ、危ない! ななしさん、右から避けて!」
「ひっ!? ちょっと、ななし氏そっちはトラップの判定エリア! 待って、今拙者が助けてあげるから!」
イデアの指先が驚異的な速度でコントローラーのボタンを叩く。画面の中の彼のキャラクターが鮮やかなモーションでななしの危機を救った。
「すごい、助かりました。ありがとうございます、先輩」
「ふ、ふん、これくらい拙者にかかれば準備運動みたいなものだし……?」
「あ、また敵が来たよ。今度は僕がカバーするね」
オルトが冷静にサポートに入り、三人の連携は思いのほか噛み合い始めた。熱中するにつれてゲームの音に混ざって、お互いの呼吸の音が近くで聞こえるようになる。
「ななし氏、次、そこ左! ボスが広範囲スキルチャージしてるから、拙者の後ろに隠れて!」
「わかりました! ……あ」
焦ったななしの手が滑り、コントローラーを握る位置がずれる。それを直そうとした瞬間、すぐ隣にいたイデアの指先にななしの手が思いきり触れた。
「――っ!?」
イデアの身体が目に見えて跳ねる。
イデアの手がカタカタと震え、画面の中のキャラクターが不自然な動きを見せた。
「あ、ごめんなさい、当たっちゃいました」
「いや、あの、その、拙者の不可侵領域に、突如として不可抗力による物理干渉が……! あ、熱っ、いや、熱くはない、けど……」
イデアは完全にパニックになり、顔を真っ赤にしてコントローラーを握りしめている。その指先からは普段の彼からは想像もつかないような、生きている人間の生々しい体温が伝わってくるようだった。
「兄さん、手が止まってるよ! このままだと全滅しちゃう!」
「わ、わかってる!」
イデアは叫びながらも決してななしから離れようとはしなかった。
すぐ隣から漂う、どこか落ち着く、でも確実に輪郭を持った独特の気配。電子音の鳴り響く部屋の中で、互いの心臓の鼓動だけがじわじわと同期していくように高く脈打っていた。
「……あ。全滅、しちゃったね」
画面に大きく表示された『GAME OVER』の文字を、オルトが少し残念そうに見つめる。
「……拙者が完全にプレイミスしたでござる。拙者がまさか、こんな序盤のザコ戦でリトライを余儀なくされるとは、まさに一生の不覚……」
イデアはコントローラーを床に置くと、両手で顔を覆って深くため息をついた。その指の隙間から覗く肌は、まだ赤みが引いていない。
「私の操作が遅かったせいです。足を引っ張っちゃってすみません」
「いや、ななしさんのせいじゃないよ。兄さんが急に挙動不審になったのが原因だしね」
「オルト!? 身内の手厳しい発言、拙者のガラスのハートに致命傷が入るからやめて!?」
イデアが声を荒らげるが、その視線は泳いだまま決してななしと合わせようとはしない。
部屋の明かりを落とし液晶の光だけが三人を取り囲む空間。電子音が静まり返ったことで、かえって室内の密度の高さが際立つ。すぐ隣に座るイデアの衣服が擦れる微かな音や、少し速い呼吸がダイレクトに鼓動に響いてくる。
「……あの、ななしさん」
オルトが、すっとななしの顔を覗き込んできた。
「大丈夫? なんだかさっきから、ななしさんの体温と心拍数が少し上昇してるみたい。部屋の空調もっと下げた方がいいかな」
「えっ? あ、いや……そのままで大丈夫です」
急に核心を突かれななしの胸がどきりと跳ねる。
「ちょっと、オルト! バイタルデータをナチュラルに開示するのは、健全な男子高校生の精神に多大な負荷をかけるからNGですぞ!」
イデアが慌てて割って入る。しかし、そう言うイデア自身の髪も、先ほどからずっと毛先がほのかに赤く染まっている。
「僕はただ、ななしさんの事を心配しただけだよ。兄さんだって、さっきからずっと心音が速いじゃない。……ほら、また上がってる」
「それはっ……二次元以外の人間とこんな至近距離でエンカウントしたら、誰だってバグる仕様なんだよ!」
イデアは必死に弁明しながらも、ほんの数センチだけななしの方へ引き寄せられるように体勢を傾けた。
お互いの肩が触れ合いそうな距離。言葉とは裏腹に彼から放たれる圧倒的な存在感と肌を焦がしそうなほどの内側からの熱が、逃げ場のない室内でななしを包み込んでいく。
「……ななし氏」
フードの奥からイデアの声が低く掠れたように響いた。
「なん、ですか……?」
「……いや。その、僕みたいな陰の者が近くにいて、その、不快、じゃない、なら……」
言いかけた言葉をイデアは自ら飲み込むようにして唇を噛む。
彼の長い指先が床の上で迷うように動いた後、ななしの手のひらのすぐ隣にピタリと止まった。あと一ミリでも動かせば、指先同士が重なってしまう位置。
イデアの身体から伝わる、熱く甘やかに揺れる独特の気配。それがななしの五感を完全に支配し、視界の端の液晶画面すら今はもう酷く遠い世界の出来事のように思えた。
「もう一回、やる?」
オルトが二人の間に流れる濃密な空気を察してか、それともあえて無視してか、いたずらっぽく笑いながらコントローラーを差し出す。
「……次こそは本気モードで、ななし氏を完全キャリーしてあげる所存……」
消え入りそうな声で呟きながらも、イデアは隣のななしから視線を外さない。
その瞳の奥に灯る確かな熱量に、ななしの心臓はさらに深く強く脈打ち続けていた。
