サバナクロー
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昼下がりの風が静かな室内を通り抜けていく。
窓際のソファには大きな身体を丸めて気怠げに横たわるレオナの姿があった。そのすぐ近くにある小さな丸椅子に腰掛けているのはななしだ。
二人の間には触れ合えそうで触れ合えない、絶妙な空間が維持されている。
「……なぁ」
レオナが重い瞼を薄く開け低く掠れた声を出した。
「何ですか?」
ななしは手元に置いていた書類から顔を上げ、レオナの様子を窺うように見つめる。
「お前、さっきからそればっか見てんな。俺がここにいるってのに」
「これは次の式典の準備資料です。早く終わらせないと、また学園長に何を言われるか分かりませんから」
「そんなもん後回しにすりゃいいだろ。ったく、真面目すぎて欠伸が出るわ」
レオナは鼻を鳴らし、わざとらしく大きな溜息を吐いてみせた。
その態度に、ななしの指先がほんの少し強張る。
「……そういうわけにはいきません。わたし要領良くないし、今やっておかないと後で絶対に迷惑をかけますから」
「誰に迷惑かけるんだよ」
「周りの人とか、その……レオナさんにも、です」
ななしは視線を再び手元の紙へと落とした。
言葉を選びながら、できるだけ平然を装うとしているのが伝わってくる。
その頑なな様子にレオナは僅かに眉をひそめた。
「俺は迷惑だと思ったことなんて、一度もねぇよ」
「それはレオナさんが優しいからですよ。でも私は自分のことくらい、ちゃんと自分でできるようになりたいんです」
「優しい、ね。お前からそんな言葉を聞くとは思わなかったな」
レオナは自嘲気味に笑うと、ソファの上で寝返りを打ちななしの方を向いた。長い前髪の隙間から覗く瞳がじっとななしを捉える。
「お前、付き合い始めてからもずっとそれだろ。俺を巻き込んじゃ悪いとでも思ってんのか?」
「それは……レオナさんにはレオナさんの時間がありますし、私のつまらない用事で邪魔をしたくありません」
「俺がいつ、お前を邪魔だって言った?」
「言ってはいませんけど、そう思われたら嫌なんです。面倒なやつだなって思われたくないんです」
ななしの口から本音が少しだけ溢れ出た。
しかし、すぐにハッとしたように口を噤み気まずそうに視線を彷徨わせる。
「……面倒?」
レオナの声のトーンが一段と低くなった。ソファからゆっくりと上半身を起こし、ななしとの距離を縮めていく。
「お前、俺がそんな理由で誰かを傍に置くと思ってんのか。随分と舐められたもんだな」
「そういう意味じゃなくて! 私は、その、対等でいたいというか……。頼ってばかりだと、いつか愛想を尽かされるんじゃないかって」
「対等、ねぇ」
レオナは立ち上がりななしの座る椅子の前まで歩み寄った。
影がななしの全身を覆い尽くす。
ななしは見上げる形になり思わず身を引こうとしたが、レオナの手が椅子の背もたれに掛けられ逃げ道を塞がれた。
「お前が一人で抱え込んでる姿を見る方が、よっぽど面白くねぇんだわ」
「レオナさん……」
「頼るってのはな、弱みを見せることじゃねぇ。俺を信用してるかどうかって話だ」
レオナの指先がななしの頬を微かに掠める。
その指先から伝わる体温はいつもより少しだけ熱を帯びているように感じられた。
「……私は、レオナさんを信用しています」
「だったら、その言葉通りの態度を見せろよ。お前のその遠慮が、どれだけ俺を苛立たせてるか分かってねぇだろ」
ななしは小さく息を呑んだ。
レオナの瞳の奥にある真剣な光に胸が締め付けられるような感覚を覚える。
「……少しだけ、話を聞いてもらってもいいですか」
「あぁ。いくらでも聞いてやるよ」
レオナは満足げに口元を歪めるとななしのすぐ隣に腰を下ろした。
二人の肩が今度は確かに、ほんの少しだけ触れ合っていた。
窓際のソファには大きな身体を丸めて気怠げに横たわるレオナの姿があった。そのすぐ近くにある小さな丸椅子に腰掛けているのはななしだ。
二人の間には触れ合えそうで触れ合えない、絶妙な空間が維持されている。
「……なぁ」
レオナが重い瞼を薄く開け低く掠れた声を出した。
「何ですか?」
ななしは手元に置いていた書類から顔を上げ、レオナの様子を窺うように見つめる。
「お前、さっきからそればっか見てんな。俺がここにいるってのに」
「これは次の式典の準備資料です。早く終わらせないと、また学園長に何を言われるか分かりませんから」
「そんなもん後回しにすりゃいいだろ。ったく、真面目すぎて欠伸が出るわ」
レオナは鼻を鳴らし、わざとらしく大きな溜息を吐いてみせた。
その態度に、ななしの指先がほんの少し強張る。
「……そういうわけにはいきません。わたし要領良くないし、今やっておかないと後で絶対に迷惑をかけますから」
「誰に迷惑かけるんだよ」
「周りの人とか、その……レオナさんにも、です」
ななしは視線を再び手元の紙へと落とした。
言葉を選びながら、できるだけ平然を装うとしているのが伝わってくる。
その頑なな様子にレオナは僅かに眉をひそめた。
「俺は迷惑だと思ったことなんて、一度もねぇよ」
「それはレオナさんが優しいからですよ。でも私は自分のことくらい、ちゃんと自分でできるようになりたいんです」
「優しい、ね。お前からそんな言葉を聞くとは思わなかったな」
レオナは自嘲気味に笑うと、ソファの上で寝返りを打ちななしの方を向いた。長い前髪の隙間から覗く瞳がじっとななしを捉える。
「お前、付き合い始めてからもずっとそれだろ。俺を巻き込んじゃ悪いとでも思ってんのか?」
「それは……レオナさんにはレオナさんの時間がありますし、私のつまらない用事で邪魔をしたくありません」
「俺がいつ、お前を邪魔だって言った?」
「言ってはいませんけど、そう思われたら嫌なんです。面倒なやつだなって思われたくないんです」
ななしの口から本音が少しだけ溢れ出た。
しかし、すぐにハッとしたように口を噤み気まずそうに視線を彷徨わせる。
「……面倒?」
レオナの声のトーンが一段と低くなった。ソファからゆっくりと上半身を起こし、ななしとの距離を縮めていく。
「お前、俺がそんな理由で誰かを傍に置くと思ってんのか。随分と舐められたもんだな」
「そういう意味じゃなくて! 私は、その、対等でいたいというか……。頼ってばかりだと、いつか愛想を尽かされるんじゃないかって」
「対等、ねぇ」
レオナは立ち上がりななしの座る椅子の前まで歩み寄った。
影がななしの全身を覆い尽くす。
ななしは見上げる形になり思わず身を引こうとしたが、レオナの手が椅子の背もたれに掛けられ逃げ道を塞がれた。
「お前が一人で抱え込んでる姿を見る方が、よっぽど面白くねぇんだわ」
「レオナさん……」
「頼るってのはな、弱みを見せることじゃねぇ。俺を信用してるかどうかって話だ」
レオナの指先がななしの頬を微かに掠める。
その指先から伝わる体温はいつもより少しだけ熱を帯びているように感じられた。
「……私は、レオナさんを信用しています」
「だったら、その言葉通りの態度を見せろよ。お前のその遠慮が、どれだけ俺を苛立たせてるか分かってねぇだろ」
ななしは小さく息を呑んだ。
レオナの瞳の奥にある真剣な光に胸が締め付けられるような感覚を覚える。
「……少しだけ、話を聞いてもらってもいいですか」
「あぁ。いくらでも聞いてやるよ」
レオナは満足げに口元を歪めるとななしのすぐ隣に腰を下ろした。
二人の肩が今度は確かに、ほんの少しだけ触れ合っていた。
