ハーツラビュル
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ハーツラビュル寮のケイトの部屋は、いつも通りの匂いと微かに香る紅茶の匂いに満ちている。西日が差し込む部屋のベッドの上で、ケイトはスマートフォンの画面をタップしていた。その隣には所在なさげに座るななしの姿がある。
「ねえ、ななしちゃん。せっかく二人でいるんだし、一枚くらい撮らせてよ」
ケイトは画面から目を離し隣の顔を覗き込んだ。
「嫌です、わたし撮られるの本当に苦手なんです」
「えー、なんでさ。オレとななしちゃんの仲じゃん? 減るもんじゃないしマジカメに載せないで自分用にするからさ」
「そういう問題じゃなくて、カメラを向けられること自体がダメなんです。表情が固くなりますし」
そう言って手元のノートに視線を戻そうとする。しかしケイトは諦めずにスマートフォンを構えた。インカメラのレンズが並んで座る二人の姿を捉える。
「ほらほら、こっち向いて! はい、チーズ!」
「あ、ちょっと……!」
とっさに両手で顔を覆う。
スマートフォンのシャッター音が静かな部屋に小気味よく響いた。
ケイトはすぐに画面を確認し小さく息を吐く。
「あーあ、また隠しちゃった。せっかくの可愛い顔が台なしじゃん」
「嫌だって言ったじゃないですか。先輩しつこいです」
「オレとしては大好きな後輩との思い出を形に残したいだけなんだけどな」
ケイトはスマートフォンを持った手を下ろし、少しだけ肩を落としてみせる。
「思い出なら、写真に残さなくても頭の中にあります」
「オレの頭の中だけじゃ、いつか薄れちゃうかもしれないじゃん? デジタルなら一生モノだし、何より見返したときにテンション上がるっしょ?」
「先輩の記憶力はそんなに弱くないと思います。それにマジカメ用の写真なら寮生たちとたくさん撮っているじゃないですか」
「それとこれとは話が別。他のやつらと撮るのと、ななしちゃんと撮るのが同じわけないでしょ?」
ケイトの言葉は軽快だったが、その瞳はまっすぐに隣を見つめている。
「何が違うんですか」
「全然違うよ、全くの別物」
さらりと言ってのけるケイトに一瞬だけ言葉が詰まる。部屋の空気が西日の熱を吸い上げたように、ほんの少しだけ密度を増したような気がした。
「……そういうお世辞、他の女の子にも言ってるんですよね」
「心外だなあ。オレ、誰にでもこんなこと言わないよ? ななしちゃんだから言ってるの。ねえ、一枚だけ。本当に一枚だけでいいからさ」
ケイトは再びスマートフォンを掲げ、今度は少しだけ距離を詰めてきた。肩と肩が触れ合うほどの近さになり、衣服の擦れる音が耳元で大きく聞こえる。
「……本当に、一枚だけですか?」
「うん、約束する。だから手をどけて?」
渋々といった様子で顔を覆っていた両手を少しだけ下ろす。まだ警戒の色は消えていない。その様子をケイトは逃さずスマートフォンの画面越しに見つめていた。
「そうそう、じゃあ撮るよ?」
画面に映る二人の距離は、先ほどよりも確実に近くなっている。ケイトの指が画面のボタンに触れようとしたその瞬間、再び顔を背けてしまった。
「やっぱり無理です!」
「あはは、また逃げた。ねえ、本当に照れ屋さんだね」
ケイトは可笑しそうに笑いながら、スマートフォンをベッドの上に放り出した。そして今度は道具を介さずに、直接その瞳で正面から見つめてくる。
「照れてるわけじゃありません。苦手なものは苦手なんです」
「ふーん、本当に苦手なだけ? オレの顔が近くて緊張してるとか、そういうのは?」
「違います」
即座に否定する声が少しだけ上擦る。
「じゃあ、確かめてみようか」
日常の延長線上にあるはずの会話が少しずつ、確実にその色彩を変え始めていた。部屋をオレンジ色に染める夕光が二人の影を一つの大きな塊のように床へ落としている。
ケイトはベッドの上に放り出したスマートフォンにはもう目もくれず、じわりと距離を詰めてくる。
肩が触れ合うだけだったはずの距離が、いつの間にか体温を感じるほどに縮まっている。衣服越しに伝わるその熱は西日のせいだけではない。
「確かめるって、何をですか」
「ななしちゃんが本当に写真が苦手なだけなのか、それとも……オレのことが原因なのか、ってこと」
ケイトの声はいつもより少しだけ低く、耳の奥に直接滑り込んでくるような錯覚を覚える。見つめ返されただけで心臓の音がうるさく跳ねる。
「……ケイト先輩、顔、近いです」
「ダメ? 嫌なら逃げていいよ。オレ、無理強いはしない主義だし」
そう言いながらも、ケイトは逃げる隙間を与える気などなさそうにベッドの上に片手をついてこちらの体をわずかに覗き込んできた。
避けるために身を引けば、そのまま後ろに倒れ込んでしまう。逃げ場のない空間で、ケイトの纏う匂いが肺の奥まで一気に満たしていく。
「逃げ……たいわけじゃ、なくて」
「じゃあ、どうしたいの?」
畳みかけるような問いかけに喉の奥が乾く。
ケイトの指先が躊躇うようにこちらの髪に触れた。
細い指が髪の毛をすくい上げ耳の後ろへとゆっくり流していく。その指先が微かに震えているような気がした。触れられた肌がじりじりと熱を帯びていく。
「オレね、ななしちゃんのそういう、嘘がつけないところが本当に好き」
「からかわないでください」
「からかってないよ。オレがいつ、ななしちゃんに嘘ついた?」
ケイトの顔がさらに一歩近づく。
お互いの吐息が触れ合うほどの距離。
視線をどこにやっていいか分からず、彷徨わせた末にケイトの唇のあたりに止まってしまう。いつも軽快な言葉を紡ぐその唇が、今はわずかに緊張を含んで結ばれていた。
「写真を撮りたいのもさ、ただの思い出作りじゃないんだよね」
「……じゃあ、なんですか」
「手元に残しておきたいの。オレ以外の誰も見ない、オレだけのななしちゃん。そういうの欲しくなっちゃダメかな」
ケイトの声音には隠しきれない独占欲と、じっとりとした熱が混ざり合っている。その熱に当てられたように、自分の身体の芯までじわじわと熱くなっていくのが分かった。
「それって、ずるいです」
「うん、ずるいよね。オレ、結構ずるい男なんだよ? 知ってた?」
ケイトは低く笑いながら髪を弄っていた手をそのまま頬へと滑らせた。
親指の腹が熱を持った頬を優しく撫でる。その心地よい刺激に思わず瞼を閉じそうになるのを必死で堪える。ケイトの瞳が熱を孕んで爛々と輝いていた。
「ななしちゃんの顔、すっごく赤くなってる。これも写真が苦手なせい?」
「それは、先輩が、そんな、距離にいるから……」
「そっか。じゃあ、もっと近づいたら、どうなっちゃうんだろうね」
頬に添えられた手のひらからケイトの速い鼓動が伝わってくるようだった。お互いの境界線が曖昧になるほどの距離で、ケイトはゆっくりとさらにその顔を近づけていく。
視界のすべてがケイトで埋め尽くされる。
頬に添えられた手のひらから伝わる熱は、すでに体温のそれを超えているように思える。肌と肌が触れ合う部分から甘い痺れのような感覚が全身へとしみ込んでいく。
「……ケイト、先輩」
紡ぎ出した声は驚くほど掠れていた。
その声を遮るように、ケイトのもう片方の手が腰の後ろへと回り引き寄せるように力を込める。完全に密着した身体からは、お互いの心臓の音が重なり合ってどちらのものか判別がつかないほどの速さで響いていた。
「ダメって言われても、もう止められないかも」
ケイトの唇が耳元で微かに動く。
その吐息が肌をかすめるたびに背筋をゾクリとした震えが走り抜けた。いつもなら冗談めかしてはぐらかすはずの男が、今はただの一言も逃げ道を作ろうとしない。その強い意志に頭の芯がじんわりと痺れていく。
向けられる視線の濃度は部屋の空気を完全に支配していた。
ケイトの瞳に映る自分が、酷く熱を持った顔をしているのが見つめ合っているだけで伝わってくる。拒絶する理由はどこにも見当たらず、ただこの濃密な熱の渦に身を委ねてしまいたかった。
「ななしちゃん、オレのことちゃんと見てて」
強気な言葉とは裏腹に、ケイトの声にはどこか飢えたような切なさが混じっている。そのギャップに胸の奥が締め付けられ、応じるようにケイトの服の裾をぎゅっと掴んだ。指先に力を込めるのと同時にケイトの顔がさらに落ちてくる。
お互いの鼻先が触れ合い混ざり合う呼吸すらも熱い。
ケイトの指先が頬を優しく包み込み、親指が唇の端をそっと割るように撫で上げた。その感触に身体の奥底から甘い溜息が漏れそうになる。
「ねえ、写真なんて、本当はもうどうでもいいんだ」
至近距離で囁かれる告白は鼓膜を震わせて脳裏に直接焼き付いていく。
ケイトの瞳の奥にある独占欲が隠されることなく溢れ出ていた。その強い感情に包まれる心地よさに思考は完全に溶けていく。
「オレが欲しいのは、これだから」
言葉が終わるよりも早く柔らかいものが唇に触れた。
触れるだけの優しい質感から、すぐに深く確かめるような強さへと変わっていく。ケイトの香りと微かな紅茶の味が口内から意識のすべてを塗りつぶしていった。
離れていった唇が名残惜しそうに何度も形を変えて触れ直す。
ようやくわずかな隙間ができたとき、ケイトは額をこちらに預けたまま、小さく満足そうに息を吐いた。その表情は今までに見たことがないほど優しく、そして酷く艶っぽかった。
「……これで、オレだけのもの、だね」
部屋を満たすオレンジ色の夕闇の中で、二人の世界はこれ以上ないほど深く重なり合っていた。
「ねえ、ななしちゃん。せっかく二人でいるんだし、一枚くらい撮らせてよ」
ケイトは画面から目を離し隣の顔を覗き込んだ。
「嫌です、わたし撮られるの本当に苦手なんです」
「えー、なんでさ。オレとななしちゃんの仲じゃん? 減るもんじゃないしマジカメに載せないで自分用にするからさ」
「そういう問題じゃなくて、カメラを向けられること自体がダメなんです。表情が固くなりますし」
そう言って手元のノートに視線を戻そうとする。しかしケイトは諦めずにスマートフォンを構えた。インカメラのレンズが並んで座る二人の姿を捉える。
「ほらほら、こっち向いて! はい、チーズ!」
「あ、ちょっと……!」
とっさに両手で顔を覆う。
スマートフォンのシャッター音が静かな部屋に小気味よく響いた。
ケイトはすぐに画面を確認し小さく息を吐く。
「あーあ、また隠しちゃった。せっかくの可愛い顔が台なしじゃん」
「嫌だって言ったじゃないですか。先輩しつこいです」
「オレとしては大好きな後輩との思い出を形に残したいだけなんだけどな」
ケイトはスマートフォンを持った手を下ろし、少しだけ肩を落としてみせる。
「思い出なら、写真に残さなくても頭の中にあります」
「オレの頭の中だけじゃ、いつか薄れちゃうかもしれないじゃん? デジタルなら一生モノだし、何より見返したときにテンション上がるっしょ?」
「先輩の記憶力はそんなに弱くないと思います。それにマジカメ用の写真なら寮生たちとたくさん撮っているじゃないですか」
「それとこれとは話が別。他のやつらと撮るのと、ななしちゃんと撮るのが同じわけないでしょ?」
ケイトの言葉は軽快だったが、その瞳はまっすぐに隣を見つめている。
「何が違うんですか」
「全然違うよ、全くの別物」
さらりと言ってのけるケイトに一瞬だけ言葉が詰まる。部屋の空気が西日の熱を吸い上げたように、ほんの少しだけ密度を増したような気がした。
「……そういうお世辞、他の女の子にも言ってるんですよね」
「心外だなあ。オレ、誰にでもこんなこと言わないよ? ななしちゃんだから言ってるの。ねえ、一枚だけ。本当に一枚だけでいいからさ」
ケイトは再びスマートフォンを掲げ、今度は少しだけ距離を詰めてきた。肩と肩が触れ合うほどの近さになり、衣服の擦れる音が耳元で大きく聞こえる。
「……本当に、一枚だけですか?」
「うん、約束する。だから手をどけて?」
渋々といった様子で顔を覆っていた両手を少しだけ下ろす。まだ警戒の色は消えていない。その様子をケイトは逃さずスマートフォンの画面越しに見つめていた。
「そうそう、じゃあ撮るよ?」
画面に映る二人の距離は、先ほどよりも確実に近くなっている。ケイトの指が画面のボタンに触れようとしたその瞬間、再び顔を背けてしまった。
「やっぱり無理です!」
「あはは、また逃げた。ねえ、本当に照れ屋さんだね」
ケイトは可笑しそうに笑いながら、スマートフォンをベッドの上に放り出した。そして今度は道具を介さずに、直接その瞳で正面から見つめてくる。
「照れてるわけじゃありません。苦手なものは苦手なんです」
「ふーん、本当に苦手なだけ? オレの顔が近くて緊張してるとか、そういうのは?」
「違います」
即座に否定する声が少しだけ上擦る。
「じゃあ、確かめてみようか」
日常の延長線上にあるはずの会話が少しずつ、確実にその色彩を変え始めていた。部屋をオレンジ色に染める夕光が二人の影を一つの大きな塊のように床へ落としている。
ケイトはベッドの上に放り出したスマートフォンにはもう目もくれず、じわりと距離を詰めてくる。
肩が触れ合うだけだったはずの距離が、いつの間にか体温を感じるほどに縮まっている。衣服越しに伝わるその熱は西日のせいだけではない。
「確かめるって、何をですか」
「ななしちゃんが本当に写真が苦手なだけなのか、それとも……オレのことが原因なのか、ってこと」
ケイトの声はいつもより少しだけ低く、耳の奥に直接滑り込んでくるような錯覚を覚える。見つめ返されただけで心臓の音がうるさく跳ねる。
「……ケイト先輩、顔、近いです」
「ダメ? 嫌なら逃げていいよ。オレ、無理強いはしない主義だし」
そう言いながらも、ケイトは逃げる隙間を与える気などなさそうにベッドの上に片手をついてこちらの体をわずかに覗き込んできた。
避けるために身を引けば、そのまま後ろに倒れ込んでしまう。逃げ場のない空間で、ケイトの纏う匂いが肺の奥まで一気に満たしていく。
「逃げ……たいわけじゃ、なくて」
「じゃあ、どうしたいの?」
畳みかけるような問いかけに喉の奥が乾く。
ケイトの指先が躊躇うようにこちらの髪に触れた。
細い指が髪の毛をすくい上げ耳の後ろへとゆっくり流していく。その指先が微かに震えているような気がした。触れられた肌がじりじりと熱を帯びていく。
「オレね、ななしちゃんのそういう、嘘がつけないところが本当に好き」
「からかわないでください」
「からかってないよ。オレがいつ、ななしちゃんに嘘ついた?」
ケイトの顔がさらに一歩近づく。
お互いの吐息が触れ合うほどの距離。
視線をどこにやっていいか分からず、彷徨わせた末にケイトの唇のあたりに止まってしまう。いつも軽快な言葉を紡ぐその唇が、今はわずかに緊張を含んで結ばれていた。
「写真を撮りたいのもさ、ただの思い出作りじゃないんだよね」
「……じゃあ、なんですか」
「手元に残しておきたいの。オレ以外の誰も見ない、オレだけのななしちゃん。そういうの欲しくなっちゃダメかな」
ケイトの声音には隠しきれない独占欲と、じっとりとした熱が混ざり合っている。その熱に当てられたように、自分の身体の芯までじわじわと熱くなっていくのが分かった。
「それって、ずるいです」
「うん、ずるいよね。オレ、結構ずるい男なんだよ? 知ってた?」
ケイトは低く笑いながら髪を弄っていた手をそのまま頬へと滑らせた。
親指の腹が熱を持った頬を優しく撫でる。その心地よい刺激に思わず瞼を閉じそうになるのを必死で堪える。ケイトの瞳が熱を孕んで爛々と輝いていた。
「ななしちゃんの顔、すっごく赤くなってる。これも写真が苦手なせい?」
「それは、先輩が、そんな、距離にいるから……」
「そっか。じゃあ、もっと近づいたら、どうなっちゃうんだろうね」
頬に添えられた手のひらからケイトの速い鼓動が伝わってくるようだった。お互いの境界線が曖昧になるほどの距離で、ケイトはゆっくりとさらにその顔を近づけていく。
視界のすべてがケイトで埋め尽くされる。
頬に添えられた手のひらから伝わる熱は、すでに体温のそれを超えているように思える。肌と肌が触れ合う部分から甘い痺れのような感覚が全身へとしみ込んでいく。
「……ケイト、先輩」
紡ぎ出した声は驚くほど掠れていた。
その声を遮るように、ケイトのもう片方の手が腰の後ろへと回り引き寄せるように力を込める。完全に密着した身体からは、お互いの心臓の音が重なり合ってどちらのものか判別がつかないほどの速さで響いていた。
「ダメって言われても、もう止められないかも」
ケイトの唇が耳元で微かに動く。
その吐息が肌をかすめるたびに背筋をゾクリとした震えが走り抜けた。いつもなら冗談めかしてはぐらかすはずの男が、今はただの一言も逃げ道を作ろうとしない。その強い意志に頭の芯がじんわりと痺れていく。
向けられる視線の濃度は部屋の空気を完全に支配していた。
ケイトの瞳に映る自分が、酷く熱を持った顔をしているのが見つめ合っているだけで伝わってくる。拒絶する理由はどこにも見当たらず、ただこの濃密な熱の渦に身を委ねてしまいたかった。
「ななしちゃん、オレのことちゃんと見てて」
強気な言葉とは裏腹に、ケイトの声にはどこか飢えたような切なさが混じっている。そのギャップに胸の奥が締め付けられ、応じるようにケイトの服の裾をぎゅっと掴んだ。指先に力を込めるのと同時にケイトの顔がさらに落ちてくる。
お互いの鼻先が触れ合い混ざり合う呼吸すらも熱い。
ケイトの指先が頬を優しく包み込み、親指が唇の端をそっと割るように撫で上げた。その感触に身体の奥底から甘い溜息が漏れそうになる。
「ねえ、写真なんて、本当はもうどうでもいいんだ」
至近距離で囁かれる告白は鼓膜を震わせて脳裏に直接焼き付いていく。
ケイトの瞳の奥にある独占欲が隠されることなく溢れ出ていた。その強い感情に包まれる心地よさに思考は完全に溶けていく。
「オレが欲しいのは、これだから」
言葉が終わるよりも早く柔らかいものが唇に触れた。
触れるだけの優しい質感から、すぐに深く確かめるような強さへと変わっていく。ケイトの香りと微かな紅茶の味が口内から意識のすべてを塗りつぶしていった。
離れていった唇が名残惜しそうに何度も形を変えて触れ直す。
ようやくわずかな隙間ができたとき、ケイトは額をこちらに預けたまま、小さく満足そうに息を吐いた。その表情は今までに見たことがないほど優しく、そして酷く艶っぽかった。
「……これで、オレだけのもの、だね」
部屋を満たすオレンジ色の夕闇の中で、二人の世界はこれ以上ないほど深く重なり合っていた。
