オクタビネル
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
薄暗い談話室に本のページを捲るかすかな音だけが響いていた。オンボロ寮のソファに深く腰掛けたジェイドは、手元からふっと視線を上げる。向かい側の机で山積みの書類と格闘しているのは、この寮の主である――ななしだった。
「随分と根を詰めているようですね、ななしさん」
ジェイドの声音はいつものように穏やかで、どこか楽しげだった。ななしはペンを握った手を止め小さく息を吐いて彼を見る。
「ジェイド先輩、すみません。せっかくいらしてくれたのに、何もお構いできなくて」
「お気になさらず。僕が勝手にお邪魔して楽しんでいるだけですから。それよりも少し休憩にしませんか? 良ければ僕が淹れたハーブティーをどうぞ」
「ありがとうございます。ちょうど目が疲れてきたところでした」
「それは良かった。茸の栽培方法について書かれた古い文献を読んでいたのですが、あなたの頑張る姿が目に入ると、どうしてもそちらに意識が向いてしまいまして」
ジェイドは微笑みながらななしの目の前にカップを置いた。その指先が少しだけななしの指に触れる。意図したものか偶然か。判別のつかない距離感で、ジェイドは自分のカップを口に運んだ。
「……? ジェイド先輩、どうかしたんですか? なんだか、じっと見られているような……」
「おや、自意識過剰……と言いたいところですが、正解です。あなたのことを見ていました」
隠す様子もなく、ジェイドはあっさりと認めた。その細められた双眸の奥にある冷徹さと熱が混ざり合ったような光がななしを射抜く。
「な、何か顔についてますか?」
「いいえ。ただ、あなたの髪に小さな埃がついていたので」
ジェイドは立ち上がり、音もなくななしの隣へと移動した。ソファの端に腰掛け手を伸ばす。長い指先がななしの髪をすくい、耳の後ろへと流した。指先が首筋に微かに触れ、ななしの身体が強張るのが伝わってくる。
「……取れましたよ」
「ありがとうございます……。でも、ちょっと距離が近くないですか?」
「……嫌でしたか?」
覗き込んでくるジェイドの顔がいつもより近くにある。ジェイドは慌てるななしの反応を楽しむように、さらに僅かだけ重心を傾けた。
「嫌、というわけでは、ないですけど。ジェイド先輩は、誰にでもそうやって距離が近いんですか?」
「おや。僕が誰にでもこのような真似をする男に見えますか?」
ジェイドは低い笑みを浮かべる。
鋭い歯がチラリと覗き捕食者の本性を覗かせる。
「アズール先輩やフロイド先輩にも同じことを?」
「まさか。彼らにこのようなことをしても、何のメリットもありませんから。僕が興味を惹かれ、こうして自ら近付きたいと思うのは……学園広しと言えどあなただけですよ、ななしさん」
ジェイドの視線はななしの微かに震える唇へと移動する。談話室の空気は、いつの間にかじっとりと熱を帯び始めていた。窓の外で鳴く虫の声すら遠くの出来事のように思えるほど、二人の間の空間だけが濃密に静まり返っていく。
「それって、どういう……」
「さあ、どういう意味だと思いますか?」
ジェイドの大きな掌がななしの手の上にそっと重ねられた。逃げ出さないように、しかし決して痛ませないよう、指が絡められていく。
「ジェイド先輩……?」
「僕は、ただの親切な先輩のままでいるつもりはありません。ゆっくりと、確実にあなたの日常を僕で満たしていく。……その覚悟は、しておいてくださいね?」
重ねられたジェイドの手から伝わる体温は、ななしの血の巡りを狂わせるような確かな熱を帯びていた。
「ジェイド、先輩……。手が、離れません」
「おや、離そうとしていましたか? 僕はただ、こうしてあなたに触れている時間が酷く心地良いだけなのですが」
ジェイドは絡めた指の力を緩めるどころか、さらに深く隙間を埋めるようにして密着させた。親指の腹がななしの手の甲をゆっくりと撫で上げる。
「……そんな風に言われたら、強く振り払えません」
「ふふ、それは光栄ですね。あなたが僕に、少しでも遠慮や情を抱いてくれている証拠でしょうか」
ジェイドの顔がさらに一段と近付き、彼の髪の毛がななしの頬をかすめた。
「ななしさん。あなたの心臓の音が僕まで聞こえてきそうです」
「それは……部屋が静かだから、そう感じるだけです」
「いいえ、確かに響いています。僕の手のひらを通じて、あなたの脈動がドクドクと愛おしいリズムを刻んでいる。……嘘はつけませんね」
からかうような言葉とは裏腹に、ジェイドの声音にはどこか余裕のない、切迫したような響きが混ざり始めていた。彼は手を伸ばし、今度はななしの顎をそっと指先で持ち上げる。上向かせられた視線がジェイドの深い瞳と至近距離で正面から交わった。
「……そ、そんなにじっと見つめられると、困ります」
「困ってください。困って、揺らいで、僕のことだけを考えてください。……今のあなたの瞳には、僕だけが映っている。それがどれほど僕を満たしてくれるか、あなたには想像もつかないでしょう」
ジェイドの唇がななしの耳元へと移動する。吐息が直接肌を叩き、ななしの身体に微かな戦慄が走った。彼の香りが脳の奥深くまで染み込んでいくような錯覚に囚われる。
「僕はとても強欲なのです。一度目を付けた獲物は骨の髄まで僕のものにしたい。あなたの優しさも、戸惑いも、その熱い体温も……全て僕だけで独占したいと言ったら、どうしますか?」
「それは……あまりにも、急すぎます」
「急ですか。これでもずいぶんと我慢をして段階を踏んだつもりだったのですが」
クスリと笑うジェイドの胸元がななしの肩にぴったりと押し当てられている。衣服越しでも分かる彼の硬い体躯と、確かな存在感がななしの思考力を確実に奪っていった。
「ジェイド先輩は、いつもそうやって、わたしの反応を楽しんで……」
「楽しんでいるのは事実ですが、それだけではありません。僕はあなたを本気で口説きにきているのですよ」
ジェイドの顔が引き結ばれ、いつもの余裕に満ちた笑みが完全に消え去った。そこにあるのは一人の男としての剥き出しの情熱だった。彼は顎を掴んでいた手をゆっくりとななしの頬へと滑らせ、包み込むようにして親指でその唇をなぞった。
「もう枠に収まるつもりはありません。……ななしさん、僕を選んでください。あなたのその特別な場所に、僕を置いてください」
濃密な沈黙が二人の間に流れる。ジェイドの瞳はまるで、海の底へと引きずり込むかのように深く、そして熱くななしを捉えて離さない。
「……ジェイド先輩、わたし……」
「言葉は今すぐでなくても構いません。ですが、これだけは覚えておいてください。僕は絶対に諦めませんから」
ジェイドは満足げに目を細めると、ななしの頬にかすかな微熱を残して、ゆっくりと身体を離した。
「随分と根を詰めているようですね、ななしさん」
ジェイドの声音はいつものように穏やかで、どこか楽しげだった。ななしはペンを握った手を止め小さく息を吐いて彼を見る。
「ジェイド先輩、すみません。せっかくいらしてくれたのに、何もお構いできなくて」
「お気になさらず。僕が勝手にお邪魔して楽しんでいるだけですから。それよりも少し休憩にしませんか? 良ければ僕が淹れたハーブティーをどうぞ」
「ありがとうございます。ちょうど目が疲れてきたところでした」
「それは良かった。茸の栽培方法について書かれた古い文献を読んでいたのですが、あなたの頑張る姿が目に入ると、どうしてもそちらに意識が向いてしまいまして」
ジェイドは微笑みながらななしの目の前にカップを置いた。その指先が少しだけななしの指に触れる。意図したものか偶然か。判別のつかない距離感で、ジェイドは自分のカップを口に運んだ。
「……? ジェイド先輩、どうかしたんですか? なんだか、じっと見られているような……」
「おや、自意識過剰……と言いたいところですが、正解です。あなたのことを見ていました」
隠す様子もなく、ジェイドはあっさりと認めた。その細められた双眸の奥にある冷徹さと熱が混ざり合ったような光がななしを射抜く。
「な、何か顔についてますか?」
「いいえ。ただ、あなたの髪に小さな埃がついていたので」
ジェイドは立ち上がり、音もなくななしの隣へと移動した。ソファの端に腰掛け手を伸ばす。長い指先がななしの髪をすくい、耳の後ろへと流した。指先が首筋に微かに触れ、ななしの身体が強張るのが伝わってくる。
「……取れましたよ」
「ありがとうございます……。でも、ちょっと距離が近くないですか?」
「……嫌でしたか?」
覗き込んでくるジェイドの顔がいつもより近くにある。ジェイドは慌てるななしの反応を楽しむように、さらに僅かだけ重心を傾けた。
「嫌、というわけでは、ないですけど。ジェイド先輩は、誰にでもそうやって距離が近いんですか?」
「おや。僕が誰にでもこのような真似をする男に見えますか?」
ジェイドは低い笑みを浮かべる。
鋭い歯がチラリと覗き捕食者の本性を覗かせる。
「アズール先輩やフロイド先輩にも同じことを?」
「まさか。彼らにこのようなことをしても、何のメリットもありませんから。僕が興味を惹かれ、こうして自ら近付きたいと思うのは……学園広しと言えどあなただけですよ、ななしさん」
ジェイドの視線はななしの微かに震える唇へと移動する。談話室の空気は、いつの間にかじっとりと熱を帯び始めていた。窓の外で鳴く虫の声すら遠くの出来事のように思えるほど、二人の間の空間だけが濃密に静まり返っていく。
「それって、どういう……」
「さあ、どういう意味だと思いますか?」
ジェイドの大きな掌がななしの手の上にそっと重ねられた。逃げ出さないように、しかし決して痛ませないよう、指が絡められていく。
「ジェイド先輩……?」
「僕は、ただの親切な先輩のままでいるつもりはありません。ゆっくりと、確実にあなたの日常を僕で満たしていく。……その覚悟は、しておいてくださいね?」
重ねられたジェイドの手から伝わる体温は、ななしの血の巡りを狂わせるような確かな熱を帯びていた。
「ジェイド、先輩……。手が、離れません」
「おや、離そうとしていましたか? 僕はただ、こうしてあなたに触れている時間が酷く心地良いだけなのですが」
ジェイドは絡めた指の力を緩めるどころか、さらに深く隙間を埋めるようにして密着させた。親指の腹がななしの手の甲をゆっくりと撫で上げる。
「……そんな風に言われたら、強く振り払えません」
「ふふ、それは光栄ですね。あなたが僕に、少しでも遠慮や情を抱いてくれている証拠でしょうか」
ジェイドの顔がさらに一段と近付き、彼の髪の毛がななしの頬をかすめた。
「ななしさん。あなたの心臓の音が僕まで聞こえてきそうです」
「それは……部屋が静かだから、そう感じるだけです」
「いいえ、確かに響いています。僕の手のひらを通じて、あなたの脈動がドクドクと愛おしいリズムを刻んでいる。……嘘はつけませんね」
からかうような言葉とは裏腹に、ジェイドの声音にはどこか余裕のない、切迫したような響きが混ざり始めていた。彼は手を伸ばし、今度はななしの顎をそっと指先で持ち上げる。上向かせられた視線がジェイドの深い瞳と至近距離で正面から交わった。
「……そ、そんなにじっと見つめられると、困ります」
「困ってください。困って、揺らいで、僕のことだけを考えてください。……今のあなたの瞳には、僕だけが映っている。それがどれほど僕を満たしてくれるか、あなたには想像もつかないでしょう」
ジェイドの唇がななしの耳元へと移動する。吐息が直接肌を叩き、ななしの身体に微かな戦慄が走った。彼の香りが脳の奥深くまで染み込んでいくような錯覚に囚われる。
「僕はとても強欲なのです。一度目を付けた獲物は骨の髄まで僕のものにしたい。あなたの優しさも、戸惑いも、その熱い体温も……全て僕だけで独占したいと言ったら、どうしますか?」
「それは……あまりにも、急すぎます」
「急ですか。これでもずいぶんと我慢をして段階を踏んだつもりだったのですが」
クスリと笑うジェイドの胸元がななしの肩にぴったりと押し当てられている。衣服越しでも分かる彼の硬い体躯と、確かな存在感がななしの思考力を確実に奪っていった。
「ジェイド先輩は、いつもそうやって、わたしの反応を楽しんで……」
「楽しんでいるのは事実ですが、それだけではありません。僕はあなたを本気で口説きにきているのですよ」
ジェイドの顔が引き結ばれ、いつもの余裕に満ちた笑みが完全に消え去った。そこにあるのは一人の男としての剥き出しの情熱だった。彼は顎を掴んでいた手をゆっくりとななしの頬へと滑らせ、包み込むようにして親指でその唇をなぞった。
「もう枠に収まるつもりはありません。……ななしさん、僕を選んでください。あなたのその特別な場所に、僕を置いてください」
濃密な沈黙が二人の間に流れる。ジェイドの瞳はまるで、海の底へと引きずり込むかのように深く、そして熱くななしを捉えて離さない。
「……ジェイド先輩、わたし……」
「言葉は今すぐでなくても構いません。ですが、これだけは覚えておいてください。僕は絶対に諦めませんから」
ジェイドは満足げに目を細めると、ななしの頬にかすかな微熱を残して、ゆっくりと身体を離した。
