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喧騒が遠のいた深夜のVIPルームには、微かに潮の香りが混ざった空気が満ちている。デスクの上のランプが光を執務机に落としていた。
アズールは書類をめくる手を止めずに眼鏡のブリッジを押し上げる。その傍、ソファに腰掛けたななしは手元のハーブティーのカップを見つめたまま動かない。
「随分と熱心に見つめるのですね、ななしさん。僕の顔に何かついていますか?」
「いえ、そういうわけじゃ……。ただアズール先輩、最近少し様子が変だから」
「心外ですね。僕はいつも通り完璧にラウンジの経営と勉学を両立させていますよ。何か不満でも?」
アズールはふっと皮肉げな笑みを浮かべるが、その視線はどこか落ち着かない。書類を片付ける指先がいつもより僅かに震えている。
「不満なんてないです。でもなんだか最近顔色が良くない気がして……体調が悪いなら無理をしないで休んでください」
「……おや鋭い。ですがただの寝不足です。人魚の生態と人間の身体のギャップに少々脳が追いついていないだけですから」
アズールは調子を崩さないように言葉を紡ぐが喉の奥が小さく鳴る。
「本当に、それだけですか?」
「それだけですよ」
嘘だった。
アズールの肌は衣服の下で確実に熱を帯び始めている。
机から立ち上がったアズールはゆっくりと歩を進めてななしの座るソファへと近づく。その足取りはどこか重く、同時に獲物を追い詰めるような粘り気がある。
「アズール先輩……?」
「ななしさん。あなたは、僕たち人魚の『恋』がどのようなものか、ご存知ですか?」
「え……? 詳しいことは、あまり」
「人間は愛を囁き、何度も身体を重ねて絆を深めるそうですね。非常に効率が悪く、かつ生ぬるい」
アズールはななしの目の前に膝をつき、見上げるような形でその顔を覗き込む。眼鏡の奥の瞳が怪しく、そして濡れたように光っていた。
「僕たちの種族は、違います。一度の熱で、すべてを終わらせる」
「終わらせる、って……どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味ですよ」
アズールの手がななしの膝の上に置かれた手へと伸びる。手袋越しにも伝わる異常なほどの熱量。ななしは思わず息を呑むが、その手を引くことはしなかった。
アズールの長い指がななしの指の隙間に滑り込んでいく。絡み合う指先から、どろりとした感情が流れ込んでくるような錯覚を覚える。
「冷たいですね、あなたの手は。僕の熱をすべて吸い取ってしまいそうだ」
「アズール先輩の手、すごく熱い……。本当に、風邪じゃないんですか?」
「風邪ならどんなに楽だったか。これは病です。あなたという存在に感染してしまった不治の病ですよ」
アズールの息遣いが確実に荒くなっていく。
短い呼吸が白い歯の隙間から漏れた。
その胸の奥では心臓が爆発せんばかりの鼓動を刻んでいる。
彼にとってななしに触れるという行為は、己の生存本能を削り取る毒そのもの。しかし一度火がついた本能は、もはや理性のブレーキを受け付けない。
「ななしさん、もっと近くへ」
アズールはななしの体を抱きよせるようにしてソファに押し込んだ。
空気の密度が一気に跳ね上がる。
「あ……アズール、先輩……」
「静かに。僕の声を、あなたの耳の奥まで響かせてください」
アズールは手袋を口で咥えて乱暴に引き抜き床へと落とした。露わになった素肌がななしの頬に触れる。じわりと皮膚が吸い付くような独特の感触がななしの肌に伝わる。それは滑らかでありながら、どこか執拗に獲物を離さない強固な意志を感じさせた。
ねっとりと粘り気を帯びた音が、静寂の室内に漏れ聞こえる。アズールがななしの首筋に額を埋め、深く呼吸を吸い込んだ音。
「ああ、いい匂いだ。陸の香りと、あなたの体温が混ざり合って僕を狂わせる」
「アズール先輩、苦しい……です」
「苦しい? 僕の胸の苦しさに比べれば、そんなものは些細なことです。見てください、僕の身体があなたを求めてこんなに変形しようとしている」
アズールの背中が衣服の下で不自然に蠢く。人間の形を維持するための魔法薬が溢れ出る本能の熱によって融解し始めている。
アズールはななしの手首を掴み自身の胸へと導いた。ドクドクと尋常ではない速さで脈打つ心臓の音がななしの手のひらを突き抜けて脳髄へと響く。
「聞こえますか? これが、あなたに恋をした男の最期の断末魔です」
「最期って……そんな不吉なこと言わないで」
「不吉? いいえ、これは歓喜ですよ。僕はあなたにすべてを捧げ、あなたの中で溶けてしまいたい」
アズールの唇がななしの唇へと重なる。
短い拒絶の隙間を縫うように湿った舌が滑り込んできた。
執拗に粘膜を貪る音が静まり返った部屋に響き渡る。
アズールの口内は驚くほど熱く、そしてどこか海の味がした。
ななしの舌を絡め取り、吸い上げ、己の胎内に取り込もうとするかのような激しい抱擁。じゅるり…と蜜を啜るような卑猥な擬音が二人の輪郭を曖昧にしていく。
「ん……、ななし、さん……っ」
唇が離れた瞬間アズールの口元から一筋の銀糸が引いた。その瞳は完全に視界を失っているかのように、ただ目の前の標的だけを凝視している。
「もう、戻れません。あなたも、僕も」
アズールの手がななしのシャツのボタンへと、震えながらも確実な足取りで伸びていく。その指先が触れるたび、じわじわとした熱がななしの身体へと伝染し二人の境界線は完全に失われようとしていた。
「待って、アズール先輩……最期って、どういうことですか?」
激しく乱れる呼吸の合間、 ななしの問いかけが夜の静寂に響く。
アズールはボタンを外す手をぴたりと止め、前髪の隙間から瞳を向けた。
「知りたいですか? ならば教えてあげましょう。僕たち人魚の、特にタコの種族が生涯でただ一度だけ行う求愛の結末を」
アズールはななしの首筋にそっと手を添え、親指でその皮膚をなぞる。じわりと吸い付くような熱が、再びななしの肌を侵食していく。
「僕たちは、命のすべてを次世代へと繋ぐために作られている。ただ一度の交わりで、すべての生殖エネルギーを使い果たし……その後は急速に衰え、死を迎えるのです」
「死、ぬ……?」
「ええ。内臓は退化し、自ら食事を摂ることもやめ、ただ消え去るのを待つだけ。まさに命を賭した狂気の求愛行動。どうですか? 怯えて僕を拒絶しますか?」
アズールは自嘲気味に微笑むが、その眼差しは ななしを絶対に逃さないという執念に満ちていた。
一度点いた命の導火線はもう誰にも消せない。
死という絶対の破滅が未来に待っていようとも、目の前の少女を抱きたいという野生の衝動が、彼の優秀な頭脳を完全に支配していた。
「そんなの……嫌です。アズール先輩がいなくなるなんて、絶対に嫌」
「……ずるい人だ。そんな顔で僕を見ないでください。あなたのその言葉だけで、僕の心臓は破裂しそうだというのに」
アズールは ななしの体を組み敷き、ソファのクッションへと深く沈め込む。衣服が擦れ合う微かな音が妙に生々しく鼓膜を揺らした。
「ですがもう止められない。僕の身体は、あなたを迎え入れるために、とっくに人間の枠を壊し始めている」
アズールの肌が微かに青みがかった神秘的な光を帯びる。
衣服の隙間から覗く肌には、吸盤の紋様が浮き上がり、波打つように収縮を繰り返していた。じゅるりとアズールの肌から分泌される濃厚な粘液が二人の間の空気を濡らしていく。
「あ……、身体が、熱い……」
「僕の熱です。あなたを僕の領域へ引きずり込むための」
アズールは ななしのシャツの隙間から手を滑り込ませ、その脇腹を、背中を、容赦なく愛撫していく。
素肌と素肌が擦れ合うたび吸盤が密着しては離れる淫らな音が室内に響いた。それは人間とは明らかに異なる異形の愛。
「ん……っ、アズール、先輩……!」
「声を堪えないで。僕があなたをどれほど求めているか、その声で、身体で、すべて証明してください」
アズールの唇が再びななしの唇を塞ぐ。
激しく不規則な咀嚼音が響き、お互いの唾液が混ざり合って顎のラインを伝い落ちた。アズールの舌はまるでななしの水分をすべて搾り取ろうとするかのように、口内の隅々までを乱暴に、かつ緻密に舐め回していく。
部屋の温度は二人の体温とアズールから溢れ出る魔力によって限界まで跳ね上がっていた。
「はぁ、はぁ……っ、ななし、さん……」
アズールはななしの首筋に何度も、痕を刻みつけるように深く口づけを落としていく。皮膚を強く吸い上げる音が響くたび、ななしの白い肌に鮮やかな痕が浮かび上がった。それはまるで触手に絡め取られた証拠のようだった。
「これで、あなたは僕のものだ。たとえ明日、僕の身体が朽ち果てようとも、この記憶だけはあなたの魂に刻まれる」
アズールは今や恐怖ではなく、至上の恍惚感で満たされていた。
計算高く、常に損得勘定で生きてきた彼が、初めて自らの命を失ってでも欲しいと思える存在に出会えた喜び。死の恐怖すらも、 ななしの体温に触れている瞬間だけは極上の甘みへと昇華していく。
「アズール先輩、わたし、は……」
「言わないでください。拒絶の言葉なら聞きたくない。……いや、たとえ拒まれても僕はあなたを離しませんが」
アズールはななしの手首を両手でしっかりと掴み、頭の上へと固定する。逃げ場を失った ななしの視界に、情欲と本能で完全に濡れそぼったアズールの顔が迫る。
二人の密着した境界線から、さらに濃厚な粘り気を帯びた音が漏れ出た。
衣服の障壁はもはや意味をなさず、お互いの肌の熱がダイレクトに濃密に混ざり合っていく。アズールの長い指が ななしの太ももを割り、その奥へと侵入していく。
「ああ……温かい。人間の身体は、どうしてこんなに、僕を狂わせるほど温かいのでしょう」
アズールの瞳から一滴の涙が零れ落ち、 ななしの頬を濡らした。
それは歓喜の涙か、それとも迫り来る終わりへの哀切か。
確かなのは二人が今、命の境界線を越えて二度と戻れない海の底という名の絶望と歓喜の渦へ沈み込んでいるということだけだった。
「僕の最初で最期の熱を、すべてあなたに捧げます……ななしさん」
夜が明ける気配はまだない。
底の知れない海の中で、二人の抱擁はただひたすらに速度を上げていくのだった。
アズールは書類をめくる手を止めずに眼鏡のブリッジを押し上げる。その傍、ソファに腰掛けたななしは手元のハーブティーのカップを見つめたまま動かない。
「随分と熱心に見つめるのですね、ななしさん。僕の顔に何かついていますか?」
「いえ、そういうわけじゃ……。ただアズール先輩、最近少し様子が変だから」
「心外ですね。僕はいつも通り完璧にラウンジの経営と勉学を両立させていますよ。何か不満でも?」
アズールはふっと皮肉げな笑みを浮かべるが、その視線はどこか落ち着かない。書類を片付ける指先がいつもより僅かに震えている。
「不満なんてないです。でもなんだか最近顔色が良くない気がして……体調が悪いなら無理をしないで休んでください」
「……おや鋭い。ですがただの寝不足です。人魚の生態と人間の身体のギャップに少々脳が追いついていないだけですから」
アズールは調子を崩さないように言葉を紡ぐが喉の奥が小さく鳴る。
「本当に、それだけですか?」
「それだけですよ」
嘘だった。
アズールの肌は衣服の下で確実に熱を帯び始めている。
机から立ち上がったアズールはゆっくりと歩を進めてななしの座るソファへと近づく。その足取りはどこか重く、同時に獲物を追い詰めるような粘り気がある。
「アズール先輩……?」
「ななしさん。あなたは、僕たち人魚の『恋』がどのようなものか、ご存知ですか?」
「え……? 詳しいことは、あまり」
「人間は愛を囁き、何度も身体を重ねて絆を深めるそうですね。非常に効率が悪く、かつ生ぬるい」
アズールはななしの目の前に膝をつき、見上げるような形でその顔を覗き込む。眼鏡の奥の瞳が怪しく、そして濡れたように光っていた。
「僕たちの種族は、違います。一度の熱で、すべてを終わらせる」
「終わらせる、って……どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味ですよ」
アズールの手がななしの膝の上に置かれた手へと伸びる。手袋越しにも伝わる異常なほどの熱量。ななしは思わず息を呑むが、その手を引くことはしなかった。
アズールの長い指がななしの指の隙間に滑り込んでいく。絡み合う指先から、どろりとした感情が流れ込んでくるような錯覚を覚える。
「冷たいですね、あなたの手は。僕の熱をすべて吸い取ってしまいそうだ」
「アズール先輩の手、すごく熱い……。本当に、風邪じゃないんですか?」
「風邪ならどんなに楽だったか。これは病です。あなたという存在に感染してしまった不治の病ですよ」
アズールの息遣いが確実に荒くなっていく。
短い呼吸が白い歯の隙間から漏れた。
その胸の奥では心臓が爆発せんばかりの鼓動を刻んでいる。
彼にとってななしに触れるという行為は、己の生存本能を削り取る毒そのもの。しかし一度火がついた本能は、もはや理性のブレーキを受け付けない。
「ななしさん、もっと近くへ」
アズールはななしの体を抱きよせるようにしてソファに押し込んだ。
空気の密度が一気に跳ね上がる。
「あ……アズール、先輩……」
「静かに。僕の声を、あなたの耳の奥まで響かせてください」
アズールは手袋を口で咥えて乱暴に引き抜き床へと落とした。露わになった素肌がななしの頬に触れる。じわりと皮膚が吸い付くような独特の感触がななしの肌に伝わる。それは滑らかでありながら、どこか執拗に獲物を離さない強固な意志を感じさせた。
ねっとりと粘り気を帯びた音が、静寂の室内に漏れ聞こえる。アズールがななしの首筋に額を埋め、深く呼吸を吸い込んだ音。
「ああ、いい匂いだ。陸の香りと、あなたの体温が混ざり合って僕を狂わせる」
「アズール先輩、苦しい……です」
「苦しい? 僕の胸の苦しさに比べれば、そんなものは些細なことです。見てください、僕の身体があなたを求めてこんなに変形しようとしている」
アズールの背中が衣服の下で不自然に蠢く。人間の形を維持するための魔法薬が溢れ出る本能の熱によって融解し始めている。
アズールはななしの手首を掴み自身の胸へと導いた。ドクドクと尋常ではない速さで脈打つ心臓の音がななしの手のひらを突き抜けて脳髄へと響く。
「聞こえますか? これが、あなたに恋をした男の最期の断末魔です」
「最期って……そんな不吉なこと言わないで」
「不吉? いいえ、これは歓喜ですよ。僕はあなたにすべてを捧げ、あなたの中で溶けてしまいたい」
アズールの唇がななしの唇へと重なる。
短い拒絶の隙間を縫うように湿った舌が滑り込んできた。
執拗に粘膜を貪る音が静まり返った部屋に響き渡る。
アズールの口内は驚くほど熱く、そしてどこか海の味がした。
ななしの舌を絡め取り、吸い上げ、己の胎内に取り込もうとするかのような激しい抱擁。じゅるり…と蜜を啜るような卑猥な擬音が二人の輪郭を曖昧にしていく。
「ん……、ななし、さん……っ」
唇が離れた瞬間アズールの口元から一筋の銀糸が引いた。その瞳は完全に視界を失っているかのように、ただ目の前の標的だけを凝視している。
「もう、戻れません。あなたも、僕も」
アズールの手がななしのシャツのボタンへと、震えながらも確実な足取りで伸びていく。その指先が触れるたび、じわじわとした熱がななしの身体へと伝染し二人の境界線は完全に失われようとしていた。
「待って、アズール先輩……最期って、どういうことですか?」
激しく乱れる呼吸の合間、 ななしの問いかけが夜の静寂に響く。
アズールはボタンを外す手をぴたりと止め、前髪の隙間から瞳を向けた。
「知りたいですか? ならば教えてあげましょう。僕たち人魚の、特にタコの種族が生涯でただ一度だけ行う求愛の結末を」
アズールはななしの首筋にそっと手を添え、親指でその皮膚をなぞる。じわりと吸い付くような熱が、再びななしの肌を侵食していく。
「僕たちは、命のすべてを次世代へと繋ぐために作られている。ただ一度の交わりで、すべての生殖エネルギーを使い果たし……その後は急速に衰え、死を迎えるのです」
「死、ぬ……?」
「ええ。内臓は退化し、自ら食事を摂ることもやめ、ただ消え去るのを待つだけ。まさに命を賭した狂気の求愛行動。どうですか? 怯えて僕を拒絶しますか?」
アズールは自嘲気味に微笑むが、その眼差しは ななしを絶対に逃さないという執念に満ちていた。
一度点いた命の導火線はもう誰にも消せない。
死という絶対の破滅が未来に待っていようとも、目の前の少女を抱きたいという野生の衝動が、彼の優秀な頭脳を完全に支配していた。
「そんなの……嫌です。アズール先輩がいなくなるなんて、絶対に嫌」
「……ずるい人だ。そんな顔で僕を見ないでください。あなたのその言葉だけで、僕の心臓は破裂しそうだというのに」
アズールは ななしの体を組み敷き、ソファのクッションへと深く沈め込む。衣服が擦れ合う微かな音が妙に生々しく鼓膜を揺らした。
「ですがもう止められない。僕の身体は、あなたを迎え入れるために、とっくに人間の枠を壊し始めている」
アズールの肌が微かに青みがかった神秘的な光を帯びる。
衣服の隙間から覗く肌には、吸盤の紋様が浮き上がり、波打つように収縮を繰り返していた。じゅるりとアズールの肌から分泌される濃厚な粘液が二人の間の空気を濡らしていく。
「あ……、身体が、熱い……」
「僕の熱です。あなたを僕の領域へ引きずり込むための」
アズールは ななしのシャツの隙間から手を滑り込ませ、その脇腹を、背中を、容赦なく愛撫していく。
素肌と素肌が擦れ合うたび吸盤が密着しては離れる淫らな音が室内に響いた。それは人間とは明らかに異なる異形の愛。
「ん……っ、アズール、先輩……!」
「声を堪えないで。僕があなたをどれほど求めているか、その声で、身体で、すべて証明してください」
アズールの唇が再びななしの唇を塞ぐ。
激しく不規則な咀嚼音が響き、お互いの唾液が混ざり合って顎のラインを伝い落ちた。アズールの舌はまるでななしの水分をすべて搾り取ろうとするかのように、口内の隅々までを乱暴に、かつ緻密に舐め回していく。
部屋の温度は二人の体温とアズールから溢れ出る魔力によって限界まで跳ね上がっていた。
「はぁ、はぁ……っ、ななし、さん……」
アズールはななしの首筋に何度も、痕を刻みつけるように深く口づけを落としていく。皮膚を強く吸い上げる音が響くたび、ななしの白い肌に鮮やかな痕が浮かび上がった。それはまるで触手に絡め取られた証拠のようだった。
「これで、あなたは僕のものだ。たとえ明日、僕の身体が朽ち果てようとも、この記憶だけはあなたの魂に刻まれる」
アズールは今や恐怖ではなく、至上の恍惚感で満たされていた。
計算高く、常に損得勘定で生きてきた彼が、初めて自らの命を失ってでも欲しいと思える存在に出会えた喜び。死の恐怖すらも、 ななしの体温に触れている瞬間だけは極上の甘みへと昇華していく。
「アズール先輩、わたし、は……」
「言わないでください。拒絶の言葉なら聞きたくない。……いや、たとえ拒まれても僕はあなたを離しませんが」
アズールはななしの手首を両手でしっかりと掴み、頭の上へと固定する。逃げ場を失った ななしの視界に、情欲と本能で完全に濡れそぼったアズールの顔が迫る。
二人の密着した境界線から、さらに濃厚な粘り気を帯びた音が漏れ出た。
衣服の障壁はもはや意味をなさず、お互いの肌の熱がダイレクトに濃密に混ざり合っていく。アズールの長い指が ななしの太ももを割り、その奥へと侵入していく。
「ああ……温かい。人間の身体は、どうしてこんなに、僕を狂わせるほど温かいのでしょう」
アズールの瞳から一滴の涙が零れ落ち、 ななしの頬を濡らした。
それは歓喜の涙か、それとも迫り来る終わりへの哀切か。
確かなのは二人が今、命の境界線を越えて二度と戻れない海の底という名の絶望と歓喜の渦へ沈み込んでいるということだけだった。
「僕の最初で最期の熱を、すべてあなたに捧げます……ななしさん」
夜が明ける気配はまだない。
底の知れない海の中で、二人の抱擁はただひたすらに速度を上げていくのだった。
