スカラビア
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熱砂の国を思わせるスカラビア寮の夜は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。
宴の余韻が漂う廊下を抜け、ななしは一人バルコニーへと足を進めた。空には異世界の月が冷たく、けれどどこか幻想的な光を投げかけている。
「……いつか、この光も見られなくなるんだ」
呟きは、熱を孕んだ夜風にかき消された。
元の世界へ帰る手段を探す日々。ここでの生活が楽しくなればなるほど、心の中に冷たい楔が打ち込まれていく。
深入りしてはいけない。誰かを特別に思ってはいけない。
そう自分に言い聞かせ、感情を幾重にも重なるベールの奥に押し込めてきた。
「ななし! こんなところで何してるんだ? 迷子にでもなったか?」
背後から響いたのは鈴の音のように明るい、けれどどこか包容力のある声。振り返るとそこにはスカラビアの寮長、カリム・アルアジームが立っていた。飾られた宝石が月光を反射し、彼の赤い瞳をより一層鮮やかに縁取っている。
「カリム先輩。……少し、風に当たりたかっただけです」
「そうか。けど、夜の砂漠の風は案外冷えるぞ。ほら、これでも羽織ってろ」
カリムは自分の肩にかけていた、金糸の刺繍が施された豪奢なショールを、ななしの肩にふわりと掛けた。
布地からは、彼が愛用している甘く芳醇な香りが立ち上る。
まるで彼自身に包み込まれているような錯覚に、ななしの心臓が小さく跳ねた。
「ありがとうございます。でも、先輩は寒くないですか?」
「オレは平気だ! それより、お前が風邪を引いたら大変だろ?」
カリムはそのまま、ななしの隣に並んで手すりに身を乗り出した。
二人の距離が近づき、肩がわずかに触れ合う。
その小さな接触さえも今のななしには毒で、彼女はわずかに身を引こうとした。だがそれを許さないように、カリムの大きな手がななしの腕を優しく、けれど確実に捉える。
「……ななし、何か悩み事か? お前、さっきからずっと遠くの砂丘ばっかり見てるな」
「そんなことないですよ。……ただ、今日の宴が楽しかったなって」
「うーん……。お前がそういう寂しそうな顔をする時は、大抵ひとりで何かを溜め込んでる時な気がするんだが、違うか?」
カリムの瞳は、まるで魔法の洞窟に隠された真実を見抜く宝玉のように、真っ直ぐにななしを射抜いた。
その純粋すぎる視線に耐えきれず、ななしは視線を伏せる。
「……わたし、いつかこの場所から、いなくなるかもしれないから。だから、あんまり幸せになりすぎるのが、怖いんです」
「……そうか。お前はいつか、自分の場所に帰らなきゃいけないんだもんな」
カリムの声が一瞬だけ沈んだ。
いつも太陽のように笑っている彼の表情に、初めて見るような暗い影が差す。だが、彼はすぐにその手をななしの頬へと伸ばした。
少しだけカサついた指先が、宝物に触れるような手つきで肌をなぞる。
「だったらさ、今はこの熱を覚えておこうぜ。オレがここにいて、お前がここにいる。お前が帰るその時まで、オレが全部の時間を特別な魔法に変えてやるから」
「カリム先輩……」
「ななしの手、冷たいな。オレが温めてやる」
カリムは両手でななしの右手を包み込む。
彼の体温はまるで魔法のランプから溢れ出す熱のように高く、触れられている場所から心臓へと直接熱が流れ込んでくる。
「……あったかいです、先輩」
「そりゃよかった! でも、オレの胸の中はもっとあったかいぞ。……お前を見てると、砂嵐の中に放り出されたみたいに息ができなくなるんだ」
カリムの顔が、ゆっくりと近づいてくる。
夜の帳が降りたバルコニーで、二人の吐息が混ざり合う。
ななしは、自らかけた心の封印が、カリムの放つ熱に焼かれて溶けていくのを、ただ無力に感じていた。
バルコニーに差し込む月光は、まるで魔法の絨毯が空を駆ける時に振り撒く星屑のように、二人の足元を白く照らしていた。
カリムの腕の中に閉じ込められたまま、ななしは浅い呼吸を繰り返す。一度重なった唇が離れた後も、そこには痺れるような感覚が残り、彼の熱から逃れる術を失わせていた。
「……ななし、そんなに震えて、怖いか? それともオレと同じで……胸がいっぱいなのか?」
「わかりません。……でも先輩の心臓の音が、すごく大きく聞こえます」
カリムはふっと目を細めると、ななしの腰を引き寄せ、自身の胸板に彼女を押し当てた。
豪華な金色の装飾品が肌に触れて冷たいはずなのに、その奥にある鼓動は砂漠の太陽よりも激しく打ち鳴らされている。
「好きな奴をこうして抱きしめてて、平気でいられるわけないだろ。……なあ、お前はさっき『いつかお別れが来る』って言ったけど。もし、オレが魔法でお前をどこへも行かせないようにしたら、お前はオレを恨むか?」
「魔法、ですか……」
「ああ。宝物庫にあるどんな財宝よりも、オレはお前が欲しい。お前をベッドに閉じ込めて、一生可愛がれたら……なんて、そんなこと考えてるオレは、悪い奴か?」
冗談めかした口調の中に逃れられない本気が混じる。
カリムの腕輪が、ななしの背中に回された腕の中でカチリと硬質な音を立てた。彼の瞳は、自由な少年のような無邪気さと、すべてを手に入れようとする支配者の傲慢さが混ざり合い、妖しく光っている。
「……カリム先輩は優しい人だから、そんなことしないって信じてます」
「ははっ、信頼されてんなぁ。……けどなななし、男の独占欲を甘く見ない方がいいぞ」
カリムの手が、ななしのうなじへと滑り込む。
指先が彼女のうなじを愛撫するように動き、背筋にゾクりとした甘い震えを走らせた。視界が熱で霞み、彼自身の瑞々しい肌の匂いが混ざり合って充満する。
「あ……っ、先輩……そこ、は」
「気持ちいいか? お前の肌、すごく滑らかで、まるで最高級の絹みたいだ。……もっと近くで、お前の全部を感じたい。誰にも邪魔されない場所でさ」
カリムはななしの耳朶を軽く食み、甘い吐息を吹きかけた。
耳元で囁かれる彼の声は普段の快活なものではなく、一人の男が獲物を追い詰めるような、低く掠れた調べに変わっている。
「……中に行こう、ななし。このままじゃ、オレ、理性が焼き切れちまいそうだ」
「でも……わたし、」
「帰さないって言っただろ? ……今夜だけは元の世界のことなんて忘れて、オレだけの熱に溶けてくれ」
カリムはななしの細い手首を掴むと、拒絶を許さない力強さで寝所へと続く重厚な扉へと導いた。絨毯の上を歩く音はどこまでも静かで、それがかえってななしの不安と高揚を煽る。
扉の向こう側は、薄暗いランプの火が揺れる、二人だけの密室。
「ななし、こっちに来い。……お前の溜め込んでるもの、全部オレに吐き出させてくれよ」
大きなベッドの端に腰掛けたカリムが、ななしを膝の間に招き入れる。見上げる彼の瞳には、深い愛着と、それを上回るほどの情欲が渦巻いていた。
逃げ場のない甘美な檻の中で、ななしはついに、自分の中に張り巡らせていた自制という名の鎖が、音を立てて崩れ落ちるのを感じた。
扉が閉まった瞬間、部屋の空気はさらに密度を増した。
揺れるランプの灯火が、壁に映る二人の影を大きく歪ませる。
カリムは膝の間に引き寄せたななしの手を取り、手の甲から指先までを、慈しむように、けれど執拗に唇でなぞった。
「ななし、そんなに唇を噛むなよ。……もっと、お前の声を聞かせてくれ」
「……カリム、先輩。わたし……」
「心配するな。オレが何度でも繋ぎ止めてやるさ」
カリムの大きな手が、ななしの背中のファスナーに指をかける。
布地が滑り落ち、夜の空気が素肌に触れた瞬間、それを上回る熱量でカリムの身体が重なった。
天蓋から垂れ下がる薄衣が二人を包み込み、外界から完全に遮断された、繭のような空間が出来上がる。
「あ……っ、先輩、熱い……息が……」
「……ん、オレもだ。お前の中に、オレの知らないお前がまだ隠れてるんだろ? 全部見せてくれ、ななし」
カリムの唇が、ななしの鎖骨から胸元へと深く沈み込む。
肌に刻まれる吸痕は、まるで彼という存在から逃げられなくなるための呪印のようだった。
ななしは、溜め込んできた孤独も、未来への不安も、すべてがカリムという激しい渦の中に吸い込まれていくのを感じる。
思考は溶け、ただ肌に伝わる彼の体温と、鼓動の速さだけが、今この瞬間が現実であることを証明していた。
「……一生なんて言わない。今、この瞬間だけでいい。お前の全部をオレに預けろ」
「カリム……先輩……っ。だい、すき……です……」
ついに溢れ出した言葉。
それを聞いたカリムの瞳が、一際強く光る。
ななしの涙を指先で拭うと、今度は優しく、けれどどこまでも深く、彼女を求めた。
重なり合う身体。混ざり合う吐息。
それは砂漠の砂が風に舞い、一つに溶け合うような濃密な交わり。
ななしはカリムの首に腕を回し、その背中を強く抱きしめた。
彼の肌に刻まれた、財宝よりも価値のある情熱。
いつか訪れる「さよなら」が、今は遠い砂の彼方の出来事のように思える。
「……いい子だな。そのまま、オレだけを見てろ」
カリムの囁きが、絶頂の中で遠のく意識を繋ぎ止める。彼の髪からこぼれた甘い香りが、痺れとともにななしのすべてを支配した。
窓の外で砂嵐が吹こうとも、世界が変わろうとも。
この帳の内側だけは、二人だけの永遠が刻まれていた。
宴の余韻が漂う廊下を抜け、ななしは一人バルコニーへと足を進めた。空には異世界の月が冷たく、けれどどこか幻想的な光を投げかけている。
「……いつか、この光も見られなくなるんだ」
呟きは、熱を孕んだ夜風にかき消された。
元の世界へ帰る手段を探す日々。ここでの生活が楽しくなればなるほど、心の中に冷たい楔が打ち込まれていく。
深入りしてはいけない。誰かを特別に思ってはいけない。
そう自分に言い聞かせ、感情を幾重にも重なるベールの奥に押し込めてきた。
「ななし! こんなところで何してるんだ? 迷子にでもなったか?」
背後から響いたのは鈴の音のように明るい、けれどどこか包容力のある声。振り返るとそこにはスカラビアの寮長、カリム・アルアジームが立っていた。飾られた宝石が月光を反射し、彼の赤い瞳をより一層鮮やかに縁取っている。
「カリム先輩。……少し、風に当たりたかっただけです」
「そうか。けど、夜の砂漠の風は案外冷えるぞ。ほら、これでも羽織ってろ」
カリムは自分の肩にかけていた、金糸の刺繍が施された豪奢なショールを、ななしの肩にふわりと掛けた。
布地からは、彼が愛用している甘く芳醇な香りが立ち上る。
まるで彼自身に包み込まれているような錯覚に、ななしの心臓が小さく跳ねた。
「ありがとうございます。でも、先輩は寒くないですか?」
「オレは平気だ! それより、お前が風邪を引いたら大変だろ?」
カリムはそのまま、ななしの隣に並んで手すりに身を乗り出した。
二人の距離が近づき、肩がわずかに触れ合う。
その小さな接触さえも今のななしには毒で、彼女はわずかに身を引こうとした。だがそれを許さないように、カリムの大きな手がななしの腕を優しく、けれど確実に捉える。
「……ななし、何か悩み事か? お前、さっきからずっと遠くの砂丘ばっかり見てるな」
「そんなことないですよ。……ただ、今日の宴が楽しかったなって」
「うーん……。お前がそういう寂しそうな顔をする時は、大抵ひとりで何かを溜め込んでる時な気がするんだが、違うか?」
カリムの瞳は、まるで魔法の洞窟に隠された真実を見抜く宝玉のように、真っ直ぐにななしを射抜いた。
その純粋すぎる視線に耐えきれず、ななしは視線を伏せる。
「……わたし、いつかこの場所から、いなくなるかもしれないから。だから、あんまり幸せになりすぎるのが、怖いんです」
「……そうか。お前はいつか、自分の場所に帰らなきゃいけないんだもんな」
カリムの声が一瞬だけ沈んだ。
いつも太陽のように笑っている彼の表情に、初めて見るような暗い影が差す。だが、彼はすぐにその手をななしの頬へと伸ばした。
少しだけカサついた指先が、宝物に触れるような手つきで肌をなぞる。
「だったらさ、今はこの熱を覚えておこうぜ。オレがここにいて、お前がここにいる。お前が帰るその時まで、オレが全部の時間を特別な魔法に変えてやるから」
「カリム先輩……」
「ななしの手、冷たいな。オレが温めてやる」
カリムは両手でななしの右手を包み込む。
彼の体温はまるで魔法のランプから溢れ出す熱のように高く、触れられている場所から心臓へと直接熱が流れ込んでくる。
「……あったかいです、先輩」
「そりゃよかった! でも、オレの胸の中はもっとあったかいぞ。……お前を見てると、砂嵐の中に放り出されたみたいに息ができなくなるんだ」
カリムの顔が、ゆっくりと近づいてくる。
夜の帳が降りたバルコニーで、二人の吐息が混ざり合う。
ななしは、自らかけた心の封印が、カリムの放つ熱に焼かれて溶けていくのを、ただ無力に感じていた。
バルコニーに差し込む月光は、まるで魔法の絨毯が空を駆ける時に振り撒く星屑のように、二人の足元を白く照らしていた。
カリムの腕の中に閉じ込められたまま、ななしは浅い呼吸を繰り返す。一度重なった唇が離れた後も、そこには痺れるような感覚が残り、彼の熱から逃れる術を失わせていた。
「……ななし、そんなに震えて、怖いか? それともオレと同じで……胸がいっぱいなのか?」
「わかりません。……でも先輩の心臓の音が、すごく大きく聞こえます」
カリムはふっと目を細めると、ななしの腰を引き寄せ、自身の胸板に彼女を押し当てた。
豪華な金色の装飾品が肌に触れて冷たいはずなのに、その奥にある鼓動は砂漠の太陽よりも激しく打ち鳴らされている。
「好きな奴をこうして抱きしめてて、平気でいられるわけないだろ。……なあ、お前はさっき『いつかお別れが来る』って言ったけど。もし、オレが魔法でお前をどこへも行かせないようにしたら、お前はオレを恨むか?」
「魔法、ですか……」
「ああ。宝物庫にあるどんな財宝よりも、オレはお前が欲しい。お前をベッドに閉じ込めて、一生可愛がれたら……なんて、そんなこと考えてるオレは、悪い奴か?」
冗談めかした口調の中に逃れられない本気が混じる。
カリムの腕輪が、ななしの背中に回された腕の中でカチリと硬質な音を立てた。彼の瞳は、自由な少年のような無邪気さと、すべてを手に入れようとする支配者の傲慢さが混ざり合い、妖しく光っている。
「……カリム先輩は優しい人だから、そんなことしないって信じてます」
「ははっ、信頼されてんなぁ。……けどなななし、男の独占欲を甘く見ない方がいいぞ」
カリムの手が、ななしのうなじへと滑り込む。
指先が彼女のうなじを愛撫するように動き、背筋にゾクりとした甘い震えを走らせた。視界が熱で霞み、彼自身の瑞々しい肌の匂いが混ざり合って充満する。
「あ……っ、先輩……そこ、は」
「気持ちいいか? お前の肌、すごく滑らかで、まるで最高級の絹みたいだ。……もっと近くで、お前の全部を感じたい。誰にも邪魔されない場所でさ」
カリムはななしの耳朶を軽く食み、甘い吐息を吹きかけた。
耳元で囁かれる彼の声は普段の快活なものではなく、一人の男が獲物を追い詰めるような、低く掠れた調べに変わっている。
「……中に行こう、ななし。このままじゃ、オレ、理性が焼き切れちまいそうだ」
「でも……わたし、」
「帰さないって言っただろ? ……今夜だけは元の世界のことなんて忘れて、オレだけの熱に溶けてくれ」
カリムはななしの細い手首を掴むと、拒絶を許さない力強さで寝所へと続く重厚な扉へと導いた。絨毯の上を歩く音はどこまでも静かで、それがかえってななしの不安と高揚を煽る。
扉の向こう側は、薄暗いランプの火が揺れる、二人だけの密室。
「ななし、こっちに来い。……お前の溜め込んでるもの、全部オレに吐き出させてくれよ」
大きなベッドの端に腰掛けたカリムが、ななしを膝の間に招き入れる。見上げる彼の瞳には、深い愛着と、それを上回るほどの情欲が渦巻いていた。
逃げ場のない甘美な檻の中で、ななしはついに、自分の中に張り巡らせていた自制という名の鎖が、音を立てて崩れ落ちるのを感じた。
扉が閉まった瞬間、部屋の空気はさらに密度を増した。
揺れるランプの灯火が、壁に映る二人の影を大きく歪ませる。
カリムは膝の間に引き寄せたななしの手を取り、手の甲から指先までを、慈しむように、けれど執拗に唇でなぞった。
「ななし、そんなに唇を噛むなよ。……もっと、お前の声を聞かせてくれ」
「……カリム、先輩。わたし……」
「心配するな。オレが何度でも繋ぎ止めてやるさ」
カリムの大きな手が、ななしの背中のファスナーに指をかける。
布地が滑り落ち、夜の空気が素肌に触れた瞬間、それを上回る熱量でカリムの身体が重なった。
天蓋から垂れ下がる薄衣が二人を包み込み、外界から完全に遮断された、繭のような空間が出来上がる。
「あ……っ、先輩、熱い……息が……」
「……ん、オレもだ。お前の中に、オレの知らないお前がまだ隠れてるんだろ? 全部見せてくれ、ななし」
カリムの唇が、ななしの鎖骨から胸元へと深く沈み込む。
肌に刻まれる吸痕は、まるで彼という存在から逃げられなくなるための呪印のようだった。
ななしは、溜め込んできた孤独も、未来への不安も、すべてがカリムという激しい渦の中に吸い込まれていくのを感じる。
思考は溶け、ただ肌に伝わる彼の体温と、鼓動の速さだけが、今この瞬間が現実であることを証明していた。
「……一生なんて言わない。今、この瞬間だけでいい。お前の全部をオレに預けろ」
「カリム……先輩……っ。だい、すき……です……」
ついに溢れ出した言葉。
それを聞いたカリムの瞳が、一際強く光る。
ななしの涙を指先で拭うと、今度は優しく、けれどどこまでも深く、彼女を求めた。
重なり合う身体。混ざり合う吐息。
それは砂漠の砂が風に舞い、一つに溶け合うような濃密な交わり。
ななしはカリムの首に腕を回し、その背中を強く抱きしめた。
彼の肌に刻まれた、財宝よりも価値のある情熱。
いつか訪れる「さよなら」が、今は遠い砂の彼方の出来事のように思える。
「……いい子だな。そのまま、オレだけを見てろ」
カリムの囁きが、絶頂の中で遠のく意識を繋ぎ止める。彼の髪からこぼれた甘い香りが、痺れとともにななしのすべてを支配した。
窓の外で砂嵐が吹こうとも、世界が変わろうとも。
この帳の内側だけは、二人だけの永遠が刻まれていた。
