ハーツラビュル
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ハーツラビュル寮長室。
重厚なデスクには完璧に整頓された文房具と二人分の教科書が並んでいる。窓の外には寮自慢の薔薇園が広がっているが、今のリドルの視界には隣に座るななしの横顔しか映っていなかった。
「リドル先輩、ここの魔法史の記述……やっぱり少し自信がないです」
「どれだい。……ふむ。論理の組み立ては悪くないけれど、この時代の背景説明が不足しているね。ボクが手本を書くから、よく見ておくといい」
リドルはペンを執り、さらさらと流麗な文字を書き込んでいく。
教える口調はいつものように厳格だが、その距離は寮生たちが見れば驚くほどに近い。
ななしの髪がリドルの肩に触れるたび、彼は一瞬だけ筆を止め、小さく息を呑む。
「……これでよし。……ななし? 聞いているのかい」
「あ、すみません。……リドル先輩の教え方、すごく分かりやすいなと思って」
「……当たり前だろう。ボクがどれだけ予習に時間をかけていると思っているんだ」
リドルはふいと顔を背けた。
その耳の端が、彼の髪よりも鮮やかな緋色に染まっていく。
付き合ってからというもの、彼は恋人という未知の役割に、彼なりの全力で挑んでいた。
だが、参考書に載っているような正しい手順が分からない。
彼は先ほどから、ななしの柔らかな唇を何度も盗み見ては、心臓の鼓動を早めていた。
(……今、ボクたちは恋人同士として、この部屋に二人きりでいる。これは、その……口づけ、というものをするのに不適切な状況ではないはずだ。だが、どう切り出せばいい? 許可を求めるべきか、それとも……)
リドルの思考は、魔法式の構築よりも複雑に絡み合っていた。膝の上に置かれた彼の左手はぎゅっと握りしめられる。
真面目すぎるがゆえの葛藤。
その熱は狭い室内でじわじわと密度を増していく。
「リドル先輩、大丈夫ですか? なんだかお顔が少し赤いような……少し休みますか?」
「なっ……! 休憩の時間にはまだ早い。ボクは至って冷静だ!」
「でも、さっきからペンが止まってますよ。……本当に大丈夫ですか?」
ななしが覗き込むように顔を近づける。
リドルの瞳が驚いたように大きく揺れた。
逃げ場のない至近距離。
リドルの鼻腔にななしの微かな体温の匂いが混じり込み、理性がぷつりと音を立てて千切れる。
「…………キミのせいだよ、ななし」
「え……?」
「キミがボクの決めたスケジュールを、規律を、全部かき乱すんだ。……こんなに近くにいて、ボクが何も考えずにいられると思っているのかい?」
リドルの声が低く湿り気を帯びる。
彼は握りしめていた手を開き、震える指先でななしの頬を包み込んだ。彼の掌は驚くほど熱い。
「キミは……ずるい。ボクが言い出せずにいるのを知っていて……」
リドルは視線をさまよわせた後、観念したように視線をななしの唇に固定した。
けれどあと数センチの距離が彼には果てしなく遠い壁のように感じられる。勇気を振り絞ろうとするあまり、彼の呼吸が浅くなっていく。
そんな戸惑いをななしがそっと埋めた。
「……っ!?」
ななしがリドルの首に手を回し、自分から唇を重ねる。柔らかな感触。リドルの思考が真っ白な閃光に飲み込まれた。
リドルの手が驚きでななしの肩を掴む。
だがそれは拒絶ではなく、縋るような強い力のこもった執着。
一度触れてしまえば、今までの躊躇が嘘のようだった。
リドルはななしの顎をくいと持ち上げると、今度は自分から食むように深く何度も角度を変えて重ねていく。
「……ん、……ななし……」
隙間から漏れる彼の吐息は熱く切実だった。
規律正しい彼の世界が侵食されていく。
リドルの舌がななしの唇をなぞり、許しを請うように支配的に内側を求める。
やがて唇が離れた時、リドルの瞳は潤み、その視線は熱に浮かされたように濃密だった。
「……不意打ちだなんて、ルール違反だ。ボクのプライドが、……許さない」
そう言いながらも、リドルはななしを離そうとしない。むしろ、より強く体を自分の胸へと引き寄せた。
心臓の音がななしの背中を通じてトクトクと激しく響く。
「……次は、ボクのやり方で……いいかい?」
リドルの指がななしの髪を愛おしげに梳き、再び顔を寄せてくる。
彼の新しい法律は、もう誰にも、彼自身にも止められそうになかった。
重厚なデスクには完璧に整頓された文房具と二人分の教科書が並んでいる。窓の外には寮自慢の薔薇園が広がっているが、今のリドルの視界には隣に座るななしの横顔しか映っていなかった。
「リドル先輩、ここの魔法史の記述……やっぱり少し自信がないです」
「どれだい。……ふむ。論理の組み立ては悪くないけれど、この時代の背景説明が不足しているね。ボクが手本を書くから、よく見ておくといい」
リドルはペンを執り、さらさらと流麗な文字を書き込んでいく。
教える口調はいつものように厳格だが、その距離は寮生たちが見れば驚くほどに近い。
ななしの髪がリドルの肩に触れるたび、彼は一瞬だけ筆を止め、小さく息を呑む。
「……これでよし。……ななし? 聞いているのかい」
「あ、すみません。……リドル先輩の教え方、すごく分かりやすいなと思って」
「……当たり前だろう。ボクがどれだけ予習に時間をかけていると思っているんだ」
リドルはふいと顔を背けた。
その耳の端が、彼の髪よりも鮮やかな緋色に染まっていく。
付き合ってからというもの、彼は恋人という未知の役割に、彼なりの全力で挑んでいた。
だが、参考書に載っているような正しい手順が分からない。
彼は先ほどから、ななしの柔らかな唇を何度も盗み見ては、心臓の鼓動を早めていた。
(……今、ボクたちは恋人同士として、この部屋に二人きりでいる。これは、その……口づけ、というものをするのに不適切な状況ではないはずだ。だが、どう切り出せばいい? 許可を求めるべきか、それとも……)
リドルの思考は、魔法式の構築よりも複雑に絡み合っていた。膝の上に置かれた彼の左手はぎゅっと握りしめられる。
真面目すぎるがゆえの葛藤。
その熱は狭い室内でじわじわと密度を増していく。
「リドル先輩、大丈夫ですか? なんだかお顔が少し赤いような……少し休みますか?」
「なっ……! 休憩の時間にはまだ早い。ボクは至って冷静だ!」
「でも、さっきからペンが止まってますよ。……本当に大丈夫ですか?」
ななしが覗き込むように顔を近づける。
リドルの瞳が驚いたように大きく揺れた。
逃げ場のない至近距離。
リドルの鼻腔にななしの微かな体温の匂いが混じり込み、理性がぷつりと音を立てて千切れる。
「…………キミのせいだよ、ななし」
「え……?」
「キミがボクの決めたスケジュールを、規律を、全部かき乱すんだ。……こんなに近くにいて、ボクが何も考えずにいられると思っているのかい?」
リドルの声が低く湿り気を帯びる。
彼は握りしめていた手を開き、震える指先でななしの頬を包み込んだ。彼の掌は驚くほど熱い。
「キミは……ずるい。ボクが言い出せずにいるのを知っていて……」
リドルは視線をさまよわせた後、観念したように視線をななしの唇に固定した。
けれどあと数センチの距離が彼には果てしなく遠い壁のように感じられる。勇気を振り絞ろうとするあまり、彼の呼吸が浅くなっていく。
そんな戸惑いをななしがそっと埋めた。
「……っ!?」
ななしがリドルの首に手を回し、自分から唇を重ねる。柔らかな感触。リドルの思考が真っ白な閃光に飲み込まれた。
リドルの手が驚きでななしの肩を掴む。
だがそれは拒絶ではなく、縋るような強い力のこもった執着。
一度触れてしまえば、今までの躊躇が嘘のようだった。
リドルはななしの顎をくいと持ち上げると、今度は自分から食むように深く何度も角度を変えて重ねていく。
「……ん、……ななし……」
隙間から漏れる彼の吐息は熱く切実だった。
規律正しい彼の世界が侵食されていく。
リドルの舌がななしの唇をなぞり、許しを請うように支配的に内側を求める。
やがて唇が離れた時、リドルの瞳は潤み、その視線は熱に浮かされたように濃密だった。
「……不意打ちだなんて、ルール違反だ。ボクのプライドが、……許さない」
そう言いながらも、リドルはななしを離そうとしない。むしろ、より強く体を自分の胸へと引き寄せた。
心臓の音がななしの背中を通じてトクトクと激しく響く。
「……次は、ボクのやり方で……いいかい?」
リドルの指がななしの髪を愛おしげに梳き、再び顔を寄せてくる。
彼の新しい法律は、もう誰にも、彼自身にも止められそうになかった。
