スカラビア
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……ななし、そんなに身を乗り出すな。袖が汚れるだろう」
放課後の調理室。スカラビア寮の副寮長ジャミル・バイパーは、隣で熱心に鍋を覗き込む後輩の襟首を、まるで仔猫を扱うように軽く引っ張った。
「あ、すみません! でも、すごく良い香りがしてきたので……。やっぱりジャミル先輩の作る料理は、香りの立ち方が全然違いますね」
ななしは顔を上げ、満面の笑みを向ける。その無防備な表情に、ジャミルは手に持っていたおたまを一瞬止め、ふいと視線を逸らした。
「……当然だ。スパイスの配合には一分の狂いもない。お前も覚えると言ったなら、もう少し集中しろ」
「はい! あ、これ、味見してもいいですか?」
「まだ煮込みが足りな……おい、待て」
ジャミルの制止も聞かず、ななしが小皿に取ったソースに口を寄せようとする。ジャミルは咄嗟にその手首を掴み、自分の指先に少しだけソースを掬い取った。
「火傷するぞ。……ほら」
差し出されたのは、ジャミルの細くしなやかな指先だった。
「えっ……。あ、ありがとうございます」
ななしが躊躇いながらも、その指先にそっと唇を寄せる。ジャミルの指が、ななしの柔らかな舌に触れた。瞬間、ジャミルの背筋に、痺れるような熱が走る。
「……どうだ」
「すごく、美味しいです……! 少しピリッとするけど、後から甘みが追いかけてくる感じで」
「そうか。……ならいい」
ジャミルは濡れた指先を、ななしの視界から隠すように握りしめた。手のひらの中で心臓の鼓動がうるさいほどに跳ねている。
「ななし。週末、予定はあるか」
後片付けを終え二人きりになった調理室で、ジャミルがさりげなく問いかける。
「週末ですか? 特にないです。また何か、料理の特訓ですか?」
「……隣町に、珍しい乾物を扱う店が期間限定で出店しているらしい。お前が以前、甘いものに合うスパイスを知りたいと言っていたのを思い出してな」
ジャミルは腕を組み壁に背を預けた。視線は窓の外、沈みゆく夕日に向けられているが、その意識のすべては目の前の後輩に注がれている。
「えっ! 連れて行ってくれるんですか? 嬉しいです!」
「勘違いするな。お前に教え込む手間を省くためだ。……いいな、土曜の朝、正門前で待ち合わせだ」
「わかりました! 楽しみにしてますね、ジャミル先輩」
ななしが嬉しそうに駆け寄ってきて、ジャミルの腕に軽く触れる。その屈託のない仕草に、ジャミルは心の中で小さな溜息をついた。
(……本当に、自覚がないのか。それとも、わざとなのか)
◇
当日。街は休日を楽しむ人々で溢れ、二人の距離は必然的に近くなる。
「わあ……。ジャミル先輩、見てください! あっちのドライフルーツ、色がすごく綺麗ですよ!」
「はしゃぎすぎるな……ななし、離れるなと言っただろう」
ジャミルはななしの肩を抱き寄せ、自分の体の方へと引き寄せた。薄い衣類越しに伝わる、ななしの柔らかな体温。街行く男たちの視線がななしに注がれるたび、ジャミルの胸の奥には黒く濁った独占欲が渦巻く。
「すみません、つい……。でも、ジャミル先輩が隣にいてくれると、なんだか安心しちゃって」
「……お前は、少しは危機感を持て。俺がどんな気持ちでお前を見ているか……考えたこともないだろう」
ジャミルの声が、人混みの喧騒に紛れて低く響く。
彼はそのまま、抱き寄せた肩から手を滑らせ、ななしの指を絡めるようにして手を握った。
「先輩? 手……」
「……逸れないようにだ。文句があるのか」
「いえ、ないですけど……」
繋がれた手のひらから、じわりと熱が伝わっていく。
ジャミルの内側で理性の壁が少しずつ溶け始めていた。
「ななし。あの店だ。……中に入れば、外よりは静かになるだろう」
目的の店に入ると、芳醇な果実とスパイスの香りが二人を包み込んだ。
ジャミルはななしを店の隅、人目に付きにくい棚の影へと誘う。
「見てください、これ。シナモンと……」
「ななし」
説明を遮るように、ジャミルがななしの耳元で囁いた。
その距離は、もう唇が触れそうなほどに近い。
ななしの大きな瞳が、驚きで見開かれる。
「俺が、わざわざ休日に、手間をかけてお前を連れ出した理由……。本当に、勉強のためだと思っているのか?」
ジャミルの瞳には、調理室で見せる冷静な先輩の面影はなかった。
そこにあるのは、一人の男としての焦れったいほどの渇望。
「俺は、お前が他の奴と話しているのも、他の奴に笑いかけているのも、本当は耐え難い。……お前をこの甘い香りの奥に閉じ込めて、俺だけを見ていればいいと思っている」
「……ジャミル、先輩……」
ななしの頬が朱に染まる。その熱を確認するように、ジャミルは空いた手でななしの頬を優しく撫でた。
「……デートのつもりで誘ったんだが……。お前があまりに鈍すぎて、俺の余裕がもう限界なんだ」
吐息が混じり合う距離で、ジャミルは蕩けるような笑みを浮かべた。
それは毒のように甘く、逃れられない罠のようでもあった。
「……ジャミル、先輩……?」
至近距離で見つめられ、ななしの声が震える。
店内の喧騒は、棚の影に隠れた二人を置き去りにして遠のいていく。
鼻腔をくすぐるシナモンとドライフルーツの重厚な甘さが、ジャミルの熱い吐息と混ざり合い、脳を痺れさせた。
「まだ分からないか。……お前が思うほど、俺は聞き分けの良い先輩じゃない」
ジャミルの指先が、ななしの耳朶から首筋へと、ゆっくりと這うように滑り降りる。触れられた場所から、肌が粟立つような、熱い電気信号が全身に駆け巡った。
ななしは逃げることも忘れ、ただジャミルの瞳の奥にある底なしの深い色に吸い寄せられていた。
「いつもそうだ。俺がどれだけ言葉を尽くしても、視線を送っても、お前は優しい先輩の枠の中に俺を閉じ込める。……なあ、ななし。今、俺の手がどこに触れているか、分かっているか?」
ジャミルの手が、ななしの腰をぐいと引き寄せた。
密着した身体。
彼の心臓の音が、厚い胸板越しにななしの鼓動と同調していく。
「……あつ、いです。ジャミル先輩」
「ああ。俺も、酷く熱い。……全部、お前のせいだ」
ジャミルはななしの肩に額を預け、低く笑った。
その笑い声が身体に響き、ななしは知らず知らずのうちに彼の背中に手を回していた。
指先に触れる、ジャミルのしなやかな筋肉の質感。今はわずかに震えているのが伝わってくる。
「ななし。今ここで、お前を連れ去ってしまいたい。……誰の目も届かない、俺だけの場所に」
内側から溢れ出す独占欲を、ジャミルはもはや隠そうともしなかった。
彼の脳内では、驚きに染まったななしの顔を、もっと別の表情で染め替えたいという欲求が渦を巻いている。普段は抑え込んできた感情が、ななしという存在によって決壊していく。
「お前のその、何も分かっていないような、澄んだ瞳……。それを俺でいっぱいにしたい。俺のこと以外、何も考えられないようにしてやりたいと言ったら……お前は、どうする?」
ジャミルはゆっくりと顔を上げ、ななしの瞳を真っ直ぐに射抜いた。
震える唇を指先でなぞり、そのまま深い接吻を落とす代わりに、彼はななしの耳元を甘く噛んだ。
「……っ」
「いい声だな。……もっと、聴かせてくれ」
ジャミルの声は蜂蜜のように甘く、そして逃げ場を奪うように重い。
ななしの視界が、彼の長い黒髪と伏せられた長い睫毛で埋め尽くされる。
身体中の細胞が彼の存在を強烈に意識し、拒絶どころか、もっと奥を求めて疼きだすのをななしは自覚せざるを得なかった。
「デートのつもりで誘った……と言ったが、訂正する」
ジャミルはななしの指を一本ずつ絡め取り、吸い寄せられるように自分の唇へと運んだ。指先に落とされる、熱く密やかなキス。そのまま彼は、ななしの手を自分の胸元へ心臓の音が直接響く場所へと導く。
「……聞こえるか? お前の前でだけ、俺の計算は全部狂う。いつもはもっと、上手く立ち回れるはずなんだが……」
ジャミルは困ったように眉を下げ、蕩けるような熱を孕んだ瞳でななしを見つめた。その瞳は、いつもの冷静な先輩ではなく、ただ一人の恋い焦がれる男の顔だ。
「もう、ただの先輩でいるのは限界だ。……お前のその無防備な顔も、俺を呼ぶ声も、全部俺だけのものにしたい。……なあななし。俺に、これ以上格好悪いところをさらけ出させないでくれ」
ジャミルは吐息が触れる距離で、ななしの額に自分の額をそっと預けた。
「……逃がすつもりなんて、最初からないんだ。ずっとこうして閉じ込めておきたいくらいには、お前に溺れてる」
そう囁く彼の瞳に宿る熱に抗う術など見つかるはずもなく、鼻を突くスパイスの香りと共に、ただ甘く深い泥濘へと沈み込んでいくような心地がした。
放課後の調理室。スカラビア寮の副寮長ジャミル・バイパーは、隣で熱心に鍋を覗き込む後輩の襟首を、まるで仔猫を扱うように軽く引っ張った。
「あ、すみません! でも、すごく良い香りがしてきたので……。やっぱりジャミル先輩の作る料理は、香りの立ち方が全然違いますね」
ななしは顔を上げ、満面の笑みを向ける。その無防備な表情に、ジャミルは手に持っていたおたまを一瞬止め、ふいと視線を逸らした。
「……当然だ。スパイスの配合には一分の狂いもない。お前も覚えると言ったなら、もう少し集中しろ」
「はい! あ、これ、味見してもいいですか?」
「まだ煮込みが足りな……おい、待て」
ジャミルの制止も聞かず、ななしが小皿に取ったソースに口を寄せようとする。ジャミルは咄嗟にその手首を掴み、自分の指先に少しだけソースを掬い取った。
「火傷するぞ。……ほら」
差し出されたのは、ジャミルの細くしなやかな指先だった。
「えっ……。あ、ありがとうございます」
ななしが躊躇いながらも、その指先にそっと唇を寄せる。ジャミルの指が、ななしの柔らかな舌に触れた。瞬間、ジャミルの背筋に、痺れるような熱が走る。
「……どうだ」
「すごく、美味しいです……! 少しピリッとするけど、後から甘みが追いかけてくる感じで」
「そうか。……ならいい」
ジャミルは濡れた指先を、ななしの視界から隠すように握りしめた。手のひらの中で心臓の鼓動がうるさいほどに跳ねている。
「ななし。週末、予定はあるか」
後片付けを終え二人きりになった調理室で、ジャミルがさりげなく問いかける。
「週末ですか? 特にないです。また何か、料理の特訓ですか?」
「……隣町に、珍しい乾物を扱う店が期間限定で出店しているらしい。お前が以前、甘いものに合うスパイスを知りたいと言っていたのを思い出してな」
ジャミルは腕を組み壁に背を預けた。視線は窓の外、沈みゆく夕日に向けられているが、その意識のすべては目の前の後輩に注がれている。
「えっ! 連れて行ってくれるんですか? 嬉しいです!」
「勘違いするな。お前に教え込む手間を省くためだ。……いいな、土曜の朝、正門前で待ち合わせだ」
「わかりました! 楽しみにしてますね、ジャミル先輩」
ななしが嬉しそうに駆け寄ってきて、ジャミルの腕に軽く触れる。その屈託のない仕草に、ジャミルは心の中で小さな溜息をついた。
(……本当に、自覚がないのか。それとも、わざとなのか)
◇
当日。街は休日を楽しむ人々で溢れ、二人の距離は必然的に近くなる。
「わあ……。ジャミル先輩、見てください! あっちのドライフルーツ、色がすごく綺麗ですよ!」
「はしゃぎすぎるな……ななし、離れるなと言っただろう」
ジャミルはななしの肩を抱き寄せ、自分の体の方へと引き寄せた。薄い衣類越しに伝わる、ななしの柔らかな体温。街行く男たちの視線がななしに注がれるたび、ジャミルの胸の奥には黒く濁った独占欲が渦巻く。
「すみません、つい……。でも、ジャミル先輩が隣にいてくれると、なんだか安心しちゃって」
「……お前は、少しは危機感を持て。俺がどんな気持ちでお前を見ているか……考えたこともないだろう」
ジャミルの声が、人混みの喧騒に紛れて低く響く。
彼はそのまま、抱き寄せた肩から手を滑らせ、ななしの指を絡めるようにして手を握った。
「先輩? 手……」
「……逸れないようにだ。文句があるのか」
「いえ、ないですけど……」
繋がれた手のひらから、じわりと熱が伝わっていく。
ジャミルの内側で理性の壁が少しずつ溶け始めていた。
「ななし。あの店だ。……中に入れば、外よりは静かになるだろう」
目的の店に入ると、芳醇な果実とスパイスの香りが二人を包み込んだ。
ジャミルはななしを店の隅、人目に付きにくい棚の影へと誘う。
「見てください、これ。シナモンと……」
「ななし」
説明を遮るように、ジャミルがななしの耳元で囁いた。
その距離は、もう唇が触れそうなほどに近い。
ななしの大きな瞳が、驚きで見開かれる。
「俺が、わざわざ休日に、手間をかけてお前を連れ出した理由……。本当に、勉強のためだと思っているのか?」
ジャミルの瞳には、調理室で見せる冷静な先輩の面影はなかった。
そこにあるのは、一人の男としての焦れったいほどの渇望。
「俺は、お前が他の奴と話しているのも、他の奴に笑いかけているのも、本当は耐え難い。……お前をこの甘い香りの奥に閉じ込めて、俺だけを見ていればいいと思っている」
「……ジャミル、先輩……」
ななしの頬が朱に染まる。その熱を確認するように、ジャミルは空いた手でななしの頬を優しく撫でた。
「……デートのつもりで誘ったんだが……。お前があまりに鈍すぎて、俺の余裕がもう限界なんだ」
吐息が混じり合う距離で、ジャミルは蕩けるような笑みを浮かべた。
それは毒のように甘く、逃れられない罠のようでもあった。
「……ジャミル、先輩……?」
至近距離で見つめられ、ななしの声が震える。
店内の喧騒は、棚の影に隠れた二人を置き去りにして遠のいていく。
鼻腔をくすぐるシナモンとドライフルーツの重厚な甘さが、ジャミルの熱い吐息と混ざり合い、脳を痺れさせた。
「まだ分からないか。……お前が思うほど、俺は聞き分けの良い先輩じゃない」
ジャミルの指先が、ななしの耳朶から首筋へと、ゆっくりと這うように滑り降りる。触れられた場所から、肌が粟立つような、熱い電気信号が全身に駆け巡った。
ななしは逃げることも忘れ、ただジャミルの瞳の奥にある底なしの深い色に吸い寄せられていた。
「いつもそうだ。俺がどれだけ言葉を尽くしても、視線を送っても、お前は優しい先輩の枠の中に俺を閉じ込める。……なあ、ななし。今、俺の手がどこに触れているか、分かっているか?」
ジャミルの手が、ななしの腰をぐいと引き寄せた。
密着した身体。
彼の心臓の音が、厚い胸板越しにななしの鼓動と同調していく。
「……あつ、いです。ジャミル先輩」
「ああ。俺も、酷く熱い。……全部、お前のせいだ」
ジャミルはななしの肩に額を預け、低く笑った。
その笑い声が身体に響き、ななしは知らず知らずのうちに彼の背中に手を回していた。
指先に触れる、ジャミルのしなやかな筋肉の質感。今はわずかに震えているのが伝わってくる。
「ななし。今ここで、お前を連れ去ってしまいたい。……誰の目も届かない、俺だけの場所に」
内側から溢れ出す独占欲を、ジャミルはもはや隠そうともしなかった。
彼の脳内では、驚きに染まったななしの顔を、もっと別の表情で染め替えたいという欲求が渦を巻いている。普段は抑え込んできた感情が、ななしという存在によって決壊していく。
「お前のその、何も分かっていないような、澄んだ瞳……。それを俺でいっぱいにしたい。俺のこと以外、何も考えられないようにしてやりたいと言ったら……お前は、どうする?」
ジャミルはゆっくりと顔を上げ、ななしの瞳を真っ直ぐに射抜いた。
震える唇を指先でなぞり、そのまま深い接吻を落とす代わりに、彼はななしの耳元を甘く噛んだ。
「……っ」
「いい声だな。……もっと、聴かせてくれ」
ジャミルの声は蜂蜜のように甘く、そして逃げ場を奪うように重い。
ななしの視界が、彼の長い黒髪と伏せられた長い睫毛で埋め尽くされる。
身体中の細胞が彼の存在を強烈に意識し、拒絶どころか、もっと奥を求めて疼きだすのをななしは自覚せざるを得なかった。
「デートのつもりで誘った……と言ったが、訂正する」
ジャミルはななしの指を一本ずつ絡め取り、吸い寄せられるように自分の唇へと運んだ。指先に落とされる、熱く密やかなキス。そのまま彼は、ななしの手を自分の胸元へ心臓の音が直接響く場所へと導く。
「……聞こえるか? お前の前でだけ、俺の計算は全部狂う。いつもはもっと、上手く立ち回れるはずなんだが……」
ジャミルは困ったように眉を下げ、蕩けるような熱を孕んだ瞳でななしを見つめた。その瞳は、いつもの冷静な先輩ではなく、ただ一人の恋い焦がれる男の顔だ。
「もう、ただの先輩でいるのは限界だ。……お前のその無防備な顔も、俺を呼ぶ声も、全部俺だけのものにしたい。……なあななし。俺に、これ以上格好悪いところをさらけ出させないでくれ」
ジャミルは吐息が触れる距離で、ななしの額に自分の額をそっと預けた。
「……逃がすつもりなんて、最初からないんだ。ずっとこうして閉じ込めておきたいくらいには、お前に溺れてる」
そう囁く彼の瞳に宿る熱に抗う術など見つかるはずもなく、鼻を突くスパイスの香りと共に、ただ甘く深い泥濘へと沈み込んでいくような心地がした。
