ポムフィオーレ
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ポムフィオーレ寮長室。
厚手のカーテンが外光を完全に遮り、室内は高価な蜜蝋キャンドルの香りと、ヴィルが調合した香気で満たされている。
足元には毛足の重厚な絨毯が敷かれ、歩く音さえも吸い込まれるような静寂。ベッドの横に置かれた大きな鏡は、情けないほどに俯くななしの姿を容赦なく映し出している。
「鏡を見なさい。逃げるのは許さないと言ったはずよ」
背後からヴィルの声が降る。
彼は、鏡の前に置かれた豪奢な椅子に座るななしの肩に、ゆっくりと手を置いた。鏡の中の彼は気高く、その隣に並ぶ自分は、まるで場違いな迷い子のよう。
「……ヴィル先輩。やっぱり、この服は私には似合いません。先輩の隣に立つなんて、身の程知らずでした」
「身の程、ね。アンタが勝手に決めたそのちっぽけな物差しで、アタシの選択を否定するつもり?」
ヴィルは椅子を回転させ、無理やり正面から向き合わせる。逃げようとした視線を、彼の鋭くも美しい瞳が絡め取った。彼が指先でななしの前髪を払う。その指先からは、常に神経を研ぎ澄ませている者特有の、冷たくも激しい情熱が伝わってくる。
「私は……先輩みたいに強くないし、美しくもないから。頑張っても、結局は中身が追いつかなくて、自分が空っぽに思えてくるんです。先輩の期待に応えられないのが、苦しくて」
「アンタのその悪癖は、美徳でもあるけれど、時としてアタシを苛立たせるわ」
ヴィルは膝をつき、目線を同じ高さに合わせた。彼の長い指が、首筋から鎖骨へとなぞるように滑る。その感触が、じわじわと皮膚の下の血液を沸騰させていく。
「良いこと? アタシがアンタをここに呼んだのは、アンタが完璧だからじゃない。ななしという素材が、アタシの心をどうしようもなく掻き乱すからよ」
「……掻き乱す?」
「そうよ。アンタの無防備な言葉も、必死に食らいつこうとする健気な瞳も。アタシが築き上げた完璧な世界を、アンタはいとも簡単に壊していくの」
彼の吐息が頬に熱くかかる。
ヴィルはななしの震える手を自分の頬へと導いた。
吸い付くような肌の質感。
指先から彼の顔の熱が伝わってくる。
感情が身体感覚を追い越し、頭の中が真っ白な光に染まり始める。
「自信なんて、後からついてくるものよ。今はただ、アタシがななしを欲しているという事実をわかって欲しいの」
「ヴィル、先輩……。でも、私……」
「これ以上自分を貶める言葉を吐くなら、その唇を塞いでしまうわよ」
ヴィルの瞳が深い沼のよう抑えきれない欲望を孕んで沈んでいく。
彼はそのままななしの腰を強く引き寄せた。
密着した胸元から、彼の激しい心音が鼓動の波となって押し寄せる。
内面を曝け出すような、あまりにも濃密な沈黙。
「アタシが、アンタにいて欲しいのよ。ななし以外に、アタシの隣を許すつもりなんてないわ」
彼の言葉は、もはや命令ではなく、祈りのようにも聞こえた。
自分の中にあった不安が、彼の圧倒的な存在感によって、少しずつ溶かされていく。外見の良し悪しなどどうでもいい。ただこの至高の美の化身が、自分という存在を渇望している。
「……もう、どこへも行けなくなっちゃいます」
「ええ、行かせない。ななしの心も、その身体の熱も、すべてアタシが管理してあげる。アタシという最高の毒に、一生侵されていなさい」
ヴィルは満足げに微笑むと、慈しむように首筋へ顔を埋めた。
彼の髪が肌を撫でる感覚。高鳴る鼓動が重なり、二人だけの空間に甘く、重い熱が充満していく。鏡の中の二人は、もうどちらが主導権を握っているのか判別できないほど、深く、強く結ばれていた。
厚手のカーテンが外光を完全に遮り、室内は高価な蜜蝋キャンドルの香りと、ヴィルが調合した香気で満たされている。
足元には毛足の重厚な絨毯が敷かれ、歩く音さえも吸い込まれるような静寂。ベッドの横に置かれた大きな鏡は、情けないほどに俯くななしの姿を容赦なく映し出している。
「鏡を見なさい。逃げるのは許さないと言ったはずよ」
背後からヴィルの声が降る。
彼は、鏡の前に置かれた豪奢な椅子に座るななしの肩に、ゆっくりと手を置いた。鏡の中の彼は気高く、その隣に並ぶ自分は、まるで場違いな迷い子のよう。
「……ヴィル先輩。やっぱり、この服は私には似合いません。先輩の隣に立つなんて、身の程知らずでした」
「身の程、ね。アンタが勝手に決めたそのちっぽけな物差しで、アタシの選択を否定するつもり?」
ヴィルは椅子を回転させ、無理やり正面から向き合わせる。逃げようとした視線を、彼の鋭くも美しい瞳が絡め取った。彼が指先でななしの前髪を払う。その指先からは、常に神経を研ぎ澄ませている者特有の、冷たくも激しい情熱が伝わってくる。
「私は……先輩みたいに強くないし、美しくもないから。頑張っても、結局は中身が追いつかなくて、自分が空っぽに思えてくるんです。先輩の期待に応えられないのが、苦しくて」
「アンタのその悪癖は、美徳でもあるけれど、時としてアタシを苛立たせるわ」
ヴィルは膝をつき、目線を同じ高さに合わせた。彼の長い指が、首筋から鎖骨へとなぞるように滑る。その感触が、じわじわと皮膚の下の血液を沸騰させていく。
「良いこと? アタシがアンタをここに呼んだのは、アンタが完璧だからじゃない。ななしという素材が、アタシの心をどうしようもなく掻き乱すからよ」
「……掻き乱す?」
「そうよ。アンタの無防備な言葉も、必死に食らいつこうとする健気な瞳も。アタシが築き上げた完璧な世界を、アンタはいとも簡単に壊していくの」
彼の吐息が頬に熱くかかる。
ヴィルはななしの震える手を自分の頬へと導いた。
吸い付くような肌の質感。
指先から彼の顔の熱が伝わってくる。
感情が身体感覚を追い越し、頭の中が真っ白な光に染まり始める。
「自信なんて、後からついてくるものよ。今はただ、アタシがななしを欲しているという事実をわかって欲しいの」
「ヴィル、先輩……。でも、私……」
「これ以上自分を貶める言葉を吐くなら、その唇を塞いでしまうわよ」
ヴィルの瞳が深い沼のよう抑えきれない欲望を孕んで沈んでいく。
彼はそのままななしの腰を強く引き寄せた。
密着した胸元から、彼の激しい心音が鼓動の波となって押し寄せる。
内面を曝け出すような、あまりにも濃密な沈黙。
「アタシが、アンタにいて欲しいのよ。ななし以外に、アタシの隣を許すつもりなんてないわ」
彼の言葉は、もはや命令ではなく、祈りのようにも聞こえた。
自分の中にあった不安が、彼の圧倒的な存在感によって、少しずつ溶かされていく。外見の良し悪しなどどうでもいい。ただこの至高の美の化身が、自分という存在を渇望している。
「……もう、どこへも行けなくなっちゃいます」
「ええ、行かせない。ななしの心も、その身体の熱も、すべてアタシが管理してあげる。アタシという最高の毒に、一生侵されていなさい」
ヴィルは満足げに微笑むと、慈しむように首筋へ顔を埋めた。
彼の髪が肌を撫でる感覚。高鳴る鼓動が重なり、二人だけの空間に甘く、重い熱が充満していく。鏡の中の二人は、もうどちらが主導権を握っているのか判別できないほど、深く、強く結ばれていた。
