名前のない距離
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店内に案内されると、木目を基調とした温かみのある空間が広がっていた。案内された二人掛けの席に向かい合って腰を下ろす。
「マジで女子ばっかじゃん」
「だから言ったじゃん。無理しなくてよかったのに」
「無理なんてしてねーし」
「本当?」
「本当だって。お前が来たかった場所なんだろ? さっさと頼もうぜ」
渡されたメニュー表を開き、二人で覗き込む。
お目当てだった季節限定のふわふわパンケーキと、エースが選んだベリーパンケーキを注文することになった。
◇
運ばれてきた皿の上には、きつね色に焼かれた大きなパンケーキがのっている。
「うわ、すご……」
「お前、マジで嬉しそうな顔すんのな」
エースは呆れたように笑いながら、自分の皿にフォークを入れた。
「エースのほうも美味しそう」
「オレのも食ってみる?」
エースはフォークで小さく切り分けたパンケーキをこちらに差し出してきた。
自分で取るのだと思っていたため、急に差し出されたフォークに一瞬フリーズしてしまう。
「……なに固まってんの」
「あ、うん……自分で切るよ」
「なに照れてんの?」
「別に照れてないよ」
「嘘つけ。耳まで真っ赤」
「赤くない!」
口に運んだパンケーキの甘さと、彼にみつめられている熱さで、胸の奥が思わず高鳴った。
エースはそんな反応を楽しんでいるのか、どこか満足げに自分のコーヒーに口をつけた。
◇
店を出ると、昼下がりの街は買い物客で溢れかえっていた。
「あー食った食った」
「美味しかったね。付き合ってくれてありがとう」
「お前が満足したなら別にいいけど」
エースはポケットに手を突っ込みながら、前を歩き出した。
人混みを避けるように歩道を歩いていると、曲がり角から急に走ってきた子供とぶつかりそうになる。
「わっ……」
咄嗟に伸びてきたエースの手が、腕を強く引っ張った。
引き寄せられた勢いで、エースの胸元に身体がぶつかる。
「……前、ちゃんと見ろって」
上から降ってきた声は、先ほどまでの軽口とは違って低く響いていた。
腕を掴んでいたエースの手が滑り、自然と手首を握られる。
「ごめん……ありがとう」
「怪我してねーならいいけど」
エースは掴んだ手首を離そうとせず、そのまま人混みを押し分けるように歩き出した。
触れたままの手から伝わる体温に、視線は自然と繋がれた場所へ向いていた。
信号が赤に変わり、立ち止まったタイミングでふと彼の手元を見た。
「……エース、手」
「……あ」
ハッとしたようにエースが手を離す。
ポケットに手を突っ込んで明後日の方向を向いた彼の耳が、ほんのりと赤くなっていた。
「……逸れたらいけないと思って握っただけだから」
「……うん」
言い訳のような言葉に小さく頷きながら、離れてしまった手のひらに残る熱をそっと握りしめた。
「マジで女子ばっかじゃん」
「だから言ったじゃん。無理しなくてよかったのに」
「無理なんてしてねーし」
「本当?」
「本当だって。お前が来たかった場所なんだろ? さっさと頼もうぜ」
渡されたメニュー表を開き、二人で覗き込む。
お目当てだった季節限定のふわふわパンケーキと、エースが選んだベリーパンケーキを注文することになった。
◇
運ばれてきた皿の上には、きつね色に焼かれた大きなパンケーキがのっている。
「うわ、すご……」
「お前、マジで嬉しそうな顔すんのな」
エースは呆れたように笑いながら、自分の皿にフォークを入れた。
「エースのほうも美味しそう」
「オレのも食ってみる?」
エースはフォークで小さく切り分けたパンケーキをこちらに差し出してきた。
自分で取るのだと思っていたため、急に差し出されたフォークに一瞬フリーズしてしまう。
「……なに固まってんの」
「あ、うん……自分で切るよ」
「なに照れてんの?」
「別に照れてないよ」
「嘘つけ。耳まで真っ赤」
「赤くない!」
口に運んだパンケーキの甘さと、彼にみつめられている熱さで、胸の奥が思わず高鳴った。
エースはそんな反応を楽しんでいるのか、どこか満足げに自分のコーヒーに口をつけた。
◇
店を出ると、昼下がりの街は買い物客で溢れかえっていた。
「あー食った食った」
「美味しかったね。付き合ってくれてありがとう」
「お前が満足したなら別にいいけど」
エースはポケットに手を突っ込みながら、前を歩き出した。
人混みを避けるように歩道を歩いていると、曲がり角から急に走ってきた子供とぶつかりそうになる。
「わっ……」
咄嗟に伸びてきたエースの手が、腕を強く引っ張った。
引き寄せられた勢いで、エースの胸元に身体がぶつかる。
「……前、ちゃんと見ろって」
上から降ってきた声は、先ほどまでの軽口とは違って低く響いていた。
腕を掴んでいたエースの手が滑り、自然と手首を握られる。
「ごめん……ありがとう」
「怪我してねーならいいけど」
エースは掴んだ手首を離そうとせず、そのまま人混みを押し分けるように歩き出した。
触れたままの手から伝わる体温に、視線は自然と繋がれた場所へ向いていた。
信号が赤に変わり、立ち止まったタイミングでふと彼の手元を見た。
「……エース、手」
「……あ」
ハッとしたようにエースが手を離す。
ポケットに手を突っ込んで明後日の方向を向いた彼の耳が、ほんのりと赤くなっていた。
「……逸れたらいけないと思って握っただけだから」
「……うん」
言い訳のような言葉に小さく頷きながら、離れてしまった手のひらに残る熱をそっと握りしめた。
