名前のない距離
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お風呂から上がり、エースが用意してくれた着替えのTシャツの袖口を引っ張りながらリビングに戻る。
「お風呂、ありがとう」
「着替えのサイズ、大丈夫だった?」
エースが顔を上げると視線が上から下へとゆっくり動いた。
エースのTシャツは少し大きく、首元も緩い。
お尻まで隠れてしまう丈感に、思わず服の裾をぎゅっと握りしめてしまう。
「ちょっと大きいけど、大丈夫」
「ふーん……」
エースはニヤッと笑うとソファーから立ち上がった。
「じゃ、オレも入ってくる。適当にくつろいでて」
「うん、わかった」
パタンと脱衣所のドアが閉まるのを見届けて、ソファーにゆっくり腰を下ろした。
急に静かになった部屋に外の激しい雨音だけが絶え間なく響いている。
テーブルの上に置かれた二人分のマグカップをぼんやりと眺めながら、深く息をひとつ吐いた。
エースの部屋で、エースの服を着て過ごす夜。
こんな状況で普通にしていられるわけがないのに、彼はいつだって余裕そうな顔をしているのが少しだけ悔しかった。
◇
十五分ほどして、髪をタオルで拭きながらエースが脱衣所から出てきた。
湿った髪が少し額にかかっていて、普段より少し幼く見える。
「あー、さっぱりした」
「髪、ちゃんと乾かさないと風邪引くよ」
「平気だって。これくらいすぐ乾くし」
エースはそう言いながら、ドライヤーも使わずにソファーの隣にドカッと座り込んできた。
少しだけ濡れた髪から自分と同じシャンプーの香りが漂ってくる。
「……ねえ、ちょっと離れてよ」
「なんで? 狭くねーじゃん」
「髪濡れてて、なんか嫌」
「なんだよ、ケチ」
エースは不満そうに言いつつも、ほんの少しだけ体を倒して距離を取ってくれた。
けれど同じソファーの上に二人で並んでいるという事実だけで、意識がそっちに持っていかれてしまう。
エースは膝の上に肘をつき、手持ち無沙汰そうにテレビのリモコンをいじり始めた。
画面には無音で深夜のバラエティ番組が映し出されている。
「お前さ、明日の予定とかあったの?」
「ううん、特にないよ。元々休みだったし」
「ふーん。じゃあ別に焦って朝一で帰る必要もねーな」
「まあ、そうだけど……」
「昼くらいまでダラダラしてけば? メシくらい作ってやるし」
「え、エースが作るの?」
「なんだよその顔。オレだって簡単なやつくらい作れるし」
エースは心外だと言わんばかりに眉をひそめたが、その口元にはどこか得意げな笑みが浮かんでいた。
◇
「……ねえ、寝るのどうするの?」
会話が途切れ、少し気まずさが漂い始めたタイミングで尋ねると、エースはあくびを噛み殺しながら部屋の隅を指さした。
「ななし、ベッド使いなよ」
「えっ、ダメだよ」
「大丈夫だって」
「エースの家なんだから、エースがベッドで寝てよ」
「あのさあ、そういうとこ変に気使うなよ」
「でも、わざわざ泊めてもらってるのに……」
「いいから。オレ、どこでも熟睡できるタイプだし。ほら、変な意地張らない」
言い張るエースの押しに押され、結局お言葉に甘えることになってしまった。
エースは立ち上がると、押し入れから予備の毛布と枕を出してセットし始める。
「じゃあ、部屋の電気消すぞ」
「うん……おやすみ、エース」
「ああ、おやすみ」
パチンと部屋の主照明が消え暗闇が広がる。
ベッドに入り、掛け布団を頭までかぶると、エースの匂いがかすかに残っている気がして、ぎゅっと目を閉じた。
◇
「……なあ」
しばらくの沈黙の後、暗闇の向こうからエースの低めの声が響く。
「……なに?」
「……明日、雨やんでたらどうする?」
「……どうするって、普通に帰るけど」
「……そっか」
短い返事のあと、再び静寂が訪れた。
雨音の向こう側で、エースが小さく寝返りを打つ音がする。
「なぁ、ななし」
「なに?」
「……また来週末も、一緒にメシ食う?」
ぽつりと落とされたその言葉に胸の奥が熱くなった。
ただの友人としての誘いなのか、それとも彼なりの歩み寄りなのか。
答え合わせをするのが怖くて深追いはできない。
「……うん」
「……オッケー。じゃ、おやすみ」
「おやすみ、エース」
お互いにお決まりの仮面を被り直して、長い夜が静かに更けていった。
「お風呂、ありがとう」
「着替えのサイズ、大丈夫だった?」
エースが顔を上げると視線が上から下へとゆっくり動いた。
エースのTシャツは少し大きく、首元も緩い。
お尻まで隠れてしまう丈感に、思わず服の裾をぎゅっと握りしめてしまう。
「ちょっと大きいけど、大丈夫」
「ふーん……」
エースはニヤッと笑うとソファーから立ち上がった。
「じゃ、オレも入ってくる。適当にくつろいでて」
「うん、わかった」
パタンと脱衣所のドアが閉まるのを見届けて、ソファーにゆっくり腰を下ろした。
急に静かになった部屋に外の激しい雨音だけが絶え間なく響いている。
テーブルの上に置かれた二人分のマグカップをぼんやりと眺めながら、深く息をひとつ吐いた。
エースの部屋で、エースの服を着て過ごす夜。
こんな状況で普通にしていられるわけがないのに、彼はいつだって余裕そうな顔をしているのが少しだけ悔しかった。
◇
十五分ほどして、髪をタオルで拭きながらエースが脱衣所から出てきた。
湿った髪が少し額にかかっていて、普段より少し幼く見える。
「あー、さっぱりした」
「髪、ちゃんと乾かさないと風邪引くよ」
「平気だって。これくらいすぐ乾くし」
エースはそう言いながら、ドライヤーも使わずにソファーの隣にドカッと座り込んできた。
少しだけ濡れた髪から自分と同じシャンプーの香りが漂ってくる。
「……ねえ、ちょっと離れてよ」
「なんで? 狭くねーじゃん」
「髪濡れてて、なんか嫌」
「なんだよ、ケチ」
エースは不満そうに言いつつも、ほんの少しだけ体を倒して距離を取ってくれた。
けれど同じソファーの上に二人で並んでいるという事実だけで、意識がそっちに持っていかれてしまう。
エースは膝の上に肘をつき、手持ち無沙汰そうにテレビのリモコンをいじり始めた。
画面には無音で深夜のバラエティ番組が映し出されている。
「お前さ、明日の予定とかあったの?」
「ううん、特にないよ。元々休みだったし」
「ふーん。じゃあ別に焦って朝一で帰る必要もねーな」
「まあ、そうだけど……」
「昼くらいまでダラダラしてけば? メシくらい作ってやるし」
「え、エースが作るの?」
「なんだよその顔。オレだって簡単なやつくらい作れるし」
エースは心外だと言わんばかりに眉をひそめたが、その口元にはどこか得意げな笑みが浮かんでいた。
◇
「……ねえ、寝るのどうするの?」
会話が途切れ、少し気まずさが漂い始めたタイミングで尋ねると、エースはあくびを噛み殺しながら部屋の隅を指さした。
「ななし、ベッド使いなよ」
「えっ、ダメだよ」
「大丈夫だって」
「エースの家なんだから、エースがベッドで寝てよ」
「あのさあ、そういうとこ変に気使うなよ」
「でも、わざわざ泊めてもらってるのに……」
「いいから。オレ、どこでも熟睡できるタイプだし。ほら、変な意地張らない」
言い張るエースの押しに押され、結局お言葉に甘えることになってしまった。
エースは立ち上がると、押し入れから予備の毛布と枕を出してセットし始める。
「じゃあ、部屋の電気消すぞ」
「うん……おやすみ、エース」
「ああ、おやすみ」
パチンと部屋の主照明が消え暗闇が広がる。
ベッドに入り、掛け布団を頭までかぶると、エースの匂いがかすかに残っている気がして、ぎゅっと目を閉じた。
◇
「……なあ」
しばらくの沈黙の後、暗闇の向こうからエースの低めの声が響く。
「……なに?」
「……明日、雨やんでたらどうする?」
「……どうするって、普通に帰るけど」
「……そっか」
短い返事のあと、再び静寂が訪れた。
雨音の向こう側で、エースが小さく寝返りを打つ音がする。
「なぁ、ななし」
「なに?」
「……また来週末も、一緒にメシ食う?」
ぽつりと落とされたその言葉に胸の奥が熱くなった。
ただの友人としての誘いなのか、それとも彼なりの歩み寄りなのか。
答え合わせをするのが怖くて深追いはできない。
「……うん」
「……オッケー。じゃ、おやすみ」
「おやすみ、エース」
お互いにお決まりの仮面を被り直して、長い夜が静かに更けていった。
