名前のない距離
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
外の雨足は弱まるどころか、窓ガラスを打ち付ける音が激しさを増していた。
「……うわ、雷まで鳴りだしたじゃん」
エースがソファーの上でスマホを操作しながら、うんざりしたように呟いた。画面の明かりが彼の横顔を白く照らしている。
「ねえ、電車動いてる……?」
「最寄りは運転見合わせで再開の目途立ってないって」
「えっ、嘘……」
自分のスマホを取り出して運行情報を確認すると、画面には赤文字で「運転見合わせ」の文字が並んでいた。
他の路線も遅延や運休が相次いでいるらしい。
「……どうしよ」
「どうにもなんなくね? この雨じゃタクシーも捕まんねーだろ」
エースはスマホをポイとソファーの上に放り投げ、肘掛けに頭を預けてこちらを見上げてきた。
◇
「まあ、止むまで待つしかないか……」
「天気予報、朝まで大雨警報出てる」
「え……」
絶望的な事実をサラッと言われ、言葉に詰まる。
時計の針はすでに夜の九時を回っていた。
今から雨の中を無理に帰るのも危険だし、かといってエースの部屋にこのまま残るのも心が落ち着かない。
頭の中でぐるぐると考えを巡らせていると、エースが面倒くさそうに溜め息をついた。
「なに悩んでんの。答え一択でしょ」
「え?」
「泊まってけばいいじゃん」
あまりにもあっさりとしたトーンで言われ、一瞬耳を疑った。
「……は?」
「だから、泊まってけば?」
「泊まり? エースの家に?」
「だって、こんな雨の中追い返すわけにもいかねーし」
「いや、でも……それはなんというか」
「なに? なんか問題あんの?」
エースは片眉をピクッと上げて、面白がるような、少しだけ挑発的な目つきで覗き込んできた。
「問題っていうか、準備も何もしてないし」
「歯ブラシなら買い置きがあるけど」
「そうじゃなくて」
「あ、着替え? Tシャツくらいなら貸してやるから、それ着れば?」
「だから、そうじゃなくて……」
「学生の時だって、しょっちゅうオンボロ寮で寝泊まりしてたじゃん」
「それは、そうだけど」
「何? オレと一緒なのが嫌なわけ?」
見つめ返されて喉の奥がヒリついた。
嫌なわけがない。
嫌なわけがないからこそ二人きりの部屋で一晩を過ごすのが怖かった。
自分の気持ちを隠し通せる自信がないし、エースの思わせぶりな態度に振り回されるのが目に見えている。
「嫌、じゃない……」
「なら決まり。変に遠慮すんなよ」
「わかった」
「着替え用意しとくから、先に風呂入れば」
「あ、うん……ありがとう」
パタパタと寝室の方へ向かうエースの背中を見送りながら、胸の奥で小さく溜め息をついた。
帰れないことに少しだけ喜んでいる自分がいた。
けれど、その理由を考えると胸の奥が落ち着かない。
雨音にかき消されないように、深く息を吐き出した。
「……うわ、雷まで鳴りだしたじゃん」
エースがソファーの上でスマホを操作しながら、うんざりしたように呟いた。画面の明かりが彼の横顔を白く照らしている。
「ねえ、電車動いてる……?」
「最寄りは運転見合わせで再開の目途立ってないって」
「えっ、嘘……」
自分のスマホを取り出して運行情報を確認すると、画面には赤文字で「運転見合わせ」の文字が並んでいた。
他の路線も遅延や運休が相次いでいるらしい。
「……どうしよ」
「どうにもなんなくね? この雨じゃタクシーも捕まんねーだろ」
エースはスマホをポイとソファーの上に放り投げ、肘掛けに頭を預けてこちらを見上げてきた。
◇
「まあ、止むまで待つしかないか……」
「天気予報、朝まで大雨警報出てる」
「え……」
絶望的な事実をサラッと言われ、言葉に詰まる。
時計の針はすでに夜の九時を回っていた。
今から雨の中を無理に帰るのも危険だし、かといってエースの部屋にこのまま残るのも心が落ち着かない。
頭の中でぐるぐると考えを巡らせていると、エースが面倒くさそうに溜め息をついた。
「なに悩んでんの。答え一択でしょ」
「え?」
「泊まってけばいいじゃん」
あまりにもあっさりとしたトーンで言われ、一瞬耳を疑った。
「……は?」
「だから、泊まってけば?」
「泊まり? エースの家に?」
「だって、こんな雨の中追い返すわけにもいかねーし」
「いや、でも……それはなんというか」
「なに? なんか問題あんの?」
エースは片眉をピクッと上げて、面白がるような、少しだけ挑発的な目つきで覗き込んできた。
「問題っていうか、準備も何もしてないし」
「歯ブラシなら買い置きがあるけど」
「そうじゃなくて」
「あ、着替え? Tシャツくらいなら貸してやるから、それ着れば?」
「だから、そうじゃなくて……」
「学生の時だって、しょっちゅうオンボロ寮で寝泊まりしてたじゃん」
「それは、そうだけど」
「何? オレと一緒なのが嫌なわけ?」
見つめ返されて喉の奥がヒリついた。
嫌なわけがない。
嫌なわけがないからこそ二人きりの部屋で一晩を過ごすのが怖かった。
自分の気持ちを隠し通せる自信がないし、エースの思わせぶりな態度に振り回されるのが目に見えている。
「嫌、じゃない……」
「なら決まり。変に遠慮すんなよ」
「わかった」
「着替え用意しとくから、先に風呂入れば」
「あ、うん……ありがとう」
パタパタと寝室の方へ向かうエースの背中を見送りながら、胸の奥で小さく溜め息をついた。
帰れないことに少しだけ喜んでいる自分がいた。
けれど、その理由を考えると胸の奥が落ち着かない。
雨音にかき消されないように、深く息を吐き出した。
