名前のない距離
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映画館の明るいロビーに出てくると、外の景色はすっかり夕闇に包まれていた。
急に明るくなった空間に、一瞬目を眩ませ、二人して小さく目を細める。
「あー、面白かった。最後のアクション、マジでヤバくね?」
「すごかった! エース、途中でポップコーン食べる手止まってたね」
「……別に、集中してただけだし」
エースは素っ気なく言いながら、飲み干したドリンクカップをゴミ箱へ放り投げた。
綺麗に吸い込まれていくカップを見届けたあと、彼はポケットに手を突っ込んでゆっくりと歩き出す。
商業施設を出ると、心地よい夜風が頬を撫でた。
街灯の光が路上を照らし、二人分の影が長く伸びて重なり合っている。
「……なぁ」
「ん?」
「腹減ってね?」
「え? パンケーキも食べたし、ポップコーンも食べたのに?」
「あれは別腹つーか、映画観たらなんか腹減った」
エースはお腹をさする仕草をしてみせると、どこか得意げな顔でこちらを覗き込んできた。
「エースって意外と食いしん坊だね」
「まだ時間も早いし、ちょっと何か食べてから帰ろうぜって話!」
「そっか。うん、私も何か軽く食べようかな」
「だろ? じゃあ決まり」
少し早口で話すエースの横顔を見て、思わず頬が緩んだ。
「飲みにでも行く?」
「うーん、お前酔ったら面倒だしな」
「酔わないよ、一杯くらいなら」
「そういう問題じゃねーの。ほら、行くぞ」
エースは背を向けると、少し照れくさそうに歩き出した。
追いつこうと少しペースを上げると、彼も自然と歩幅を緩めて横に並んでくれる。
素直じゃない口調の裏にある優しさに、思わず笑みがこぼれた。
◇
街の外れにある静かなカフェレストランに入り、奥のボックス席に収まった。
店内の落ち着いた照明と皿の重なる音が響く中、メニューから適当な料理を選ぶ。
グラスの水に口をつけたエースが、テーブル越しに視線を送ってきた。
「お前さ」
「なに?」
「今日、楽しかった?」
不意打ちのような問いかけに、思わず目が丸くなる。
いつものからかうような笑みではなく、どこか真剣で、少しだけ不安そうな表情でこちらを見つめていた。
「うん。すごく楽しかったよ」
「……そ。ならいいけど」
エースは少しだけ安堵したように息を吐くと、照れくさそうに視線を外した。
「今度はどこ行く?」
「え?」
「え、じゃねーよ」
当たり前のように次の予定を口にする彼に、鼓動が大きく跳ね上がる。
今日が終われば、また次の約束が待っている。
そう思うだけで、思わず頬が緩んだ。
「前にさ、大雨で遠出つぶれたろ。リベンジしに行こうぜ」
「えっ、覚えててくれたの?」
「忘れるわけねーだろ。あのせいで部屋に泊まるハメになったんだからさ」
過去のあの日を思い出して思わず顔が熱くなると、エースも少し思い当たる節があったのか、気まずそうに目を逸らして首の後ろを掻いた。
「……まあ、今度こそ晴れた日にリベンジってこと。お前が嫌じゃなきゃ」
「嫌なわけないよ! すごく楽しみ」
「……そ、じゃあ決定な。詳しい時間はまた連絡する」
エースは満足そうに口角を上げると、運ばれてきたドリンクのグラスを持ち上げた。
運ばれてきたグラスを手に取りながら小さく笑った。
次の約束ができたことが、ただ嬉しかった。