お誕生日おめでとう
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「オルト、ちょっといい?」
「■■■さん! どうしたの?」
「これ、渡したくて」
差し出した小さな箱を見て、オルトの動きがぴたりと止まる。
「……僕に?」
「うん、オルトに。誕生日、おめでとう」
「覚えててくれたの?」
「当たり前じゃん」
「そっか、嬉しいなあ」
オルトは箱を受け取ったものの、すぐには開けなかった。
「開けていい?」
「もちろん」
「じゃあさっそくk……」
蓋を開けると、中には小さなボードゲームが入っていた。
先ほどまでの落ち着いた様子が一気に消え、オルトが箱の中を覗き込む。
「わあ! これ、前に話してたやつ?」
「そう。麓の街で見つけたから」
「これ、探すの大変だったんじゃない?」
「ちょっとだけ、ね」
「ちょっとだけって言う人の顔じゃないよ、それ」
「そんな顔してる?」
「すっごくしてる」
「オルトに隠しごとはできないな」
オルトが楽しそうに笑った。
「でも、嬉しいな。ありがとう、■■■さん」
「どういたしまして」
「さっそく遊んでみたいなあ」
「今?」
「うん、今!」
「誕生日の予定とかないの?」
「あるよ」
「やっぱり」
「でも、こっちも面白そう!」
そう言って、オルトは箱を抱え直した。
◇
「今日は僕の誕生日だから、僕が勝てるようにしてくれる?」
「そんなことしなくても、オルトに勝てる気がしないよ」
机の上にゲームを広げながら、オルトが笑う。
「じゃあお互い本気でやろう。手加減なしで!」
「わかった」
「……本当に?」
「オルトが言ったんでしょ」
「うん。そうなんだけど……」
駒を並べ終え、ルールの確認に入る。
いくつかの条件を満たしながら盤面を進み、最後に一番多くポイントを取ったほうが勝ちになる。
「先攻、どっちにする?」
「オルトが誕生日なんだから、オルトでいいよ」
「それは公平なのかな?」
「誕生日特典」
「じゃあ遠慮なく!」
オルトが最初の駒を動かした。
「早いなあ」
「こういうのは最初が大事だからね」
「じゃあ、わたしはこっち」
「そこ?」
「うん」
「なるほど……」
オルトの視線が盤面を行ったり来たりする。
「■■■さん、意外と強い?」
「意外と?」
「なんとなく!」
「オルトたまに失礼だよね」
「ごめんなさい。でも、面白くなってきたね」
それからしばらく、二人は盤面を囲んでいた。
一手進めるたびにオルトが考え、■■■が迷い、時々互いに「あっ」と声を上げる。
「待って。今のなし」
「だめです」
「えー。じゃあ、五秒だけ戻していい?」
「ゲームにそんな機能ないよ」
「うーん……」
「オルト、諦めて」
「はーい……」
それでもオルトは楽しそうだった。
駒を動かすたびに、次の手を考えているのが分かる。
終盤になると、二人ともほとんど喋らなくなった。
「……」
「……」
「■■■さん、そこに置くの?」
「うん。ここなら……」
「ふふっ」
「なに?」
「ううん、なんでもないよ」
オルトは笑いながら、自分の駒を一つ動かした。
「じゃあ、僕はここ」
「……え」
「どうしたの?」
「待って。もしかして……」
盤面を見直すと、先ほどまで自分が有利だと思っていたはずなのに、オルトが置いた一手で状況が変わっていた。
あと少しで勝てると思っていたのに、もう逆転する手が見つからない。
「これ、わたし詰んでない?」
「うん!」
「即答……」
「■■■さん、ここから逆転する方法ある?」
「ちょっと待って、考える」
もう一度盤面を見渡してみるものの、一つ動かしてもその先を塞がれ、別の場所に置こうにもオルトの駒がすでに迎え撃つ形になっている。
「……無理だ」
「じゃあ、僕の勝ち?」
「だね」
「やった!」
オルトがぱっと笑った。
オルトの嬉しそうな顔を見ていると、負けた悔しさもいつの間にか薄れていた。
「やっぱりオルトには敵わないや」
「え?」
「ちゃんと勝とうと思ってたんだけどな」
「僕も本気だったよ」
「手加減されてないだけマシかな?」
「じゃあ、僕の勝ちってことでいい?」
「もちろん」
「やった!」
オルトは満足そうに両手を上げた。
「■■■さん、結構手強くてびっくりしたよ」
「そう?」
「最初は勝てると思ってなかったんだよ」
「それなら、わたしも頑張った甲斐があったかな」
「うん!」
オルトは盤面を見下ろしながら、満足そうに笑った。
「もう一回やる?」
「他の用事はいいの?」
「あと一回だけ! 誕生日だから!」
「……次は負けないからね」
「僕も負けないよ!」
二人の間に、また笑い声が広がった。