お誕生日おめでとう
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「カリム先輩」
「ん?」
「お誕生日、おめでとうございます」
鞄から包みを取り出して差し出す。
彼は目を丸くした。
「えっ、これ……オレに?」
「はい」
「開けていいか?」
「もちろんです」
包みを受け取ると、少し急いた手つきで紐をほどいていく。
中身は、前から欲しがっていた小物だった。
店で見つけたとき、これなら喜んでくれるかもしれないと思った。
ただ、そのまま渡すのも少し味気なくて、包装だけ自分でやり直した。
「これ……!」
箱を開けた瞬間、顔が明るくなる。
「これ、前に話してたやつだよな?」
「覚えてたんですか?」
「覚えてるに決まってるだろ!」
「でも、欲しいって言ってたのは結構前ですよ」
「そりゃ覚えてるさ」
贈り物を手に取って、いろいろな角度から眺めている。
「嬉しいなあ」
「気に入ってもらえました?」
「すっげえ気に入った!」
「よかったです」
「■■■からもらえるってのが、もっと嬉しい」
「……そういうこと、さらっと言うんですね」
「なんか変なこと言ったか?」
「変ではないですけど」
彼は楽しそうに笑っている。
こちらが照れていることには、気づいているのかいないのか分からない。
「なあ、これって今日から使っていい?」
「今日から?」
「すぐにでも使わなきゃもったいないだろ」
「それもそうですね」
「よし!」
さっそく身につけようとするので、少し手伝う。
「ここ、こうです」
「お、なるほど」
「先輩、じっとしててください」
「分かった」
いつもより近い距離で作業をしていると、妙に緊張する。
あと少し。
そう思ったところで、視線がぶつかった。
「■■■」
「……なんですか?」
「顔、赤いぞ?」
「……気のせいです」
「またそれか?」
「……本当に気のせいです」
「そっか」
そう言いながら、少しだけ口元を緩めた。
絶対に気づいている。
「じゃあ次はオレの番だな」
「カリム先輩の番?」
「■■■へのプレゼント」
「え!?」
「今日、オレの誕生日だからさ」
「それはそうですけど……」
「だから、■■■にも何か渡したい」
「誕生日なのは先輩ですよ?」
「わかってるって!」
「私へのプレゼントは必要ないんじゃ……」
「オレだけもらうのは嫌だ」
「でも……」
「嫌なんだよ」
困ったように笑いながら、小さな包みを差し出された。
「ほら」
「これは……」
「開けてみてくれ」
受け取って包みを開くと、中には小さなアクセサリーが入っていた。
「可愛い……」
「だろ?」
「でも、いつ用意したんですか?」
「ちょっと前」
「今日まで隠してたんですか?」
「そうだぞ」
「カリム先輩、隠し事できるんですね」
「失礼だな!」
笑いながら抗議する声がおかしくて、思わずこちらも笑う。
「ありがとうございま――」
「待った」
「え?」
「まだ終わってない」
「まだ何かあるんですか?」
彼はいつもの明るい調子とは違って、ほんの少し真面目な顔をしている。
「これ、今日渡したかったんだ」
「……はい」
「オレ、誕生日って毎年みんなに祝ってもらうだろ?」
「そうですね」
「たくさんの人におめでとうって言ってもらえるの、すげえ嬉しい」
「カリム先輩らしいです」
「でも、■■■がくれたのは、なんか特別に嬉しいんだ」
「……っ」
「つけてみるか?」
「はい」
「貸してみろ」
差し出したアクセサリーを彼が受け取る。
「じっとしててな」
「さっき私も同じこと言いましたよ」
「じゃあ、お返しってことで」
背後に回った彼の気配が近くなる。
留め具をつけるために、少しだけ時間がかかった。
「……よし、できた」
「ありがとうございます」
「似合ってるぞ」
「本当ですか?」
「ああ。オレの目に狂いはないな」
振り返ると、思ったより距離が近くて、思わず一歩下がろうとする。
「逃げるなよ」
「……逃げてません」
「そうか? ならよかった」
「……先輩、今日ちょっと意地悪ですね」
「そうか?」
「はい……」
「じゃあ、誕生日ついでに、もっと意地悪していいか?」
「それは……困ります」
「ははっ!」
楽しそうな笑い声が響く。
こちらまでつられて笑ってしまう。
「なあ」
「どうかしました?」
「誕生日って、いいな」
「一年に一度の特別な日ですもんね」
「■■■とこうして一緒にいられるしな」
「……それなら、来年もお祝いします」
「来年?」
「はい」
「再来年も?」
「先輩が嫌じゃなければ」
「嫌なわけないだろ!」
「……嬉しいです」
「じゃあ約束な」
「はい。約束です」
「絶対だぞ?」
「絶対です」
「よし!」
頷いて、また歩き出す。
その横顔を眺めながら、来年のことを少しだけ想像した。
今日より上手にプレゼントを選べるだろうか。
今日より自然におめでとうと言えるだろうか。
そんなことを考えていると、彼がまたこちらを振り返った。
「■■■!」
「なんですか?」
「来年も、その次も、一緒にいてくれよ!」
「……はい」
「よし、じゃあ今日の続きを楽しもうぜ!」
「はい」
今度は先に歩かれないように、すぐ隣へ並ぶ。
誕生日の一日は、まだ始まったばかりだった。