お誕生日おめでとう
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「レオナさん」
「……チッ、うるせぇ」
レオナの低く気だるい声が返る。
「起きてました?」
「寝ようとしてた」
「じゃあ起きてますね」
小さく笑った■■■は、抱えていた箱をそっとレオナの隣へ置いた。
「お誕生日、おめでとうございます」
その一言に、レオナはゆっくり片目を開ける。
「……覚えてたのか」
「もちろんです」
「お前のことだから忘れてると思ってた」
「忘れるわけないじゃないですか」
あまりにも真っすぐ返されて、レオナは数秒黙った。
「……そういうの、反応に困るんだよ」
口ではそう言いながらも、口元だけが少し緩んでいる。
「これ、プレゼントです」
「開けてもいいか」
「どうぞ」
包装をほどく指先は思ったより丁寧だった。
箱の中には落ち着いた色合いの革製ブックカバーと小さなしおりが入っている。
「レオナさん、よく本を読んでいるので使ってもらえたらなって思ったんですけど……」
レオナはしばらく黙ってそれを眺めた。
「……意外だな」
「何がですか?」
「もっと派手なの持ってくるかと思ってた」
「レオナさん、そういうの好きじゃないでしょう?」
「よく見てるじゃねぇか」
「結構悩みました」
「……参ったな」
「気に入りませんでした?」
「逆だ、気に入ったから困る」
「それと、もう一個あるんですけど」
■■■は少しだけ得意そうに小さな袋を取り出した。
「なんだ、まだあるのか」
「はい」
「随分と欲張りだな」
「だって、レオナさんの誕生日ですから」
袋の中から出てきたのは、小さな焼き菓子だった。
「作ってきました」
「……お前の手作りか?」
「失敗したらどうしようって思って、昨日から何回か作り直して」
「そこまでしたのか」
「焦がしちゃったのはグリムが食べてくれました」
レオナは笑いながらひとつ摘まんで口へ運ぶ。
しばらく咀嚼してから、小さく息を吐いた。
「……うまい」
「本当ですか?」
「嘘ついて得あるか」
「ないです」
「なら本当だ」
その言葉だけで十分だった。
■■■の表情がぱっと明るくなる。
「よかったです」
「全部食ってもいいか」
「そのために作りましたから」
「……甘やかされすぎだな、今日は」
「一年に一回ですからね」
「俺は毎日でも構わねぇけど?」
「それは甘やかされすぎでは?」
「今さらだろ」
二人で笑い合い、静かな時間がゆっくり流れていった。
◇
「サバナクローの皆さんも色々と準備していたみたいですね」
「ああ、ずっと騒がしかった」
「でも嬉しかったでしょう?」
「……まあな」
素直じゃない返事だった。
「■■■は?」
「わたしですか?」
「俺の誕生日、どうだった」
「日付が変わったと同時にメッセージ送りました」
「そういえば来てたな」
「返事が来なかったので寝てるんだなって」
「ああ、寝てた」
「やっぱり」
「起きたら通知が一番上だった」
レオナは視線をそらしたまま続ける。
「悪くなかった」
「ありがとうございます」
「別に礼を言われることじゃねぇ」
「でも嬉しいです」
「……お前はそういうこと、さらっと言うな」
「ダメでした?」
「別にダメとは言ってねえだろ」
少し考えるように沈黙してから、レオナは手を伸ばす。
「こっち来い」
「はい?」
「今日は俺を祝いに来たんだろ」
■■■が隣へ座ると、その肩が軽く引き寄せられる。
「レオナさん?」
「いいから、じっとしてろ」
「眠いんですか?」
「少しな」
「今から寝るんですか?」
「枕がちょうど来たからな」
「わたしですか?」
「他に誰がいる?」
肩へレオナの体重が預けられる。
「……重くないか」
「大丈夫です」
「なら少しだけ借りるぞ」
「どうぞ……」
レオナは目を閉じる。
「……静かだな」
「そうですね」
「騒がしい祝いも嫌いじゃねぇが」
小さく欠伸をこぼしながら続ける。
「来年も祝えよ」
「もちろんです」
「再来年も」
「はい」
「その先も」
■■■は少し笑って答えた。
「何年先でも、お祝いします」
「約束だからな」
「約束です」
「忘れたら許さねぇ」
「忘れません」
「……なら安心だ」
レオナはもう一度目を閉じ、静かに息を吐いた。
「誕生日ってのも、悪くねぇな」
「そう思ってもらえたなら、大成功ですね」
「今日はプレゼントより、お前が来たことが一番だった」
照れ隠しもないその言葉に、■■■は驚いたように目を丸くする。
「……そんな顔するな」
「だって」
「誕生日くらい、本音を言ってもいいだろ」
「今日は来られてよかったです」
■■■は小さく笑って頷いた。
「レオナさん、お誕生日おめでとうございます」
「ああ、ありがとな」
穏やかな声が返る。
そのまま二人は、ゆっくりと流れる時間を楽しんでいた。