不定期開催!オンボロ寮・美食研究会
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鍋の湯が勢いよく波打ち、白い泡を立てていた。
隣のフライパンでは、刻んだニンニクをオリーブオイルでじっくり炒めている。
フツフツと小さな泡が立つころには、キッチンに香ばしい匂いが充満していた。
「まだパスタは入れないのか? オレ様の腹の虫が大暴れしてるんだゾ!」
「今から入れるところだよ。塩をひとつまみ入れて……よし」
束にしたパスタを鍋の中央に立て、軽く捻って手を離す。
麺はぱっと扇形にほどけ、そのままお湯に沈んでいった。
菜箸で軽くほぐしながら隣のフライパンの火を少し強めると、油の弾ける音が変わった。
そこにエビを滑り込ませると、ジューッと威勢のいい音が跳ねる。
白身が縮み、みるみる紅色に染まっていった。
「エビが真っ赤になってきて美味そうだゾ!」
「ここにあらかじめ切っておいたアボカドを加えるよ。それから生クリームと、コンソメを少々……」
アボカドの半分は潰してソースに溶かし込み、残りの半分はごろっとした形を残したままフライパンへ加える。
エビの赤がクリームに滲み、鮮やかな緑がゆっくりと溶け合っていった。
その時、トントンと静かなノックが響いた。
「失礼するよ」
「あ、リドル先輩! こんにちは」
「ちょうどいいところに来たんだゾ!」
ピシッと乱れのない制服を身にまとっていたけれど、キッチンに充満する匂いに気付くと、少しだけ目を丸くさせた。
「……なんだか食欲をそそる匂いがするね」
「今、グリムとふたりで美食研究会の活動をしていたんです」
「美味いものを作って美味しく食べる、最高の部活動なんだゾ!」
胸を張るグリムの言葉に、リドルは呆れたように小さく息をついた。
「まったくキミたちは。だが……本当に美味しそうな香りだね」
「リドル先輩もよかったら食べていきませんか?」
「ボクかい? ちょうどお昼時ではあるけれど、突然お邪魔しては申し訳ないよ」
「たくさん作ったので、ぜひ食べてってください」
「美味いもんを前にして我慢するのは体に毒だゾ!」
「……そこまで言うなら、少しだけご馳走になろうかな」
◇
茹で上がったパスタをフライパンに移し、濃厚なエビとアボカドのクリームソースにくぐらせる。
粗挽きの黒コショウを効かせ、粉チーズをふんわりとかける。
深皿に盛り付け、湯気の立つ一皿をテーブルの中央へ運んだ。
「とても綺麗だね。見ているだけでお腹が空いてくるよ」
「子分特製の極上パスタだゾ!」
「冷めないうちにどうぞ」
「それじゃあ、いただきます」
リドルはフォークでパスタを巻き取ると、大きめのエビとアボカドを添えて口へ運んだ。
「パスタにソースがしっかり絡んでて、美味しいね」
「お口に合いましたか?」
「うん、すごく」
「アボカドとクリームが合わさって、めちゃくちゃ濃厚なんだゾ!」
グリムが口いっぱいにパスタを頬張りながら唸る。
「たしかに、すごく濃厚で美味しいね」
「濃厚なのにニンニクとコショウがきいてて、重たくないんだゾ!」
「ニンニクは少しだけ隠し味に入れてみたんです。重くなりすぎないようにレモン汁も少し加えています」
リドルは小さく頷きながら、しばらく黙ってフォークを動かしていた。
「こうしてみんなで食事をするのも悪くないね」
「美食研究会はいつでも大歓迎ですよ」
「ふふ、ありがとう。キミの料理は、なんだか心がホッとする味がするよ」
◇
「オレ様の皿、もう空っぽになっちまったんだゾ!」
「おかわりあるけど食べる?」
「まだまだいくらでも食べられるゾ!」
グリムが嬉しそうにお皿を差し出すと、リドルも自分の皿を見つめて少し頬を赤らめた。
「あの、■■■……」
「どうしましたか?」
「もし差し支えなければ、ボクにも少しだけ分けてくれないかい?」
「もちろんですよ! まだたくさん残っていますから」
パスタをお皿に盛り足して渡すと、リドルは恥ずかしそうに微笑んだ。
「ありがとう。……なんだか、いつもより食欲が湧いてしまうな」
「たくさん食べてくれるのが一番嬉しいです」
リドルは小さく笑うとパスタにフォークを伸ばした。
「ハーツラビュルのお茶会で出してみても面白いかもしれないね」
「甘いもの以外の選択肢が増えるの、いいですよね」
「今度、レシピを教えてくれるかい?」
「もちろんです。いつでも教えますよ」
「オレ様が何回でも味見してやるから安心するんだゾ!」
「グリムに頼むと食べ尽くされてしまいそうだから、遠慮しておくよ」
賑やかな声が絶え間なく響くオンボロ寮では、グリムが最後の一口を惜しむように、ゆっくりとフォークを口へ運んでいた。
◇
「ごちそうさま。本当に美味しかったよ」
「喜んでもらえて良かったです」
「次はボクも手土産を持参するよ」
「楽しみにしてるんだゾ!」
「それじゃあ、ボクはそろそろ戻るよ」
「はい、またいつでも来てくださいね」
手分けして皿を洗い終えると、リドルは小さく手を振り、足取りも軽くオンボロ寮をあとにしていった。
静まり返ったキッチンに水滴が排水口へ落ちる音だけが残っている。
「次の美食研究会は何を作るんだゾ?」
「うーん、またお肉系のものでも作る?」
「今から楽しみなんだゾ!」
片付けを終えても、鼻の奥にはまだパスタの香ばしい匂いが残っている気がした。
ソースの味を思い出して、思わず口の中で舌を鳴らした。