問題児たちはオンボロ寮の合鍵が欲しい
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「待ってよグリム!」
植物園へ続く温室の入り口までやってくると、先を走っていたグリムが足を止めた。
「レオナが寝てるんじゃねえか?」
「確かに、縄張りって言ってたしね」
「ちょうどいいから、合鍵のこと聞きに行くんだゾ!」
植物園に入ると、湿り気を含んだ温かい空気が肌を撫でる。
静まり返った植物園の中を奥へと進んでいくと、木の下で横たわる大きな影が見えた。
「……本当にいた」
レオナの耳がぴくりと動き、体がゆっくりと寝返りを打つ。
「やっぱり寝てたんだゾ」
「起こしたら怒られるかも」
「……うるせぇぞ」
低く掠れた声が木陰から響き、深いため息が落ちる。
ゆっくりと体を起こしたレオナは、不機嫌そうに目元を覆っていた腕をどかした。
「なんだ、草食動物と毛玉か」
「すいません、起こしちゃいましたか?」
「まったく、見て分からねえのか」
舌打ちをひとつ鳴らし、あくびを噛み殺す。
それでも追い払おうとはせず、面倒くさそうにこちらを見上げていた。
「何の用だ。オレの昼寝の邪魔しに来たわけじゃねえだろ」
「合鍵の相談なんだゾ!」
「合鍵?」
「実は、学園長からオンボロ寮の合鍵をもらって……」
レオナは片眉を跳ね上げ、怪訝そうな顔を作った。
「四つもらったんですけど、誰に渡すか迷ってて」
「へぇ」
鼻で笑いながら、レオナは大きな体を少しだけ揺らした。
「ちなみに、レオナさんはどうですか?」
「あぁ?」
「合鍵、持っておいてって言われたら困りますか?」
突然の提案に、レオナは眉間にしわを寄せた。
「おいおい、冗談だろ。なんで俺が他寮を手伝わなきゃならねえんだ」
「……万が一の時に頼れる人がいてくれたら安心かなって」
「俺がそんな面倒事、引き受けるわけねえだろ。他を当たれ」
あっさりと断られ、思わず肩を落とした。
「やっぱりダメですか」
「お前らの寮に用なんざねえよ」
「でも、オンボロ寮は静かで昼寝には最高なんだゾ!」
グリムの言葉に、レオナの耳がぴくっと反応した。
だるそうに頬杖をつき、何かを思案するように目を細める。
「静か……ねえ」
「日当たりもいいですよ!」
「……」
レオナがこちらへ視線を向けた。
先ほどまでの拒絶するような雰囲気が、わずかに和らいだように感じた。
「静かで、誰も邪魔してこねえなら……悪くねえな」
「え?」
「静かに昼寝する分には、使えそうだと言ってんだ」
先ほどまでの態度はどこへ行ったのか、レオナは不敵な笑みを浮かべた。
「ほら、寄こせ」
「え……今ですか?」
「気が変わらないうちに渡せ」
当然のように鍵を要求してくる姿勢に、思わず苦笑いが漏れる。
エースやデュースとはまた違うベクトルで、もらえるのが当たり前だと思っているらしい。
「わたし、まだ他の人にも話を聞こうと思ってて……」
「散々聞いといて、今さら渡さねぇのかよ」
差し出された手がピタリと止まり、レオナの喉から低いうなり声が漏れた。
「他の奴って誰だ」
「いえ、まだ具体的には決めてないですけど……」
「ハッ、思わせぶりな真似しやがって。俺を試してんのか?」
おもしろくなさそうに鼻を鳴らし、握り拳を作ってひざの上に戻してしまう。
「違いますよ! 慎重に決めたいだけです」
「四本もあるなら一本くらい今渡したって困らねえだろ」
「それはそうですけど……」
困ったように視線を泳がせると、レオナは大袈裟に溜息をついて、幹に体を預け直した。
「ちっ、相変わらず手間のかかる草食動物だ」
「すみません……」
「謝るくらいならサッサと渡せばいいだろ」
文句を言いながらも、口元にはわずかに笑みが浮かんでいた。
「まあいい。お前がその気になるまで待っててやるよ」
「本当ですか?」
「ただし、条件がある」
レオナが身を乗り出す。
距離が一気に縮まり、低い声が耳元に落ちた。
「俺に渡したら、いつでもあの部屋で寝させろ」
「昼寝くらいなら、全然構いませんけど……」
「決まりだな。他の奴らに渡す前によく考えろよ」
満足したように口元を歪めると、レオナは再び草むらにゴロリと横になった。
「あーあ、無駄話で目が冴えちまったじゃねえか」
「すみません」
「おい、草食動物」
「はい?」
「鍵、失くすなよ」
目を閉じたままボソリと呟かれた言葉に、思わず笑みがこぼれた。
「はい。ちゃんと大事にしておきます」
返事をすると、レオナの耳が小さくピクリと揺れた。
四本の合鍵の行き先が決まるのは、まだまだ先になりそうだった。
2/2ページ