問題児たちはオンボロ寮の合鍵が欲しい
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放課後の学園長室で、突然四つの鍵を手渡された。
オンボロ寮の予備の鍵だから好きに使えと言われたものの、実際にどう扱ったものか迷っていた。
「合鍵ね……」
「それ、どうするんだゾ?」
覗き込んできたのはグリムだった。
大きな耳を揺らしながら、鼻先を鍵に近づけてくる。
「何かあった時のために、誰かに渡しておいた方がいいんだろうけど」
「渡すやつは決めてんのか?」
「それが悩みどころなんだよね」
「じゃあオレ様が全部持っててやるんだゾ!」
「グリムは落としそうだからダメ」
「ふなっ!?」
「やっぱり、よくここに来る人に渡すのがいいのかな」
誰に預けるべきか。
トラブルが起きた時に頼りになって、なおかつ信頼できる相手。
考えれば考えるほど候補が浮かんでしまって決めきれない。
「それなら、片っ端から話を聞いて決めればいいんじゃねーか?」
意外と、悪くない提案かもしれない。
単純だが、それが一番手っ取り早い気がしてきた。
◇
中庭のベンチに座っていると、見慣れた二人の姿が目に入った。
「■■■じゃん。何してんの?」
エースがひらひらと手を振りながら近づいてくる。
隣には、デュースの姿もあった。
「ちょうどよかった。ちょっと聞きたいことがあって」
「ん? なんだよ改まって」
「実はね、オンボロ寮の合鍵を誰かに渡そうと思ってるの」
「合鍵?」
デュースが不思議そうに首を傾げ、エースは一瞬目を丸くした。
それから、何か思いついたようにニヤリと口元を緩める。
「それってつまり、いつでもオンボロ寮に入っていいってこと?」
「いや、緊急用だよ。何かあった時に、知ってる人が持ってた方が安心でしょ?」
「まあでも、オレらに渡すのが一番なんじゃね?」
エースが自分の胸を指さし、それから手を差し伸べてくる。
「誰に渡すかはオレ様と子分で決めるんだゾ!」
「僕たち以外にも渡す候補がいるのか?」
「わたしたちって授業も基本一緒じゃん? 顔合わせることも多いから、別の人がいいのか悩んでて」
エースが不満げに眉をひそめた。
「は? なんだよそれ。別の人って誰だよ」
「ほら、先輩方とか……他寮の人にもお世話になってるし」
「いやいや、待てって。一番出入りしてんのオレたちじゃん」
エースが身を乗り出し、差し出した手をひらひらと振ってみせる。
「オレに渡しとけば解決でしょーが」
「でも、■■■の意見も一理あるんじゃないか?」
デュースがエースの肩をぐいと押し戻した。
「なんだよデュース」
「実際、僕たちより先輩たちの方が頼りになるのは事実だろ?」
言い合う二人を眺めながら、ふと考え込む。
一番近くにいて、頼みやすい相手がこの二人であることに間違いはない。
「デュースは合鍵受け取ったらどうする?」
「■■■とグリムに何かあったら一番に駆けつけるぞ!」
「それはすごく頼もしいかも」
「ちょっと待てって! それならオレだって一緒なんだけど?」
エースが割り込んでくる。
デュースの前に立ちはだかり、こちらへ身を乗り出した。
「変に遠慮して他の奴に渡すくらいなら、オレらの方が気楽でよくね?」
「……まあ、気兼ねなく頼めるのは本当だけど」
「でしょ? じゃあ決まり。ほら、鍵ちょうだい」
調子のいい笑顔で、エースが再び手を差し出してくる。
引く気はなさそうだ。
二人分の勢いに押されて、手の中の鍵を思わず握り直す。
「エース、デュース。あのね……」
「ん? なに?」
「決めたのか?」
二人が、期待するようにぐっと身を乗り出してくる。
その視線を受け止めながら、そっと鍵をポケットの中に滑り込ませた。
「二人の意見、すごく参考になったよ。ありがとう!」
「……え?」
「は……?」
ぽかんと口を開けたデュースと、差し出した手の形のまま固まったエース。
隣で見ていたグリムが、お腹を抱えて笑い出した。
「ザマーミロなんだゾ!」
「えっ、ちょっと待って! 今の流れで渡さないことある!?」
「僕たちの話を聞いて、任せてくれる流れじゃなかったのか!?」
エースもデュースも、差し出しかけた手を所在なさげにさまよわせていた。
「だって、まだ一人目に話を聞いた段階だから、他の人にも聞いてみてから決めようと思って」
「一人目って、オレたち二人まとめて一括カウントされてんじゃん!」
「だって、オンボロ寮に来る時はだいたい二人一緒じゃん」
「それは確かにそうだが……」
「で、他の奴って誰だよ」
「そこはまだ考え中!」
エースはあからさまにげんなりした表情をつくり、大きな溜息をついて見せた。
「じっくり考えてから決めるから、待っててね」
「ちぇっ。まあ、最終的にオレのところに鍵が来れば文句ないし」
「僕も諦めてないからな!」
「じゃあ、他の人の話も聞いてみてから報告するね」
「子分、はやく行くんだゾ!」
グリムが足元をすり抜け、先陣を切って歩き出す。
「絶対、変な奴に渡すなよ?」
「期待してるからな!?」
背後で叫ぶ二人の声を聞きながら、ポケットの中の鍵がカチャリと音を立てた。
――さて、次は誰に話を聞こうか。
先を歩くグリムを追いかけながら、思わず苦笑がこぼれた。
四本の合鍵の行き先が決まるのは、まだ先のことになりそうだ。
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