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短編

陽が明けてすぐの薄暗い時刻。誰もが眠る時間に一人、一階に降りて保健室へ向かう。頭の中ではパパラチアのパズルがぐるぐると巡って止まらない。あのパーツをあちらに移せば、あるいは。はやる気持ちを抑えて、ゆっくり箱の蓋を開け、パパラチアの胸元を開ける。穴の内側を触る。幾度となく触れてきた感触は、私しか知らない。私だけに許された権利。堪能して、気持ちを落ち着けたところで、先程思いついたアイデアを試す。カチカチとピースと本体がぶつかる音が響く。組み終わった。期待に胸を塗り潰されるこの瞬間が、好きなような嫌いなような。眩暈がするほど、激しく心が揺さぶられるのは確かだ。…………動かない。ダメか。肩を落としため息をつく。これで……施術はもうすぐ三十万回か。記念すべき三十万回目に目覚めないだろうか。都合の良い期待に失笑した。三十万回を待たずに動かしてみせろ。それでなければ、私の医術に意味はない。私は懲りずにまた手を動かした。次こそは。何度間違えても、次を信じて手を動かした。

朝礼で一時中断したが、朝礼後すぐに保健室に戻り施術を繰り返した。あっという間に三十万回は通り過ぎた。動く気配はない。ため息は数え切れないほど溢れた。少し休んで思考を変える必要があるか……そう思った時、向こうからベニトが来るのが見えた。私がいない方がいいだろうと思い、外に出て隠れる。
「アニキー……僕もアニキみたいにハデハデになりたいよーどうしたらいい?」
眠っているのにも関わらず、パパラチアを頼る者は多い。パパラチアならなんと言うだろうか。パパラチアの声を思い出す。パパラチアの仕草、表情を思い出す。
「地味なのもいいさ」
自分で代わりに答えて、乾いた笑いが出た。こんなものは幻想だ。本物が本当にそう答えるとしても、彼自身の言葉でないのなら何の意味もないだろう。気休めでしかない。……ベニトは去っていった。私は校内に戻り、パズルはせずにパパラチアの顔を眺める。話したくなってしまった。貴方の声が聞きたい。貴方の言葉が聞きたい。私の妄想などではない、本物の貴方に会いたい。誰もが憧れる、強くて何でも知っているパパラチアの価値を、この手で取り戻す。それこそが、私の価値だ。
「そろそろ目覚めてください、寝坊すけさん。目覚めるまでやめませんけど」
私はパズルを再開した。貴方の価値が忘れられる前に、私が貴方を意地でも動かす。それが苦だなんて、これっぽっちも思わない。
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