うちの子夢小説
月人と地上の宝石たちとの戦争が終わった。今日はそれを祝するパーティだ。
「遅刻しちゃう〜〜!!」
普段は地上の観察を任されていた私は、オシャレなど滅多にしない。けれど、この日を楽しみにしていたから、慣れないメイクや衣装に四苦八苦していた。ようやくドレスに身を押し込み、アクセサリーで着飾って会場へ走った。出入り口に辿り着き、気がはやり飛び込む。すると、もうパーティは始まるのに、こちらに向かって出口へ走る奴と思いっきりぶつかってしまった。
「きゃ!」
「……!! ごめんなさい」
タキシードに身を包んだ彼には見覚えがあった。差し出された手を取って立ち上がる。
「怪我とか、してませんか? その、」
「あはは、月人は怪我知らずよ。大丈夫」
まだ新しい身体に慣れないのだろう。可笑しな質問に思わず笑ってしまう。
「あっ! 見つけた!」
一際大きい、高くて可愛らしい声に気を取られる。その声と同時に、タキシードの彼に手を引かれる。彼はそのまま、出口へ走り出してしまった。
「!! ちょっと、」
「すみません、追われてて!!」
だとしても私は関係ないじゃない! そう思ったけれど口には出せず、力強く引かれる手も振り解けずにいた。パーティに向かう人の群れを、逆走する。気持ちが高揚して、どこか懐かしい思いがした。
「、こっちへ」
真っ直ぐ走るだけの彼を、路地裏に引き込む。彼を追う誰かは、真っ直ぐ走り抜けていく。息を潜めて、二人ずいぶんと密着してしまっていた。
「行った……??」
不安そうで困った顔の彼は、レンズ越しに見るよりも可愛らしく見えた。こんな顔する子だったかしら。
「!! ごめんなさい、ごめんなさい」
急に我に帰って謝り出す彼に、思わず笑みが溢れる。パーティに遅刻することなど、どうでもよくなっていた。頭を下げる彼の、顔を両手で掬う。
「謝罪はよくってよ。その代わり、埋め合わせして頂戴。美丈夫さん?」
「埋め合わせ……?」
彼が何に追われていたかは知らないけれど、気持ちは少し分かる気がする。迷い子のように揺れる瞳は、どうにも追い込んでみたくなる。
「今日のパーティで、私のダンスの相手をしてくださる? パートナーがいないの」
「……あまり目立たないなら」
「あら、目立つのは嫌い?」
「嫌いというか、苦手というか……恥ずかしい」
目を合わせず、頭を掻く彼が意地らしい。勇ましく月人と戦う彼しか知らないし、それもずいぶん昔のこと。こんなにも表情豊かで、愛らしい彼らと戦争をしていたことは愚かしいこと。でも、それも今日で終わり。私は彼の手を引いて、会場へ足を戻す。
「大丈夫、私がリードするわ」
「……分かった。実はダンスなんて踊ったことがないんだ」
「うん、そうよね。お名前は?」
本当は最初から知っていたけど、知らぬ振りをして訊ねる。彼は緊張したのか、少し足がもつれた。
「スピネルって言います。貴方は?」
「遅刻しちゃう〜〜!!」
普段は地上の観察を任されていた私は、オシャレなど滅多にしない。けれど、この日を楽しみにしていたから、慣れないメイクや衣装に四苦八苦していた。ようやくドレスに身を押し込み、アクセサリーで着飾って会場へ走った。出入り口に辿り着き、気がはやり飛び込む。すると、もうパーティは始まるのに、こちらに向かって出口へ走る奴と思いっきりぶつかってしまった。
「きゃ!」
「……!! ごめんなさい」
タキシードに身を包んだ彼には見覚えがあった。差し出された手を取って立ち上がる。
「怪我とか、してませんか? その、」
「あはは、月人は怪我知らずよ。大丈夫」
まだ新しい身体に慣れないのだろう。可笑しな質問に思わず笑ってしまう。
「あっ! 見つけた!」
一際大きい、高くて可愛らしい声に気を取られる。その声と同時に、タキシードの彼に手を引かれる。彼はそのまま、出口へ走り出してしまった。
「!! ちょっと、」
「すみません、追われてて!!」
だとしても私は関係ないじゃない! そう思ったけれど口には出せず、力強く引かれる手も振り解けずにいた。パーティに向かう人の群れを、逆走する。気持ちが高揚して、どこか懐かしい思いがした。
「、こっちへ」
真っ直ぐ走るだけの彼を、路地裏に引き込む。彼を追う誰かは、真っ直ぐ走り抜けていく。息を潜めて、二人ずいぶんと密着してしまっていた。
「行った……??」
不安そうで困った顔の彼は、レンズ越しに見るよりも可愛らしく見えた。こんな顔する子だったかしら。
「!! ごめんなさい、ごめんなさい」
急に我に帰って謝り出す彼に、思わず笑みが溢れる。パーティに遅刻することなど、どうでもよくなっていた。頭を下げる彼の、顔を両手で掬う。
「謝罪はよくってよ。その代わり、埋め合わせして頂戴。美丈夫さん?」
「埋め合わせ……?」
彼が何に追われていたかは知らないけれど、気持ちは少し分かる気がする。迷い子のように揺れる瞳は、どうにも追い込んでみたくなる。
「今日のパーティで、私のダンスの相手をしてくださる? パートナーがいないの」
「……あまり目立たないなら」
「あら、目立つのは嫌い?」
「嫌いというか、苦手というか……恥ずかしい」
目を合わせず、頭を掻く彼が意地らしい。勇ましく月人と戦う彼しか知らないし、それもずいぶん昔のこと。こんなにも表情豊かで、愛らしい彼らと戦争をしていたことは愚かしいこと。でも、それも今日で終わり。私は彼の手を引いて、会場へ足を戻す。
「大丈夫、私がリードするわ」
「……分かった。実はダンスなんて踊ったことがないんだ」
「うん、そうよね。お名前は?」
本当は最初から知っていたけど、知らぬ振りをして訊ねる。彼は緊張したのか、少し足がもつれた。
「スピネルって言います。貴方は?」
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