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本編

「お前は本当に優秀だな〜!」
朝礼後の、いつもの光景。オニキスが私の頭を撫でくりまわす。私は特に反応はせず、黙ってそれを受け入れる。フェナやカーネリーの視線が痛いが、それも我関せず。
「でも、ジャスパーってブルーに少し似てるよね」
ニヤニヤしながら、エレスチャルがそう呟くと、オニキスの動きが止まった。ブルーとはブルーダイヤモンドのことで、かつてオニキスと組んでいた。
「はあ? そんなわけないじゃん!俺がブルーに似てるからジャスパーを可愛がってると?」
「そうなんじゃないの〜?」
「ないない!」
オニキスとエレスチャルが言い合いになるのも、いつもの事なので、私は資料整理の為に図書室へ向かう。「ブルーに似ている」という言葉が、胸に引っかかっていた。

「ブルーが書いた書物? ……残念ながら、小生の記憶にはございません」
ブルーがどんな石だったのか気になり、アングレサイトに訊ねてみたが、ハズレのようだ。それもそうか。この国で一番初めに生まれた方と聞く。残っていたら、皆んながこぞって読むだろうから、私の耳にも届くだろう。
「ありがとう、アングレー。今日の日報を綴じておいてくれ」
「かしこまりました。ブルーについて、書いてある書物がないか探してみますね」
アングレーに手を振り、会議室に戻る。エレスチャルが待っているだろうから、その後は見廻りだ。

「本当に私はブルーと似ているのかって? なに、珍しく気にしてんの?」
エレスにもう一度訊いて、少し後悔する。この表情は馬鹿にされる流れだ。しかし、気になるのは事実なので頷くと、予想外にエレスは大人しく、懐かしむ表情に変わった。
「似てるよ。ブルーも真面目で融通が効かなかった」
私はそんな風に思われているのか。なるほど。けれど、やはり実際に会ったことない者と自分を結びつけるのは、困難を極めた。ブルーはどんな石だったのだろう。
「あ、ジャスパー。仕事だよ」
エレスの言葉に顔をあげると、少し先に黒点があった。私は剣を構えて駆け出す。
「エレスはそこにいろ!」
「はいはい、いってらっしゃ〜い」
黒点の近くまで来ると、左からスピネルが来ているのが見えた。私の仕事、ないかもな。自然と走る脚が止まる。スピネルは鮮やかに月人を散らし、降りてきた。
「流石だ、スピネル」
「あ、あぁ。いたのか」
私には気付いていなかったようで、スピネルは驚き、居心地悪そうにしている。この方は、褒められるのに慣れていない。
「訊きたいことがある。いいか」
「ん、なんだ?」
「私はブルーに似ているのか?」
スピネルは目を見開き、何回か瞬きした後に首を傾げた。
「いや?似てるか?」
「エレスが似てると」
「う〜ん……俺は似てないと思うが……」
スピネルはうんうん唸りながら、ブルーを思い出しているようだが、遂に似てるとは口にしなかった。
「似てないと思うなぁ」
「そうか」
「まぁ、あんまり気にしなくてもいいんじゃないか?ジャスパーはジャスパーだろ」
あっさりとした返答に、安心感を覚える。そうだ、私はジャスパーだ。尊敬こそすれ、過去の者達の影を追う気は毛頭ない。ただ、この国の英雄に近付いているのであれば、それほど光栄なこともないだろう。私は今の英雄の背を追いながら、もう少しブルーのことが知りたいと思うのだった。
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