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本編

初めてあの子を見た時、スピネルにそっくりな色だと思った。パイロープガーネットは、僕が見つけた。子供の頃から明るく、元気で、強かった。正義感が強くて、真っ直ぐなパープに、みんな救われていた。パープがいたから、ギューダとブルーがいなくなっても、みんななんとか生きてこれたと思う。僕だってそうだ。
パイロープガーネットは月に行った。今年の冬眠が明けてすぐのこと。あの大きな声が、学校に響かないのはひどく寂しかった。静まり返った学校で、重苦しい時間が流れている。……特にスピネルはとても落ち込んで、部屋に篭ることが増えた。パートナーの僕が、なんとかしてあげたいのだけど。あれこれ考えて、なにも言えなくて、でも繋がってはいたいから、花束なんかを用意したりして。花を飾ったら、少しは気持ちが変わるかもよ、なんて、思ってもいない気休めを用意して、部屋に行った。
「スピネル? 入るよ?」
「……あぁ」
掠れた声の返事が聞こえる。整頓された部屋の中央に、座り込んだ彼がいた。ぼんやりと窓の外を眺めている。
「スピネルにお花を持ってきたの。よかったら飾って?」
「……俺に? ありがとう」
「う、うん」
弱々しく笑って、スピネルは花束を受け取る。僕は違和感に襲われて、少し固まっていた。だって、スピネルは自分のこと、俺なんて言ったことない。
「スピネル、大丈夫?」
「……俺は大丈夫だよ」
スピネルは花に顔を近づけて、香りを楽しんでいる。しばらく、その様子を眺めていた。やがて、スピネルは立ち上がると、言い聞かせるように、追い詰められたように、ぽつりと。
「強くならなくちゃ」
そう呟いた。ギューダも強さを求める子だったけど、それとは全く違う、苦しさを感じた。
「強くなくたっていいよ」
「??」
「スピネルだけが、背負わなくっていい」
僕がそう告げると、それでもスピネルは笑うだけだった。僕は泣き出したくなる。失ったものが、残したものですら悲しくなるなんて、そんなのってないよ。
『僕、ブルーやギューダみたく強くなりたいんだ』
無邪気に笑っていたスピネルを思い出す。今の表情とは似ても似つかない。
「もう、誰も失いたくない」
スピネルの瞳は、力強く、紅く輝いていた。
「俺は強くなる」
歳下の子供のように、蝶々を追いかけていた君はもういない。僕にはなにが出来るだろう。使命に囚われた君のために、僕にはなにが。
「側にいるよ」
せめて、君の隣で、いつか君が過去の自分に帰りたくなった時に、そっと教えてあげられるように。君が自分を見失った時、僕は見つけてあげられるように。置いていかれた弱い君が、泣かないように。僕は、君の側にいる。
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