本編
この世の終わりのような光景だと、そう冷えた頭で思った。見たことないほどに大きな黒点から、おびただしい数の月人が現れる。空を全て覆うほどのそれは、僕らを見下ろし、照準を合わせていた。皆、先生も含めて、呆然と立ち尽くしている。ぐしゃ、とスピネルがその場に崩れ落ちた。月で貰ったのか、僕らが持つ武器とは比べ物にならない強そうなそれが、足元に転がる。
「俺の、俺のせいだ……」
スピネルが絞り出すような声を出す。僕が知る中で、1番悲痛な音だった。月へ行って、魂を売ったのではと疑っていたが、スピネルはスピネルだった。僕は肩を落として、スピネルに問いかける。
「それで、どうするんです?」
「え…………」
「貴方がどんな選択をして、それが過ちだったとしても、ここに貴方を責める石はいませんよ」
スピネルが背後を振り返る。スピネルを信じ、慕う者達が、迷いと憂慮の視線を向けていた。ここでスピネルが折れれば、僕達に抗う術は残されてないだろう。
「立ちなさい。まだ終わりではないでしょう?」
ここにある命の全てが、彼に弱さを許さなかっただろう。この期に及んで、まだ強さを求められる彼に、酷く同情する。僕はスピネルの言葉を待った。どんな答えでも、構わなかった。スピネルが、どう生きるか。それを見届けたかった。
「……ありがとう、フェナカイト」
「よしてください。礼を言われるまでもありません」
柄にもないことをした。こんな、善い奴ぶった振る舞いなんて。誰かを鼓舞するなんて、性に合わないのだ。スピネルは剣を拾い、ゆっくりと立ち上がる。
「俺は、まだ戦う。みんなも、戦ってくれるか」
首を横に振る奴なんて、いるわけなかった。それでいい。僕も剣を握りしめる。オニキスが誇りだと言ってくれた、僕を裏切るわけにはいかない。
「フェナ、もうひとつ頼んでいいか」
「なんでしょうか」
「左目、くり抜いてくれ」
スピネルの左目は、月でなにかに変わっていた。怪しく光るそれを、なんの躊躇もなく僕は突き刺し、取り除いた。ひっ、と小さな悲鳴が背後で聞こえる。細かな破片が、紅くキラめいて、散らばった。
「ありがとう」
「いいえ」
眉を寄せて、困ったように笑う顔が、どうにもこそばゆかった。やはり、あの方からの好意以外、僕はいらない。気持ちのやり場に困って、どうしようもなくなるだけだ。
「来るよ!!」
クリープの鋭い声が、開戦の合図になった。雨のように降り注ぐ矢を掻い潜り、月人へと向かう。届く気はしないが、繰り返し立ち向かう。脳裏でオニキスが笑う。僕のこの力は、貴方のために手に入れた。だから、僕に今戦う理由など存在しない。ここに貴方はいないのだから。それでも。
「クォーツ属なら守り抜いてみせろ、でしょ?」
貴方の言いそうなことを真似して、自嘲する。これは僕の見ている幻だ。真実などではない。それでも、最後に幻に賭けてみてもいいと思えた。幻でも貴方の笑顔が見られるなら、それでいいと思った。
「さぁ、来なさい。全て霧にして差し上げます」
僕は剣を握った。オニキスを奪った、憎き月人を全て霧に出来る。最高の機会だ。僕は戦いの渦に呑まれていった。
「俺の、俺のせいだ……」
スピネルが絞り出すような声を出す。僕が知る中で、1番悲痛な音だった。月へ行って、魂を売ったのではと疑っていたが、スピネルはスピネルだった。僕は肩を落として、スピネルに問いかける。
「それで、どうするんです?」
「え…………」
「貴方がどんな選択をして、それが過ちだったとしても、ここに貴方を責める石はいませんよ」
スピネルが背後を振り返る。スピネルを信じ、慕う者達が、迷いと憂慮の視線を向けていた。ここでスピネルが折れれば、僕達に抗う術は残されてないだろう。
「立ちなさい。まだ終わりではないでしょう?」
ここにある命の全てが、彼に弱さを許さなかっただろう。この期に及んで、まだ強さを求められる彼に、酷く同情する。僕はスピネルの言葉を待った。どんな答えでも、構わなかった。スピネルが、どう生きるか。それを見届けたかった。
「……ありがとう、フェナカイト」
「よしてください。礼を言われるまでもありません」
柄にもないことをした。こんな、善い奴ぶった振る舞いなんて。誰かを鼓舞するなんて、性に合わないのだ。スピネルは剣を拾い、ゆっくりと立ち上がる。
「俺は、まだ戦う。みんなも、戦ってくれるか」
首を横に振る奴なんて、いるわけなかった。それでいい。僕も剣を握りしめる。オニキスが誇りだと言ってくれた、僕を裏切るわけにはいかない。
「フェナ、もうひとつ頼んでいいか」
「なんでしょうか」
「左目、くり抜いてくれ」
スピネルの左目は、月でなにかに変わっていた。怪しく光るそれを、なんの躊躇もなく僕は突き刺し、取り除いた。ひっ、と小さな悲鳴が背後で聞こえる。細かな破片が、紅くキラめいて、散らばった。
「ありがとう」
「いいえ」
眉を寄せて、困ったように笑う顔が、どうにもこそばゆかった。やはり、あの方からの好意以外、僕はいらない。気持ちのやり場に困って、どうしようもなくなるだけだ。
「来るよ!!」
クリープの鋭い声が、開戦の合図になった。雨のように降り注ぐ矢を掻い潜り、月人へと向かう。届く気はしないが、繰り返し立ち向かう。脳裏でオニキスが笑う。僕のこの力は、貴方のために手に入れた。だから、僕に今戦う理由など存在しない。ここに貴方はいないのだから。それでも。
「クォーツ属なら守り抜いてみせろ、でしょ?」
貴方の言いそうなことを真似して、自嘲する。これは僕の見ている幻だ。真実などではない。それでも、最後に幻に賭けてみてもいいと思えた。幻でも貴方の笑顔が見られるなら、それでいいと思った。
「さぁ、来なさい。全て霧にして差し上げます」
僕は剣を握った。オニキスを奪った、憎き月人を全て霧に出来る。最高の機会だ。僕は戦いの渦に呑まれていった。