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ジェード・ユークレース・ルチル・パパラチア・ペリドット・スフェン

月へ/ルチル

あんなに取り乱したルチルは、初めて見た。
「パパラチアはどうするんですか! 私も月に行きます!」
月に行く。その言葉が絶望の響きで僕を砕く。他の子は耐えられても、貴方が月へ行くのは耐えられない。
「行かないでよ」
ぽつり、と溢した僕の言葉にも気付かず、ルチルは周りに当たり散らし始めた。気に食わない。貴方の取り乱す原因の何もかもが。
「行かないでよ!!」
ついに叫んだ僕に、ルチルは動きを止めて黙った。何も言わずに砂を蹴った。惨めだ。僕では貴方を地上に繋ぎ止めるには足りない。

冬眠服/パパラチア

「触れてしまったら、貴方が割れてしまうんですよ。そんな無理しなくても」
「嫌、無理する」
パパラチアにも冬眠服を着てもらいたくて、眠っている彼の身体を起こして着替えさせる。僕が作った布で、レッドベリルと作った服だ。ひび割れながら、僕はパパラチアを着飾った。
「よし、素敵!」
一緒に寝るために、パパラチアを運ぶ。寝ている間も、貴方を側に感じていたい。
「おやすみ、パパラチア。よい夢を」
来年は、目覚めた貴方に挨拶がしたい。やりたい事がたくさんある。言葉を交わす夢を見て、眠りに落ちた。

キミノオト/ジェード

「ジェードぉ」
「!! やめろ私に近づくな!!」
私の気配を察し、ジェードは柱の影に隠れた。私はルチルから借りたハンマーを片手ににじり寄る。柱を囲んで、私たちのおにごっこが始まる。
「叩かせてよ〜」
「嫌だ!!」
「割れないんだからいいでしょー?」
堅牢のジェードが生み出す、キーンとした音色が大好きだった。それは貴方にしか生み出せない音。ジェードの性格を映したような、美しい響き。
「君の音を聴かせて?」

ありのまま/パパラチア

あ、今日また眠ってしまうな。朝目覚めて、そう予感した。そしたら、どうしようもなく君が恋しくなって。
「じゃあ、私向こうの見廻り行くね〜」
離れる君の腕を取った。君は驚いた顔で俺を見る。子供みたいだ、と自分を嘲笑う。
「どうしたのパパラチア」
「……不安なんだ。今日は一緒にいて欲しい」
素直に吐き出して、誤魔化すように笑った。君はキョトンとした後、笑い返してくれた。
「いいよ! ジェードに報告してくるね」
真面目で優しい君に、歳上がいもなく甘えてしまう。君の前では、ただのパパラチアでいたいと願ってしまうんだ。

憧憬/パパラチア

物言わぬ貴方に、憧憬の念を抱いていた。僕は貴方が起きている姿を知らない。語る言葉も知らなければ、声すら聞いたことがない。それでも、皆が皆貴方を慕うのだから、とても聡明で強い方なのだと思う。そこにいるだけで周りに影響を与える貴方に、僕は強く憧れた。
「話すのを楽しみにしています」
毎日のお見舞い。彼にかける言葉はいつも同じ。話したいことはたくさんあるけれど、ぐっと胸に押し込めている。お目にかかるその日まで、僕は僕を磨き続ける。貴方の目に、僕が鮮やかに見えるように。

影が落ちる/パパラチア

この世界は不思議で満ちている。まだ三歳にも満たない僕は、毎日が発見と刺激に溢れていた。蝶はどこから来るのか、木はどこへ伸びるのか、海はいつからあるのか。知りたいことがたくさんある。
「知識欲のまま動くことには、気をつけなさい」
そう先生が言って、約束された行動範囲から大きくはみ出す。あまり悪いこととは思わない。夢中で草木を掘り返していたら、手元が暗くなったのを感じた。顔を上げれば、パパラチアの顔。
「悪い子だな。言いつけは守りなさい」
そう言って僕の襟首を掴むと、学校の方へと引き戻される。剣も持たない僕は、抵抗なんて出来ない。
「パパラチアずるい。僕ももっと遠くまで行きたい」
「もっと強く、賢くなったらな」
慈愛の瞳で見下ろされると、頷くしか出来なくなるのだ。

これからも、ずっと/パパラチア

夕暮れ、見廻りから戻って先ずすることは、保健室にパパラチアの顔を見に行くこと。ルチルが作業する横で、箱の中の彼の顔を見つめる。穏やかな顔が、動くことはない。均整の取れた美しい形で、君は眠る。
「今日もいい日だったよ」
これはナイショの話だけど、僕は君が起きることを望んでいないよ。目覚めて、優しい君が戦って、その美しい形が崩れるくらいなら。穏やかな表情が、歪むくらいなら。こうして眠ったまま、いつまでも僕の横にいて欲しいよ。そこにいるだけでいい。これからも、ずっと。

誰よりも、ずっと/パパラチア

誰よりも貴方を想っていると、胸を張って言えたならよかった。私が貴方に出来ることはあまりにも少ない。私に貴方への奉仕は叶わない。そのせいで、私は私の恋心に自信をなくすの。
(初めから貴方の隣が私ならば)
貴方を想えば想うほど、ルチルを押し除けるなんて出来なかった。私がしゃしゃり出たって、貴方は喜ばない。貴方を喜ばせる、私にだけ出来ることを探し続けてるの。誰よりも、ずっと。その気持ちだけは負けないよ。だから、どうか教えてよ。

そばにいるよ/パパラチア

「パパラチアがまた眠ってしまわないか不安なの」
そう言って夜に訪ねてきたこの子は、つい最近生まれてきた末っ子だ。顔を歪めて、本当に悲しそうに話すので、俺は誤魔化すように笑ってしまう。
「大丈夫、そばにいるよ」
傍らに呼び寄せて、そっと頭を撫でる。末っ子は黙って俯き、答えない。どんな言葉を贈れば、安心させることが出来るだろうか。守れない約束はしたくない。
「どんな時でも、俺はお前を想っているから。寂しがることなんてないさ」
曖昧で、無責任な言葉を投げた。それでも、末っ子はちょっと笑った。積み重なる想いが、ちょっと重かった。

懐かしい石/パパラチア

自分の穴を水鏡で確認すると、懐かしい色が嵌っていた。左手で撫ぜて、無意識のうちに話しかけていた。
「ここにいらしたんですね。ご機嫌はいかがですか?」
当然、返事はない。虚しくなって思わず笑う。顔を上げれば、陽の光が眩しい。
『天気がいい日は気持ちがいいね! 君もそう思うだろう?』
「そうですね。気持ちいいです」
遥か昔から声が届いた気がして、答える。あの方は確かにまだ、俺の中にいる。あの方を覚えてる奴のが少ないけれど。俺は確かに覚えてる。貴方色のピースが、なんだか愛おしく思えた。
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