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ボルツ・ダイヤモンド・イエローダイヤモンド

一輪の花/ボルツ

「こんなところにいたのか」
呆れと怒気を含んだ声に、ビクッと肩を揺らす。振り返るとボルツが見下ろしていて、僕は言い訳も忘れて俯いた。
「ごめんなさい……」
「全く。戦えないんだから、大人しくしていろ」
「ボ、ボルツを」
「あ?」
「ボルツを労うための、お花を探してたの」
誰よりも強く、孤独な貴方に、ほんの少しでも感謝の気持ちを伝えたくて。また怒られると思い、ぎゅっと目を瞑っていたが、なにもなく。
「……馬鹿なことしてないで、帰るぞ」
想像以上に優しい声に驚く。気恥ずかしそうに貴方は早足で行ってしまった。

気づかないフリしてたの、知ってるよ/イエローダイヤモンド

季節は足早に通り過ぎる。まるでお兄様のよう。
「今年ももう冬だなぁ」
伸びをしながら、お兄様が話しかけてきた。ちょっぴりの期待、ちょっぴりの緊張。私の言葉を、お兄様は微笑んで待っている。
「そ、そうだね! こ、今年の冬眠は、」
「じゃ、気をつけて見廻り行けよ〜」
あっという間にお兄様は走り去る。一緒に側で寝たい。その言葉は飛び出ることのないまま。お兄様は私の気持ちに気づいているはず。だけど、受け取ってくれることはない。知らんぷりして、通り過ぎるだけ。

恋バナ/ダイヤモンド

恋のお話をするのは好き。なんだか胸がキラキラ膨らんで、フワフワした気持ちになるから。みんなの好きな石を訊ねるのが好き。照れくさそうな表情も好き!惚気話なんかたまらない!
「ダイヤ、見廻りの方向一緒だろ? 行こう」
「う、うん!」
君の好きな石のこと、ずっと気になっている。どんな子がタイプなの? どんな仕草にときめくの?
「?? どうしたダイヤ」
「ううん、なんでもない」
君にだけはどうしても訊けないのは、どうしてなの?

靴/ボルツ

履き潰されたそれを、丁寧に分解して再利用する。靴がバラバラになる様子を、ボルツはじっと見つめていた。
「よく頑張って働いたんだね」
「別に……」
賛辞の言葉を君は素直に受け取らない。自分に対する理想の高さと、おそらくは照れ隠し。僕の仕事を、ボルツはよく見ていた。
「お前がそうやって仕事をするのと、なにも変わらない」
その言葉には僕への尊敬が含まれていて、ボルツのそういうところが好きだった。もうじき靴は完成する。君の仕事を支える事が出来て光栄だ。

遠くなった/ダイヤモンド

月に来て、全てが目まぐるしく変わった。僕の中で一番大きな変化は、貴方との距離。遠くのステージの上で、煌びやかに踊って歌うダイヤを見る。いつだって、貴方は輝いていた。
「ずっとずっと、好きだったよ」
歓声に紛れて、僕の声は消える。みんなに愛されるダイヤに、この言葉を届けていいだろうか。
「みんな、今日はありがとう! 愛してるぜ!」
ラストソングが始まる。ふっと、目が合った錯覚をする。貴方の愛してるを隣で聞きたいと思うのはわがままだろうか。

競走/イエローダイヤモンド

「待ってよイエロー〜!」
「ハハハ、トロいなぁ」
イエローは本当に脚が速い。僕なんかが追いつけるわけないのに、イエローは僕と競走したがる。僕も一生懸命走るけど、いつだってゴールでイエローを待たせてしまう。
「はい、お疲れさん。よく頑張ったな」
僕がゴールすると、イエローはすごく満足気な顔で僕を撫で回す。くすぐったいやら怖いやら。
「割れちゃうよイエロー〜」
「すまんすまん」
走るのは好きじゃないのだけど、イエローがあんまりにも嬉しそうに待っててくれるから、ゴールの瞬間は好きだったりする。

沈む夕日/ダイヤモンド

沈む夕日をぼんやりと眺める。今日も一日終わった。安堵と共に、残念だと感じる。だって陽が沈んでしまったら、ダイヤモンドの輝きが見れなくなってしまう。日光を存分に浴びて、燦々と輝くダイヤが好きだった。眩しくて、目映くて。
「帰ったら、久々にゲームしましょう」
ダイヤのお誘いに、気持ちが浮つく。照明クラゲの柔らかな光に照らされるダイヤも好きだった。今夜はそれを見つめて、明日への繋ぎとしよう。
(明日も晴れるかな)
雲一つない夕晴れに、明日もダイヤの為に日が輝くことを期待した。

流れ星/イエローダイヤモンド

「眠れないの?」
池のほとりで夜の風に当たっていたら、見つかってしまった。どうにも胸がざわついて、眠れなかった。君が隣に座ったら、不安な想いが膨れ上がった。君の手にそっと、自分の手を重ねる。君は不思議そうに俺を見る。
「お前はいなくならないよな?」
思ったより自分の声が強くて、驚いた。君も目を丸くしている。それでも、君は笑ってくれた。
「もちろん。そばにいますよ」
「絶対だぞ」
「ええ」
守れない約束を、無理矢理に結ぶ。重ねた手に力がこもる。流れ星がひとつ、空に流れた。

花冠/ボルツ

頭にふわりとなにか触れた。気にせず歩く。ふと足下に目を落とせば、池の水鏡、花に彩られた頭があった。こんなことをする奴はあいつしかいない。すぐに探し出して、花冠を押し返した。
「え〜いいじゃん。可愛いのに」
「僕には似合わない」
「そんなことないって」
へらへらと笑いながら、なおも僕の頭に乗せようとする。振り払うと花冠は地面に落ちた。花びらが散る。悪いことをした気分になる。
「……悪い」
「もぉ、そんな頑なにならなくても」
再度、お前は僕に花冠を乗せる。そんなに屈託なく笑われては、拒めなくなるだろ。

手合わせ/ボルツ

「……これで僕の七千三百二勝目だ」
顔の横に突き立てられた剣。淡々と告げられた言葉と、あまりに感情を映さない君の顔。
「かーっ!勝てねぇ!いつから負け越してる?」
「六十年はお前に負けたことないな」
用は済んだとばかりに、ボルツは遠ざかる。あっという間に俺より強くなったお前と、手合わせすることにもう意味などないかもしれない。けれど。
「明日は俺が勝つ!」
「やってみろ」
微かに笑ったお前の隣に、どうしても立っていたくて。無謀な挑戦を毎日続ける。いつの日か、届く日を夢に見ている。
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