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ジェード・ユークレース・ルチル・パパラチア・ペリドット・スフェン

初日/パパラチア

夜、寝付けなくて校内を歩いていたら、ベンチに沈み込むパパラチアを見つけた。
「こんばんは、パパラチア」
「……あぁ、君か」
パパラチアはちょうど今日、久しぶりに目覚めたばかり。どこか元気のない様子に、心配になって隣に座る。パパラチアは止めなかった。
「調子どう?」
「調子はいいけど……疲れた」
ぐっーと伸びをして、踏ん反り返る彼に苦笑する。きっと眠ってる間に話したいことが、みんな溜まっていたのだろう。そっと手を伸ばし、頭を撫でた。
「お疲れ様。目覚めると一気に話されるから大変だよね」
「……お前には敵わんなぁ」
照れ臭そうにする彼が可愛くて、たくさん撫でてしまった。

予感のある日/パパラチア

いつも通りの日だった。いつも通り、朝礼に出て見廻りに行く時。パパラチアに呼び止められた。
「なぁに?」
「いや……気をつけて行くんだぞ」
顔色と、声のトーンと、直感で。今日彼は眠ってしまうんだなと悟った。パパラチアがそう予感しているのが伝わってきた。僕は顔が歪むのを必死に堪えた。
「他に言うことはある?」
「そうだな……ちゃんと寝て、ちゃんと起きて。いい子で、楽しく過ごしてくれ」
多分僕が気づいたことも分かってて、それでもなんでもないようにパパラチアは言う。
「うん、分かった。言いつけは守るよ」
「あぁ。元気で」
最後にパパラチアは優しく笑った。うまく笑い返せたか自信がない。辛いのを誤魔化すように離れた。出来ることなら、早い目覚めを。

喧嘩した/ジェード

夏。青々とした若草に、喧嘩してから口をきいてないあいつを思い出す。
「俺悪くねぇし」
誰が聞くわけでもない悪態を吐き、野原に寝そべる。吸い込まれそうな青空が、憂鬱なもやもやも吸収してしまえばいいのに。はみ出したつもりはない。皆が俺と違うだけだ。俺は悪くない。
「こんなところにいたのか」
ジェードの声がするが、瞼は閉じたまま。無視を決め込んでいた。
「その……お前の事を理解出来ないあまりに、拒んでしまってすまなかった」
そっと目を開けば、深々と頭を下げるジェードがいた。恐る恐るこちらを伺う瞳が頼りなくて、笑ってしまった。
「いいよ。あんたが歩み寄ってくれるなら」

校閲/ユークレース

ユークレースが書いたテキストに、丁寧に目を通す。誤字や脱字がないか、確認するのが僕の仕事。
「ユーク、ここ説明が少なくて分かりにくいかも」
「あら、そう?ごめんね」
校閲して、より分かりやすいテキストにしていくのも僕の仕事。ユークは賢いから、言葉が足りないことがよくある。馬鹿な僕でも分かるように、直してもらう。
「君がいるから、僕の仕事が完璧になるの。いつもありがとう」
君が笑うから、僕は照れ臭くて黙りこくる。馬鹿な僕でも、秀才の君の助けになれるなら。この穏やかな時間が、ずっと続くことを願う。

忘れない/パパラチア

「俺のことは、忘れるといい」
そう言ったきり、貴方は動かなくなった。寂しくそっと笑った顔が、頭から離れない。今日で貴方が眠ってから三千五百二十六日目。数えるのは辞めない。数えるのを辞めてしまったら、貴方がもう目覚めないと諦めたようだから。
「パパラチアを忘れた日なんて、ないよ」
答えは返ってこない。呟きは風に溶けた。ねぇ、あの時なんで忘れろなんて残酷なことを言ったの?忘れられるわけない。忘れられない、いつまでも。貴方はあまりにも鮮やかで、あまりにも優しかった。
「覚えているから、はやく目覚めてよ」
貴方がいるだけで世界が色付くんだって、ちゃんと教えてあげるから。

高硬度の使命/ルチル

惰眠を貪る。起きなければと思えば思うほど、身体は言うことを聞かず、起き上がる気力はない。
「回診です。いい加減起きなさい、サボり虫さん」
ルチルの声がする。わざわざ私の部屋までやってきた医者は、私から布団をひっぺがした。
「いーやー」
「起きなさい、高硬度は戦え!」
叩き起こされて、剣を渡される。重い。剣も期待も、なにもかもが重くて、私はまたベッドに横たわった。ルチルの視線が痛い。
「……寝坊助の甘えん坊は、一人で充分です」
ルチルはそれ以上なにも言わず、部屋を去った。一人残された私は、剣を膝に置きながら、曇りがちな空を見上げた。自分の使命から、逃れる術を探していた。

真夜中/パパラチア

誰もが寝静まった真夜中、後ろめたさを抱えながら部屋を抜け出す。先日、ーーが連れ去られた。もうはっきりと顔を思い出せない自分に寒気がした。一階に降り、外を眺めながら歩くと、保健室の窓の縁で遠くを見つめるパパラチアに会った。
「……あぁ、お前か」
パパラチアは力なく笑う。起きてきた理由を、僕に問うことはなかった。
「ここにいるとさ、落ち着くんだよ」
そう、特に意味もない嘘を溢した(嘘であるとはっきりと分かってしまった)。誰も彼を責めないのに、きっと彼は自分を責めているんだろう。
「お身体に気をつけて」
そうとだけ告げ、僕は夜の中をまた進む。
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