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フォスフォフィライト・シンシャ・アンタークチサイト

証明/フォスフォフィライト

「全ての宝石を砕きたい」
そう言った貴方はボロボロで、本音を言えばおぞましく見えた。信じた道を突き進むということは、なんて残酷なのだろう。震えを抑えるためにぎゅっと手を握り締める。僕は目を背けない。背けたくない。
「僕は行くよ」
僕の声に、フォスが反応する。絡んだ視線は外さない。
「僕は、フォスと一緒に行く」
フォスは歪んだ顔で笑った。怖い。怖いけれど、僕を救ってくれた君に応えたい。君が間違ってないと証明するために僕はここにいるのだから。

面影を探して歩く/フォスフォフィライト

全てが終わった。終わりが始まった。貴方を犠牲にして、平和は訪れた。貴方が祝福されるのを待ち望んでいたけれど、結末を受け入れられずにいる。どうすることも出来ない無力さに、世界の重さを知った。遠く彼方に見える青い星を見つめる。こんなにも離された距離が砕けるほど辛い。貴方がいない世界なんて、僕には花の咲かない大地と同じ。最後に交わした言葉も思い出せない。僕は貴方になにが出来ただろう? 残された一万年、僕はなにを捧げればいい?

美しい顔/アンタークチサイト

春が来る。私が冬に守ったものを、託して眠る季節が来る。溶けかかった身体に鞭打ち、階段を上がり冬眠室を覗く。まだみんな眠っている。ひと目、顔を見ておきたい彼の枕元に立つ。先生が作っているのだから、私達は皆美しいが、彼の顔が好きだった。
「そんなもの口に入れちゃダメだって〜……」
おかしな寝言に思わず声が漏れる。出来ることなら、その瞳が私を映すところを見たいが。限界のようだ。
「おはよう。もうすぐ春だ」
挨拶だけを残して、部屋に戻る。また一年、彼が無事に過ごせますように。

風揺れる朝/シンシャ

風の音で目が覚める。まだ陽は昇っていない。吹き荒ぶ風で、部屋は木の葉や木の枝まみれになっていた。
「シンシャ、大丈夫かな……」
まだ動きづらいが、心配でいてもたってもいられなかった。学校を抜け出して、シンシャを探す。風に煽られながら、それでも歩き続けた。
「こんな嵐の中外に出るなんて、馬鹿なのか!?」
開口一番、シンシャにそう言われる。なら、見廻りを続ける貴方も馬鹿だよ。そう伝えれば、
「俺は仕事だから……」
と、決まり悪そうに言った。本当に貴方はいじらしい。

雨が降る、虹は霞む/フォスフォフィライト

雨が降ると思い出す。貴方と雨宿りをして、雨上がりに虹を見たことを。
『すっごーい! 綺麗!』
はしゃぐ貴方と草についた雨露に濡れながら、野原を転げ回った。かかった虹はやがて霞んで、幻のように消えていった。
「また虹が見れるかもしれないよ。ねぇ、目を覚ましてよ」
白い布に覆われた貴方に話しかける。ラピスの頭をつけてから百年、貴方は目覚めない。
「虹が消えちゃう前に、はやく」
次目覚めた時、貴方はちゃんと貴方なのかな。どちらに進んでも、不安ばかりだ。

白銀世界の中の声/アンタークチサイト

真っ白な世界の中で、眠りこけるのが好きだった。学校をこっそり抜け出して、雪の中に寝そべる。重さで沈む雪、しんしんと冷える身体、張り詰めた空気。それらに包み込まれるのが好きだった。
「」
遠くで名前を呼ぶ声がする。それはやがて近づいて、僕の耳を劈いた。
「こら! 何度言ったら雪の中で眠るのをやめるんだ!」
「ここで寝る〜」
「埋もれてしまうぞ! 割れたらどうするんだ!」
アンタークに掘り起こされて、学校に帰される。雪の中を歩ける彼が羨ましい。

未来のために/フォスフォフィライト

「それじゃ、いってくるね!」
戦争に出るようになった貴方は、空元気で空回っている。それでも、進むことはやめない。そんな貴方が好きだけど。
「いってらっしゃい」
僕は上手く笑えているかな。振り向かず出て行った貴方を、追いかける硬度はない。ちゃんと帰ってくるだろうか、無理しないだろうか。不安は尽きない。一人の時間が増えて、思い悩む時間も増えた。
「……寂しいよ」
君の未来のために、僕にはなにが出来るだろう。

朽ちてゆく言の葉/フォスフォフィライト

言葉も枯葉のように朽ちてゆくなんて知らなかった。色褪せて忘れられた言の葉を、もう一度告げる勇気が出なくて。
「どうしたの?」
「……なんでもないよ」
フォスが隣にいるのは、昔と変わらない。でも何もかも変わってしまった。君はどこかになにかを忘れてきてしまって、それを教えることが僕には出来なかった。
『大好き! 僕らずっと一緒にいようね』
『うん!』
貴方が忘れてしまった約束を、それでも守るために僕は月へ行く。

冬眠前の楽しみ/シンシャ

「シンシャ〜冬眠用の服だよ〜」
「なんでこう、毎年毎年ひとりで着れない様な服を持ってくるんだ……!!」
僕が持ってきた布の山に、シンシャはうんざりした顔で文句を言った。
「うん、レッドベリルに直接言ってね」
暗に学校に来てみないか誘ったつもりだったが、シンシャは黙ってしまった。君は頑なで繊細だ。
「着付け、手伝うよ。脱いで?」
「あぁ……」
柔い体が外気に晒される。触れてしまわないように、細心の注意を払って着付けていく。毎年、緊張感のあるこの時間が好きだった。

日記/アンタークチサイト

「アンタークにこれを渡してください」
「これは……ノート?」
「はい。自分で綴じました」
何も書いてない、1冊のノートを先生に渡す。先生は不思議そうにしながら、けれども大事にノートを袖にしまった。
「アンタークに、日記を書いて欲しいんです」
私が知り得ない、アンタークの日々を少しでも知りたくて。私が眠っている冬という季節が、どういうものなのか知りたくて。でも、直接会うことは難しいから先生に託した。先生は優しく微笑み、私を撫でた。
「必ず渡しておく。きっと、あの子も喜ぶ」
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