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コーラル

煩わしい/ダイヤモンド

歌を歌う。もうどこにも届かない歌を。声は風が攫い、空へと溶ける。歌が終わると、ぱちぱちと一人分の拍手が届く。
「いつ聴いても素敵な歌。ねぇ、僕にも教えて?」
「……教える気はない」
いつからか、僕の歌を聴くようになったダイヤ。無邪気な優しさが煩わしかった。……余所者の僕には、どうしたらいいか分からなかった。
「えーケチ! 独り占めにする気なのね!」
「そうだ」
僕にとっては、ただ一つ残った故郷の記憶だ。そう簡単に手渡してたまるか。

後悔/ウェントリコスス

ウェントリコスス王が月人になった。話したいことがあり、僕はすぐに謁見した。お美しく、凛々しい王だ。
「フォスを救えませんでした」
「そうじゃの……わしらでは、どうにも出来ない成り行きなのかもしれん」
王は後悔の滲んだ悲しい顔をした。あの日、王がフォスを海に連れ出した。僕は黙って見送った。あの日から全てが動き出したのだ。
「貴方にお会い出来たことが嬉しい。それでも……フォスのことを思わずにはいられません」
「コーラル。そなた、聞いていた通り優しいのだな」
どうにも出来ないことを、この方と分かち合えることに、幸せと名前をつけていいだろうか。

僕もやりたい!/フォスフォフィライト

「あーっ! コーラルなにしてんのー!?」
暇なので校内を歩いていたら、いつも座って池を眺めているコーラルが、立ち上がって池になにか撒いていた。
「クラゲにアマの種をあげている」
「いいなー! 僕にもやらせてー!」
「人の仕事を取るな」
クラゲはコーラルの側に群がり、種を一心不乱に貪っている。僕もやりたくて、コーラルから種を奪おうとするが、コーラルは逃げる。
「コーラルのけちー! いいじゃんちょっとくらいー!」
「嫌だ」

憧憬/ベニトアイト

「コーラル、調子どう?」
「別に普通だ」
僕はどうして、話しかけたりなんかしたんだろう。続かない会話が重苦しくて、何事もなかったようにそっと離れる。コーラルは、気にも止めずに池を眺めていた。
「やっぱり、あいつは変だよ」
近寄らないように、言い聞かせるため口に出す。あいつは変なんだ。50年前、急に海からやってきて、僕らの仲間になった。僕らと同じフリをしているけど、正体が分からなくて得体が知れない。気持ちが悪い。けれど、近寄りたいような手に入れたいような、怖いもの見たさに似た感情に振り回される。

新しい日々/ボルツ

「お前とこうして話をする日が来るなんて思ってなかった」
巨大な水槽の前で、ボルツと2人並んでクラゲを眺める。ゆらゆらと漂うクラゲたちを見ていると、心が安らぐのを感じる。ボルツもそうなのだとしたら、嬉しいと思う。こんな感情も、覚えるなんて思っていなかった。
「僕は話がしたいと思っていた」
「そうなのか?」
「そうだ。石の頃から本当はクラゲが好きだったから」
独りだった頃を思い出す。みんなとは分かり合えないと一線を引いていた日々。柔らかくて何も出来ないと自分を呪った日々。そんな日々は、終わったのだ。
「僕と友達になってくれてありがとう」

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