インクィアメンタム
雨の日は/パパラチア
雨の日はいつでも貴方の傍にいる。眠り続ける貴方を見つめ続ける。窓から雨が入る。雨粒が貴方のまつ毛に落ちる。それが震えて、開くことを期待する。そんな魔法を夢に見る。
「どんな夢を見ていますか」
か細い俺の声が、雨音に掻き消される。いっそ、雨と共に貴方との思い出も流れ落ちたなら。こんな寂しさを抱えずに済んだだろうか。それでも。
「貴方が恋しいです」
辛さも痛みさえも、貴方と出会えた喜びに変わるから。貴方が目覚めるなら。
近づいた気がするのに/フォスフォフィライト
脚がアゲートになった。腕が合金になった。髪も切った。少しずつ、幼かったあの日に羨ましかった君に近づいた気がするのに。君は僕を瞳に映さなくなった。
「インクィア、稽古つけてよ。今の僕なら大丈夫だよ」
「大丈夫通り越して、必要ないだろ?」
君は力なく愛想笑いをする。どこで間違ってしまったんだろう? 何故、僕は君を苦しめてる? 心当たりが多すぎて苦しくなるから、考えるのをやめた。
「また緒の浜に連れて行ってよ」
無邪気を装って、君と約束をする。願わくば、昔昔に戻りたい。
明朝の戯れ/シンシャ
「シンシャ、おはよう! 話そうぜ」
「俺は今から寝るんだが?」
夜の見廻りを終えて、寝ぐらに帰ってきたらこれだ。太陽が水平線から顔を出して間もないこの時間。起きているのは俺とこいつくらいだ。
「相談したい事があるんだよ。シンシャは聡明だろ?」
「頼られても困る」
素っ気なくしても、お構いなしにインクィアは俺の横に座る。仕方なく、好きなようにさせる。眠るのは少し我慢だ。
「インクィアの考えすぎだろう」
答えてやれば、苦笑する。気付けば俺も笑っていた。彼が来て、素直に嬉しいと言えない自分がもどかしい。
訓練/ボルツ
「インクィア、訓練するぞ」
雨の日になると、ボルツは俺と戦いたがる。砕いてもすぐに元に戻れる俺じゃないと、ボルツの相手は出来ない。
「いいけど……程々にしてくれよ?」
少し気分が乗らなくて、曖昧な返事をする。構わずに、ボルツは体育館へ向かった。早足な彼の後ろをついていく。
「雨に鬱鬱と考えるくらいなら、次に備えて鍛えた方が賢明だ」
ぼそっと呟かれた正論に、気遣われていたのだと気付く。こちらを見ない不器用な彼に、心の中で礼を言う。訓練は捗りそうだ。
勉強/ゴーストクォーツ
「勉強しようかと思って」
休暇を言い渡されたインクィアが、図書室によく来るようになった。真面目な彼は静かに勉強する。その様子を眺めていた。
「ゴースト、鉱物の成分についてもっと詳しい資料ある?」
「あ、えーとね。多分ここ」
ラピスがいた頃には、インクィアはここに寄り付かなかった。彼はラピスを嫌っているから。ラピスがいなくなって、彼とようやくちゃんと話すようになった。
「勉強熱心ね。感心するわ」
嬉しそうに笑う彼に、出来ればラピスのことを好きになって欲しかったと思う。好きだから。
後悔の形/イエローダイヤモンド
イエローお兄様の後悔が、俺を形作っているのだろうか。まだら模様の身体が、嫌いだった。誰かの欠片を繋ぎ合わせ、動いているつぎはぎの自分。生まれた時、イエローお兄様は苦しそうに、「俺の後悔そのもの」と、俺を呼んだ。その言葉がずっと頭にこびりついている。
「、イエロー」
遠くに走り去るイエローを見つけた。声をかけられずに今日も過ぎる。俺が生きることで、イエローの望みが遠ざかるのなら、いっそ。そんなことばかり考える。振り払うために、俺は仕事に明け暮れる。
冷たい色/アンタークチサイト
最近生まれたインクィアメンタムは、何故か私に懐いた。体質で特別冬眠から目覚めるのが早い彼は、溶けかけの私によく話しかけてきた。
「冬ってどんな季節?」
「雪が降って、一面真っ白だ。だいぶ気温が低くて、きっとお前には冷たいぞ」
「冷たいってどんな色?」
面白いことを訊く奴だと思う。そんなことは考えてもみなかった。私を形作る、冷たい季節について思いを馳せる。
「気持ちが引き締まるような色だ。……それでいて優しさを思い出すような、温かさも感じる」
思い起こすのは先生のこと。冷たいからこそ、あの方の優しさが沁みるのだと感じる。
「それって何色?」
「うーん…………」
雨の日はいつでも貴方の傍にいる。眠り続ける貴方を見つめ続ける。窓から雨が入る。雨粒が貴方のまつ毛に落ちる。それが震えて、開くことを期待する。そんな魔法を夢に見る。
「どんな夢を見ていますか」
か細い俺の声が、雨音に掻き消される。いっそ、雨と共に貴方との思い出も流れ落ちたなら。こんな寂しさを抱えずに済んだだろうか。それでも。
「貴方が恋しいです」
辛さも痛みさえも、貴方と出会えた喜びに変わるから。貴方が目覚めるなら。
近づいた気がするのに/フォスフォフィライト
脚がアゲートになった。腕が合金になった。髪も切った。少しずつ、幼かったあの日に羨ましかった君に近づいた気がするのに。君は僕を瞳に映さなくなった。
「インクィア、稽古つけてよ。今の僕なら大丈夫だよ」
「大丈夫通り越して、必要ないだろ?」
君は力なく愛想笑いをする。どこで間違ってしまったんだろう? 何故、僕は君を苦しめてる? 心当たりが多すぎて苦しくなるから、考えるのをやめた。
「また緒の浜に連れて行ってよ」
無邪気を装って、君と約束をする。願わくば、昔昔に戻りたい。
明朝の戯れ/シンシャ
「シンシャ、おはよう! 話そうぜ」
「俺は今から寝るんだが?」
夜の見廻りを終えて、寝ぐらに帰ってきたらこれだ。太陽が水平線から顔を出して間もないこの時間。起きているのは俺とこいつくらいだ。
「相談したい事があるんだよ。シンシャは聡明だろ?」
「頼られても困る」
素っ気なくしても、お構いなしにインクィアは俺の横に座る。仕方なく、好きなようにさせる。眠るのは少し我慢だ。
「インクィアの考えすぎだろう」
答えてやれば、苦笑する。気付けば俺も笑っていた。彼が来て、素直に嬉しいと言えない自分がもどかしい。
訓練/ボルツ
「インクィア、訓練するぞ」
雨の日になると、ボルツは俺と戦いたがる。砕いてもすぐに元に戻れる俺じゃないと、ボルツの相手は出来ない。
「いいけど……程々にしてくれよ?」
少し気分が乗らなくて、曖昧な返事をする。構わずに、ボルツは体育館へ向かった。早足な彼の後ろをついていく。
「雨に鬱鬱と考えるくらいなら、次に備えて鍛えた方が賢明だ」
ぼそっと呟かれた正論に、気遣われていたのだと気付く。こちらを見ない不器用な彼に、心の中で礼を言う。訓練は捗りそうだ。
勉強/ゴーストクォーツ
「勉強しようかと思って」
休暇を言い渡されたインクィアが、図書室によく来るようになった。真面目な彼は静かに勉強する。その様子を眺めていた。
「ゴースト、鉱物の成分についてもっと詳しい資料ある?」
「あ、えーとね。多分ここ」
ラピスがいた頃には、インクィアはここに寄り付かなかった。彼はラピスを嫌っているから。ラピスがいなくなって、彼とようやくちゃんと話すようになった。
「勉強熱心ね。感心するわ」
嬉しそうに笑う彼に、出来ればラピスのことを好きになって欲しかったと思う。好きだから。
後悔の形/イエローダイヤモンド
イエローお兄様の後悔が、俺を形作っているのだろうか。まだら模様の身体が、嫌いだった。誰かの欠片を繋ぎ合わせ、動いているつぎはぎの自分。生まれた時、イエローお兄様は苦しそうに、「俺の後悔そのもの」と、俺を呼んだ。その言葉がずっと頭にこびりついている。
「、イエロー」
遠くに走り去るイエローを見つけた。声をかけられずに今日も過ぎる。俺が生きることで、イエローの望みが遠ざかるのなら、いっそ。そんなことばかり考える。振り払うために、俺は仕事に明け暮れる。
冷たい色/アンタークチサイト
最近生まれたインクィアメンタムは、何故か私に懐いた。体質で特別冬眠から目覚めるのが早い彼は、溶けかけの私によく話しかけてきた。
「冬ってどんな季節?」
「雪が降って、一面真っ白だ。だいぶ気温が低くて、きっとお前には冷たいぞ」
「冷たいってどんな色?」
面白いことを訊く奴だと思う。そんなことは考えてもみなかった。私を形作る、冷たい季節について思いを馳せる。
「気持ちが引き締まるような色だ。……それでいて優しさを思い出すような、温かさも感じる」
思い起こすのは先生のこと。冷たいからこそ、あの方の優しさが沁みるのだと感じる。
「それって何色?」
「うーん…………」
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