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キャラ紹介SS

スピネル

寝つきが悪くても、朝は決まった時間に目が覚める。部屋の窓から差し込む陽の光を食べながら、寝衣から夏服に着替える。グローブに手を通し、両手を握りしめては力を抜く。体調は良好だ。頭だけ重たい気がするのは、随分と前からなので気にしない。壁に立て掛けた剣を、手に取って光にかざす。それは重く鈍い光を放った。

外に出て、清涼な空気の中で一人、自己鍛錬をする。剣を握りしめて、素振りを繰り返す。なにも考えず、ひたすら。たまに剣を置いて走り込む。離れた場所から見る学校は、どこか遠く、それでも大切なものが詰まった場所だ。学校に向かって歩く。同じ風景に嫌でも思い出すのは、全てを託されたあの日のこと。
(振り向かずに走れ。あとは頼んだぞ)
(シェーラを割らないでよ。さっさと行け)
あの日、二人に言われるがまま、二人を置いて背を向けた。学校と向き合うと思い出す。あの日逃げ出して、生き残った自分を。剣を再び握る。迷いを振り払うように、素振りを繰り返す。俺は、強くなくてはいけない。
「スピネル、朝礼始まりますよー!」
議長のデュモルチェライトの声で、我に帰る。もうそんな時間か。デュモルに手を挙げて答えると、俺は学校内に戻った。今日はターフェアイトは起きれただろうか。よく寝坊する相方の姿を探しながら、朝礼に向かった。

グランディディエライト

机に向かい、地図を広げる。ジャスパーの書いた報告書を見直し、直近の月人の襲撃を遡る。ペンが走っては止まり、走っては止まる。月人に有効な戦術はないか。有利を取れる戦略はないか。実用的な新しい武器は必要か。それを考えるのが俺の仕事。斜陽が窓から差し込み、その陽の光を食べた。高揚する気分と共に、抗えない欲望に負けて学校を出る。今日は風が強い。吹き荒ぶ風の中、とにかく遠くへ。エレスチャルが今日はずっと晴れると言っていた。あの気分屋を信用しちゃいないが。誰にも会わずに、虚の岬に辿り着く。遠く向こうの水平線を見つめる。

どこか遠くへ行きたい。ここではない、どこか遠くへ。森の先の地上の果て、光届かない海の底、誰も知らない宙の向こう側。この場所はあまりに狭すぎる。見知った土地、親しすぎる仲間、そして永遠にも感じる長い命。どこか遠くへ行きたい。生まれた時から、ずっと胸に宿る飽くなき願い。白い月が明るい空に浮かぶ。月に行けば、あるいは。
「グランディ」
「スピネル」
「また放浪癖か……誰彼時にひとりは危ない」
慈しみ深い深紅が、側にあるのが常だった。彼を一人には出来ないと思う。結局、月へ行きたいと思ってしまっても、口にすることなんて出来ず、誰も見捨てられずにいる。
「すまない、つい」
「帰ろう」
危ないとは言っても、スピネルが俺の放浪癖を責めることはない。彼と共に学校に帰るのに、ホッとする自分を信じていく。

デュモルチェライト

風を切って、大地を駆ける。難しいことは考えない。悩み事を振り切るように、駆ける。駆ける。駆ける。駆け終わって、立ち止まると、そこに貴方がいないのに気付く。
「グランディー!! どこに行ったんですかー!?」
大きな声で叫んでも、答えはなく。多分だが、きっと僕の声が聞こえていてもあの人は答えない。そういう奴だ。ため息をひとつ溢し、僕は学校にひとり戻った。

机には地図や筆記具が散乱している。ビオランにまた怒られると思って、僕はグランディの出て行った跡を片付ける。報告書に手を伸ばすと、別の手に奪われてしまった。
「ジャスパー」
「手伝おう」
ジャスパーとは歳が近く、僕は議長で、彼は書記だから関わることが多い。優秀な彼に、引け目を感じることも多いが。
「またグランディがいなくなってさ」
「いつものことだから仕方ない」
「僕はいっつも後片付けばっかり……なんなんだろ」
「信頼の証だ。問題ない」
「……僕って議長ってより、雑用じゃない?」
「……異議はない」
僕よりテキパキと片付けをこなす手を、恨めしく見つめた。投げ出してしまいたい。僕なんかより出来る彼に。
「異議はない、が」
ジャスパーと目が合う。静かで力強い視線が、僕を捉える。
「私は、デュモルに議長でいて欲しい」
思いがけない言葉に、呆気に取られてしまった。ジャスパーは口数が少ないが、絶対嘘やお世辞は言わない。それは分かっている。
「デュモルが議長でいるのが間違いない。そう思う」
「……そうですか」
ジャスパーが言うのなら、もう少しだけ頑張ってみてもいいか。あらかた片付いた部屋を眺めて、気合を入れるように膝を叩いた。

エレスチャル

「エレスチャル、朝だ」
ジャスパーの声が聞こえる。俺は重たいまぶたを持ち上げた。朝、目が覚めるとまず感じるのは、大気の乾き具合だ。それから、空を見上げて雲の様子を探る。高く高く広がる空の機嫌を伺って、その行く末を感じとる。朝礼まで時間がない。でも、そんなことは問題にならない。俺はいつだって、天気のことなら分かるのだ。

「エレス、今日の天気は?」
「今日の空は恋模様と同じで複雑で〜す。通り雨に気をつけてね」
デュモルに訊ねられたので、軽い調子で返した。朝礼は退屈で嫌いだ。でも、俺がいないと天気を予報出来る奴がいない。仕方なく、会議の中心で欠伸をしながら仕事は果たす。グランディが見廻り組を配置して、ジャスパーが報告書を書き進めて、デュモルが会議を進行して、終わる。今日の俺は内勤でいいらしい。特にすることもないので、廊下を歩きながら陽の光を食べていた。
「誰かが涙を流しているよ」
誰かの声が聞こえる。ナミダってなんだ? そんな疑問が流れ去るように、一気にたくさんの声が聞こえて、ノイズになる。耳を塞いでも聞こえるそれに、またかと思う。周りの景色は見たこともない灰色の柱だらけになる。色とりどりの光が点滅して、眩暈がする。空が狭い。
「エレスチャル!」
ジャスパーの声が聞こえる。繰り返し。やがて水から浮上するように、周りの景色は溶けて崩れた。たくさんの声も遠ざかって消えた。元通りの学校の廊下に戻った。
「大丈夫か」
「うん、大丈夫……またいつもの幻覚と幻聴だよ」
みんなより天気を敏感に感じ取れるかわりに、俺はよく幻覚や幻聴に会った。なにが見えて、なにが聞こえているのかは分からない。ま、興味もないんだけど。

オニキス

クォーツ属は優秀だ。ダイヤモンド属よりも。まず兄弟がたくさんいる。たくさんいるのは良いことだ。1人しか生まれないダイヤモンド属より、たくさん生まれてくるクォーツ属だ。そしてみんな優秀で器用。戦闘でも大活躍だ。欠けたとしても、仲間がいっぱいいるから補うのに事欠かない。俺らの特性を十二分に生かすことが出来る。クォーツ属無くして、この国は成り立たない。
「と、いうわけで、みんなクォーツ属であることを誇りに思うように!」
「オニキス、その話何回目?」
呆れた笑いと共に、エレスチャルが俺を見る。カーネリアンとクリソプレーズは見廻りの支度をしていて、プラシオライトはボケーッと蝶々を目で追っていて、シトリンは困った顔で微笑みかけている。ジャスパーは表情ひとつ変えずに筆を走らせているし、フェナカイトは嬉しそうに俺の隣にいる。うん、みんな元気で平和だ。良きかな良きかな。俺は見廻りに行く前の日課を済まそうと、長期休養所に向かおうとした。
「またブルーのとこ行くの? 本当は好きなんでしょ?」
エレスチャルがニヤニヤしながら問いかける。
「好きなわけないだろ! あんな奴……」
かつてのペアを思い出す。ブルーダイヤモンドは強かったが、非常にいけ好かない奴だった。一番最初に生まれて、なんでもズケズケと言葉にし、それなのになにを考えてるのか分からない奴だ。
(お前は私より脆い。私のような戦い方は出来ない)
(私より脆いのだから、そんな無理をする必要はない)
(私とは違うのだから、出来なくともいい)
甦るあいつの声。属性の違いに悩まされるばかりだった。箱に仕舞われた左手首を見つめる。薄い光を反射して、今も光っている。
「長生きしてる奴のが偉いんだよ。お前より俺のが優れてる」
もういないダイヤモンド属よりも、たくさん仲間がいるクォーツ属だ。それを証明するために俺は生き続けるし、こいつに会いに来る。

ターフェアイト

「……なさい。起きなさい!」
布団を引き剥がされて、寝ぼけた頭を起こす。瞬きを数度。目の前には呆れた顔のビオランがいる。
「……あれ? 朝礼は?」
「とっくに終わってるわよ」
「え、じゃあスピネルは?」
「あなたを置いて、もう見廻りに出てるわ」
「えーー!?」
俺は飛び起きて、急いで支度をする。ビオランがいるのも構わずに着替えた。ビオランはため息を吐きながら、俺の寝巻きを拾って畳み、部屋の掃除を始める。
「今日の俺たちの担当ってどこ!?」
「確か西の浜」
部屋を飛び出して、西の浜を一心不乱に目指す。学校の階段を駆け降りて、池の浮き草に飛び乗り、太陽を背に走り抜ける。風が通り抜けて、草花が揺れていた。西の浜に着くと、スピネルは海を体育座りをして眺めていた。
「スピネル! 置いていくなんて酷いです!」
「寝坊するお前が悪い」
スピネルはゆっくり立ち上がると、埃を払って伸びをした。そろそろ真上に昇る太陽が、暖かく辺りを照らしている。
「今日は月人来そうっすね!」
「来てほしくないがな」
「俺はスピネルの戦うところ、見たいっす!」
そう言えば、スピネルは複雑そうな顔をした。いつもこの人は眉間に皺を寄せている。戦う時も、迷いを振り払うように戦う。俺はスピネルの戦いが好きだった。頼もしい背中の後ろで、守ってもらったあの日から。
「月人を倒せば、シェーラも戻ってくるかもしれないし!」
「…………そうだな」
この人の悩みや憂い、迷いを、少しでも解いてあげたくて。俺はスピネルを尊敬しているから。バカでまっすぐな素振りで、俺はこの人の傍にいる。

アングレサイト

朝礼を終えて、図書室に戻る。部屋中に篭もる紙の匂いが小生は好きだった。窓から差し込む光の中、文字に囲まれたこの場所が好きだ。この図書館にある本の、ほとんどがあの人が書いた文字だ。それがたまらなく愛おしかった。適当な本を手に取り、パラパラとめくる。三年前の報告書だ。ここにはみんなの思い出が積み重なっている。……今はもういない者の分まで。小生は全て覚えている、書かれていることは。でも、それ以上のことは知ることが叶わない。それが時たま、悲しいような、寂しいような気分にさせる。小生以外の誰かは、滅多に立ち入らない静かな空間に、時間が降り積もっている。この場所を守るのだから、小生は荘厳に、強くありたいと思っている。……強さだけは、叶わぬ望みだが。この場所に相応しい者でありたい。

入り口に気配を感じ、顔を上げた。待ち望んだ人が立っている。
「ジャスパー、いらっしゃい。何か用かな?」
「ああ、今週の分の報告書を持ってきた。それから、冬眠が近いので古い報告書の整理がしたい」
「もうそんな時期ですねぇ。手伝いますよ」
微笑めば、ジャスパーも笑った。ほんの少し。それだけで胸はいっぱいになる。小生はドンブルやプラシーのように分かりやすくも、素直でもないから、想いは胸に秘めたままだが。新しい報告書を書棚に並べ、古い報告書を持ち出した。彼に任された仕事だ、きちんと整理してある。
「ありがとう。あまり重要でないものは破棄していこう」
「毎年、この作業は骨が折れますよねぇ」
「違いない」
二人で黙々と作業を進める。この時間がなにより好きだった。閉じ込めたいと思うほどに。窓から日の光が消えるまで、作業は続いた。
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