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プロトタイプ

学校から少しだけ離れたところーー体育館と呼ばれる建物がある。俺はそこの管理もしている。役職は、戦闘訓練官。砕けても半径一メートル程なら身体を引き寄せてくっつく性質から、皆の戦闘能力を上げるために敢えて俺は砕かれる。まあ、俺も若い方なんで、育てたと言えるのは年下のジルコンくらいなのだが。鍛練の為、たまーにお兄様方のお相手をすることもある。……そういえば、ボルツに指摘されたので、武器を変えてみた。オブディシアンと相談して、軽めの剣を二つ用意してもらった。二刀流だ。細かい剣撃の方が向いている、とボルツは言ったから。戦闘において彼は間違えない。とは言ったものの、肩慣らしもせずに戦闘に出るのは不安なので、誰か相手をしてくれる奴を探していた。

「インクィアーッ!」
「うおっ、危ねえ!」

突然、フォスが後ろから飛びついてきた。なにかあったら、割れるのはフォスの方だというのに。俺は一言怒ろうと振り向いたが。

「ねえねえねえねえ! 今日こそは僕に戦闘の訓練つけてよ!」
「またその話か……無理だといったろう」
「どうしてさー!君の仕事は戦闘を教えることだろ?僕にも教えてくれたっていいじゃん! 」
「あのな。ダメじゃなくて、無理なんだ。いい加減聞き分けてくれ……」

そう、なにも俺は意地悪がしたくてフォスに教えないんじゃない。俺が、フォスに教える自信がないのだ。三半という弱い硬度、靭性も最下位クラス、しかも月人好みの薄荷色。これをカバー出来る戦闘方法を、俺は編み出せない。第一、先生が許可なさらないだろう。

「お前に教えられることはない」
「えっそれは僕の可能性が大きすぎてってこと?」
「お前の身体が戦闘に不向き過ぎるってことだ」

ため息を吐いてそう伝えるが、むうーっと頬を膨らませ、彼は納得していない様だ。そうして、俺の小さめの剣を見つける。

「あっ、剣二つあるじゃん! しかも小さいやつ! 練習用?」
「あっこら! 勝手に抜くんじゃない!」

一つを抜いて見せると、得意げに彼は構えて見せた。それでも、少しよろけている。俺が二刀流で使う剣の、一振でその様だ。戦争に出られないことは、目に見えている。

「返しなさい、フォス。危ない」
「教えてくれるまで返さないもんねー」
「…………じゃあ、かかってきなさい。後悔するから」
「!! よーし、見てろよーっ!!」

そうして、見え見えの動きでフォスは突っ込んできて、大きく剣を振りかぶった。それを片手でいなし、手刀で彼の左肩を叩いた。哀れにも彼の腕は砕け、バランスを崩したフォスは床に激突しそうになる。砕ける前に、俺は彼の身体を支えた。カラン、と剣がフォスの腕から落ちる。

「今のお前を倒すのに、剣なんかいらない。これで分かったか」
「ーーっすっげー!! ねえ、今のなら僕にも出来るんじゃない? 剣無しで戦う方法教えてよ!」
「お前には本当に無理だから! 勘弁してくれ!」

それからジェードが通りかかるまで、俺はフォスに纏わり付かれた。
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