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プロトタイプ

真夏の日差し、君には辛いのかもしれないそれが部屋いっぱいに広がっている。温かな室内に、俺は下手くそな花冠を持ち込み、そっと君の身体に浮かべた。液体の時の君は、しゃべることはない。寝ているのか起きているのかも、実はよく知らない。けれど、冬を守ってくれる彼に会いに行くのは、嫌いじゃなかった。

「冬に咲く花、俺は知らないんだけどさ。アンタークもきっと、夏に咲く花は知らないと思って」

ぷかぷかと水面に浮いた花冠をつつき、均整の取れた水面に波紋を作る。返答はなくても、君の表情や声は忘れないようにと思い浮かべることを繰り返した。俺は冬、早めに寝てしまう性質なので、彼と言葉を交わせるのは一年に一言二言だけ。それでも、彼が仕事に生きがいを感じ、俺達の眠りのために頑張ってくれていることを知っている。彼を見れば、ちゃんと分かる。アンタークは硬度こそ低いけれど、とても心の強い奴だ。

「出来れば、俺はお喋りが好きだから、天気のいい日にお前と散歩がしたいけれど」

冬は起きているのがキツイ。一度試したが、本当にきつくてお喋りどころではなかった。軟弱者め、なんてアンタークは笑って、俺を寝室まで届けてくれたっけ。アンタークは、ああ見えて優しさも持ち合わせている。ああ、もっと喋っていたいなあ。起きている君と。君の知らない季節を、教えてやりたいんだ。

「夏は暑いから、お前は辛いんだよなきっと。俺が冬ダメなのと一緒で。けど、夏はいい季節だよ。白い雲がさ、高く盛り上がって、突然雷と雨を届けたりするんだ」

君に見せたい世界の話をする。決して共有出来ない世界の話を。春の香り、夏の色、秋の音色。言葉で伝え切れないなにかを、それでも必死に俺は語りかける。時間を忘れて。やがて夕陽が部屋を染め上げて、ゆっくりと夜になった。

「もうこんな時間か……また来るよ、アンターク」


季節は巡り、冬になった。寒さが身を刺して砕くようで堪える。日に日に眠気に襲われ、寝ぼけながら冬眠の支度をした。そうして、先生におやすみを伝え、横になる。夢うつつの中、頭上で声がした。

「おい、インクィア。お前だろう、この枯れた花冠」
「うーん……? そう…………」
「なんていうか……その。ありがとう、な。起きて側にあって嬉しかった」
「うん……よかった……仕事、気をつけて」
「ああ、行ってくる。おやすみ」

君は君しか知らない世界に行く。一面の銀世界で、一人勇敢に戦う。そんな夢を見ながら、俺は深い眠りに落ちた。
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