プロトタイプ
学校の広い空き部屋。先生に聞けば、体育館という名前らしいが。そこで俺とボルツは朝から戦っていた。今日は久方振りの雨だ。月人がやってくる確率は低い。だから、皆各々に休息を取っているというのに、ボルツは暴れたりないのか、俺を誘って鍛練に勤しんでいる。戦闘狂というか、自分の仕事に真面目というか。まあ、付き合ってやれるのも俺くらいのものなので、黙って相手をしていた。剣と剣がぶつかり合う音。剣がかすった程度では、傷つかないボルツの身体。やはり、ボルツは戦う為に生まれてきたような奴だ。それだけに、たまに背負いすぎないか不安になる。強さに孤独はつきものだから。そんな考え事をしていたら、ボルツの剣を真正面から受けてしまった。俺のツキハギだらけの身体は耐え切れずにバラバラになる。
「余計な考え事をするな! さっさと戻れ!」
「ボルツは戦闘のことになると厳しいなぁ……」
そう愚痴りながら、俺はバラバラになった身体を引き寄せてくっつけた。俺の特異体質だ。俺はバラバラに砕けても、ルチルさんの治療無しで元に戻ることが出来る。磁石のように、身体同士が引き合ってくっつくのだ。その代わり、俺のインクルージョンは生まれたときの住み処しか受け付けない。月人に身体の一部を持って行かれたら、取り返しがつかないのだ。そんな俺に、よくボルツは戦いを迫ってくる。俺が便利だからなのか、俺を鍛えようとしてくれているのかは、よく分からないが。
「さあ、もう一度だ。インクィア、かかってこい!」
「まあほんとにいい笑顔ですこと」
…………砕かれること、七回。流石に俺も疲れて休憩を申し入れた。ボルツもある程度満足したのか、聞き入れてくれた。しかし、これで終わりではない。今度は手厳しい戦闘へのアドバイスが待っている。
「お前は余計なことを考えすぎる! 動きが硬くなるの、すぐ分かるぞ」
「はい」
「あと、無駄はないが隙が多すぎる。大きく振りかぶりすぎなんだ。もっと慎重に、細かい攻撃を覚えろ。その方が安全だしお前の身体に合っている」
「うん」
熱心に教えてくれるボルツは、皆が思っているよりも優しいと思う。これだけのことを、戦闘しながらボルツは見ているのだ。本当に強くなくては出来ないことだ。本当に、ボルツは強い。ダイヤが憧れるのも無理はないと思う。俺だって、ボルツのようになりたい。ボルツのように強くなって、皆を守りたい。
「ボルツは強いな」
「なにを当たり前のことを言っている。僕だぞ」
「ううん、当たり前なんかではないさ。いっぱい、特訓したんだよね。ボルツは、偉い」
そう褒めたら、ボルツは照れ臭そうにして黙ってしまった。ボルツが強いのは、当たり前。そんなふうにして、大事な言葉を伝えなくなるのは嫌だった。
「ありがとう、ボルツ。強く生まれてくれて。君がいるから、俺らはもっと強くなれる」
皆がボルツに助けられている。身体的にも精神的にも。たまには、ありがとうを伝えなくては。
「…………僕は僕の仕事をしているだけだ。礼なんていらない」
そんなこと言わず受け取って欲しい。俺の心からのありがとうを。ボルツがいなかったら、今頃俺は月の上なのだ。
「ありがとう、ボルツ」
ボルツはそっぽを向いた。そんな兄を可愛いなんて言ったら、また砕かれるだろう。俺は微笑むだけに留めた。願わくば、ボルツのように強くなって、ボルツを楽しませてやりたい。そうして、彼の負担が少しでも減ればいいと。そのために、俺は今日も剣を握る。
「余計な考え事をするな! さっさと戻れ!」
「ボルツは戦闘のことになると厳しいなぁ……」
そう愚痴りながら、俺はバラバラになった身体を引き寄せてくっつけた。俺の特異体質だ。俺はバラバラに砕けても、ルチルさんの治療無しで元に戻ることが出来る。磁石のように、身体同士が引き合ってくっつくのだ。その代わり、俺のインクルージョンは生まれたときの住み処しか受け付けない。月人に身体の一部を持って行かれたら、取り返しがつかないのだ。そんな俺に、よくボルツは戦いを迫ってくる。俺が便利だからなのか、俺を鍛えようとしてくれているのかは、よく分からないが。
「さあ、もう一度だ。インクィア、かかってこい!」
「まあほんとにいい笑顔ですこと」
…………砕かれること、七回。流石に俺も疲れて休憩を申し入れた。ボルツもある程度満足したのか、聞き入れてくれた。しかし、これで終わりではない。今度は手厳しい戦闘へのアドバイスが待っている。
「お前は余計なことを考えすぎる! 動きが硬くなるの、すぐ分かるぞ」
「はい」
「あと、無駄はないが隙が多すぎる。大きく振りかぶりすぎなんだ。もっと慎重に、細かい攻撃を覚えろ。その方が安全だしお前の身体に合っている」
「うん」
熱心に教えてくれるボルツは、皆が思っているよりも優しいと思う。これだけのことを、戦闘しながらボルツは見ているのだ。本当に強くなくては出来ないことだ。本当に、ボルツは強い。ダイヤが憧れるのも無理はないと思う。俺だって、ボルツのようになりたい。ボルツのように強くなって、皆を守りたい。
「ボルツは強いな」
「なにを当たり前のことを言っている。僕だぞ」
「ううん、当たり前なんかではないさ。いっぱい、特訓したんだよね。ボルツは、偉い」
そう褒めたら、ボルツは照れ臭そうにして黙ってしまった。ボルツが強いのは、当たり前。そんなふうにして、大事な言葉を伝えなくなるのは嫌だった。
「ありがとう、ボルツ。強く生まれてくれて。君がいるから、俺らはもっと強くなれる」
皆がボルツに助けられている。身体的にも精神的にも。たまには、ありがとうを伝えなくては。
「…………僕は僕の仕事をしているだけだ。礼なんていらない」
そんなこと言わず受け取って欲しい。俺の心からのありがとうを。ボルツがいなかったら、今頃俺は月の上なのだ。
「ありがとう、ボルツ」
ボルツはそっぽを向いた。そんな兄を可愛いなんて言ったら、また砕かれるだろう。俺は微笑むだけに留めた。願わくば、ボルツのように強くなって、ボルツを楽しませてやりたい。そうして、彼の負担が少しでも減ればいいと。そのために、俺は今日も剣を握る。