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プロトタイプ

日が登り切らない明朝、目が覚めた。俺は早起きで睡眠は短い方だ。体質的な問題なのか、性格によるものなのかは分からないが、俺は朝の空気が嫌いではない。動くのにはまだ光が少なくて辛いが、澄んで張り詰めた空気や世界の始まりの美しさは一級品だ。まだ誰も起きていない縁側を、外を眺めながら歩いていた。すると。

「……!? 黒点!!」

俺が見ている方角に黒点が現れた。近い。こんな時間になんて俺は初めてだ。報告するのが先、とは思ったのだが。ある心配が邪魔をして、俺は武器を取るとすぐに黒点の下へ走った。この時間であれば。黒点の元へ到着すると、やはりシンシャが呆然と月人を眺めていた。

「シンシャ!!」
「!! ……インクィア、」

俺は剣を振りかぶると、月人との中心格に斬りかかった。放たれる矢を避けながら、着実に削っていく。幸いなことに旧式だ、俺一人でもなんとかなるし、ならなくてもシンシャが待機している。俺は久方ぶりにのびのびと戦うことが出来た。中心の月人を横薙ぎにすると、月人は崩れ落ち霧散していった。着地してシンシャと顔を合わせると、初めは一瞬安心したような表情を見せたが、すぐに険しい表情に変わった。

「助けろなんて頼んでいない!」
「学校のすぐ近くに黒点が出たんだ、早めに倒さなきゃ皆危ないだろう?」
「……それでも、まだ俺の担当時間だ! お前が来なくても俺がなんとかしていた!」
「戦いたくないのに?」
「…………!! 戦いたくなくてもだ!」

それだけ言ってシンシャは寝床に帰ろうとした。引き止めたくても、硬度ニのシンシャに触れる術はない。背中を見送るしかなかった。

「チャンスだったのに……」

ぼそり、とシンシャが呟くのを聞いた。嗚呼、やっぱり。俺は悲しくなったが、聞こえない振りをしてシンシャの背に声をかけた。

「シンシャ、久々に学校に戻ったらどうだ? 先生に報告もしなきゃならないし」
「そんなもの、お前がしておけば十分だ。俺は何もしていない」

呼び止めも虚しく、シンシャは一人どこかの寝床へ帰っていった。シンシャがいなきゃ、俺はここに走っては来なかったんだがな。シンシャが明け方、考え事をしながら学校の近くまで来ていることを知っていた。そうして、寂しそうに来た道を戻ることも。遠くから見てたから。きっと、あいつだって学校に戻りたいんだ。それなのに。

「…………まあ、俺にはどうしようもないことだけれど」

本人が出した結論に、反対出来るほど俺は強くないけど。月に行かないように、守ってやることぐらいはしてやりたい。けどこれも、俺のエゴなんだろう。
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