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プロトタイプ

「誰彼時に来るなって何回言ったら分かるんだ、お前は!」
「だってこの時間じゃないとシンシャは起きてないだろ? 少し話そうぜ」

昨日はお兄様に出会ってしまったし。今日は誰にもバレずに虚の岬周辺までやってきた。シンシャは優しいから、ここらに誰かの気配があればすぐに飛び出してくる。攫われたら困るからだ。けど、俺は不純物だし、月人の興味はあまり惹くことは出来ない。……多分、シンシャは月に行きたいと思ってるのだろうけど、叶えてやることは出来ない。ひとつは、前述したように俺に魅力がないこと。もう一つは、俺がシンシャに月に行って欲しくないからだ。

「話すことはない」
「俺が勝手に話すから。シンシャは聞いててくれよ」

そう伝え腰を下ろせば、シンシャはギリギリ声が届く距離に座った。シンシャのこういうところが、俺は気に入っている。

「昨日イエローお兄様を泣かせた」
「そんなこと出来るのはお前くらいのもんだ。おめでとう」

遠回しな励ましに苦笑する。シンシャは頭がいいから、言わずとも大抵のことは伝わってしまう。それで反射のように言葉を返してくるのだから、彼の頭は相当な速度で回ってるんだろう。そんな彼は、夜一人でなにを考えるのか。俺だって馬鹿じゃないから心配くらいする。

「そうは言ったって、俺はお兄様を苦しめてる」
「それはお前の頭が考えてるだけのことだろう。イエローはそんな風に思っちゃいない」
「だけど、」
「考え過ぎだ、お前はいつも」

その言葉きり、俺達は静かに夕日を眺めた。考え過ぎなのはお前の方だ、って言ってやれたら楽なのに。それも俺がか。考えるな、なんて無責任なこと。

「もう日が完全に暮れるぞ。さっさと……」
「そう……だな……」
「!? おい、こんなとこで寝るんじゃない!」
「大丈夫、月人が来たら俺が戦う……」
「俺の仕事を取るな!」

シンシャがいるから、どこでだって安心して眠れるんだ。それを伝えたかった。俺達は、友達と呼べるだろうか? シンシャが俺を友達と思ってくれているのなら、それほど嬉しいことはない。

「おやすみ、シンシャ」
「くそ、勝手に寝てろ!」

シンシャは声を荒げて見回りへ行った。さて。俺はなんとか眠気と戦わないと。
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