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プロトタイプ

今日も一日、日が暮れて終わる。穏やかに寄せては返す波、それを美しく染め上げる斜陽。海をまだ明るいうちに眺めたくて、浜辺へ急いでいた。風がひゅうと、僕の髪を撫ぜる。なんとなく不安になり、足を止めそうになる。しかし、いよいよ色濃く浜辺を照らす斜陽に、迷っている時間はないことを知る。いつも僕はそうだ。迷っているうちに取りこぼしてしまう。そんな憂鬱な思いを抱えて、浜辺に着けば先客がいた。ジェードの髪も、赤い夕陽が照らしている。声をかけようか、隣に座ってもいいのか、迷っていたら振り向かれた。曖昧に僕は笑いかける。

「ラリマー、待っていたんだ」
「あ、そう。そうなの」
「少し貴方と話したくて」

ジェードの顔も、少し憂いを帯びていた。議長としての仕事に、疲れたのだろうか。僕は呼び寄せられるまま、彼の隣に座った。

「議長として、皆をまとめられているのか、不安になりまして」
「ああ、議長ってのはそれだけ大役だからね」
「でも最近、雑用なんじゃないかと思えてきて」
「そんな側面もあるよね」
「……何故、私が生まれた時、議長の立場を譲ろうと思ったのですか」
「…………そうだな」

僕はそれきり、苦笑して答えられない。ジェードはそんな僕を急かすことなく、かなた遠くの水平線を見つめていた。
ジェードが生まれる前、僕は議長の真似事をしていた。皆をまとめ、日々の分担をユークレースと共に作っていた。しかし、仲間の誰かが傷つくたび、誰かが月に攫われるたび、僕は僕の決断が信じられなくなっていった。僕が決断したから、皆が攫われるのではと思ったくらいに。それでも、毎日太陽は登り、一日は始まってしまう。傷ついた僕を置き去りにして。そうやって、疲弊していた時に生まれてきたのがジェードだった。ジェードは僕と違い、真面目で責任感が強く、何より壊れにくかった。僕は、この子ならきっと皆をまとめられる。間違った方向に進まずに済む。そう思った。……いや、思いたかっただけかもしれない。僕は結局、自分がこの仕事から逃げたかっただけなのだ。そんな僕に、「何故自分を選んだのか」なんて、問わないで欲しい。これも、酷いわがままだ。

「……ジェードは、皆のことが好きかい?」
「はい。皆のことも、先生のことも好きです」
「僕もだ。……ジェードなら、皆をまとめられると思ったんだ。僕よりもね」
「そうだろうか?」
「そうだとも。優柔不断な僕なんかよりね」

僕は議長をするには柔すぎた。歳下に全てを押し付けるくらいには。それに気付かずいてくれるジェードに、心から感謝している。決して、言葉には出来ないけど。

「ジェードは議長に向いているよ。真面目だし、優しい。きっと皆もジェードがいいって言うはずさ」
「……そうならば、嬉しいです」

ああ、どうか。狡くて卑怯な僕に気付かないでくれ。自分が決断したくないから、君にお願いしたんだ。こんな薄っぺらい言葉で、笑顔を見せてくれる後輩に、また罪悪感は募るのだった。
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