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プロトタイプ

ふかふかの布に包まれて、心地がよい。しかし、ぱっちりと目は覚めてしまった。皆はまだ冬眠中だが、俺の目が覚めたということは春が近いということだ。薄暗い部屋の中、皆を起こさないようにそーっと起き出す。しわくちゃの服をなんとなく直そうとしたが、冬眠用の服は着付けが複雑で上手く直せない。まあ、いいか。そんなことよりも、急がなければ。俺は、日の光を浴びに外へ出ながら、アンタークの姿を探した。残念ながら、外は曇りで光は美味しくないが、代わりに休憩しているアンタークをすぐに見つけることが出来た。

「おはよう、アンターク」
「ああ、おはようインクィア。毎年、お前だけは起きるのが早いな」
「眠るのも早いけどな」

そう言えば、アンタークはふっと微笑んだ。しばらく、二人で最後の冬の風に吹かれて外を眺めていた。先に口を開いたのは、アンタークだった。

「今年は晴れの日が結構あってな。随分月人と戦った」
「へぇ。晴れなら起きていればよかったな」
「インクィアには無理だ。お前は、皆より多く光がいるだろう。早く寝てしまうのも、早く起きてくるのもそのせいだ」

まあ、確かに。不純物である俺は、光の吸収率が悪いらしく、すぐに眠くなってしまう。そのかわり、光を必要とするのも早いので、早起き、ということらしい。自分の身体だが、ルチルさんやシンシャと話していて気がついたことだ。この体質で困ることはといえば、冬眠前の枕投げに参加出来ないことくらいか。それでも、早寝早起きもそう悪いもんじゃない。冬の終わり、少しだけでもアンタークと過ごせるのは、俺の密かな楽しみだ。

「俺にはまだ寒いが、あとどれくらい起きているんだ、アンタークは」
「そうだな……あと十日、といったところか」
「十日か……短いな」
「私達には短いが、他のものにとっては世界が大きく変わる季節だ」

雪解けが始まっている。雪の間から、緑が見えはじめ新しい芽が芽吹き始めている。池の水もだいぶ氷の部分が少なくなっている。クラゲがゆらり、動いていた。

「月人とたくさん戦ったなら、たくさん先生に褒めてもらっただろう? よかったな!」
「なっ……別に褒められたくてやっているわけでは」
「別に照れなくてもいいだろう? アンタークは冬に先生と二人きりなんだ。少しくらい、先生に甘えたって罰は当たらないさ」
「だから、甘えてなどいない!」

必死に照れ隠しをするアンタークが可笑しくて笑った。アンタークは不満そうに俺を睨む。先生のことが誰よりも大好きなこと、知ってるってのに。

「ま、そういうことにしておいてやるよ。で、俺からも」

手を伸ばし、そっとアンタークの頭に触れた。もう柔らかくなってきている彼を傷つけないように、細心の注意を払う。頭を撫でてやれば、アンタークは黙った。

「お疲れ、アンターク。今年もありがとう。無事でなによりだ」
「……本当にお前は、よく恥ずかしげもなくそういうこと言えるな。照れ臭い」
「そうか? もっと言うか?」
「ええい、年下のインクィアにこれ以上甘やかされるつもりはない!」

俺の手を払いのけると、アンタークはそっぽを向いた。二人の間を吹き抜けた風は、もう春の匂いを漂わせていた。春がくる。アンタークが守ってくれたものを、守る為の一年がまた始まる。そうして、また冬が訪れたら、アンタークに託すのだ。そんな時が、ずっと続けばよいと、俺は祈っていた。
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