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プロトタイプ

毎朝の朝礼が終わり、いつもの日常が始まった。俺はいつもどおり、全体の巡回だ。組む相手がいないこともあり、どこにいても援護が出来るように常に歩き回りながら仕事をしている。勿論、一人の時に黒点に遭遇することもあるけれど。そんな時は、月人を引きつけながらひたすら援軍を待つ。それに耐えられるだけの訓練はしてきている。一応、俺は戦闘訓練官なのだし。

「インクィア、大丈夫か」

今日も一日頑張ろうと意気込んでいたのに、後ろから心配そうな議長の声がする。振り向けば、申し訳なさそうな顔で言葉を迷っていた。

「その……無理はしていないか? お前だけいつも一人で巡回をさせていて心配なんだ」
「平気平気。シンシャなんて、毎晩夜の見回りを欠かさずにやっているんだ。俺なんかが音を上げたら笑われる」
「それは……そうだが」
「ジェードだって毎日議長だろ? それと同じだよ」

眉を寄せ、ジェードは少し思案する。もう説得出来たろう、とその場を後にしようとしたのだが。

「いや! やはりお前は働きすぎだ! 毎日歩き回って、戦闘もいくつもこなして。アレキやルチルの手伝いもよくしているだろう! 働き者なのはよいことだが、少しは休まなくては」
「そうは言ってもなぁ。皆のために生きられないなら、俺、ここにいていいのかすらも分からなくなるから」

俺は自分が本当は何者なのかを知らない。本当にみんなと同じ生き物なのか、分からない。俺を砕けば、戻る仲間がいるかもしれない。けれど、皆俺を責めたりしない。俺に仕事をくれて、話をしてくれる。そんな皆のために、身を粉にして働くのは当たり前ではないだろうか。

「俺、別に砕けて戻れなくなっても、皆のためになれるならいいし」
「……インクィア!」
「ごめん、冗談だよ」

口が滑った。冗談だとおどけて見せても、ジェードは怖い顔のままだ。

「お前がいなくなったら、皆が悲しむ。そんなことも分からないのか!」
「……悲しみは、過ぎ去るもの。そうだろう? そうじゃなきゃ、長生きなんて出来ない」
「イエローをこれ以上、苦しめたいのか」

お兄様の名前を出されて、俺はそれ以上なにも言えなくなった。俺がいなくなったら、お兄様は悲しむのかな。……組んだ奴らが戻ると、喜ぶのかな。分からなかった。

「……すまない、お前まで苦しめるつもりはなかった。少なくとも、お前がいなくなったら俺は悲しいぞ。大切な仲間の一人なのだから」
「ジェード、」
「皆をまとめるのが私の仕事だ。私にも私の仕事がある。インクィア。お前を一人にしたりはしない」

そう言うと、ジェードは微笑んだ。心配をかけないのも、仕事のうちか。俺は少し考え直して、ジェードの悩みの種にならないようにしなければと心を引き締めた。

「なにかあったら、何でも相談してくれ。いつでも待っている」
「ああ、ありがとうジェード。……それじゃあ、巡回に行ってくるよ。疲れたら、帰ってくるから」

太陽はまだ昇ったばかりだ。まだまだ一日は長い。けれども、気持ちが重いなんてことはない。俺には、優しい皆がついているのだから。
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